POD Go Artists

小池 龍平

「黒くて武骨でデザインにも無駄がなくて、所有欲も満たしてくれる楽器」

2021.08.26

ガットギターでシンガーに寄り添うボッサなプレイを聴かせたかと思えば、スティールパンを前面に押し出したダブ・サウンドが持ち味のLITTLE TEMPOや、ダブ/レゲエ/エレクトロニカのハイブリッド・サウンドを聴かせるbonobos(ボノボ)のギタリストとしても活動。オーガニックでモダン、血の通った活き活きとしたギターを聴かせる小池龍平氏。決して突飛にならず、静かにリズムと空間を支配するギターさばきはまさに職人のそれ。長年Mシリーズ・ユーザーだったという小池氏の足元には、2021年の夏を前にPOD Go Wirelessが置かれるようになった。その経緯を聞いていこう。


ワイヤレスを使わない理由なんてないなと

──LITTLE TEMPOやbonobosではM9、M13を導入されていたそうですね。Mシリーズはガットギターにも使っていたのですか?
 いや、あのう、ガットギターは最近、コンデンサーマイクでしか収音してないんです。自分でチューニングを追い込んだマイクをサウンドホールに仕込んであってキャノンで出してるんですけど。どうしてもピエゾが苦手で、今の状況で落ち着きましたね。バンドのなかでもハウらないんですよ。いきなりPOD Goの話ではないですが、ぜひアコースティック楽器に興味のある方にはチェックしてもらいたいですね(笑)。
 M9はLITTLE TEMPOで、M13はbonobosで、それぞれエレクトリック環境で使ってましたね。Mシリーズの空間系だけを使う人もいましたけど、僕は歪みも好きで、ブースターとワウを外付けした以外はメインに使ってました。雨のなかのフェスもあるので買い替えたりしながら……とはいえ、やわな楽器ではないということも強調したいというか。相当ヘビーに使って10年近くもってきたので。僕は楽器に「タフネス」を要求するんですけど、そういう意味でLine 6は信頼してますね。POD Go Wirelessは導入間もないのでまだ本番での使用も少ないんですが、その限りであることを期待してます。

──Mシリーズの代わりとしてPOD Go Wirelessを導入された?
 実は最近までリリースされていることすら知らなくて、小型のマルチを買おうと調べたときに出会って。もちろんHelixやHX Stompは知ってたんですけど、Helixだと自分の環境には大きすぎるのと、エクスプレッション・ペダルは必要なのでHX Stompだと足りなくて。もっと何か出たときに買おうかな……と思っていたら出てました(笑)。
 現在、bonobosではすべてPOD Go Wirelessで、LITTLE TEMPOだとサウンド的にもう少しアナログ・ライクなものがほしくてコンパクトを並べることもあるんですけど、でもアンサンブルになるとアナログ/デジタルもあまり関係なくなるじゃないですか。そこで「最終的にLine 6に帰る」という、その歴史の繰り返しですね(笑)。これが今やギター・ケースのポケットに入っちゃいますからね。

──「ワイヤレス」の必要性はあったのでしょうか?
 いや、正直に言うとそこはそうでもないんです。僕はシールドっていうモノ自体が大好きで、自分でも相当たくさん作ってきましたし、音というよりも質感や素材、皮膜とか外装とか、そういうものが好きなんですね。楽器は見た目も重要ですから。なのでわりと打算的なんですけど、POD GoとPOD Go Wirelessってさほど価格は変わらないじゃないですか。かつ、ビルトインでワイヤレスが使えるんだったら新たな可能性があるかもしれないし、試してみたいなって。それで実際に使ってみて、音も全然良いし、これは使わない理由なんてないなと思いましたね。忘れっぽい性格なので、充電し忘れるのが心配ですけど(笑)。

──ケーブルトーン機能はお使いですか?
 はい、「3m」に落ち着きましたね。ただ、今日初めてPowercab 112 Plusで音を出してみて、これはすごく高域がクリアですよね、びっくり。こうなるとまたいろいろセッティングを変えたくなっちゃいますね(笑)。ワイヤレスは自宅でけっこう使ってるんですよ。練習したいときにパッといけるのが圧倒的に便利ですね。宅録でもそのまま使ってます。


POD Go Wirelessのエクスプレッション・ペダルにはエフェクト・パラメータをアサインしている都合で、ワウ用として外部エクスプレッション・ペダルを追加使用している。愛用ギターはMOGUT工房製。

──POD Goのサウンドの印象は?
 Mシリーズを長年使っていた身からすると、歪み成分にしてもすべての粒子が細かくなって、圧倒的に解像度が高くなっていますね。特に高域がわかりやすいと思うんですけど、とにかく抜けが良くって。ハムバッカーのギターでこれまで抜けが悪いなと思ってEQをいろいろいじっていたのが、POD Goにしてから全然気にならなくなったり。ギター本来の音が出せる、そんな感じがしましたね。これまで行ったり来たりしていた部分がなくなったというか。bonobosではセミアコを使ってるんですけど、リアにすると抜けすぎなくらいで。とはいえ、まだセッティングをやり倒していないのと、LITTLE TEMPOはまだスタジオで試せてないので、これから詰めていくのが楽しみです。

──操作性に関してはいかがですか?
 慣れかもしれないですけど、エクスプレッション・ペダルにパラメータをアサインするのがもう少し簡単だったら嬉しかったかな。まぁ微々たる問題っていうか、やはり機材は慣れですもんね。基本的にはフットスイッチの数も充分あって、極めてわかりやすいと思います。

──スナップショット機能はお使いですか?
 そもそもMシリーズの後継のつもりだったので、まだ使ってないんですよ。アナログな使い方が好きでPOD Goにもそれを求めてるっていうか。シンプルにストンプモードで使ってるんですけど、エクスプレッション・ペダルにドライブとアウトプット・レベルをアサインしたり、リバーブもディケイとミックスをアサインしたり、そういう使い方をしてますね。あ、あとワウも恐ろしく良いですね。すべて使いやすかったですけど、今はWeeperを入れてます。エクスプレッションはエフェクトのパラメータを動かしたいので、ワウ用に外部エクスプレッション・ペダルを泣く泣く追加しましたけど、これは結果、正解でしたね。

──プリセットはbonobosとLITTLE TEMPOで分けて組んでいるのでしょうか?
 そうですね、大きくその2つに分けて作りました。言い換えると、ライブ用と宅録用という感じですね。自宅だと何パターンかあるんですけど、内蔵のアンプ・モデルは使わないでマルチエフェクターとしてアンプに繋いで使う場合や、オーディオインターフェース経由でレコーディングするときは内蔵キャビも含めて使うんですけど、宅録の音はびっくりしました。とあるレコーディングで、最初は軽いデモのつもりでワイヤレスで録ったものを先方に送ったら「良い音だね!」って。超アナログのエンジニアの方なんですけど、デモのつもりが一発OKでしたね。やった!と(笑)。

オリジナル・プリセット「bonobos EXPREV」をCUSTOMETONEからダウンロード


「bonobos EXPREV」
bonobos用に制作されたプリセット。使用するブロックはシグナル順に、ワウ(Weeper)→ディストーション(Tube Drive)→ディストーション(Classic Dist)→アンプ(US Deluxe Nrm)→キャビネット(1x12 US Deluxe)は基本オフにしてメインアウトから実機ギター・アンプのリターンにイン→ブースト用のEQ(Simple EQ)→ディレイ(Analog w/Mod)→リバーブ('63 Spring)となり、エクスプレッション・ペダルにはリバーブのディケイとミックスの値をアサインしてリニアにコントロールする。


制限のなかで最高のものを生み出す美学

──小池さんの音作りのキモはリバーブの使い方ですね?
 まさにそうですね! リバーブの量や長さは永遠の課題っていうか、ギター単体で弾くと本当に気持ちいいなっていう長さが、バンドで音を出すと大概足りないんですよ。思っていたよりもドライに聴こえちゃう。だから、エクスプレッション・ペダルにディケイとミックスをアサインしていて、足りないかな?ってときに踏み込むんです。これこそがコイツの一番の武器だと思ってるんですよ。

──その点でスナップショットを使う方も多いんですよ。
 なるほど。でも、変化の値はそれぞれで固定ですよね? 音の感触は現場によって絶対変わるので、そこはリアルタイムで動かせたほうがいいなと思ってて。うん、でもスナップショットも使いこなしたいですね。まだ全然掘れてないので。しかしPOD Goって、言ってみれば入門機的な立ち位置なんですよね? 信じられないですよ。全然、プロユースの機材ですよ。モデリングが実機に似てるとか似てないとか、自分はそういったこだわりは一切なくて、コイツは当たり前にすごく良い音。そこは間違いないですね。Line 6はそもそも「プロが使う男の楽器」ってイメージで、レゲエの現場でも見るし、ロックの現場でも見るし、気合入ってる人はLine 6使ってるなって。黒くて武骨でデザインにも無駄がなくて、所有欲を満たしてくれる楽器ですよ。

──嬉しい評価ですね。
 それと、Helixがいろいろできるのはなんとなく知ってるんですけど、POD Goって自由に使えるエフェクトは4つって決まってるじゃないですか。そこもいいなって。ギターってそもそも制限のある楽器で、自分のなかではワウと歪みとディレイとリバーブ、これらがエッセンシャル。制限のなかで最高のものを生み出す美学っていうか、POD Goはそこの良いところを突いてるなと。

──bonobosでは宇宙っぽいサウンドも聴けますね。
 あ、宇宙系はね、蔡(忠浩/Vo,Gt)くんがやるんです。彼もLine 6ユーザーで、M13にコンパクトをたくさん加えていて、だいぶイカれてますよ(笑)。最初は蔡くんが僕にM9を教えてくれて、僕がM9を買って、その後に彼がM13を使い始めて、「お、それいいじゃん」って自分もM13を買って(笑)。

──素晴らしい相乗効果が(笑)。
 僕も蔡くんもやりたいことが尽きないんですよ。それで最近スタジオに入るたびに、今度はPOD Goに興味を示してますから(笑)。ただ彼にはHelixシリーズが良さそうですね。ばっちり薦めておきます!


導入して2ヵ月とまだまだ真新しい小池氏のPOD Go Wireless。今後ライブの現場で「使い倒していきたい」という。現在はストンプモードで、外部エクスプレッション・ペダルを増設して使用する。

オリジナル・プリセット「bonobos EXPREV」をCUSTOMETONEからダウンロード


小池 龍平(こいけ りゅうへい)

1978年、東京都生まれ。アコースティックリズムギタリスト/シンガー。bonobos、LITTLE TEMPOのギタリスト。幼少期を米国で過ごし、早稲田大学大学院教育学研究科で教職を志す半ばでギタリストに転向。レゲエ、ボサノバ、フォークミュージックをルーツにした筋金入りのリズムギターとシルキーなボーカルが各シーンに高く評価され、ソロ活動のほか多数のボーカリストのバックを務める。これまで畠山美由紀、Ann Sally、Port of Notes、以莉高露、UA、堀込泰行、久保田利伸、Toshl、RIP SLYME、竹原ピストル、サーカス、VAN DYKE PARKS、OKI、若旦那(湘南乃風)など多ジャンルのミュージシャンと共演、録音を重ねる。また音楽活動の傍らでTVCMナレーターとしても活躍する。
◎オフィシャルウェブ:http://ryuheikoike.com/
◎Twitter:https://twitter.com/ryuheikoike


写真:八島崇


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