TIPS/テクニック

ボリュームの科学

ボリュームというのは捉えにくい概念です。皆さんは、ボリュームをコントロールすると音が大きくなったり小さくなったりして、ギター・アンプの場合は、よりパワーが大きければ音が大きくなる、と単純に考えるかも知れません。
でも、実はそれよりもかなり複雑なんです。

最初に、音の基本的な定義をおさらいしてみましょう。
音は音波として伝達される媒質の圧力の変化から始まります。私たちの場合は、ほとんどは空気を経由した伝達ですが、別の媒質のこともあります。例えば、水生動物の場合は、水の中の圧力の変化を知覚するということになるでしょう。圧力の変化は、私たち人間の場合は耳によって知覚され、そして脳に伝達されます。私たちが音と呼ぶものにはこうした要素が必要なことを確認しておくことは非常に大切です。

音波はそれぞれ異なる周波数で振動します。音楽的な意味においては、私たちは低い周波数を低い音、高い周波数を高い音として認識します。人間が理想的な環境で聞き取ることができる周波数の一般的な帯域は、通常20Hzから20KHzと言われています。これは、1秒間に空気中で音波の圧力が20回から20,000回振動しているということです。特別な条件下において被験者がそれよりもわずかに広い音域を聞き取れるケースもありますが、多くの人はこれよりも狭い音域しか聞くことができません。また人間は歳を取ると高い周波数への感度が減少します。例えば、私は15KHz以上を通常のレベルで聞き取ることはできませんし、そこまで聞こえない人もたくさんいることでしょう。
他の動物の場合は、可聴帯域はまったく異なります。
こちらが興味深い動物の可聴帯域のチャートです。

私たちは、高い周波数を聞き取れる動物というと犬を思い浮かべますが、一般的には猫の方がその上をいってます。海洋哺乳類のいくつかは150KHzまで聞こえる、というのは驚くに値しないと思いますが、金魚がこんなに低い音域まで聞こえるというのは、つまり媒質よりも動物の生態が大いに関係していると言えます。個人的には、最も広い可聴帯域を持つ陸生動物が牛とフェレットであることに驚きました。 意外ですよね?

ここでのポイントは、音のレベルの感じ方は一人一人異なり、周波数感度というのは、そのいくつかある要因のひとつであるということです。少なくとも限られた狭い周波数帯の中では、ある人にとって大きな音に聞こえるように感じられても、別の人には聞こえないということもあります。

もちろん、私たちの聞く音のほとんどは狭い帯域に限定されている訳ではなく、通常はさまざまな周波数の広いスペクトルです。あるものがどれくらい大きな音が出せるかを測定する際には、周波数を測定する方法が必要となります。あるときは人的な要素を取り除く必要があるかも知れませんし、またあるときはそれを測定で考慮に入れる必要があるかも知れません。

幾何学においては、「ボリューム」という言葉にはわかりやすい説明があり、定義された単位で測定できます。しかしながら音の世界においては、ボリュームはサイコアコースティック(心理音響)用語であり、知覚に依存します。これには後で触れるとして、まずはもっと簡単な定義から始めましょう。まずは音圧(P)です。音圧は、音波によって引き起こされる平均気圧からの偏差です。進行方向に垂直な表面領域にかかる圧力として測定されます。Pは人間の聴覚特性を考慮せず、単に圧力を測定するだけです。ここでは、Pに国際単位、すなわちパスカル(Pa)を使用します。聴覚障害のないほとんどの人が聞くことができる最も静かな音は、一般的に2 x 10-5 Paまたは0.00002 Paとして知られています。3mの距離の蚊の音と言われることもあります。

人間の聴覚とボリュームを関連付ける際にPを使用することの問題は、最も静かな音と最も大きい音の間で私たちが感じる圧力レベルの範囲が広過ぎることです。私たちの最小可聴値は0.00002 Pa(1 Paの2000万分の1)ですが、一方、銃声やジェットエンジンなどの非常に大きな音はおそらく200 Paに達します。このため、人間の聴覚と音圧を関連付けた計算が途方もないものになります。この問題は、音圧レベル(SPL)と呼ばれる対数スケールを使用して解決でき、デシベル(dB)で測定されます。これでもう少し身近に感じられることでしょう。
SPLは、基準点に対する比として測定されます。通常使用する基準点は最小可聴値であり、既に学んだように0.00002 Paです。この点を0dBと呼びます。したがって、理想的な聴覚があり、通常は実験室のコンディションでのみ可能なタイプの静かな部屋に座って、3m離れた場所で飛んでいる蚊を確実に聞くことができれば、それは0dB SPLになります。

これで、その他のものを0dBや最も小さな可聴音を基準に相対的に測定することができるようになります。 SPLの数字は、Pを使用する場合よりも比較や計算がはるかに簡単です。

  • 最小可聴値:0dB (0.00002 Pa)
  • 静かな部屋での普通の会話:約 40dB
  • フリーウェイでの運転音:約60dB
  • 長時間さらされると聴覚障害を引き起こす音圧レベル:85dB
  • 1mの距離のジャックハンマー(手持ち削岩機):約100dB
  • 1mの距離のライフル音:140dB (200 Pa)

最後の2つは1メートルの距離での測定なのに気がつきましたか?

音圧は音源からの距離に応じて逆2乗で減少します。混雑したレストランのバックグラウンド・ノイズは、複数の似たようなノイズ源が周囲にあるため、異なる場所であっても類似している可能性がありますが、音が単一の場所から発せられている場合、SPLはそこからの距離に対して変化します。削岩機から2m離れると、100dBのSPLは約6dB低下します。(これらは理想的な環境における例であることに注意してください。環境が理想的となることはめったにないため、現実はもっと複雑です。実生活での測定については後で説明します)。削岩機から10m移動すると、SPLは20dB低下します。

削岩機から20m離れた時点で、SPLは26dB低下して74dBになりました。この時点で、そのSPLは周囲のトラフィック・ノイズよりも低い可能性があります。削岩機からの音圧波はまだ存在しますが、車や人などの他のすべての音源と混ざり合っています。私たちの脳は、削岩機の音を単体で拾うことができなくなります。

SPLの測定を行うには、SPLメーターを使用します。SPLメーターは、マイクで音圧をモニターし、結果をLCDに表示する小型のハンドヘルド・デバイスです。優れたメーターは、1秒間に数回測定を行い、異なるウェイトで結果を表示できます。これについては後で説明します。これらのタイプのメーターは、瞬間的な測定に使用され、その時のレベルを表示します。SPLメーターを購入する場合は、クラス2規格(IEC 61672-2013およびANSI / ASA S1.4 / Part 1)に準拠したメーターを探してください。

もうひとつのタイプのメーターは、SPL線量計です。これは、間隔を置いて測定を行い、結果を保存します。一般には、仕事上の規制目的などで、誰かが一定期間にわたって騒音レベルにさらされているかどうかを測定するために使用されます。

SPLを測定するときは、測定対象、場所、期間を必ず考慮してください。たとえば、あるバンドが120dBで演奏していることを表示しても、それがピーク値なのか平均値なのか、測定値がどこから取得されたのかを示すわけではないので、限定的な情報になってしまいます。特定の機器を測定するときは、テストについてできるだけ多くの情報を記録するのが最善です。たとえば、スピーカーの最大平均SPLは、軸上1mで130dB、1W RMSで1KHzといった具合です。これにより、スピーカーの1mにSPLマイクを配置し、マイクの中心をコーンの中心に合わせ、1KHzトーンで1W RMSの信号レベルを設定すると、スピーカーを傷めることのない平均SPLが130dBになると読み取ることができます。追加情報として、部屋のタイプ、周囲の温度などの環境条件と同様に、平均値の決定方法に関する詳細を提供してもよいでしょう。

ここまで学んだことを簡単にまとめてみましょう。
音は異なる周波数の圧力波から生成され、個々の人々(および他の動物)は異なる周波数範囲を聞くことができることを説明しました。オーディオ・エンジニアリングの世界では、これらの圧力波の強度を測定するために、デシベル(dB)の単位を使用する音圧レベル(SPL)と呼ばれる比率の対数スケールを使用します。これは、パスカル(Pa)の単位を使用する音圧の測定はスケールが細かすぎるため、計算が複雑になりすぎるためです。
音圧レベルの測定値は、設定された0dBの基準値に相対的なものです。通常、完全な聴覚を持つ人間が理想的な状態で聞くことができる最も静かな音は0dBであり、これは3mの距離で飛んでいる蚊の音とよく言われます。音圧レベルは距離と関係があり、音源からの距離が遠くなるにつれて逆2乗で減少します。 SPLを測定するには、SPLメーターと呼ばれる電子デバイスを使用します。目的に応じて、現在のSPLを測定したり、SPLの度合いを経時的に記録したりできます。定点的な音源を測定する場合は、少なくとも測定が行われた音源からの距離を考慮する必要があり、ピーク値と平均値を比較する必要があることもあります。

音は興味深いテーマであり、これまで見てきた通り、当初思っていたものよりもはるかに複雑だったのではないでしょうか。このレッスンを通して、音とボリュームについてまったく新しい認識が得ることができたならば幸いです。

※本ブログはMission Engineering社のウェブサイトに掲載されている内容(The Science of Volume)を、許可を得て翻訳・転載したものです。


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