TIPS/テクニック
鈴木健治の「ギターレコーディング・マスタークラス」 第8回
ダブリンングの効果的なアイデア
こんにちは、ギタリストの鈴木健治です。
ギターレコーディング・マスタークラス。第8回目の今回は、ダブリングの効果的なアイデアと題して、様々なダブリングの手法やエフェクト処理など実例を交えて解説していきます。
ダブリングとは
ダブリングとは同じフレーズを2度以上重ねて録音する手法で、ダブリングする事でフレーズに厚みを付けたり、広がりを与える効果を得ることが出来ます。
基本的には同じフレーズを同じタイミングで重ねるのですが、全く同じように弾く事もあれば、ニュアンスに変化を付けたり、タイミングをずらしたり、音色を少し変えてみたり、定位を変えたり、、とダブリングにはいくつかの手法があります。
実際にいくつかのケースで紹介していきましょう。
Helix Rackのリアンプ機能を使います
音色を後から変えることが出来るリアンプは、後から音色をじっくりつめたい時にとても便利な機能と言えます。
ここではHelix RackをUSBオーディオインターフェースとしても使い、レコーディング時に処理されていないダイレクト音も同時にレコーディングして、そのダイレクト音を後からHelix Rack に戻しリアンプして音色をいじっていきます。
こう書くと難しそうと感じる方もいるかもしれませんが、Helix Rackを使えば、処理された音とダイレクト音を同時に別トラックにレコーディングして、ダイレクト音をHelix Rackでリアンプして別トラックにレコーディングするところまで、USBケーブル1本で済ませる事が出来るんです。
設定さえ済めば通常のレコーディングと同じ感覚で作業が進められますよ。
リアンプについてはこちらの記事もご覧ください。
1.LRにパンして広がりを得る
主にヘビーに歪ませたギターで使われる手法で、ダブリングの代表的な手法とも言えるでしょう。
手順としては、まず1本目のギター(1)を一つのトラックにレコーディングします。次に同じフレーズ(2)を別のトラックにレコーディングして、(1)と(2)をミキサーで左右にパンさせる事で、2本のギターが広がる効果を得る事が出来ます。
近年のメタル系のアレンジでは、ダブルで弾く事はほぼマストと言ってもいいくらい一般的な手法ですね。
音像的に「ギターの壁」なんて言う事もあります。
[動画4:55] ギター(1)
[動画5:15](1)と(2)をダブルでステレオに
同じフレーズなのになぜ広がって聞こえるのか。それは同じと言っても多くの場合わずかなタイミングのズレがあるもので、その時間的ズレから立体感のある広がりを感じることが出来るんです。
全く同じタイミングで弾いたものをLRに振っても、広がりを得る事は出来ません。
DAW上で1本目のフレーズを別トラックにコピーして、 LRにパンして再生しても広がりを感じる事は出来ないんです。
[動画6:14] コピペの音
2.音色に変化をつける
先ほどのダブリングでは、同じフレーズを同じ音色で弾いてみました。
これだけでも広がりを得ることが出来るのですが、もう少し変化を付けたい時に有効なのが、音色を少し変えてダブリングする手法です。
最初のレコーディング時に、Helix Rackから処理されていないダイレクト音も別トラックに録音されていますので、その素材をあらためてHelix Rackで音作りしてみます。
ここで言うダイレクト音とは「ギターのジャックから出た音と同じ」と言うことが出来るので、実質1から音作りが出来るんです。
ここでは1.で使った音色のダブリングチャンネルにリアンプした音を使ってみましょう。
[動画8:02] リアンプした音
[動画8:21] 1.リアンプした音でダブルにした音
このようにダブリングの広がり感はありつつも、かっちりし過ぎず、どちらかと言う少しナチュラルな効果を得ることが出来るんです。
アレンジの方向や目指す効果によって使い分けるのが良いでしょう。
また、LRのパンも100%振るのか80%くらいにするのかによっても音像が変わって来ます。
一般的に100%振るよりも少し内向きにパンさせる事が多いですね。
3.エフェクトでダブリング効果を得る
ここまでは実際に2度弾くことで、ダブリング効果を出してきましたが、エフェクトで擬似的なダブリング効果を出す事も出来るので、それを紹介してみましょう。
ショートディレイでLRにパンする
元の音に15〜30msec ほどの短いディレイをかけて、左右にパンすることで、擬似的なダブル効果を出す事ができます。
[動画10:55] ディレイでダブルに
Helixの新しいエフェクト「Double Take」を使う
Helixのファームウェア2.30で実装されたエフェクト「Double Take」を使い、1本目のギターにダブリング効果を加えてみましょう。
[動画12:33] 原音にエフェクト「Double Take」を加えたダブリング効果
単純にディレイで振った効果に比べ、ランダムに変化する要素があるため、なかなか面白いダブリング効果を得る事が出来ますね。
このディレイとピッチディチューンを上手く組み合わせたような効果はなかなか独自かつ使える効果ですね。
アコースティックギターに使っても良い効果が期待出来ますね。
レコーディング用途ならHelix Rackが使いやすいです
レコーディングではライブのようにリアルタイムでエフェクトを変えたりする事はほとんどありません。Helix Rackはオーディオインターフェースとしても優秀ですし、デスクトップやその周辺に置く事で視認性はもちろん、ボリューム操作なども足元にかがまず出来るので、これからDTMでギターレコーディングを始めたい方にはラックタイプが良いかと思います。
僕の場合はHelix RackにMission Engineering SP1-L6Hを繋く事で、ボリューム操作やワウなどのコントロールを行なっています。
まとめ
今回はダブリングについていくつかの例を紹介してみました。また今回はステレオに振るケースを紹介しましたが、モノラル定位でダブリングする事ももちろんありますし、それを実際に弾くのかエフェクトで処理するのかによって、効果は変わってくるものです。
加えて、近年の宅録〜DTMでは、PCの高性能化とCubaseなどソフトの発展もあり、かなり高品質な音源を作る事が可能になりました。
Helix RackとPCだけでかなりの事が出来ますので、是非チャレンジしてみるのはいかがでしょう。
著者プロフィール:鈴木健治(すずきけんじ)
ギタリスト、ギターサウンドデザイナー、トラックメーカー。
神奈川県出身。
10歳でギターを始める。
20歳でプロとしてのキャリアスタート。
以来、スタジオミュージシャンとして、宇多田ヒカル、MISIA、BoA、EXILE、倖田來未、SMAP、安室奈美恵、坂本真綾、ケツメイシ… 他沢山のアーティストの作品に参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代後半~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。
2018年でプロミュージシャン生活30年を迎える。
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