POD Go Artists

武良 匠

「POD Goは研究するほどさらに良い音になるので、掘り下げ甲斐があります」

2022.10.28

関西を中心にサポートやセッションなどで活動する辣腕ギタリスト、武良匠(むら・たくみ)氏。サーフ、ジャズ、メタル、カントリー、フュージョンなど幅広いジャンルをこともなげに弾きこなす武良氏は、徹底的な機材マニアとしての一面も持ち合わせている。2022年7月にPOD Go Wireless(以下、インタビュー文中はPOD Go)を導入したという氏に、そのきっかけや活用法について話を聞いた。


導入の決め手はバイパス音の柔らかさ

──武良さんがギター周辺機材に興味を持つようになったきっかけを教えてください。
 はい。僕は中学校1年生の頃に、日本製のジャックと米国製のUS規格のジャックの音の違いを知ってしまいまして(笑)。それで沼にハマってしまいました。僕は3歳からギターを始めて、以後ずっとギターを弾き続けているのですが、中1の時に使っていたギターのジャックにガリが出まして、交換したところ「あれ、スイッチクラフトの方が、音がキレイだ」と気づいてしまったんですね。それから自分なりに模索し始めまして、高1の時に今剛さんや渡辺香津美さんの影響でラック・システムを組んだり、高3の時にはギターでギャラを頂いていたので、そのお金でブティック・アンプを導入したり……以来ずっと、「もっと良い音」を追求し続けています。

──POD Goを導入した経緯について教えてください。
 2022年の6月に行われたYOKOHAMA MUSIC STYLEというギターのトレード・ショーで、僕がヤマハミュージックジャパンさんのブースに藁をもすがる気持ちでお邪魔したのがきっかけです。音の良いアンプ/エフェクト・プロセッサーを探していたんですよ。さまざまな製品を試したのですが、どのモデルもバイパス音が硬いか薄いという感じで満足できなくて……最後にLine 6製品をいろいろと試させていただいたのですが、どれもバイパス音が柔らかいんですよ。もう「これだ!」と感じて、即、導入を決めました。

──最終的にPOD Goを選んだ理由とは?
 フラッグシップ・モデルのHelixと同じサウンド・エンジンで、スーツケースやギグバッグに入れて持ち運びができ、新幹線で移動できるという点ですね。このサイズと重量は、東京での仕事や、車では行きにくい地方の仕事の時に本当に助かります。しかもこのサイズなのにエクスプレッション・ペダルも付いていて、ワイヤレスまで付いている。一言で言えば、完璧です。結局、新幹線を使わずに車で移動する仕事の時もPOD Goをメインで使うようになり、その時はA4サイズのトートバッグにスポッと入れて持ち歩いています。


サウスポー・スタイルでの武良氏の超絶プレイを、POD Goは足元から支えている。エレクトリック・ギターは国産ブランド、Kinoのオリジナル・モデルを愛用する。


シチュエーション別3つの使い方

──POD Goの音に対する印象を詳しく教えてください。
 バイパス音が良いことに加えて、コンプレッサーと空間系エフェクトの質の高さが素晴らしいと思います。往年の名器と呼ばれるようなモデルと比較しても、音のレンジや解像度がまったく違いますね。テレビで言うとブラウン管モニターと4Kの液晶ディスプレイくらい違います。これを使ってしまうと、もう昔の機材には戻れないですね。

──具体的にはどのように使っているのでしょうか?
 3つの使い方があります。ひとつは、自分のアンプを持って行ける場合です。その時は、歪みはコンパクト・エフェクターに任せて信号をアンプに入れ、POD Goはアンプのセンド/リターン(FXループ)につないで空間系エフェクトを任せています。昔使っていたラックがPOD Goに代わったイメージですね。ふたつ目は自分のアンプを持って行けない場合で、POD Goのアンプ・モデルやキャビネット・モデルをフルに活用して、ラインで信号を出します。最後は、ギター・アンプをレンタルする場合で、その時にはPOD Goのキャビネット・モデルはオフにして、プリアンプとして活用しています。これをレンタルのアンプのインプットに挿すか、リターンに挿すかは、アンプのコンディションなどを見ながら判断します。主な使い方はその3パターンですね。

──使い方の3パターンに対し、バンクやプリセットはどのように分けているのですか?
 バンク01には先ほどの「自分のアンプを持って行けない場合」に対応したライン出し用の、POD Goのアンプ・モデルを使った音を入れています。バンク01のすべてのプリセット名の最後が「AMP」となっているのは、アンプ・モデルを使っているという意味です。次に、バンク02は、「自分のアンプを持って行ける場合」にPOD Goを空間系のラックのように使うための音で、このバンクのプリセットではアンプ・モデルを使っていません。プリセット名の最後には、僕が近年愛用しているHughes & Kettnerのアンプの意で「GM40」と入れています。バンク03は、アコギをライン出しするためのプリセットを入れています。よく使うのはこの3つのバンクですね。あとは先ほどの使い方で話した「レンタルのアンプを使う場合」のサウンドは、バンク13に入れています。ここには、アンプ・モデル「Placater Dirty」のサウンドを微調整したプリセットをいくつか入れていて、例えばアンプのBias Xというパラメータを0.3ほど変えたものを使い分けたりしています。


POD Go Wirelessのライブ導入の一例。ギターからパッシブ・バッファを経由してPOD Goへ入力。また、外部ブースターをセンド/リターンへつないでいる。現在はこのセットが多くの現場で活躍すると語る。

──Bias Xは真空管アンプのフィールを深く追い込みたい時に使うパラメータで、ほとんどの場合は調整しなくても満足できる音になると思いますが、そこが0.3異なるだけのプリセットを使い分けるというのは、相当マニアックですね。
 いろいろ試した結果、僕のギターや僕が使っているアンプ・モデルだと、ここを触ると飽和感の調整ができると感じていて、上げると濃厚豚骨スープのような音になるんですけど(笑)、飽和し過ぎても良くないと思うんです。それで、ちょうどいいのが0.3の増減だったんです。実際に弾くとわかると思います!

──なるほど、確かに音の輪郭の立ち方というか滲み具合というか、変化は聴いていてもわかりますね。ただ、この変化はライブ会場では伝わりにくいのでは?
 そうですね、聴き手側には違いがわからないかもしれません。ただ、このわずかな違いが演奏者である僕の気持ちを高揚させて、より良いプレイに導いてくれるんです。


「M.Clean/AMP」
メイン・プリセット「M.Clean/AMP」。武良氏の数多くのこだわりポイントの中でも、最大級のポイントのひとつが、このDual Pitchの設定。写真ではCents1が+10.0になっているのが確認できる。ページをめくった先のCents2は−7.0だ。上下の音程差のわずかな違いが、武良氏が狙った「はっきりとした効果」を生んでいるという。



武良匠オリジナル・プリセット「M.Clean/AMP」をCUSTOMTONEからダウンロード



「M.Guild.LINE」
こちらはエレアコ用のプリセット。ポイントは、イコライザー(10 Band Graphic)の設定で、ライブでスッキリした音を届けるため、31.25Hzが−3.8dB、62.5Hzが−3.6dB、125Hzが−4.2dBと低域がカットされている。


「Dual Pitch」へのこだわり

──実際に使っているプリセットのこだわりを教えてください。
 一例として「A M.Clean /AMP」の説明をしますね。これはプリセット名からわかる通り、アンプ・モデルを活用したクリーン・トーンのプリセットで、主にバッキングや、ジャズの演奏をする時に使います。シグナルチェーンの先頭にあるワウワウ・ペダルは「Chrome Custom」というモデルで、ポイントはオンにした時に音量が上がり過ぎないようにレベルを少し下げているところですね。これでクリーンな音のまま、ワウを使うことができます。次に「Tube Comp」を通ってから、センド/リターンで外部のブースターを入れています。アンプ・モデルは「Cali Texas Ch1」ですね。僕は全種類のアンプ・モデルを弾いて試してみましたが、クリーンに関してはこれが求めている音でした。キャビネット・モデルは「1×12 Grammatico」です。僕は音の抜けの面で12インチ一発が好きで、実機のキャビネットも12インチ一発しか使いません。ポイントは、Low Cutのパラメータを現場の会場の鳴り方によって調整することです。もうひとつのポイントはMicのパラメータで選ぶマイク・モデルです。ここでは「121 Ribbon」というモデルを選んでいるのですが、これは僕が一番好きなROYERの121にとても近いと思います。あとはDistanceをギリギリまで近づけて、超オンマイクにしているのもポイントです。こんな感じでマイキングまでこだわることができるのも、POD Goの魅力ですね。

──お話はまだシグナルチェーンの途中ですが、すでにこだわりが満載ですね!
 まだまだありますよ(笑)。次は、ボリュームペダルです。ここはカーブに気を使っていて、リニアじゃない方が好きなんです。踏み込み始めでは大きく変わらず、最後にフワッと変わるようにLogarithmicに設定しています。あとは、ペダルのトルクに遊びがないよう調節しています。その次はEQですが、基本的にフラットにしていて、レベルだけプラス5dBにしています。つまりクリーン・ブースターとして使っているわけです。これで歌モノのバッキングとソロの音量を、クリーン・トーンのまま一発で調整できます。そして、この後が最大のこだわりである「Dual Pitch」です。これは、片方のピッチをプラス10セント、もう片方をマイナス7セントに設定して使っているんです。

──プラス/マイナスの両方を10セントずつズラすのではなく、マイナス側を3セント分抑えているのはなぜですか?
 これは自分の聴感上の問題なんですけど、両方を10セントにすると、倍音と倍音がぶつかり合って散ってしまうんですよ。6kとか8kの嫌なところが耳につく感じですね。片方をマイナス7セントにすると、一転音がまろやかになります。これ、全然違うので、POD Goをお持ちの方はぜひ試してみていただきたいですね。

──ちなみに、プラス7セント、マイナス10セントでは駄目なのでしょうか?
 僕は好きではないですね。低い方に音程を大きく動かすと、暗く聴こえてしまうので。


パラメータの微調整も徹底するという武良氏の話からは、音を聴きとる能力と、それらを言語化する能力の高さが伝わってくる。


──「Dual Pitch」以降のセッティングも教えてください。
 その後は、リバーブ、ディレイの順で並べています。これはあまり皆さんやらないと思うのですが……普通は並びが逆ですよね。ただ、この順番の方がディレイのかかり方がキレイなんですよ。まるでパラレルで出したように残響が広がるんです。いわば“擬似パラ”ですね。リバーブは「Dynamic Hall」を使っています。ここでのポイントはHighCutで、残響を強調したい時はミックスを上げるのではなく、HighCutの周波数を変えます。例えば、HighCut を10.6kHzから11.0kHzにすると、ディケイが伸びたような雰囲気が出るので、これも試してみてほしいですね。それから、最後のディレイは「PingPong」を使っています。本当はステレオで出したいところですが、現場ではモノラルで使うことが多いです。Mixは22%で、バンドで演奏した時に邪魔にならないようにしています。タップテンポのためにTime を1/4にし、TimeありきでScaleを58%に設定しているところがポイントですね。これで、エコー・チェンバーを使用したことで知られているバンド、シャドウズの曲を弾くと、とても良い雰囲気が出せます。ちなみに、ベンチャーズの曲を演奏する時にはリバーブを変えます。

──細部まで非常にこだわって音作りをしていることがよくわかりました。ワイヤレスは、どのように使っていますか?
 主に、自宅のデスク環境で使っています。デスクで作業するときにケーブルに縛られないというのは非常に快適ですね。レイテンシーもまったく気にならないですし。あとは、ライブ会場のサウンドチェックで外音を確認したい時にも便利なので、必要に応じて使っています。

──最後に、POD Goの魅力について振り返っていただけますか。
 音質、使いやすさ、コンパクトさなど、すべてにおいてこれだけのすごいものがあるのだから、プレイヤーはもう使うしかないという感じです。POD Goを手に入れて今の時点で約3ヵ月なんですけど、とにかく音作りの実験をしまくりましたし、3日くらい徹夜したこともあります。それだけ、掘り下げ甲斐があるんですよ。研究すればするほど音をより良くすることができる、素晴らしいプロセッサーだと思います。


武良匠オリジナル・プリセット「M.Clean/AMP」をCUSTOMTONEからダウンロード



武良 匠
奈良県出身。ジャズ・ミュージシャンの父を持ち、3歳よりギターを開始。小学5年生で初ライブを行う。18歳から関西を中心にプロ・ギタリストとして活動を開始する。HR/HMからジャズ、カントリー、ミュージカルまで様々なバンドのサポーやレコーディングを務める。共演アーティストは、菅沼孝三、川口千里、水野正敏、矢掘孝一、清水興、東原力哉、大橋勇武、和泉宏隆、安達久美、梶原順、そうる透など枚挙にいとまがない。国内楽器メーカーとの製品共同開発・製品開発のテストも行う。
◎オフィシャルウェブ:https://takumi-mura.jimdofree.com/


■POD Goシリーズ製品詳細
https://line6.jp/podgo/


取材:井戸沼尚也
写真:星野俊


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