TIPS/テクニック
鈴木健治の「ギターレコーディング・マスタークラス」 第6回
空間系エフェクトをクリアにかける
こんにちは。ギタリストの鈴木健治です。
ギターをレコーディングする時のアイデアやTipsを紹介している「ギターレコーディング・マスタークラス」。
6回目の今回は、「空間系エフェクトをクリアにかける」と題して、ディレイなどのエフェクトの繋ぎ方や、プリエフェクトとポストエフェクトの違いなど解説します。
伝統的なのはアンプの前
ギターアンプに何かエフェクターをつなぐ時には、アンプのインプットより前に繋ぐのが一般的です。
また、1960〜70年代に作られた伝統的なギターアンプでは、そもそもアンプの前以外にエフェクターを繋ぐ選択肢はありませんでしたので、歪み系からモジュレーションや空間系まで全てアンプの前にセッティングするしかありませんでした。
この方法ですと、ディレイの音もアンプでドライブされるので、クリアで分離の良い効果を得る事は出来ません。
センドリターン回路の登場
ところが、一部のギターリスト達がレコーディングスタジオでエフェクト処理されたようなクリアな音を、自分のアンプからも聴きたいと思い始め、ギターアンプのプリ部とパワー部の間にエフェクターを繋げられる「センドリターン」という回路が実装され始めました。
これにより、プリアンプで歪ませた音にディレイをかけ、パワーアンプでクリアに増幅する事が出来るようになったのです。
それでもクリアさではスタジオレコーディングされた音にはおよびません。
パワーアンプの歪み
ギターアンプの多くは、パワーアンプ部での音の変化や歪みも出音に大きく影響するもので、ピュアオーディオでいうプリ、メインアンプとは意味合い役割が大分違うんですね。
ギターアンプではパワーアンプ部が単純に音を増幅するだけでなく、サウンドにも大きく影響を与えるんです。
そういった理由からセンドリターン回路を使っても、パワーアンプ部の歪みやキャラクターが付加されてしまい、レコーディングされた音のようなクリアなエフェクト効果を得る事は出来なかったのです。
それならパワーアンプとスピーカーの間にエフェクターを繋げば良いのでは?
なんて考える方がいるかも(?)しれませんが、それは絶対ダメです。
スピーカーを鳴らすには大きなパワーの信号が必要でして、その信号をエフェクターに繋いだら間違いなく壊れますし、チューブアンプでしたらアンプにも悪影響を与えていまします。
パワーアンプの後に繋いでも良いのはスピーカーかパワーアッテネーターだけです。
パワーアンプからアッテネーターでラインレベルに下げる方法
センドリターンでもクリアさに満足出来なかったギターリスト達は、パワーアンプも含むアンプヘッドからの大きな信号をアッテネーターでラインレベルまで落とし、その音をラックエフェクトに繋ぎ、別のパワーアンプでスピーカーへ送るという事にもチャレンジしていました。
この方法だとパワーアンプの音まで含めた音にエフェクトをクリアにかける事が出来たのです。
この方法は僕自身も90年代前半に数年間やっていましたが、多量の真空管の管理やメンテナンスが必要だった事と、システムが複雑になりすぎていつでも専任のギターテックが必要な事もあり、別のシステムへ移行していきました。
使っているケーブルの量はこの頃が一番多かったかもしれません。
マイクで拾った音を自分のラックへ
さらに違った方法で、空間系エフェクトをかけないドライなアンプの音をマイクで広い、自分のエフェクトラックに戻し、ディレイなどを加えたラインレベルの音を卓に送る方法もありました。
この方法がスタジオレコーディングでのルーティングに一番近いので、「どこのレコーディングスタジオでも同じ音を出したい」というプレイヤーの拘りを満たす事が出来ました。
又、ハードのエフェクトが主流な時代には、レコーディングスタジオでも「物理的にディレイの数が足りない」なんて事もあったので、そういった意味でもディレイの正しい掛け録りは重宝されたものです。
このようにエフェクトまで含めた音への拘りは、ハード的にある意味「行くところまで行った」感がありますね。
機材の調達からメンテナンスまで含めると、それはそれは簡単なことではありませんでした。
Helixを使えば簡単に出来ます
Line 6 Helixを使えば、上に書いたような方法を簡単に再現することが出来ます。
ドライブさせたアンプヘッドの後にヴィンテージなテープディレイをかけた音をキャビネットに送り、好きなマイクで拾った音を安全なレベルで出力することなど「朝飯前」です。
ヴィンテージな質感のテープディレイを、クリアで分離の良い音で聴けるのは気持ちが良いものです。
3:19~
これがドライブさせたアンプの前にディレイを繋ぐと、綺麗で分離の良い音にはなりません。
3:54~
綺麗なコーラス効果を加えるにはアンプより後ろが基本です。
ここではピッチディチューンも加えてさらに深みを足しています。
5:01~
これがアンプの前だと、うーん、分離が良く綺麗に広がるとは言えません。
5:40~
これを全てハードで行っていた時代も確かにあったのです。
あらためてHelixのポテンシャルの高さを感じますね。
まとめ
ギターアンプで空間系エフェクトを綺麗に分離良くかけるためには、高価で重たい機材はもちろん、ノイズ対策から完璧なメンテナンスも欠かせないものでした。
今ではLine 6 Helix 1台で実現出来ますし、自由なルーティングで新しい音色を発見する楽しみも増えました。
空間系エフェクトを深く見直すのも良いかもしれませんね。
今回は以上になります。
では!
著者プロフィール:鈴木健治(すずきけんじ)
ギタリスト、ギターサウンドデザイナー、トラックメーカー。
神奈川県出身。
10歳でギターを始める。
20歳でプロとしてのキャリアスタート。
以来、スタジオミュージシャンとして、宇多田ヒカル、MISIA、BoA、EXILE、倖田來未、SMAP、安室奈美恵、坂本真綾、ケツメイシ… 他沢山のアーティストの作品に参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代後半~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。
2018年でプロミュージシャン生活30年を迎える。
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