POD Go Artists

Shinji(シド)

「歪みの音が良いこと、シンプルにコントロールできること、そして何よりこのサイズ感」

2021.08.31

シドのギタリストであり、2021年4月からはRayflowerなどで活動する田澤孝介(Vo)とのユニット「fuzzy knot」を始動したShinji氏。シドではアンプ2台を中心とした大型機材システムで多彩なサウンドを操ってきたが、ライブ環境が限られていくなかでシンプル化を模索。他方で1年限定の活動としてオンラインサロン「シド Shinjiのオンラインギタースタジオ」も開設した。シンプルかつ良い音を目指した配信用途としてPOD Goに出会ってからは、まるでギターを始めた頃のようにギターとPOD Goだけを持ってひとりでリハーサルスタジオに入ることも。内在するギター小僧魂をPOD Goが改めて発露させた格好だ。「まだまだセッティングの途上」というShinji氏に話を聞いた。


シンプルにわかりやすくギターの魅力を伝えたい

──新ユニット「fuzzy knot」やオンラインサロンの始動など新たな音楽環境に向き合っているなかかと思いますが、POD Goはどういった経緯で導入されたのでしょうか?
 こういう状況になって以降は、シド以外では当初コンパクト・エフェクターを並べて、スイッチャーをコントロールしてってやっていたんですけど、それがあまりにも重たくて。最近のマルチってすごく進化しているのは気づいていて、でもって軽いし、まずはこのサイズ感がいいなと思いました。アンプ(モデル)もエフェクト(モデル)も相当数入ってるし、一発でできたほうがいいなと思ったのと、オンラインサロンのメンバーにはギター初心者の方が多くいるので、できる限りシンプルにしたかったっていうのがありました。

──オンラインサロンのスタートがPOD Go導入の直接的なきっかけだったのですね。
 そうです。2020年の秋くらいだったと思います。今日(2021年7月)で8回目の配信ですね。なかには上級者もいて、僕よりも全然きれいに弾くなぁっていう人もいますし、これをきっかけにギターを始めてみようかなという人もいます。なので初心者の目線でなるべくシンプルに、わかりやすくギターの魅力を伝えたいと思っていて。まだセッティングを詰め切れていないところが多いですけど、そういう要望を満たしてくれますね。

──シドではHX Effectsも導入されていますね?
 そうですね、トレモロとコーラス、ユニヴァイブなどをコントロールしたくて導入しました。

──実機のアンプも2台態勢で……。
 あ、アンプは今1台なんですよ。HX Effectsを導入した当時は2台態勢だったんですけど、アンプを切り替えたときの「明らかにアンプが変わった感じ」にずっと悩んでいて。音作りもけっこう困難で。こっちを立てればあっちが立たずというか。いろいろとそういうことがあったので、シンプルにしたいという気持ちが強くなっていって。それもあってマルチ・プロセッサーに興味が沸いたというのもあります。マルチを買うのって18歳以来で、完全に浦島太郎状態というか(笑)。これはすごく使いやすいし、びっくりでしたね。安価だから音が悪いとかそういうところも一切ないし、自分は特に歪みの音が気に入っていて、歪みが良いイコール本当にこれ1台で完結できるというのがいいですよね。自宅ではオンラインサロン用のワンポイントレッスン動画も撮っていて、そのときももちろんPOD Goを使っているんですけど、踏み替えしながら曲の解説をしたくて、日々ブラッシュアップした音をこの月1回の配信本番に持ってこられるというのも楽しみなんですよね。


オンラインサロン本番の様子。足もとはPOD Go 1台のみでモノラルのライン出力。ホワイトボードに課題曲の進行やポイントを記し、サロンメンバーの質問に丁寧に答えながら進行された。

──POD GoとHX Effectsとでは同じエフェクト・モデルを使用しているのでしょうか?
 いや、そういう使い方はしてないですね。HXのほうはシステムごと管理されていて、個別にいじることはあまりないんですよ。その点、エクスプレッション・ペダルも付いているPOD Goはフットワーク的にも都合がいいし、ボリュームペダルが使えるのも単純に嬉しくて。というのもシドでのシステムは音質を優先してボリュームペダルを入れず、全部手元だったんですね。なので、改めてペダルの楽さを味わってます(笑)。

──POD Goの情報はどこで入手したのでしょう?
 最初はネットで見てですけど、僕はイケベ楽器店アンプステーションの店長さんと仲良くさせていただいていて、お店に行っていろいろと弾かせてもらったなかで、音の良さとサイズ感でこれに決めたんです。アンプステーションさんには本当によく相談していて、音色で困ったときには動画を撮って見てもらったり、そういう信頼できる方がお薦めしてくれたのも大きいですね。
 それから、最近は行けてないですけど、夜中に街スタに入って弾きたくなるときがあって。そういうときにさっと持ち出せるサイズっていうか、あれ持ってこれ持ってってやってると行く気が失せてしまうので(笑)。まさに1台あると便利だなって。スタジオに置いてあるアンプに挿して、これ1台で、それでも「自分の音」でやれるでしょっていうか。自分はわりと大きな現場にいて機材も大きくなったけど、そういう根っこにあるスキルを高めたいという気持ちにも付き合ってくれますね。

──レコーディングやライブでの使用状況はいかがでしょうか?
 今のところはないんですけど、全然いけますよね。レコーディングだと基本的にアナログ機材になっちゃうんですけど、fuzzy knotのレコーディングはほぼリアンプでしたね。自分の性格にはそれが向いてるかなと。レコーディング・スタジオってあまりリラックスして弾けないというか。そこでしか出せない破壊力みたいなものももちろんあるんですけど、家でリラックスしながら弾きたいというか。ただ「テイク100」とか平気でやっちゃうので(笑)、迷いが出るのは良くないかな?と思うんですけど。

──自宅で録ったデータをスタジオでリアンプするわけですか?
 はい、家で演奏したドライ音をスタジオに持って行って、マイクプリなどを通して、自分のアンプから出力するという感じですね。僕は優柔不断なほうなので、あとから音を作れたほうがいいんですよね。
 ひとつ気になることがあって、POD Goを踏み替えたとき(プリセット・チェンジ)に頭の音がふわっとした感じがあって、少し早めに踏んでいるんですが、それって調整できたりしますか?


シドでの永遠の課題がPOD Goではバシッと決まった

──同一のプリセットであることが前提になりますが、「スナップショット・モード」を使うと音切れはなくなりますので、解決策になると思います。
 つまり、同じエフェクトとアンプ・モデルを使うということですか?

──そうです。アンプ/エフェクトのパラメータの変更やオンオフなどを1プリセットにつき4つまで保存できます。ちなみに現在プリセットはいくつお使いですか?
 基本的にはクリーン、クランチ、ディストーション、ソロの4つを作ってあって、アンプは「Placater Dirty」で統一しています。実機のアンプ2台で悩んでいたこともあって、アンプ・モデルは変えないほうがいいかなと思って。

──でしたらスナップショットへの移行もスムーズですね。
 ただ、細かいプリセットの中身はサロンで取り上げる曲によって変えていて残していないので、そこはもう少し詰めていきたいですね。それと特にクリーン・サウンドはコンプの使い方とかやりようがもう少しあるのかなと。ラインっぽい感じがしてその感触を変えたくて。

──なるほど、キャビネットやそのパラメータを追い込むというのはいかがでしょうか。
 あ、そこはいじってないですね。今はブギー系が自然と選ばれているんですか。自分はアメリカンなわりと早いレスポンスのものが好きなんですけど、だとするとそこも触ったほうが良さそうですね。実際、いろいろと弾きながら聴きながら音作りをして、「あ、自分の好みはやっぱりこれなんだ」という気づきもあったりして。実機を使っているシドではクランチ・サウンドが永遠の課題なんですけど、POD Goだとクランチはバシッと決まったんですよ。


オリジナル・プリセット「Dist」をCUSTOMTONEからダウンロード



「Dist」
2021年7月の配信時にディストーション用として制作されたプリセット。POD Goはクリーン、クランチ、ディストーション、ソロと4つのプリセットを割り振って使用しており、アンプ・モデルはPlacater Dirtyをチョイス(Cab 4×12 Cali V30と組み合わせ)。歪みにはピッチシフター(Simple Pitch)でオクターブ下を足すことが多く、ミックス値50~60%と深めに使うこともしばしば。取材当日の配信で取り上げる楽曲が「レトロなテイスト」なため、ショート・ディレイ(Digital Delay)を8分で強めにかけ、リバーブ(Hall)もたっぷりかけることで雰囲気を演出した。その他、ワウはFassel、ディストーションはKinky Boostを使用。


──歪みサウンドはどのように作っていますか?
 基本はアンプで歪ませます。レコーディングでも同じですね。リードのときにブースターを使うくらいで。ただライブではコンパクト・エフェクターで歪ませてます。

──シチュエーションによって音作りの仕方が変わるんですね。
 はい、シドって音楽の幅がすごく広くて、レコーディングではさまざまな実機のアンプを試したり、すべてを同一環境には落とし込めないんですね。それでも実機をやりくりするのはなんというか、「最後までガラケーでいるタイプ」なので(笑)。プロってでかい機材で当たり前のように良い音を出してって感じですけど、POD Goのようなコンパクトなマルチでもしっかりやりこなしたいなって。クリーンを詰められれば、これ1台でライブもできちゃいますよね。
 それとそう、先日音色をいろいろ探していたら、ディレイ、めちゃくちゃ良いですよね。原音じゃない音が「コンコンコン……」って下降していったり。ディレイで曲の表情が変わってくるので、量とかタイムとか結構細かくいじっていて、例えばオンラインサロンで取り上げる曲が決まったら、ディレイ・タイム表を見ながら一日いじってるくらい。

──オンラインサロンでは音作りのレッスンもやっているのですか?
 ええ、聞かれることはありますね。ただ大勢が介するサロンのような機会だと質問したくても聞きづらい状況があると思うのと、初心者と上級者が入り混じっていると「どこまでやるか」が難しいところで、まさに今日のサロンでは音作りを焦点に説明したいと思ってました。
 これまでギターもいろいろと所有してきたんですけど、最近断捨離して、本当に使うものだけを手元に残したんです。やっぱり物事はシンプルにしておきたくて。このPOD Goもそうですけど悩みすぎなくていいなと。POD Goについてギター初心者の方に伝えたいのは、まず歪みの音が良いこと。シンプルにコントロールできること。そして何よりこのサイズ感。どこへでも持っていけるし、僕みたいな機械オンチにもすごい扱いやすいし、やりたいことに応えてくれる。1台でなんでもできて、そのひとつひとつのクオリティがすごく高いので、中途半端なシステムを組むよりこれ1台で済ませたほうがトラブルも少なくて、うん、いいなと思いますね。ただ僕が買ったときは、ワイヤレス機能の付いたPOD Go Wirelessが出ていなかったのが残念です(笑)。


これから活用の幅を広げようとするShinji氏のPOD Go。「踏み込んでの切り替えが苦手」と謙遜するがその実相当のワウ使いで、エクスプレッション・ペダルの踏み心地も気に入っているという。



オリジナル・プリセット「Dist」をCUSTOMTONEからダウンロード


Shinji(シンジ)

4人組ロック・バンド、シドのギタリスト。2008年、TVアニメ「黒執事」オープニングテーマ「モノクロのキス」でメジャー・デビュー。結成10周年となった2013年には初のベスト・アルバムをリリースし、オリコンウィークリー1位を獲得。2014年には香港・台湾を含む全国ツアーも開催した。最新作は2021年7月に配信リリースした「慈雨のくちづけ」。なお2021年6月には、田澤孝介(Vo)と結成した新ユニット「fuzzy knot」で同名のアルバムをリリースしている。
◎シドオフィシャルウェブ:https://sid-web.info/
◎fuzzy knotオフィシャルウェブ:https://www.fuzzyknot.com/
◎Shinjiオンラインギタースタジオ:https://lounge.dmm.com/detail/3121/


写真:星野俊


« 記事一覧に戻る
icon-arrow-up