ライブサウンド製品

Pro Audio Review誌レビュー: Line 6 StageScape M20d デジタル・ミキサー

By Strother Bullins for Pro Audio Review 11.28.2012

“Line 6独自の方法でユーザーがポータブルPAに期待するものを書き直したインテリジェントで分かりやすい個性的デジタル・ミキサー”

PAR_11_12_cover-dig私はミュージシャン向けのデザイン哲学を持ったプロ・オーディオ・カンパニーLine 6に、期待を上回る製品を期待するようになりました。90年代後半に発表された初代PODデジタル・ギター・アンプ・モデラーから、2010年のXDデジタル・ワイヤレス製品によるライブ・サウンド市場への参入まで、Line 6はプロ・オーディオ機器の伝統的なレガシーとは一線を画した製品を発表してきました。

StageScape M20dライブ・サウンド・ミキサーもLine 6による新たなイノベーションであり、従来のチャンネルストリップを搭載したミキサーとは全く異なる外観になっています。ユニークかつハイテクでセクシーなルックスで、少しのノブとボタンがあるだけで縦方向のフェーダーは皆無。Line 6 StageSourceスピーカーとペアで使用すればインテリジェントなデジタルネットワークを構築でき、タッチスクリーンベースのミキシングやサウンドチェック用ループ機能も備えたマルチチャンネル・レコーディング機能、包括的なiPadリモート・コントロール、オートセンス機能搭載のI/O、膨大なDSPパワーなど、伝統的なポータブルPAシステムでは不可能なことを実現します。

主要な機能

M20dは頑丈に作られており、MacBook Proのデザインを思わせます (外観も似ている部分があります)。Line 6らしい先進的な製品となっており、ギグを行う現代のミュージシャンに想定される問題点を解決するようデザイされ、フルカラーの7インチ・タッチスクリーンと計20のボタン&ノブにより、M20dの全ての機能を指先でコントロールできます。サイズは幅が約40cm、奥行が約33cmで、すっきりとしたデザインとレイアウトを採用しているため、コンパクトながらも十分な大きさだと言えます。

I/Oとしては、オートセンス機能付きマイク/ライン (XLR/フォーン) コンボ入力 x 12、オートセンス機能付きライン入力 (フォーン) x 4、オートセンス機能付きモニター出力 (バランスXLR) x 4、オートセンス機能付きメイン出力 (バランスXLR) x 2を装備。また、ボリューム・ノブが隣に用意されたヘッドフォン出力、モバイル機器のオーディオを入力するミニAux端子、フットスイッチ用デュアル・フォーン端子、USB PCジャック (スタンダードなDAW経由の録音/再生用)、さらにUSB 2.0ドックとSDカード・スロット (ミキサーの内部レコーディングソフト経由の録音/再生、プリセットやMP3/WAVファイルのストレージ用) が用意されています。

M20dのI/Oの中で最もユニークなのが、Line 6独自のL6 LINK端子です。AES/EBU規格の110Ωケーブルを使ってデジタル・オーディオを単一方向、コントロール情報を双方向で送れるため、StageScapeを中心としたPAシステム内でLine 6製品のコントロールが可能。現在、POD HD300やHD400、HD500ギター・マルチエフェクト・ペダルやDT50アンプなどのLine 6製品にもL6 LINKが採用されています。

M20dに入力されたオーディオ・シグナルには、シンプルな表示ながら奥深い処理の行われる多数のオプションが用意されています。ミキサーは各入力 (と出力) のタイプに応じて、例えばインプット1にはコンデンサー・マイク、インプット2にはDI経由でフォーン入力を接続された楽器、メインXLRのLアウトプットにはLine 6 StageSource L3tスピーカー (このレビューも記事に収められています) というように認識します。各入力ゲインのほか、ゲインやEQ、エフェクトやルーティング・オプションをカスタマイズ可能なチャンネル・ストリップのパラメーターを、画面下に用意されたマルチ機能のプッシュノブ・エンコーダーで設定できます。こうしたオートセンス機能をベースとするセットアップだけでも、搬入&サウンドチェックに付き物の膨大な時間と頭痛を軽減させてくれます。

画面の左側には、縦並びで5個のボタンが用意されています。Setupでは、I/Oの設定とステージアイコンギャラリーへのアクセスが行え、例えばキック・ドラムをスクリーンへアサインすることでキック・ドラムのマイク入力を表現できます。Tweakでは、インプット毎にEQやダイナミクス、エフェクトを調整可能。Recordでは、最大18チャンネルのトラッキングとメイン・ミックス出力をレコーディングする機能をセットアップできます。Monitorでは、ステージ・モニターのセンド・レベルをチャンネル毎に設定でき、Performではイベント中に誤って変更が行われないようパラメーターがロックされます。画面の右側には、上下に名前通りの機能を持ったMute MicsとMute Allのボタン、また大きなマスター・ボリューム・ポットが用意されています。

m20d-touchscreen

最初の設定を終えると、分かりやすく調整を行えるオプションを使用できます。その中でもハイライトと言えるのが、ToneのX-Y “Quick Tweak”パッドです。ウィンドウのX-Y軸上で指をドラッグするだけで複数のパラメーターを素早く調整できるフルスクリーンのGUIコントローラーになっており、例えばSetupスクリーンでキック・アイコンにタッチし、TweakをタップしてQuick Tweakの画面に入ります。画面中央にNeutral、四隅にはBoom、Snap、Scoop、Smackと表示されるので、X-Y画面上に表示される軸を、4種類の要素が最高のバランスになるようドラッグするだけです。簡単ですよね? マルチカラーの押しボタンは視覚的にも、また感触的にも素晴らしく、特にTweakモードでは役に立ちます。

“Deep Tweak”エディット・モードでは、よりディープなコントロールが行えるよう、パラメーターやエフェクトの、より“トラディショナル”なGUIが提供されます。別の表現をすれば、“Quick Tweak”でかなり近いところまで行き、“Deep Tweak”で最後の5-10%を仕上げるというように、両モードはとてもうまく機能します。ステージ・セットアップは保存/リコールにより必要なだけトータル・シーン・リコールが可能で、2系統のリバーブ、ボーカル・ダブラー、ディレイ/コーラス/フランジャーからなる計4系統のステレオ・マスター・エフェクト・エンジンも用意されています。

また、Quick CaptureとiPadコントロールの機能により、M20dユーザーはまさにプロレベルの能力を手にできます。ワンタッチで実行できるQuick Captureでは、全入力ソースから内部メモリーへ最大20秒間録音でき、それがループされるため納得するまで調整できます。しかもSDカードやUSB経由でメモリーやDAWには、20秒の制限無くショーの全曲をレコーディング可能。StageScapeは単なるライブ・ミキサーでなく、ポータブルなオールインワン・レコーディング・システムでもあるのです。対応するUSB WiFiアダプターまたはWiFiルーター (互換製品の詳細はLine 6 Webサイトで) を使ってiPadコントロールを行うことで、M20dの全パラメーターを、会場のどこからでも調整できます。このiPadコントロールは、様々なオプションを実現します。複数のiPadを接続できるため、バンド・メンバーそれぞれのiPadでモニター・ミックスをコントロールすることも可能。M20dのユーザーは必要に応じてディープな機能も活用できるのです。

このM20dを、内部ミキサーとEQ、フィードバック・サプレッション、加速度センサー (スピーカーがフロアモニター用に横方向に設置されているか、メイン・モニター・モード用に縦方向に設置されているかを検出) を装備したStageSourceスピーカーを組み合わせると、L6 LINKにより自動コンフィギュレーションやステレオ・シグナルのパン、31バンド・グラフィックEQなどが実現します。

実践編

実は、この原稿を書き上げるのにはとても苦労しました。何しろStageScape M20dは非常に分かりやすいものになっているため、そのシンプルさをうまく伝えるのが難しいのです。責任逃れをするわけではありませんが、その能力をフルに理解するには、実際に手に取って試してみるのが唯一の方法なのです。

私は箱から出して接続を行い、スクリーンをタップして作業をしながら理解できしました。マニュアルやビデオ・チュートリアル、クイックスタート・ガイドすら見ずとも30分以内に、このM20dが謳っている機能のほぼ全てを実行できるようになりました。一度慣れてしまうと、スタートアップ・メニューにあるヘルプで自分の作業のチェックさえしてみました。

とても感銘を受け、何回かのギグにも自信を持って持ち出せました。StageSource L3tメイン2本とStageSource L3sサブウーファーの組み合わせを使い、M20dで様々なライブ・イベントを手掛けました。ほぼ全ての入力が埋まったクラブでのロック・ショーでも、アコースティック・ショーにおいても、Line 6の用意した素晴しいサウンドのエフェクトを注意深くかけ、Quick Capture機能で細かくサウンドチェックをすることで素晴しい成果が得られました。地方の教会でも操作方法をボランティア達へ簡単に説明するだけで、とても快適に活用していました。どのギグでもM20dは、そのサウンドクオリティと分かりやすさ、機能において、これまで私が使ってきたポータブル・ライブ・ミキサーと少なくとも同レベル、大抵の場合はそれ以上の成果を実現してくれました。

しかもM20dのライブ・レコーディング機能は、単なる素晴しいライブ・ミキサー以上のことを実現します。現在のオーディオのニーズにおいて、この製品は多くの人にとって“唯一の”ハードウェア・ミキサーとなることが可能です。

まとめ

M20dは、デジタル・ミキサーをポータブルなPA用途へ使うことに懐疑的な人のミキシング・ライフスタイルを変えてしまうような革新的な製品です。私はエンドユーザーとして、またプロオーディオ業界の編集者として、長年に渡ってデジタル・ミキサー市場を注意深く見つめてきましたが、このM20dは、あらゆるエンドユーザーにとっての分かりやすさを実現した最初の製品だと言えると思います。

約25万円という販売価格は低価格なミキサーとは言えず、ポータブルPAユーザー向きでない部分もあります。また、ハウス・エンジニアのいない会場にも推奨しません。分かりやすい製品ではありますが、その一方で私の目には週末に演奏するバンドが演奏開始30分前に、この宇宙時代の機材を取り囲んで頭を抱える映像も浮かびます。このM20dが最適なのは、有能で先進的な考えのエンジニアや、荷物を軽くしたいギグ・バンド、様々なパフォーマーと現代的なニーズを抱えた教会やシアターです。L6 LINK装備を装備したLine 6のStageSourceパワード・スピーカーと組み合わせることで、M20dはエンジニアをミキサー同様にスマートに見せる、モジュラー・ライブ・サウンド・システムとなります。

価格: オープン・プライス (市場参考価格: 税込248,000円)

Photography by Rhon Parker; design by Walter Makarucha

Reprinted with permission from Pro Sound News.

www.prosoundnetwork.com/article/review-line-6-stagescape-m20d-digital-mixer-/15696

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