HX One開発秘話

Line 6のウェブ・プロダクション・マネージャー、アンジェラ・ハイネが、エリック・クラインとアンソニー・タリアネッティにHX One制作の裏側について話を聞きました。

アンジェラ:HX Oneの製品アイデアがどのように生まれたのか、開発の裏側について少し教えてください。

エリック・クライン:M5(2011年に発売されたストンプボックス・モデラー)は、じわじわと人気が出たダークホース的な製品でした。7、8年前にNashville界隈で人気が出始めて以降、口コミで知られるようになり、その後何年にもわたって多くのセッション・ミュージシャンらがペダルボードに組み込むようになっていきました。M9も人気が高かったのですが、M5はそのサイズ感からよりプレーヤーのニーズに刺さったのではないでしょうか。その後、新しいHXモデルやエフェクトや機能を搭載した、よりパワフルで柔軟性の高いHX Effectsを発売したのですが、M5は依然としてその慣れ親しんだ取り回しの良さから、「使い方が複雑そうなマルチエフェクトは必要ないし、1台で何でもこなせてすぐに始められるペダルがあれば事足りるよ」という声が多く、人気が衰えることはありませんでした。

Line 6に入社して初めて開発に携わったプロジェクトのひとつだったということもあり、私にとってもM5にはとても愛着があります。そこで私たちは、単にM5 に代わるものをHelix の世界に持ち込むだけでなく、そのマジックのような魅力を維持できるものにしたいと考えました。

アンジェラ:このブログの読者の多くは、ユーザーが新製品に対しどんなことを期待しているかをフィードバックをすることができる、Line 6 IdeaScaleについてよくご存知かも知れませんが、そこに寄せられた意見もいくらか開発に反映されたのでしょうか?

エリック:はい、もちろんです。M5の新モデルへ多数のリクエストがユーザーから寄せられていましたが、それ以上にアーティスト、セッション・ミュージシャン、ギター・テック、ツアー・マネージャーたちから、新モデルを熱望する声が多かったんです。一番多かったのは「僕たちはさらにコンパクトで、最新の技術でアップデートされ、Helix愛が詰め込まれたよりパワフルなM5を待ち望んでいる」という意見でした。そういった声が開発のきっかけになったのは確かですが、同時にそれは当社のプロダクト・ロードマップの目指すところにも合致していたのはごく自然なことでした。

アンジェラ: ギターのペダル・リグと言えば、ペダルボードですね。HX One は、ユーザーのペダルボードをよりパワフルで便利なものにするために開発されました。 HX Oneがそれを実際にどのように実現しているのか教えていただけますか。

アンソニー・タリアネッティ:一番の特長は多用性です。ペダルボードが自身で使いこなせる範囲を超えてしまうのを防ぎたい場合や(誰もが一度は経験したことがあるでしょう)、ある1曲だけのため専用のリング・モジュレーションやフランジャー、オクターブ・ファズを購入したくない場合には、HX Oneは最適な選択になります。HX Oneは、他のペダルの前後どちらにもルーティングすることもできます。ひとつのプリセットでポリフォニック・ピッチ・シフターを使用し、もうひとつのプリセットで広がりのあるリバーブを使用したい場合は、HX Oneを4ケーブル・メソッドでセットアップし、他のすべてのペダルをそのループ内にルーティングします。そしてプリセット毎に、HX Oneをそれらのエフェクトの前段に置くか後段に置くかを選択できます。



これは私自身にとっても最も重要な機能のひとつで、レンジがかなり広いペダルの場合でも、シグナルチェーン内のどこに配置するかについて妥協する必要がありません。HX Oneをボード内の他のどのペダルの前段、後段に配置するかは自由に選択できるのです。

アンジェラ:アンソニーは今回ペダルボードの写真を提供してくれましたね。解説をお願いします。

アンソニー:これはSchmidt Arrayのペダルボードで、上段にヒンジが備わっています。一度設定してしまえばすぐに使える手間のかからない、主に異なるタイプの歪み系とコンプ系エフェクトはすべて下段に配置し、電源ケーブルとオーディオ・ケーブルも全部それらの下に収納しています。上段には様々なディレイ、リバーブ、スペシャル・エフェクトなどを配置してあります。私は通常、VolantまたはMicrocosmでSOSループを実行し、他のエフェクトで処理して、DAWで出力をサンプリングするというワークフローを採用しています。HX Oneは主にピッチシフトの役割を果たしています。私はPolyPitchとPolySustainをよく使用するのですが、最近は新しいDynamic Reverbもいくつか使用しています。Dynamic HallとDynamic Plateリバーブは私のお気に入りのリバーブ・プラグインに匹敵するくらい良いですね。



アンジェラ:そしてエリックは、ご自身のスタジオの写真を提供してくれましたが、HX Oneはスタジオで使用されているのですか?

エリック:はい、そうです。私がメインで使用しているLine 6製品はHelix Nativeなので、思い立ったときにすぐに使えるペダルがあるのはやはり便利です。そしてそこには常にエクスプレッション・ペダルを繋げているのですが、これが非常に重要なポイントで、同じエフェクト上で2種類のセッティング間をモーフィングできるため、サウンドが単調になることはありません。ほんのわずかな変更であっても大きな違いが生まれるため、耳が離せなくなりますね。

これはDL4(ディレイ・モデラー・ペダル)の全盛期からアーティストたちがやっていたことで、エクスプレッション・ペダルのヒールとトゥのポジションで、すべてのパラメーターをまったく異なる設定にすることができます。セルフオシレーションや空間系ノイズをフル制御できるテープ・ディレイには特に有効です。DAWのオートメーション・レーンを使えば同じことを実現できるのも確かですが、それだと本物のストンプボックスやエクスプレッション・ペダルを使っているときのような楽しさや、レコーディング中のパフォーマンスにインスピレーションを得られる感覚もありません。



アンジェラ:ここまでにうかがったお話でも少し触れられてはいましたが、ペダルボードのスペース効率に関しては常に話題に上がる問題だと感じています。HX Oneはこの問題をどのように解消できるのか、具体的に教えてください。

アンソニー:おっしゃる通り、ペダルボードのスペースは常に限りがあります、、、作業できるスペースも電源の出力も限られているため、ボードに組み込まれているどのペダルもその制限内に収める必要があります。HX Oneには250種類を超えるエフェクトが搭載されていますので、ボード上に必要なペダル数を最小限に抑えることができます。

HX Oneには、Fluxと呼ばれるふたつ目のフットスイッチに、エクスプレッション・コントローラーが備わっています。多くのエフェクトはエクスプレッション・ペダルでリアルタイムに操作することで、パフォーマンスにより深みが加わり、一律に上塗りしたようなものではなく、演奏の一部として自然に溶け込ませることができます。

ほとんどのエクスプレッション・ペダルは大きくて、出力端子も少なく、すべてのエフェクトと互換性がないこともあります。HX Oneの場合は、本体に直接組み込まれているため、そういった心配もありません。使い方も非常にシンプルですし、場合によっては一般的なエクスプレッション・ペダルを足で操作するよりもパワフルな結果を得られます。HX OneはFluxの動きをテンポに同期させることができるので、たとえば4小節の中でリバーブが加わったウェットのミックスを徐々に調整するといったことが簡単にできます。



タップテンポのフットスイッチを数秒間長押しするとLEDが白色に変わり、フットスイッチが自動的に2種類のパラメーターのセット間を行き来して、そのエフェクトを使用するときにまったく異なる効果を得ることができます。

エリック:Fluxは注目すべきとても楽しい機能ですですが、もう一つ見落とされがちなのは、HX Oneのサウンドが実際どれほど素晴らしいかという点だと思います。搭載されているエフェクトの多くは、これまでにギタリストやベーシストがたった1台で何百ドルも費やしてきた高価な専用のペダルにも引けを取りませんし、場合によってはそれらを上回るものさえあります。

いろいろな意見があるでしょうが、ハードウェアに限って言えば、当社のポリフォニック・ピッチシフトが他社製品のものよりも優れているというのは我々のある種の共通認識です。ポリフォニック・アルゴリズムの種類も豊富で、さらに250種類あまりのエフェクトも搭載されているという点において、HX Oneの持つ価値がいかに規格外かお分かりいただけると思います。

少し話が逸れてしまうかもしれないのですが、私が個人的に気に入っている点は、どんなエフェクトが好みかまだよく分からない初心者の方にとって、HX Oneは学ぶための最適なプラットフォームにもなるということです。例えば、「このレコードのファズが凄く好きなんだけど、別のレコードのファズとは全然違うよね。なんでこんなに違うんだろう」とか、「フランジャーとフェイザーの違いはなに?」といった疑問を持ったり、すでに何年も演奏経験がある方でも、まだシリコンかLEDかゲルマニウムか、どのタイプの回路がより好みなのか定まっていない方もいるでしょう。HX Oneはどんなタイプのエフェクトが好みか探求するのに素晴らしいツールになるでしょう。そしていよいよもっと本格的にこの世界に飛び込んでみたいと思ったのなら、お気に入りのペダルをいくつか用意し、HX Oneと組み合わせて使用するのも良いでしょう。

アンジェラ:今まさに、250種類ものエフェクトがあると聞いて、「250種類のエフェクトなんて必要ないよ。なんでそんなに沢山のエフェクトが必要なの?」とリアクションをする人たちのことを、今ちょうど考えていたところです。

アンソニー:言うなれば、クローゼットにあらゆるタイプのギター・ペダルが揃っているということですね。特定のギター・トーンを探すのも非常に簡単です。お気に入りのバンドがとあるペダルを使用しているとして、一方で、それがあなたの技法や、使用しているギター、またはアンプともよく馴染むとは限りません。ご自身のギアや環境にも上手くハマるかは何も保証がない買い物をするはめになってしまいます。HX Oneは、特定のエフェクトがあなたのプレイ・スタイルやリグに適合するか確かめることができますので、時間とフラストレーションを軽減することもできます。

アンジェラ:今言われていたことはモデリングの話に繋がるように思います。Line 6は数十年に渡りモデリングの開発を手掛けてきましたが、今日はそれが非常にコンパクトな筐体に収まっています。ここまでにはどんな道のりがあったのでしょうか?

エリック:いくつかのエフェクトはモデリングしたものですが、すべてがそうとは限りません。ディストーションやコンプレッサーなどは、本物のペダルやラック・ギアを分解し、ありとあらゆるコンポーネントを測定し、LEGOの如く折り重なったDSP(デジタル信号処理)の壮大なツールボックスに相当するものを使用して、これらのコンポーネントとその複雑な挙動を再現しました。リバーブやディレイ、特定のモジュレーションといったタイムベースのエフェクトに関しては、他のペダルからモデリングすることは技術的に不可能です。これらはその特性を良く理解し、複雑な計算をした上でなにもないところから作り上げる必要がありました。当社のDSPチームは非常に優秀で、彼らが本当に唯一無二のサウンドを生み出してくれました。

例えば我々のチームに居るカナダ人のダン・ゴッドラビッチが、「こんな感じのエフェクトはどう?」と私たちに提案をしてくれたものが、想像力豊かなインスピレーションの源となり、最終的にGlitch DelayやRetro Reel、Shuffling Looperといったエフェクトが生まれました。「これは凄い!単体のペダルとしても十分にクールだと思うよ」という声が上がりましたからね。最終的に、同じ価格帯の他の単体のペダルと同等(またはそれ以上)のDSPを搭載していることは言うまでもなく、厳選に厳選を重ねたサウンド・デザインと愛情が詰め込まれています。しかも、それが250種類。

アンジエラ:HX Oneがリリースされた際に、イヴェット・ヤングが非常にパワフルなデモ動画を披露してくれていましたが、どのような感想を持たれましたか?

エリック:初めてあの動画を観たときは驚きましたね。すぐに皆に共有しましたよ。

アンソニー: はい、あの動画は本当に素晴らしかったです。

エリック:彼女はマルチトラックを使用していましたよね。各トラックにそれぞれ2種類のエフェクトを重ねていたと思います。特にShuffling Looperは、非常にアーティスティックでクリエイティブな使い方をされていました。彼女は何よりとても楽しそうでしたし、彼女のプレイは中毒性もありますよね。彼女の動画に触発されて、スキル面に関しては遠く及びませんが、友人のバンドの楽曲を同じような手法でリミックスしてみましたよ。

アンジェラ:最後にHX Oneについて何か付け加えておきたいことがあればお願いします。

エリック:HX Oneに搭載されているエフェクトを15~20種類ずつに分けて、それぞれを単体のペダルとして販売すれば売り上げもアップする、と考えることは簡単ですが、我々は誰一人としてそのようなやり方はしたくありませんでした。使いやすさが担保される限りは、そんな安っぽいやり方ではなく、すべてのユーザーにすべてを提供するほうが理にかなっていると思ったのです。

アンジェラ:HX Oneにご興味を持ってこの記事を読んでくださり、ありがとうございました。現在HX Oneをペダルボードに組み込んでいたり、スタジオで使用されているという方は、お気に入りの使い方を是非コメントにて共有してください。

エリック・クラインは、Yamaha Guitar Groupのチーフ・プロダクト・デザイン・アーキテクトであり、“Digital Igloo”というハンドルネームではギアマニアが集まるいくつかのフォーラムで荒らし行為も楽しんでいます。うまく頼めば、彼の2匹の愛犬、ビル&テッドとパドルズの9,000枚にも及ぶ写真を見せてくれることでしょう。

アンソニー・タリアネッティは、プロダクト・オーナーであり、Yamaha Guitar Groupの中でもストンプボックスの愛好家として知られています。太平洋岸北西部を4匹の愛犬のベラ、ボウイ、ライリー、ギズモと歩き回り、ファズやディレイ、リバーブの余韻に浸っています。



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