TIPS/テクニック

スピーカー・キャビネットの基本を理解する

皆さんの多くはスピーカー・キャビネットを使用せずに、モデラー内でキャビネット・モデリングやIRを使用しているかも知れません。ただ、スピーカーやキャビネットの構造や特徴についてよく知っておくことは、モデラーで音作りをする場合においてもとても役に立つのではないかと考えます。もしご興味があれば、是非このブログをお読みください。

簡単な質問をします。あなたは、ご自身のギター・システムの見た目とサウンドの両方を劇的に変化させたいと思っているのですが、一つのアイテムしか変えることができません。その場合、何を選択しますか?スピーカー・キャビネットとお答えになった皆さんは手を挙げてください。1番最初に頭に思い浮かぶものではないかもしれませんが、ちょっと考えてみてください。スモール・コンボと巨大なMarshallスタックは、アンプではなくスピーカー・キャビネットの違いでどれほどの差が出るものでしょうか?

メーカーが製造コストを製品に最適化する場合に、キャビネットやドライバーは真っ先に削減の対象になることがよくあります。一般的には、ここで妥協することで電子系のパーツよりもはるかに大きな節約となり、求められる小売価格を実現することを可能にします。しかし多くの場合、お手軽なユニットは、素晴らしいアンプを質の悪い低コストのキャビやドライバーに埋没させてしまいます。

ある程度労力をかければ、適切なスピーカー・ドライバーを選んで、あなた用に作られたカスタム・キャビネットを手に入れ、午後の時間だけでそれをご自身で組み立てることができます。準備は良いですか?始めましょう!

チューブ・ヘッドをご使用の場合、これは非常に簡単です。セパレートされたヘッドの目的は、結局のところ、さまざまなスピーカー・キャビネットを使用できることです。コンボをご使用の場合、背面に追加のキャビネットを接続するための拡張用のスピーカー・アウトがある場合があります。キャビネット・ビルダーによっては、アンプ用に追加でコンボのエンクロージャーを作ることができます。ソフトウェア・ベースのモデラーをご使用の場合は、キャビネット・シミュレーション・ソフトウェアをフルレンジ・モニターで使用するか、それらをオフにした状態で通常のキャビネットを使用する方法を選択できます。

キャビネットで最初に決めることは、スピーカーの大きさと個数によって決まるキャビネットのサイズです。一般的に、キャビネットが大きくなったりドライバーの数が増えたりするとサウンド・プレッシャー・レベル(SPL)が増加します。別の言い方をすると、よりラウドになり、低音域のレスポンスも増加します。

パンチのあるサウンドやパンツの裾が揺れるような他にはない迫力を求める場合は、大型の4×12に代わるものはありません。誰もが一生のうちに最低でも1回はそれを通して演奏すべきだと思います。本当に病みつきになります。残念なことに、ほとんどの「中毒」と同じように代償は非常に大きいですが。定番の412はおおよそ一辺が2.5フィート(76.2cm)の大きさで、ほとんどの車のトランクにとっては難題になります。空の状態のキャビネットでもおおよそ50ポンド(22.7kg)あり、軽くはありません。4基のVintage 30とキャスターなどのハードウェアを含めると、100ポンド(45.3kg)を積むことになります。パンツの裾の揺れを少しだけ減らしても良いのであれば、縦置きや横置きの2×12は非常にポピュラーな選択になっています。これらは412の素晴らしい見た目とフィールを多く残しつつ、より小さく軽いパッケージになります。適切にドライバーを選択すると多くのアンプに対応できますが、スピーカーを搭載しても重さは50ポンド未満にできます。縦置き型のスラント・タイプの2×12は私の個人的なお気に入りのオールラウンドなキャビネットです。

ストレート・タイプの412は非常に指向性が強いです。スピーカーの軸から外れると高音域は非常に著しく低下するので、キャビネットに対しての立ち位置によって聴こえるサウンドが大きく変化します。縦置き型のスラント・タイプのキャビは高音域の分散に非常に強く、広いエリアに一貫性のある周波数レスポンスを提供します。

サイド・バイ・サイド・キャビネットは1×12ほど大きくない薄型の素材に入った2基のドライバーを使用します。これは2基のドライバーで出力を追加しながらサイズをキープする素晴らしい構成になります。2×12のキャビネットによっては縦置きにも横置きにもでき、より柔軟に使用することができます。

構成を選択したら、次はキャビネットの素材を選択します。一般的によく使用される最適な木材にはバルチック・バーチの合板やパイン材などがあります。バルチック・バーチの木は北ヨーロッパのバルチック地方で育つので、その名前がつけられています。その合板は長年ヨーロッパのキャビネット・メーカーに使用されており、安定性や強度に定評があります。通常の合板は、外側は高いクオリティの化粧板で作られ内側は比較的柔らかい木材で作られますが、バルチック・バーチの合板は全てのレイヤーで高いクオリティのものを使用します。標準のプライより柔らかい内側の合板には、すき間や割れがあるものを使用しません。バルチック・バーチの合板にはすき間や割れはなく、100%ソリッドです。ネジがしっかり挿入されて強固に固定されるので、ボルトやスピーカー・ドライバーの振動にとって理想的になります。ほとんどの定番のイギリス製キャビネットを含む多くの品質の良いスピーカー・キャビネットは、バルチック・バーチのみで作られています。

伝統的なアメリカのFenderスタイルのキャビネットは多くの場合パイン材で作られています。パイン材は少し軽く柔らかいので、より全体のサウンドに影響します。パイン材はバルチック・バーチより均一性が低いためキャビによって個体差があり、不要な共鳴を避けるためにドライバーのマッチングをより注意深く行う必要があります。最適なスピーカーを搭載した良いパイン・キャビは定番の明るく元気なアメリカンサウンドが出せます。パイン・キャビの骨組みとバルチック・バーチのバッフルの組み合わせは素晴らしい選択です。バッフルはスピーカーをネジ止めする前面部分の木材のことです。この方法は何より必要な強度と安定性が得られ、定番のパイン・トーンも残します。

次はスピーカー・ドライバーの選択です。メジャーなギター・スピーカー・ドライバーのメーカーはいろいろなドライバーの特性、特定の種類のキャビネットへの適合性や狙っているトーンなどの多くの詳細な情報をウェブサイトで公開しています。時間をかけてこれらを読んでみてください。マウント用の穴は規格化されています。ほとんどの場合、ベンダーAの12インチ・ドライバーとベンダーBの12インチ・ドライバーは交換可能で、キャビネットのマウント用の穴が一致しますが、絶対ではありませんので、ベンダーが公開しているスペックをチェックしてください。

ドライバーは前面か背面に取り付けます。つまりドライバーがバッフルを介して載せられ、キャビネットの前面か背面それぞれにボルトで固定されます。キャビネットとスピーカー・ドライバー両方のスペックをチェックして、必要な向きを確認してください。キャビネットとスピーカーによっては両方に対応しているものもあり、どちらを使用するか選ぶことができます。それ以外の場合は、互換性があるかどうか確認する必要があります。例えば、キャビネットが背面での取り付け専用で、スピーカーが前面での取り付け専用の場合、改造しなければお互いがうまく機能しません。

ドライバーにはインピーダンスと定格があります。ギター・スピーカーのインピーダンスは、通常4、8、16Ωです。これらの数値は、ドライバーごとに決まっていて複数のスピーカーを使用する場合にどのように配線するかによって変化します。スピーカー・メーカーのEminenceは、複数のドライバーを配線するさまざまな方法や、これがどのようにインピーダンスに影響するかに関しての素晴らしい技術資料を公開しています。www.eminence.comでそれらをチェックしてみてください。選んだ方法で配線された全てのドライバーのトータルのインピーダンスが、アンプに対応しているか確認してください。インピーダンスの不整合は不適切な動作を引き起こし、場合によってはドライバー、アンプ、またはその両方に重大な損傷を与える可能性があります。

ギター・スピーカーの定格は通常20Wくらいから200Wくらいまでです。これらの数値はドライバーごとに決まっていて、複数のドライバーを使用した場合には変化します。スピーカーの定格とアンプへの出力のマッチングは個人の求めるものに大きく依存します。通常、スピーカーが歪む効果をトーンの一部として必要としている場合、定格の低いものを選ぶ必要があります。適切な予防策がとられていれば、ほとんどの場合(そして場合によっては望ましい)、定格の低いドライバーを定格の高いアンプで使用することに問題はありません。例えば、小音量で歪むスピーカーをお探しの場合、最大音量に達するずっと前にドライバーが歪み始めるため、定格が50Wのアンプで30Wのスピーカー・ドライバーを使用するのが適切です。スタジアムのギグでアンプを最大に歪ませた状態で、フルボリュームの多数のハイゲイン・ペダルを使用すると、スピーカー・ドライバーを損傷するおそれがありますが、低い音量でアンプを使用している場合、たいていドライバーの仕様の範囲内におさまり、同時に目的のトーンを得られるでしょう。反対に、スピーカーのトーンをクリーンで全く歪ませたくない場合は、高い定格のドライバーを使用できます。この場合、50Wのアンプで100Wか150W定格のスピーカーを使用することが適切です。

スペックから判断できることはそれほど多くなく、最終的にはキャビにスピーカーを搭載して、どのような音が出るのか試すしかありません。本当に好きなものを見つけるために2~3度試さないといけないことも珍しくはないのです。スピーカー・ドライバーの推奨のキャビネット構成を参考にして、バーチの412にブリティッシュ・スタイルの30Wドライバーや、2×12のパインにアメリカン・スタイルのドライバーなど、よく知られた組み合わせから始めると比較的安全です。そのあとで、ブリティッシュ・スタイルのキャビでアメリカン・スタイルのドライバーを使用するような型にはまらない組み合わせを試すことで実験を始めてみるのもよいでしょう。同じキャビ内に異なるドライバーも混ぜられます。例えば、低い周波数に最適化されたドライバーをキャビの下段に、高い周波数に最適化されたものを上段にセッティングすることで、よりハイファイなトーンを得ることができます。

配線に関しては、スピーカー・キャビネットのビルダーが組み立て済みの配線用のハーネスを提供している場合があり、その場合は接続するだけで半田付けや圧着させる必要なく使用することができます。この技術に精通していて適切な道具も持っている場合は、ご自身でワイヤリングも行えます。内部の接続やキャビネットの配線が終わってアンプと接続する場合はいずれも、ワイヤーはパワー・アンプ・レベルの出力を送るので正しいゲージのスピーカー・ワイヤーを使用しなければならないことを忘れないでください。200Wのチューブ・ヘッドと412キャビの接続にギターケーブルは使用してはいけませんよ!基本的な電気の配線に慣れていない場合は、資格のある人に頼むようにしましょう。

とにかく何よりも実験してみることです。先に述べたように機械的にも電気的にもいくつか基本的なルールがありますが、それ以外はさまざまなものを試して好きなものをお探しください。安全に組み立てられて音がよければ、それでよいのです!

※本ブログはMission Engineering社のウェブサイトに掲載されている内容(The Power of Speakers)を、許可を得て翻訳・転載したものです。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。

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