TIPS/テクニック

鈴木健治の「ギターレコーディング・マスタークラス」 第4回

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エレアコの音をマイク録りの音へ

こんにちは、ギタリストの鈴木健治です。
ギターレコーディング・マスタークラス、今回はアコースティックギターをレコーディングする時に使えるアイデアを紹介します。宅録環境など、ルームアコースティックが整っていない環境でも使えるアイデアになりますので是非参考になさって下さいね。

マイクで録る利点と注意点

アコースティクギターをレコーディングする時、殆どの場合高感度なコンデンサーマイクを使い、空気感も含め収録します。
マイクの種類はコンデンサータイプに限らず、狙った音によってリボンマイクやダイナミックマイクを使う事もありますが、いずれにせよマイクで音を拾うのが一般的かつリアルな音を収録する方法と言えるでしょう。

動画でも話していますが、マイクで録るのに適した環境というのがありまして、遮音や吸音が正しく施され、ルームアコースティックが録音に適した状態であるレコーディングスタジオは、その名の通りレコーディングに適した環境と言えます。そうでない一般的な住宅の部屋など、部屋鳴りや遮音などが追い込みきれていない環境で高感度なマイクで録音を行うと、様々な問題が出てきてしまうんです。

本当の静寂環境

高性能なコンデンサーマイクをマイクプリアンプやオーディオインターフェースにセットして、ヘッドホンでモニターしてみると「一般的な家庭環境等での環境音」が、想像以上に大きな音である事に気づくと思います。
空気が流れる音や窓の外の音をコンデンサーマイクはしっかり拾いますし、部屋の響きが予想以上にライブな環境であることが殆どかと思います。
本当の静寂とは以外にハードルが高いのです。

もちろんそういった事含め、ルームアコースティックが適切に処理された部屋なら良いのですが、そうするには遮音吸音含め様々な処理が適切に施されている必要があるため、サッと簡単には行かないんですね。
優れたレコーディングスタジオは機材が揃っているだけでなく、そういった環境も整っているのです。
アコースティックギターのレコーディングでスタジオのブースに入って、ヘッドホンをしてみると、スタジオがどれだけ静かか実感出来ますよ。

ラインの音

宅録時にこうした問題を避けるには、ラインで録音するという方法があります。エレアコなどで一般的に使われるピエゾタイプのピックアップは、レンジの広い音響特性やボディー振動まで拾う事もあり、アコースティックギターに適していると言えるでしょう。
しかしアコースティックギターの音はボディや弦の振動が空気を伝わり、耳に届くことでそのサウンドが決定付けられるため、ラインの音がリアルなアコースティックギターの音なのか考えると、決してそうとも言えないでしょう。

マイキングをバーチャルに再現

インパルスレスポンスデータを使った良い方法があります。
インパルスレスポンス(IR) データは、”ある場所の音響特性を時間軸での変化も含めて収録したデジタルデータ”なのですが、Line 6 Helixユーザーの皆さんなら、キャビネットシミュレートで使う事が一般的かと思います。
他にもIRデータはホールや講堂などの空間音響特性を収録し、リバーブ用途として使う事もありまして、空間特性を再現するのに適したデータと言えるのです。
* IRについての詳細はこちらをご参照

アコギのIR

IRデータは空間音響特性を収めたデータなので、例えばアコースティックギターのサウンドホール付近でのデータを収録することも出来るんですね。
エレアコからラインで出した音にそのIRデータを使うと、リアルな空間音響特性が加えられ、ラインの音とは思えないような「空間を感じる音」にすることが出来るのです。

#1 フィンガーアルペジオ

動画の2:50からは指弾きでのアルペジオパターンを再生していまして、ここではアコースティックギターのIRは使わずピエゾピックアップのライン出しの音を聞くことが出来ます。
リバーブ等を加えていますが、いわゆる「ラインの音」になっているのがお分かり頂けると思います。
これにHelix Nativeプラグインを使い、IRデータを加えたものが3:41からになります。
ラインの素っ気なく冷たい音が、マイクで拾った様な暖かみのある音に変化しているのがお分かりいただけるかと思います。もちろん使った素材は全く同じで、IRを加えた以外はエフェクト処理含め同じになります。

Helix Native プラグイン

Helix NativeとはハードのHelixをソフトウェア化したもので、機能的にはハードのHelixシリーズとほとんと同じで、プリセットの共有も出来るので、HelixユーザーでDAWを扱う方や、これからホームレコーディングにチャレンジしたい方にはオススメのソフトと言えます。

もちろんハードのHelix Floor/LT/RackでもIRデータをロードする事は出来ますし、本体に128種類のIRを保存して即座に呼び出すことも出来ます。

* 動画ではサードパーティのIRデータを使用。

#2 コードストローク

4:18からはコードストロークにIRを足さずに再生しています。やはりラインの感じは出てしまいますね。
5:02からはIRを加えて再生しています。マイクのニュアンスが足されたのがお分かりいただけるかと思います。
更に同じパターンをレコーディングして厚みと広がりを加えたものが、5:33〜になります。
又、ダブルで広げるために、2つのテイクのパンを左右に広げています。

元のテイクに比べると、マイクの雰囲気や厚み、広がりが加わりましたね。

*同じフレーズを二度弾いて重ねる事を「ダブリング」や「ダブルで重ねる」と呼びます。

まとめ

今回のギターレコーディング・マスタークラスでは、自宅環境等でアコースティックギターを収録するアイデアを紹介してみました。
IRデータを使えばこのような事も可能になるんですね。

Helixはエレキギターだけでなく、アコースティックギター向けにこのような事も出来ます。
他にもかなりの可能性がありますので、是非様々な使い方にもチャレンジしてみて下さい。

今回は以上になります。

では!


著者プロフィール:鈴木健治(すずきけんじ)
Kenji Suzuki

ギタリスト、ギターサウンドデザイナー、トラックメーカー。
神奈川県出身。
10歳でギターを始める。
20歳でプロとしてのキャリアスタート。
以来、スタジオミュージシャンとして、宇多田ヒカル、MISIA、BoA、EXILE、倖田來未、SMAP、安室奈美恵、坂本真綾、ケツメイシ… 他沢山のアーティストの作品に参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代後半~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。
2018年でプロミュージシャン生活30年を迎える。

ギタリスト鈴木健治オフィシャルサイト

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