TIPS/テクニック

エクスプレッション・ペダルの基本を理解する

エクスプレッション・ペダルは、デジタル・アンプ・モデラー/プロセッサー、ラックエフェクト、ストンプボックス、MIDIコントローラーやキーボードといった電子音楽機器の可変パラメーターをコントロールするために使用されます。ペダルは、それ自体はサウンドに影響を与えることはなく、接続されたデバイスの「表情」をリモート・コントロールします。足でコントロールできるリモート・ノブと考えるとわかりやすいかも知れません。エクスプレッション・ペダルで実際に何がコントロールできるかは、接続されたデバイスの機能に依存します。

ほとんどのデジタル・マルチエフェクト・プロセッサーは、ボリュームやワウ、ワーミーといった、もともとペダルを使用することを基本とした機能を、エクスプレッション・ペダルを使ってコントロールすることができます。加えて多くの場合、例えばリバーブのトレイル、ディレイのフィードバック、ロータリースピーカーのスピード、ミックスの度合い、その他多くの機能をコントロールすることができ、特にライブのシチュエーションにおいてミュージシャンに多大な恩恵をもたらします。
エクスプレッション・ペダルは、専用の入力もしくはMIDIコントロール入力を備えたデバイスでのみ使用することができます。

エクスプレッション・ペダルに対応したLine 6製品には、Helixシリーズ、HXシリーズ、POD HD Xシリーズ、Firehawk FX、Mシリーズ、ストンプボックス・モデラー・シリーズなどがあります。
また最近では、エクスプレッション・ペダルでコントロールできる機能を持ったストンプボックスも各社から登場してきています。

動作のしくみ

エクスプレッション・ペダルとは、足で上下に動かす”ロッカー”を備えたペダル形式のアセンブリで、床に置いたりペダルボードにマウントされたりします。ペダルの内部では、ロッカーはペダルに比例して動くポテンショメーター(可変抵抗器)と連動しています。ポテンショメーターはコントロールしようとしているデバイスの出力ジャックもしくはエクスプレッション・ペダル入力に取り付けられた出力ケーブルに接続されます。インラインのボリュームペダルとは異なり、エクスプレッション・ペダルはシグナルチェーンには接続されないため、「インプット」がありません。エフェクト・デバイスのエクスプレッション・ペダル専用入力に接続するための1系統のアウトプットがあるだけです。デバイスはポテンショメーターを通過するケーブルの一方の導体を通じてコントロール・ボルテージを送信し、もう一方の導体からデバイスに戻されます。ペダルが上下するのに連動してポテンショメーター内の抵抗が変動し、戻されるコントロール・ボルテージの入力を増減させます。戻されるボルテージの量は、デバイスがペダルのポジションを見ながら継続的に調節され、それゆえ効果が変化します。
エクスプレッション・ペダルは通常、動作に電力を必要としないパッシブのデバイスで、コントロール・ボルテージは接続された機器側から生成されます。

エクスプレッション・ペダルとCVペダルは、僅かな違いを除いてほとんど同じような機能を提供するため混同されがちですが、実際には異なります。パッシブのエクスプレッション・ペダルは自身ではコントロール・ボルテージを生成せず、接続されたデバイスから受信し、ケーブルの別の導体を通じて戻します。 CVペダルは自身でコントロール・ボルテージを生成するので、電池や外部のパワーサプライが必要になります。どちらにも使用できるものもありますが、デバイスがCVペダルに対応した仕様になっていない場合、接続すると損傷する場合があるので、CVペダルをデバイスに接続する際には必ずそのマニュアルを読みましょう。CVペダルはもともとアナログ・シンセサイザーに端を発しており、必ずしも専用というわけではありませんが、一般的にはシンセやキーボード関係の機器でよく見受けられます。
床置きタイプのエフェクト機器にビルトインで搭載されているエクスプレッション・ペダルは、独自の仕様を採用している場合もあります。

互換性

エクスプレッション・ペダルの入力には、公認された標準的な仕様というものは存在しません。エフェクト/アンプ・メーカーは、各社の固有の用途に適するバリエーションを採用しています。このため、ユーザーは使用するデバイスで正しく動作するエクスプレッション・ペダルを探さなければなりません。以下に代表的なバリエーションを紹介します。

1. ポテンショメーターの抵抗値
多くのデバイスは、エクスプレッション・ペダルのポテンショメーターに5kΩから50KΩ抵抗値を必要とします。この範囲の中で幅広く使用できる柔軟な製品もいくつか存在しますが、正しく動作するために特定の抵抗値を厳密に必要とする製品もあります。また、前述の範囲を超えた、100K、250K、あるいは500Kといった特定の抵抗値を必要とする製品も存在します。 互換性のない抵抗値のペダルを使用すると、可変範囲が狭まったり、レスポンスが飛んだり途切れたり、場合によっては全く動作しないこともあります。

2. ポテンショメーター・テーパ
ポテンショメーターのテーパは、その機械的な動作に電気抵抗がどのように連動して変化するかを表します。リニア・ポテンショメーターにおいては、電気抵抗は、全体を通じてポットの機械的なレンジと同じ割合で変化します。全てとは限りませんが、ほとんどのケースにおいて、リニア(直線)テーパはエクスプレッション・ペダルで最適に動作します。ログ(対数)テーパにおいては、抵抗は最初にポットを動かした時はゆっくりと変化し、最後に近づくにつれて次第に速くなります。ログ・ポットは通常ボリューム・コントロールに使用されますが、その他のエフェクトでは必ずしも適切に動作するとは限りません。これがボリュームペダルをエクスプレッション・ペダルに転用しようとした際に満足の行かない結果に終わることが多い理由の1つです。 ワウ・ペダルの中には、反対に動作するログ・テーパを使用しているものもあります。実際には、これがエクスプレッション・ペダルに求められるケースが少なくとも2つありますが、多くの場合、これもエクスプレッション・ペダルには適しません。

3. 配線
ほとんどのポテンショメーターは、CW、CCW、ワイパーの3つの端子を備えています。驚くべきことに、これらを配線するのには複数の異なる方法があり、どの方法でも概ね同じ結果をもたらすのですが、とは言え、エクスプレッション・ペダルのバリエーションをさらに増やすことになっています。 最も一般的なエクスプレッション・ペダルのワイヤリングは、ポットを1/4”ステレオ(TRS)楽器入力ジャックに以下のように接続します。

CW — — Sleeve
Wiper — Tip
CCW — — Ring

TipとRingを逆にした次の方法もあります。
CW — — Sleeve
Wiper — Ring
CCW — — Tip

さらに3つ目の方法です。
CW — — Sleeve
Wiper — Tip
CCW — — Tip

最後の例では、ワイパーとCCWが結合されてTipに接続され、Ringは使用されません。この場合は一般的なギターケーブルのようなモノラル(TS)ケーブルが必要となり、他の2つのケースではステレオ(TRS)ケーブルが使用されます。これら3つがエクスプレッション・ペダルで最もよく見られますが、実際にはもっと存在します。シングル・ポットで半分の抵抗を創り出すために、デュアル・ギャング・ポテンショメーターを並列で配線するようなケースもあります。例えば、デュアル20KΩポテンショメーターがシングル10Kに変換されることもあります。この場合、ペダルは実際の10KΩのシングル・ポットと同じように動作します。

これまで見た中で最も珍しいコンフィギュレーションは、オリジナルUnivibeのスピード・コントロール・ペダルで、ワイパーをまとめてブリッジしてグランドに接続したデュアル・ギャング100KΩのログ・ポットを使用しているようでした。どうしてそのようなことになったのか、その裏話を知ることができたらきっとおもしろいでしょう。市場に出回っているUnivibeのクローンの中にも、似たような配線を必要とするものがあります。
エクスプレッション・ペダルは、使用する機材の仕様と適合する極性の配線が必要です。互換性のない配線の施されたペダルを使用すると、可変範囲が狭まったり、レスポンスが飛んだり途切れたり、あるいは全く動作しなかったりすることもありますので、機材の要件を確認することを忘れないようにしましょう。通常はユーザー・マニュアルに記載があります。

構造

先に触れた通り、ほとんどのエクスプレッション・ペダルはパッシブ機器で、ロッカーの直線的な動きを、ポテンショメーターを回すのに必要な回転力に変換する機構を採用しています。一般的には、ラック・アンド・ピニオン機構もしくはケブラー繊維ケーブルやメタル製バンドを活用したシステムです。ほとんどの既製品のポテンショメーターはパネルにマウントして手で回転させるように設計されており、エクスプレッション・ペダルにおいてはこのことがいくつかの問題を引き起こします。まず物理特性が、足で操作するようにデザインされていません。フットペダルで生み出される力は、パネルにマウントされたポットの機械的な仕様をはるかに超えており、壊れてしまうこともあります。次に、多くの停止位置を備えたポテンショメーターは270~320度の間で回転します。これがロッカーの動作にぴったり適合しなければ、ポットは目一杯回転しきらなかったり、あるいは動作の途中で停止位置に到達してしまったりします。これは、デッドスポットを生んだり可変範囲を狭めたりする問題や、深刻なダメージを引き起こすこともあります。ベストなパフォーマンスを得るためには、フットペダル用にデザインされたポテンショメーターとロッカー機構の動きに適合する回転角度を備えたポテンショメーターを搭載することが重要です。
市販されているエクスプレッション・ペダルはこうした仕様を備えていますが、もし自作しようとするのであれば、このことを念頭に置いてください。

キャリブレーション

いくつかの洗練された仕様のエフェクトやコントローラー、特にMIDI機器では、ポットの回転幅による問題を調整できるキャリブレーション・ユーティリティを搭載しています。こうした機器では、通常ユーザーがエクスプレッション・ペダルとマッチさせることができるソフトウェア・オプションが用意されています。その多くは、ペダルを最大値と最小値との間で動かして、機器側でその結果を計測するというものです。そして内部のパラメーターが、任意のペダルのどこが最大でどこが最小化かを認識できるように設定します。これによって、可変幅の問題を解決することができるようになります。この機能を搭載した機器を使用する際は、エクスプレッション・ペダルをメーカーのインストラクションに従ってキャリブレートすることが重要です。もしペダルが交換されていたりしたら、同じモデルであっても再度キャリブレートを実行すべきでしょう。
キャリブレーション・ユーティリティは、MIDIを使う際に混乱を招くことがあります。この混乱は、通常、MIDIバリュー(値)と比較してデバイス上でキャリブレーションがどのように表示されるかに起因します。MIDIにおいては、コンティニュアス・コントローラー(CC)の動きは0-127の幅の数値で表され、通常は0が最小値もしくはオフ、127が最大値です。例えば、ボリュームCCを使用する場合は、0が無音、63が約半分のボリューム、127が最大ボリュームになります。キャリブレーション・ユーティリティは、特定のペダルの固有の特性を測定し、それを適切なMIDIバリュー、例えばペダルが最大に押し込まれた時にMIDI CC 127が送信されるように内部的にマッピングします。混乱はここで生じます。なぜならキャリブレートする際、デバイス側はマッピングされたMIDIバリューではない独自の計測尺度による数値をユーザーに表示するからです。例えば、ペダルをキャリブレートする際にデバイスが0-99を表示した場合、これはMIDIスケールでの99を意味している訳ではありません。デバイスは独自のリファレンスになる数値を表示しているのであって、これはMIDIバリューではなく、内部的に99を127にマッピングしているのです。メーカーが異なれば、0-10、0-99、0-1024といったそれぞれ異なる尺度を使用することになります。中にはMIDIと同じ0-127スケールを使用してこうした混乱を排してくれるメーカーもあります。いずれの場合でも、MIDIを使用する際は、こうした数値は適切なMIDIの範囲内にマッピングされますので、ユーザーはキャリブレーションした最大値と最小値についてあまり心配することはありません。キャリブレーションの目的は、それぞれのペダル固有の値をマッピングすることで、例えば、0-99のスケールを使用するデバイスでは、ペダルは3と96の間でキャリブレートすることもりあます。つまり、このペダル上では単に3がMIDI 0、96がMIDI 127にマッピングされることになるだけです。ペダルをキャリブレートする際に、59-69のように数値に著しく整合性がない場合は、ペダルに互換性がない、あるいは間違ったケーブルを使用しているなど、何かしら設定上の問題が考えられます。MIDI CC値を確認したい場合は、MIDIモニタリング・ソフトウェアを走らせたコンピューターをMIDIチャンネルに接続してMIDIのトラフィックをモニターすることができます。
MIDIコンフィギュレーションを使用する場合、実際に接続するMIDIデバイスと互換性のあるエクスプレッション・ペダルを使う必要がありますが、チェーンの後方にあるMIDIコントロール機器との互換は必要ではありません。例えば、A社のMIDIフロア・コントローラーを使用し、B社のデジタル・アンプとC社のエフェクト機器に順番に接続している場合、通常エクスプレッション・ペダルはMIDIコントローラーに接続するのでA社と互換性のあるペダルを使用します。アンプおよびエフェクト機器は、アナログのエクスプレッション・ペダルのボルテージではなく、デジタルのMIDIデータを受信することになります。実際にケーブルをプラグインするデバイスと互換のあるエクスプレッション・ペダルを選択しましょう。

※本ブログはMission Engineering社のウェブサイトに掲載されている内容を、許可を得て翻訳・転載したものです。

Line 6製品に対応したエクスプレッション・ペダル

Mission Engineering EP1-L6
EP1-L6

Mission Engineering SP1-L6H
SP1-L6H

Line 6 EX-1
Line 6 EX-1

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