アナログ派ギタリストのためのHelix実験室

第10回 Helixで「自分の音楽」を作る

2020.06.24

Idonuma main

無類のアナログ/ビンテージ機材好きライターによるHelix導入事例と、日常的なトライ&エラー(実験)を追う連載の最終回。今回のテーマは、「Helixで自分の音楽を作る」です。「何を当たり前な?」と思われる読者もおられるかもしれませんが、これまでの実験を踏まえて、実際に自分ならではの音楽をHelixで表現したいと思います。

音楽人生を豊かにしてくれる“楽器”

これまで、この連載ではアナログ好きの私がなぜHelixを使うのか、そしてHelixを使ってどんなことができるのかを紹介してきました。

実機との比較実験などもやってきましたが、Helixの一番の魅力は「●●と同じ音が出せる」とか「操作が簡単で扱いやすい」ということ以上に、「音楽人生を豊かにしてくれる」ところだと思います。大げさに聞こえるでしょうか? でも良い楽器は皆、そうですよね? 私は、Helixはとても楽器的だと思っています(習熟するほどやれることが広がっていき、説得力も増していくという意味で)。

冒頭の写真にあるように私の家にはいろいろなペダルがあるのですが、それでもHelixを使うのは、Helixにしか出せない音があり、Helixがないと演奏できない曲があるからです。やはり、実に楽器的ですよね。

Helixを使いこなすためのTips

それでは、実際に私がHelixを愛用して気づいた、この楽器をよりよく使っていくためのTipsを紹介しましょう。

① エフェクト・モデルを使いすぎないこと!

いきなり「使いすぎないこと」というのもなんですが(苦笑)、これ、重要なんですよ。冷蔵庫に最高の食材がたくさんあるからといって、鍋にすべてをぶち込んでしまったら料理が台無しになりますよね? Helixの素晴らしいエフェクト・モデルはついあれもこれも使いたくなるのですが、必要最低限のエフェクト・モデルを“深く使うこと”が大切です(効果を深めにではなく、後述するインピーダンスなどとの関係を見ながら、丁寧に音を作っていくという意味です)。

今回の動画で使ったモデルの全体像です。エフェクト・モデルが多いように見えますが、上段のギターのシグナルチェーンでは歪み1台とディレイ2台以外はおまけです。下段はシンセのシグナルチェーン。おまけは、音を消すためのボリューム・ペダルと、センド/リターンに繋いだ“オンになっていない”古いペダル。

② インプットのインピーダンスに注目!

第4回の実験でも触れていますが、インプットの入力インピーダンスの値によって音のニュアンスが大きく変わります。特に高域の出方が変わるのがわかるはずです。その変化は、アンプ・モデルやエフェクト・モデルの高域をいじるのとはまた違いますので、積極的に音作りに活用してみてください。

今回の値は90k Ohmです。動画で使用したFender® Jazzmasterの高域をキレイに響かせ、なおかつ耳につかないようにするには、今回はこの値がベストでした

③ 「共通アンプ設定」を使おう!

こちらは、第3回の実験で触れています。Helixのアンプ・モデルには「共通アンプ設定」という、マスター、サグ、ハム、リップル、バイアス、バイアスXの6種のパラメータがあります。この中で、特にサグ、バイアス、バイアスXはチューブ・アンプ特有の飽和感を表現するもので、アナログ派のギタリストの皆さんにはぜひ積極的に触っていただきたい重要ポイントです。

ここでは、サグとバイアスXがぐーっと上がっているのがわかるでしょうか。

④ キャビネット・モデルのロー・カットをオフにしてみよう!

これはちょっと乱暴な提案かもしれません(笑)。実際、チューブ・アンプの実機の低域は、かなり潰れたり濁ったりしています。その点Helixは非常に優秀で、好みのキャビネット・モデルを選択すると、そのキャビネットの濁る帯域をカットした設定になっています。しかし、“要らないローを出して、アナログ感を醸し出す手法”はアリだと思います! 思い切って、ロー・カットをオフすることも試してみてください。

この通り、ロー・カットをオフにしています。それによって、Helix実験室史上、最もローが出ている動画になっていますので、後ほどご確認ください。

⑤ マイクの種類、距離、反射にも気を遣おう!

キャビネット・モデルは、好みのものを選ぶだけでマイクの種類、スピーカーとマイクの距離、そして部屋の鳴りに関係する初期反射(アーリーリフレクション)についても、最適だと思われる設定になっています。マイクの種類に関してはそのままの設定がベストということも多いのですが、アナログ派の皆さんは、距離をやや離し、初期反射は多めというセッティングを試してみてください。音が耳元から離れて響きがオープンになり、かつ少しマイルドになるのでオススメです!

ここでは「4×12 WhoWatt 100」のデフォルトのマイク57ダイナミックを160リボンに変え、距離を3.5インチとってみました。写真には写っていませんが、初期反射は45%と多めです。

Helixならではの“シンセ+ギター”によるひとり合奏

ここまでのコツを踏まえた音作りをした上で、「自分の音楽」を作ってみました。本来は、私のバンドRagosにおける実際の使用方法を見ていただきたかったのですが、2020年6月現在の状況ではそれがかなわず残念です。

エレキギター奏者がひとりで音楽を作る場合、心強いのはルーパーです。ここでルーパーを使っても良かったのですが、せっかくですからHelixならではのものを使いましょう。HelixにはLine 6オリジナルのシンセ、「3 Note Generator」が入っています。私はこれが大・大・大好きでして!! 自動演奏してくれるシンセで、これにフィルターやディレイをかけて流し、合わせてギターを弾いてみました。それでは動画をご覧ください。

“イングヴェイ・ポーズ”で演奏していますが、これは胡座をかくとHelixが映らなくなってしまうという部屋の狭さのため、仕方なくです(笑)。

いかがでしたでしょうか? 演奏や音色に関して好き・嫌いはあると思いますが、私の演奏がHelixのおかげで音楽として成立していたことは間違いないと思います。また、私が冒頭に“Helixは楽器的だ”と書いたのも、なんとなくわかっていただけたのではないでしょうか。

なお、動画に映っていたビンテージ・ペダルは、センド/リターンに繋いでいるだけでオンにしていません。電気的には劣化しているだけのはずですが、なぜか音が力強くなり、解像度も上がるんです。信じられないかもしれませんが、古いペダルをお持ちの方はHelixに繋いでみてください。何かが起こるかもしれませんよ? これが私から皆さんにお伝えする、最後のHelix Tipsとなります。

それでは、ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

※記事中の写真、動画は、記事の理解を促すために筆者が個人的にスマートフォンで撮影したものです。必ずしも十分なクオリティではないかもしれませんが、何卒ご容赦ください。


Idonuma
Ragos、写真中央が筆者

井戸沼 尚也(いどぬま なおや) プロフィール
Ragos、Zubola Funk Laboratoryのギタリスト。元デジマート地下実験室室長。フリーランスのライターとして、活躍したり、しなかったりしている。

◎Twitter: https://twitter.com/arigatoguitar

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