TIPS/テクニック
鈴木健治の「ギターレコーディング・マスタークラス」 第10回
抜けのいい音
こんにちは、ギタリストの鈴木健治です。
ギターレコーディング・マスタークラス。第10回目の今回は、「抜けのいい音」と題しまして、音を抜けさせるためのアイデアを、実例交えて紹介します。
そもそも「抜けがいい音」とは?
ギターサウンドを言葉で表現する時に、抜けがいい、太い、細い、硬い、柔らかい…など、色々な言葉が使われますよね。その中で「抜けがいい」という表現をもう少しわかりやすく言うとしたら、「聞こえやすい」、「埋もれない」と言い換える事が出来るのではないでしょうか。
アンサンブルの中でも聞こえやすい音、オケの中でも埋もれない音。といったように。
もう少し突っ込んで言うと、聞こえやすい音も、埋もれない音も、ギター単体の音でなく、相対的に判断するもので、アンサンブルの中で聞こえやすかったり、オケの中で埋もれない音、すなわち「抜けがいい音」と言うことが出来るかと思います。
ギターを一人で弾いている時に、もし聞こえにくければ、音量を上げれば済みますからね。
抜ける音、耳に痛い音
「抜ける音」は「聞こえやすい音」と先ほど定義しました。
聞こえやすい音にするために、例えばイコライザーを使うなら、高音域の調整はポイントのひとつなのですが、イコライザーでいたずらに高域を強調し過ぎると、聞こえやすさを通り過ぎて、耳に痛い音になってしまう事があります。
よくキンキンして耳に痛い。なんて言いますよね。
*レコーディングしたギターソロを使って、「抜けがいい音」、「抜けが悪い音」、「耳に痛い音」をイコライザーで再現 [動画 0:43]
別の手段で単純に音量を上げるという方法もあります。
バンドでリハーサルをしている時や、レコーディングのトラックダウン中などで、自分のギターの音が聞こえにくければ、まず行うのがこの音量を上げるという手段の方は多いのではないでしょうか。
アンサンブルの中でギターの音が明らかに小さい時は、音量を上げる事で解決出来るのですが、必要以上にあげてしまうと、やはり耳に痛い音になってしまうんですね。
この場合キンキンして痛いというより、単純に「うるさい」と言うことも出来ます。
このように抜けがいい音と耳に痛い音は、近いところにあるけど、印象的には相反する関係にあるんですね。
ここは注意しておきたいポイントです。
フレージングも大事
抜けがいい音と書くと、音色ばかりに思考が寄ってしまいそうですが、実はフレージングにもかなり大きな要素があるんです。
例えば曲のアレンジ上、ある音域に音が集まっている場合は、その音域でフレーズを弾いてもあまり聞こえやすくはならないものです。
そのフレーズが繊細なタッチで表現する類のものならば、より一層聞こえにくくなるでしょう。
また、無理に聞こえさせようと雑なタッチになってしまったら、せっかくのフレーズも生きてきませんよね。
そんな時は、音のかたまりや、他の楽器があまりいない音域に避けるのがおすすめです。
実はこのかたまりを避ける方法は、個人的にわりと得意とするところでして、特に音数が多いアレンジや、歌が中心の曲では、効果を発することが出来るんです。
この方法はギターソロよりもバッキングにおいて特に有効です。
当然バッキングなのでメインの楽器やボーカルの邪魔をしてはダメなのですが、「特に目立たないけど、いなくなると寂しい」「存在感あるけど主役を潰していない」これがベストと言えるでしょう。
なかなか簡単にはいかないのですが…。
また、ボリュームペダルを使い、ポイントで音量を上げるのは簡単な事ですが、僕はあまり好まないですね。(ジャンルにもよる)
仮想にはなりますが、いくつか実例を聞いてみてください。
*フレーズの音域での聞こえ方の違い [動画 2:40]
Helixを使えばこういった微妙なニュアンスもしっかり出せるのが良いですね。
ピッキングも大事
ピッキングのニュアンスで聞こえやすくする方法は色々あるのですが、一番わかりやすいのはヘビーに歪ませたパワーコード系で使うピッキングハーモニクスと言えるでしょう。
激しく歪ませたサウンドでは、当然音量のダイナミックレンジは狭くなるので、強く弾いても音量は大きくなりません。
目立たせたいポイントや、アクセントのタイミングで、強めのピッキングハーモニクスを加える事で、聞こえやすくすることが出来るんですね。
また、ピッキングハーモニクス気味の音、倍音を少し混ぜた音も元の音程を崩さずに音を立たせることが出来ますよね。
この倍音を少し混ぜた音はなかなか使いようがありまして、埋もれ気味なパワーコードの刻みでも、聞こえやすくすることが出来るんです。単音のギターソロに厚みのようなものを加える事もできますよね。
*ヘビーなリフでアクセント有無での比較 [動画 4:36]
まとめ
今回は抜けのいい音と題して、音色やフレージング、タッチで行う手法紹介してみました。
是非色々な場面で活かして頂ければ…です。
「心地よく聞こえるけどうるさくない音」これを目指したいですね!
今回のHelixパッチもCUSTOMTONEにアップしていますので、チェックしてみてくださいね。
では。
著者プロフィール:鈴木健治(すずきけんじ)
ギタリスト、ギターサウンドデザイナー、トラックメーカー。
神奈川県出身。
10歳でギターを始める。
20歳でプロとしてのキャリアスタート。
以来、スタジオミュージシャンとして、宇多田ヒカル、MISIA、BoA、EXILE、倖田來未、SMAP、安室奈美恵、坂本真綾、ケツメイシ… 他沢山のアーティストの作品に参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代後半~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。
2018年でプロミュージシャン生活30年を迎える。
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