Helixでエクストリーム・メタルからアンビエント・サウンドまで生み出すデヴィン・タウンゼンド

無名だったデヴィン・タウンゼンドが脚光を浴びるようになったのは、この激しく野性的とも言える風貌を備えた21歳の天才が、1993年に話題となったスティーヴ・ヴァイのアルバム『Sex & Religion』でリード・シンガーに抜擢されたことがきっかけでした。その2年後にタウンゼンドがリリースした、自身のエクストリーム・メタルバンド、ストラッピング・ヤング・ラッドのアルバム『City』も高く評価され、バンドリーダーとしての地位も確立しました。彼はその後数年間に渡り、多才なギタリスト、キーボーディスト、ソングライター、シンガー、エンジニア、プロデューサーとして数多くの作品を生み出し、ヘビーメタルからプログレッシブ・ポップ、ニューエイジに至るまで、数十にも及ぶレコーディングで様々なジャンルを探求してきました。2022年にリリースされた『Lightwork』では、共同プロデューサーであるガース・リチャードソンとの緻密に積み重ねた「ウォール・オブ・サウンド」スタイルのプロダクションを通じ、一見異質とも思える要素が見事にブレンドされた、もはやお馴染みとなったタウンゼンド独特のサウンドを聴くことができます。

音楽的にもライフスタイルにおいてもエクストリーム・メタルなバックグランドを持っているにもかかわらず、バンクーバーを拠点としマルチな活躍を続けているタウンゼンドは、現在51歳となり、もう何年も前から以前の極端な食生活と飲酒をやめ、現在は菜食主義となり、毎日の瞑想を欠かしません。タウンゼントは、アンビエント・ミュージックの穏やかな流動性に深く傾倒し、熱心に聴くだけでなく、次々と楽曲を生み出していますが、近年は2021年にリリースされた『The Puzzle』や『Snuggles』といったアルバムで聴かれるような、広がりのあるサウンドを構築するためのツールとして、Helixアンプ&エフェクト・プロセッサーのパワフルなサウンド・エンジンを活用しています。

とは言え、彼は得られるすべてのものをモチベーションに変えてしまいます。「恐怖心は充分な動機になり得ます(笑)。あなたが2023年の今、音楽業界にいて、養わなければいけない子供がいたとしたら?信じてもらっていいですが、焦る気持ちは物事を成し遂げる活力になります!」と彼は言いました。

あなたへインタビューを行うにあたり、資料とすべきアルバムが膨大にあるため、準備にはかなり時間を要しました。家族をサポートすることの必要性に言及されていましたが、それはもう長年に渡ってのことのようですね。

はい、その通りです。過去15年ほどは、子供たちにできる限りのことをしてあげたいという気持ちが主なモチベーションになっていたことは事実です。一方で、それよりももっと深いレベルでの話をすると、私が書き、生み出してきた楽曲のなかでも、本当に価値があると思えるもののほとんどは、ある種の必然性から生まれたものなのです。昨夜も私は曲を書くつもりはまったくありませんでしたが、突然芽生えたアイデアが頭を離れず、その声に従うべきだと思いました。

その心理過程、つまりアイデアを完成させるよう呼びかける内なる声こそが、私にとっては最も価値あるものなのです。自分の置かれている環境は変わっていきましたが、目指すところは最初からほぼ変わっておらず、この感覚をいつ頃持ち始めたか思い返すと、6歳のときまで遡ることができます。私は常にこの特定のビジョンを磨き続け、それぞれのアルバムは、その時期における自分の人生のエッセイみたいなものなのです。言い換えるなら、“人参と鞭(飴と鞭)”のようなものです。ということは、、、私はまるでロバですね?(笑)

ロイヤル・アルバート・ホールで“Deadhead”をプレイするデヴィン・タウンゼンド・プロジェクト(2015年)

あなたのアルバムは非常に意欲的で、レイヤーが多用されており、アレンジがふんだんに施されている傾向にあると思います。このかなり複雑な素材を解明する作業をこなせるプレイヤーを、どうやって獲得しているのかと考えてしまいますが、アルバムの曲をライブで再現するのには、大変な作業が必要なのではないでしょうか。

ええ、もちろん私はとても意欲的に取り組んでいます。当然ながら、コーラスを担当してくれる人やオーケストラを常に雇う余裕はないので、結局のところ何年もかけてほとんどのこと、つまりはプロダクションから、エンジニアリング、ボーカル、キーボード、ベースに至るまで、足りない部分を自分で補う方法を習得したんです。この音楽を完璧に完成させるためにやるべきことは何でもやります。幸いなことに、現在私の周りには信頼できる固定のプレイヤー仲間がいますし、必要であれば自分だけで完結させることも十分可能です。

あなたはやりたい事に非常に明確な考えをもっていて、それに対して確実に歩調を合わせなければならない他のプレイヤーたちとの間に、多少の緊張感が生まれたりしませんか?

当然それはあり得ると思います。関わる人たちとどう接し、バンドメンバーとの関係性も円滑に保つことは重要で、社会的交流が音楽制作の過程の大部分を占めていることは事実です。自分が何を望んでいるのか明確な場合、それを貫き通すのは非常に難しい場合もあります。物心ついたときからわかっていたことですが、私にとって最善の方法は、人を傷つけないよう配慮しながらも、強い信念を持って自分のビジョンに忠実に従うことです。そのため、結局自分ですべて作業してしまうこともよくありました。威圧的な印象を与えないよう気を付けていますし、まるで自分だけが主役のように振る舞うこともしたくありません。ですが、自分が何を達成したいのかは常にはっきりしています。私は決して妥協したくないタイプなので、短い時間しか一緒に仕事をしていないうちに、これは上手くいかないだろうなと気づくこともよくあります。そうは言っても、人生と音楽というものは、本質的に人と人との繋がりについて学ぶことでもあると信じていますし、その繋がりが存在しなければ、作る楽曲に共鳴感も生まれません。

“共鳴”という言葉は、Helixで制作するサウンドについて今からお話をお伺いするのにぴったりですね。Helixを愛用されている最大の理由は、アンビエント・ミュージックの作品作りのためということでよろしいですか?

はい、その通りです。実は他のLine 6製品もかなり昔から使用しています。 まず入手したのは、1990年代当時人気の高かった豆型のPODで、その後POD XTも購入しました。 ですが、実際現場で使用するギアとしてLine 6の製品を正式に導入したのは、ツアーでワイヤレス・ユニットを使い始めたときでした。それがきっかけで、AMPLIFi 75やAMPLIFi 30といったLine 6のアンプも使用するようになりました。この10年間を振り返ると、ツアーでこれらアンプは大活躍をしてくれましたね。Firehawk FXも頻繁に使用していました。しかし2017年頃のことですが、信じられないほどクリーンなディレイが備わったループ・プリセットがHelixに搭載されていることをたまたま知ったのです。それ以降すべてのアルバムで、特に作曲する際に、そしてアンビエントなギター・サウンドを構築する際のベースとして活用しています。

サウンドのクオリティ以外で、Helixで気に入っている点があれば教えてください。

もちろんです。機材を使って編集をしようとすると、期待通りに操作が上手くいかないことが多く、そのためクリエイティブ面に集中できず、煩雑で技術的な側面に時間を取られてしまうことも少なくありません。一方Helixで作業をする場合は、特定のコントロールをこんな風に使えればと期待するたびに、それを実際に実現できるということがわかりました。ですから、Helixはやりたいことをシンプルな操作で可能にしたいという情熱を持ったミュージシャンによって開発されたものであると感じました。Helix Floorを使用しサウンドを作成する際に、自分のやり方から離れることができました。これはあらゆるコントロール・パラメーターが、開発部門よって考え抜かれたうえで、ミュージシャンにとって直感的で、使いやすさを最優先し設計されていることがわかります。それは私にとって非常に大きなインスピレーションを与えてくれました。だからこそ、Helix Floorは私のアンビエント・ギター・サウンドを生み出すメインの機材となり、今では私のクリエイティブなプロセスに不可欠な存在になったのです。

アンビエント・サウンドのレコーディングやライブで、Helixにはどのような設定をされていますか?

シーンを設定する際は、床に座ってほとんど瞑想しているようなスタイルをとっています。実は、Helix Floorを2台使用していて、ABYボックスで繋いで、その間に座ります。2台のうち、1台のHelix Floorはわずかに左にパンを振っていて、もう1台はわずかに右にパンを振っています。念のためお伝えしておきますが、どちらもフルステレオで動作させていて、それぞれすこしだけ逆方向にパンを振っているということです。1台は主にサブ的なサウンドとベース・サウンド用で、もう1台は主に浮遊感あるギター・サウンド、それから中音域と高音域のギター・シンセ・モデル用です。そして次に、広がりあるパッドとテクスチャーが自然と生まれるよう、Helixのルーパーをセットアップして、その上に即興でレイヤーを重ねていくのです。

あまり手の内を詳しく明かしたくないかもしれませんが、特定のアンビエント系プリセットに活用できるシグナル・チェーンの一例を教えていただけないでしょうか。

そうですね、分かりました。ではこのプリセットを例に解説してみますね。まずはAutoswellから始まって、次にコンプレッサー、Vintage Swellディレイ、Fenderスタイルのクリーン・アンプを配置しています。それからGrowlerとサブのシンセをトップ・チェーンに配置し、その後ろにTransistor Tape DelayとShimmerリバーブを配置しています。これらシグナルがString Theoryシンセ、その次に別のロー・シンセを経由し、ルーパーに送られます。そのあと、Digitalディレイ、Heliosphereディレイ、そして別のVintage Swellディレイが配置してあり、チェーンの最後は矩形波のモジュレーション・エフェクトがかかったトレモロになっています。トレモロはHelixのエクスプレッション・ペダルで制御し、フェードインとフェードアウトもこのペダルで行います。いくつもの層を備え、次々とその姿を変える雲のような巨大なサウンドを作るために、今述べたような様々なエフェクトを組み合わせることができるのは非常に楽しい作業です。

注意深く聞いてみると、確かに多くのディレイがスタックされていることが良く分かります。とてもクールでニュアンスに富んだサウンドですね。

私がディレイに求める効果は、鐘のように繰り返されるはっきりとしたサウンドというより、そのサスティーンの部分なのだと思います。不鮮明さにより生まれる美しさが欲しいんです。これらエフェクトをスタックさせて使用する際には、トップエンドとローエンドの周波数帯域がドライ・シグナルと相互作用を引き起こし、サウンドが濁りすぎないよう、そしてエコーのリピートが相互に作用することで、まるで鉄の壁にM &Mが投げつけられたようなサウンドにならない方法を見つけることが秘訣です(笑)。もっとわかりやすく言うと、求めているのはエコーそのものではなくパッドのようなサウンドです。そして、私の作成したHelixのプリセットのほとんどは、基本的に自分のドライなギター・サウンドはどこにも含まれていないという点をお伝えしておきたいと思います。

非常に興味深いお話をありがとうございます。とは言っても、これらサウンドの多くに、やはり確実にFenderっぽい要素を聴き取ることができるのはなぜでしょうか。

そうですね、Fenderスタイルのアンプ・モデルをディレイ・チェーンとともに使用するケースでは、通常アナログ・ディレイ、つまりはトップエンドに豊富なロールオフがあり、そこに含まれる美しいモジュレーションに長めのリバーブをかける傾向にあります。この場合、ホール・リバーブをチョイスして、デフォルトのディレイ設定の30%程度に下げて設定します。こうすることで、ほぼ同じボリュームに設定してあるディレイのリピートに「しっぽ」を加えることができます。そこから、ハイエンドとローエンドが減衰していくようなピンポン・ディレイに移行していくパターンが多いです。これによりリバーブのようなエフェクトが生まれますが、反響音の密度に伴って周波数帯域にスパイクが生じることはありません。一般的なセットアップでは、リバーブによって中低音域が強調され過ぎてしまうことがありますが、それを避けることができるのです。

“The Puzzle”(『The Puzzle』)

私個人の目に映るあなたは、ある種未来派のアーティストです。私たちの多くは、自分たちが幼いころから慣れ親しんでいるビンテージ・ギターやそのトーン、昔ながらのアプローチを美化しがちですが、あなたは未来のサウンドの世界に飛び込み、新しい試みを続けることに全く躊躇していないように思えます。ご自身は自分をどのように分析されていますか?

私にもテクノロジーに否定的な友人がいて、「まあ、ビートルズにはそんなものは必要なかった」、というのが彼の口癖です。それに対し私はいつも「いや、そうじゃないよ。彼らにはそんなものがなかっただけさ」と答えます。当時にしては非常に先進的なアイデアを持ち、それを具現化していた彼らの目の前に、もし現代のテクノロジーという選択肢が存在していたとしたら、それを活用しなかったとは到底想像できません。そんなばかげた話はありません。人々が自分の愛するギアについての美学を、かたくなに変えようとしないことは珍しいことではありませんが、それは近年の実用的なギアが役不足だからではなく、大切にしてきたギアへの思い入れが強いからです。子供のころからアンプやギターとの感情的な繋がりがあればあるほど、純粋な気持ちを持ち続けるのは当然のことです。

私にとって最も重要なことは、今得られているサウンドに本当に満足しているかどうかということです。満足できているのであれば、何も問題はありません。もし満足していないのであれば、何がどう気に入らないのかを特定し、見直しを始めてみることも可能です。ですが、間違ったことをしないようにしよう、というところから始めるのはお勧めできません。むしろ童心に帰って、とにかく音作りを楽しむことが大事です。

Helixの話に戻りますが、このギアを気に入っているのはそこが大きなポイントです。とにかく、楽しくてしかたがありません!そうは言われても、Helixがあたかも遊び道具であるかのような安っぽい褒め言葉に聞こえるかもしれません。断言しますが、これは決して遊び道具ではありません。しかし、私たちがクリエイティブなプロセスでやろうとしていることの本質は、それぞれが持つお決まりのやり方から抜け出し、自分たちの思い込みや先入観を捨て、自由であること、楽しむことを感じながらギターをプレイすることなのです。ギアを活用してプレイするからには、それをフル活用して思い切り楽しみたい、ただそれだけです。

Main photo: Will Ireland/Getty Images
Live photo: Christian Bertrand



ギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ボルペ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。



アートロックのジェダイマスター、リーヴス・ガブレルスの真の姿・・・ 実はブルース・ロッカー?

スーパー・プロデューサー、ブッチ・ヴィグがHelixで生み出すガービッジの珠玉(無償プリセット付き)

Helixを手にした“ネアンデルタール人” — ブッチ・ウォーカーの怪物的トリックの数々


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。