POD Go Artists

室姫深 / 児島実 / Nicky

「POD Goは今の世代のギターの在り方を表しているモデル」

2022.09.30

パンクからデジタル・ハードコアまで飲み込んだ真の意味でのミクスチャーバンドTHE MAD CAPSULE MARKETSの結成メンバーであり、以降、数多くのバンドやユニットで活躍するギタリストの室姫深氏。「児島実」、「Nicky」などの名義を使い分けながら、日本の音楽シーンに刺激的な音を届け続ける氏は、デスクトップ型の初代PODからのLine 6ユーザーでもある。2022年春、新たにPOD Go Wirelessを導入した室姫氏に、POD Goシリーズの活用法について話を聞いた。


アコギの音とエレキの歪みをコントロール
その中枢にPOD Goを導入

──室姫さんは長年、非常に多岐にわたる活動を継続され、さまざまな年代のファンがいらっしゃると思います。改めて室姫さんの音楽的なバックボーンを教えてください。
 僕は、もともとはドラマーだったんですよ。でもニューウェーブの全盛期に洗礼を受けた影響で、ドラムよりギターの方がカッコいいと思っていました(笑)。当時、ドラムとして参加していたバンドのギタリストが受験のために辞めるということになり、僕はそれをきっかけにギターを始めたんです。当時は土屋昌巳さん、布袋寅泰さん、エイドリアン・ブリューに影響を受けましたね。エフェクターを多用する、カッティング重視の人達です。逆にギター・ソロには興味がありませんでした。だからTHE MAD CAPSULE MARKETSの曲にはギター・ソロがないんです。

──DIE IN CRIESではギター・ソロも弾いていましたよね?
 そうですね、ボーカルのKYOが「ギター・ソロは必要だ」という考えだったので、要求に応じて弾いていました。ただ僕自身は長い間、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンのようなギター・ソロが主役になるようなロックは聴いたことがなくて……自分の身体には、P-MODELやフリクションなんかの日本の音楽、それとテクノ、あとはラジオでかかっていた洋楽がミックスされて入っている感じです。

──なるほど。室姫さんの音作りには「新しいものへの積極的な姿勢」を感じていたので、ルーツを伺って納得しました。POD Go Wirelessについては室姫さんがNicky名義で立ち上げたユニットのDooDooDooMiuMiuMiuで使っているということですが、こちらはアコギ+エレクトロという形態ですよね?
 はい、二人が好きなEDMに日本的なメロディをミックスしたいというコンセプトで始めたユニットで、これまではずっとアコギを使っていました。シンセの音とエレキのディストーション系の音って混じりやすくて、両立が難しいんですよ。だから、Hip Hopなんかでもよくアコギを使っていますよね。自分でも新しいアプローチをしたかったので、アコギを弾いてきたのですが、その形態で5年くらいやってきて、ユニットとしてのスタイルも出来上がったので、そろそろエレキを導入しても良いかなということになったんです。そこでアコギ・サウンドに加えて、エレキの深い歪みもコントロールできる中枢として、POD Go Wirelessを導入しました。

──実際に、どのような使い方をしているのでしょうか?
 今のDooDooDooMiuMiuMiuに欠かせない、アコギとエレキの両方のサウンドのコントロールを、これ一台で担っている感じですね。僕のシグネチャー・ギターにはブリッジの駒の下にピエゾ・ピックアップが仕込まれていて、これでエレアコ・サウンドが出せるんです。それをPOD Goにつないで、アンプ・モデルは使わず、エフェクト・モデルはコンプ(Deluxe Comp)、EQ(10Band Graphic)、リバーブ(Glitz)だけを使っています。これで良い感じのエレアコの音が出せるんですよ! 7弦ギターのエレアコ、しかもその音でアーミングも出来るし、かなり面白いと思います。そして曲によってはアコギの音だけではなく、途中でエレキの音が必要になる曲もあるので、その場合には手元でピックアップを切り替えつつ、POD Goのプリセットを切り替えるだけで済むので、本当に助かっています。

──エレキの方はどのように音作りしていますか?
 こちらは、僕の大好きな「Cali Rectifire」というかなり歪むアンプ・モデルを使って、深めの歪みをメインとした音作りをしています。まずインプットのところでノイズゲートをかけ、次に「Tube Drive」でブーストします。そこからアンプ・モデルは「Cali Rectifire」、キャビネット・モデルはアンプとマッチングされている「4×12 Cali V30」です。やっぱり相性が良いですね! で、POD Goからラインで出してライブで使っています。ポイントはアンプ・モデルの音の良さなんですが、ノイズゲートがすごく優秀で、自然な感じでノイズをしっかり消してくれるので欠かせません。


ボディのグラフィックからパーツ、弦に至るまでグリーンで統一されたシグネチャー・モデルとPOD Go Wirelessでエレアコ・サウンドから激しい歪みサウンドまで、すべてを生み出している。


Line 6の歪みに対する絶対的な信頼
中でもPOD Goのリアルさは別格

──POD Goを選んだ理由を改めて教えていただけますか?
 まず、音が良いことです。僕がユニット内でエレキを使い始めるということで導入したわけで、歪みの音が良くないと使えないんです。他社の製品を試してみたこともあったのですが、僕はそもそもLine 6の歪みの音が大好きで、その点については絶対的な信頼感がありました。昔から、レコーディングでかなりの割合で古いデスクトップ・タイプのPODを愛用していて、曲名は伏せておきますけど皆さんがきっと耳にしたはずの大ヒット曲も実はPODの音なんですよ。PODは初代から3代目くらいまで買いましたし、Line 6の実機のアンプも買って使っていました。このPOD Goは、僕が大好きな古いPODをはるかに超えていますね! 何よりも、音が格段にリアルです。ですから、ライブ用として導入したPOD Goですが、今は他のギターの仕事などでレコーディングでも活躍し始めていて、今後は完全に古いPODと入れ替わるでしょうね。それに、POD Goはある面では実機のアンプすら超えていると思っています。実機をマイキングしても、ある一定以上の歪みになると、歪み量とノイズ、ハウリング、フィードバックの追いかけっこになってしまい、歪み量だけを増やすことが難しくなりますが、POD Goならそれも自在で、歪みの壁を簡単に作ることができます。そもそも、録音した音をライブで再現するって至難の業じゃないですか。結局、実機の音を加工して出来たものが録音として残っているので、ライブでいくら実機を使っても加工前の音にしかならないんですよ。POD Goを使えば加工後の音が作れるので、その点も素晴らしいと思います。

──POD Go Wirelessを選んだ理由の第一が音の良さ、歪みの良さということですが、他に決め手となった点はありますか?
 2つの意味での、機動性ですね。一つはワイヤレスの魅力です。DooDooDooMiuMiuMiuでは結構踊りながら弾いたりして動き回るので、以前からLine 6のワイヤレスを使っていたのですが、このPOD Goにはワイヤレス・レシーバーまで内蔵されているので、これ一台を置くだけでセッティングが済むので本当に楽でした。付属のトランスミッターも、かなり離れても問題なく使えていますし、本体にトランスミッターを収納できる点も良いです。もう一つは、このコンパクトさですね。小さな会場で演奏する場合や、他のバンドとの転換時間が短い場合に、これ一つを持っていけばいいというのが本当にありがたいです。軽くて小さくて、最高ですよ。

──プリセット・モードでお使いなんですね。
 はい、スナップショットも非常に便利な機能だと思うのですが、僕の場合はアコギと歪んだエレキを併用する極端な使い方(アンプ・モデルを使う場合と使わない場合がある)が多く、加えてちょっとしたオブリではクランチ程度の他のアンプ・モデルも使いたいので、プリセット・モードを使っています。DooDooDooMiuMiuMiuの曲にはEDM的なライザーサウンドやドロップがよく出てくるので、ギター的には休みというパートも多いんですよ。ですから、音切れを計算した踏むタイミングには困らないということもあります。

──音作りについては実機上で行っていますか? それともPCのエディターで?
 今のところは完全に実機で作っていますね。操作がものすごく簡単なので、実機での音作りでまったく問題ないです。エディターのほうはこれからチェックして使っていきたいですね。

──セッティングのコツや、気をつけていることはありますか。
 僕は結構、デフォルトを信じているんです。やっぱりLine 6製品は良くできているんですよ。例えば、POD Goのアンプ・モデルは、かなり深く音質を追求していくこともできますよね。モデルにもよりますがSagとかHumとかのコントロールがあったり……でも最初のセッティングが一番良いということも多いので、自分の好みの歪み量やローの出方が調整できたら、あとはそのままでも十分に良い音が出せると思います。ちなみに僕は、ライブでのモニタリングは完全にイヤモニなんですね。だから、音作りもイヤモニで行っています。そうすると、家で作った音とライブの音が完全に一致します。これは、実機ではなかなかできないことなので、とても助かっていますね。


「MAIN DST」
エレキの歪みのメインとなる、「MAIN DST」と名付けられた室姫氏オリジナルのプリセット。インプット部のノイズゲートをオンにすること、ブースターとして使うのがお気に入りという「Tube Drive」も重要だが、やはりアンプ・モデルの「Cali Rectifire」の歪みが最重要ポイント。使用ギターが7弦で、ローの輪郭を大事にしているため、Bassはやや低めの4.6に設定している点に注目したい。


室姫深オリジナル・プリセット「MAIN DST」をCUSTOMETONEからダウンロード



「AG NORMAL」
こちらはアコギ・サウンドのためのオリジナル・プリセット。アンプ・モデルは使用せず、コンプレッサー(Deluxe Comp)、イコライザー(10Band Graphic)、リバーブ(Glitz)のみで音作りしている。EQで非常に低い帯域をカットしている点(31.25Hzを-3.0dB)にご注目を。


時代が求める「オンの音」を出せるのがPOD Goの最大の魅力

──室姫さんの今後の活動と、そこにLine 6製品がどのように関わってくるのか、教えてください。
 先ほどから述べているDooDooDooMiuMiuMiuではPOD Goが中心なのですが、僕が児島実名義で参加しているAA=(THE MAD CAPSULE MARKETSの上田剛士氏のソロ・プロジェクト)では、Helix Floorを使っていきます。それには理由があって、AA=にはギターは僕一人なのですが、「ツイン・ギターの音」を標榜していて、それに対応するにはHelix Floorしかないということなんです。具体的には、アンプ・モデルを2台使って異なる質感の歪みを作り、ふたりのギタリストが弾いているニュアンスを作り出すという。さらに、楽曲によっては「この部分ではモノラルになってほしい」など、かなり細かい要望にも対応できます。そのためにもう一台、アンプ・モデルを用意し、計3台使うことまであります。その他、ブースター、ディレイ、リバーブ等も使うので、Helix Floorの性能をフルで使って音作りしていますね。だから、今後の僕の活動はPOD Go WirelessとHelix Floor、この2つを使い分けながら行なっていくことになると思います。

──それでは最後に、改めてPOD Goの魅力について教えてください。
 POD Goは、今の世代のギターの在り方を表しているモデルですよね。使える「オンの音」を出せるというのが、強みだと思います。やっぱり実機にマイクを立てて作る音は、どうしても「オフの音」なんですよ。音の回り込みもありますし。今、世の中の事情や基準が変わってきていますよね。ライブの現場はどこに行ってもイヤモニでOKな音か、そこで不必要な音が出ていないかが重視されています。特に感染症が蔓延して以降は、「ライブは、終わったらDVDにパッケージ化するのが当たり前」という世界になっています。その時に、マイクの音の被りがあると、不都合が多いんですよ。アンプの実機の良さももちろんあるんですが、POD Goのように良質な「オンの音」が出せて、価格的にも手が届きやすく、個体差を気にせずに使え、持ち運びもしやすいというのは、やはり時代が求めるものだと感じています。


「実機のアンプやエフェクターも多数使ってきたし、現場によっては実機が求められるのでその良さもよく知っているけど、POD Goには今の時代に必要な音と機能のすべてがある」と語る室姫氏。



室姫氏のPOD Go Wireless。アコギとエレキのまったく異なる音色を、シンプルに踏み分けられる「プリセット・モード」で使用している。


室姫深オリジナル・プリセット「MAIN DST」をCUSTOMETONEからダウンロード


参考動画


室姫深 / 児島実 / Nicky
1968年、神奈川県出身。AA=(上田剛士氏のソロ・プロジェクト)、DooDooDooMiuMiuMiu、SUSIE LOVEなどのギタリストとして活動する他、多数のアーティストのサポート、プロデュースを手掛ける。1990年にTHE MAD CAPSULE MARKET'Sを結成、1991年には日本のヴィジュアル系ロック・バンドの先駆けにもなったDIE IN CRIESへ参加する。現在はバンド/ユニットによって、POD Go Wireless、Helix Floor、ペダルボード+実機アンプを使い分けている。
◎Twitter https://twitter.com/MinoShin_7th


■POD Goシリーズ製品詳細
https://line6.jp/podgo/


取材:井戸沼尚也
写真:星野俊


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