スーパー・プロデューサー、ブッチ・ヴィグがHelixで生み出すガービッジの珠玉(無償プリセット付き)

 

1995年、ガービッジは音楽シーンに彗星のごとく現れ、“Stupid Girl”や“I’m Only Happy When It Rains”などモダンでエッジの効いたシングルをリリースし、スコットランド出身のシンガー、シャーリー・マンソンは、そのコケティッシュな魅力と反社会的な言動で注目を集めました。しかし同バンドを生み出したのは、最も評価の高いロック・プロデューサーのひとりであり、ニルヴァーナ、スマッシング・パンプキンズ、ソニック・ユースらとの共同作業によって1990年代以降のニューサウンドを確立したブッチ・ヴィグです。デューク・エリクソンとスティーブ・マーカーという二人のギタリストを含めて制作された彼らのアルバムは、累計1700万枚以上のセールスを記録しています。


それから25年間たった現在も、ヴィグはガービッジのドラマー兼プロデューサーとして活躍し続けており、2016年発売のアルバム『Strange Little Birds』以来、約5年ぶりとなるニューアルバム『No Gods, No Masters』が間もなくリリースされます(本記事執筆現在)。同アルバムの先行トラック、“Wolves”、 “The Men Who Rule the World”では、デビュー当時から変わらないサウンドFX、個性的なマシンマン・グルーブ、そしてパンチの効いた喰いつくようなギター・トーン、鋭利なクリーン・トーンからうねるようなファズまでを聴くことができます。そしてこれらのサウンドを最終形に落とし込むのが、ヴィグが絶大な信頼を寄せ共同でプロディースを行う敏腕ミキサー/エンジニア、ビリー・ブッシュです。ガービッジは彼のRed Razor Studiosで、“Magnetized”や“Blackout”といった傑出したトラックを完成させました。


彼らは、ヴィグのホームスタジオ、設備の整ったRed Razorだけでなくツアーでも常に10数台のHelix Rackを持ち込み、本物のアンプは一切使っていません。二人にとってHelixは不可欠な存在です。Helixは、ギター・サウンド、さらにはドラム・パートやボーカル・サウンドの可能性を最大限に引き出し、さらには作業の効率化やコスト削減も実現しています。先行シングルのリリースが目前に迫り、近々かなり久しぶりのライブも予定しているタイミングで、私たちはこの二人のキーマンから話を聞くことができました。


ブッチ、本日はお時間をいただきありがとうございます。ガービッジのニューアルバム、そして5 Billion in Diamondsのプロジェクトのソングライティング/レコーディングでは、Helixが重要な役割を果たしているそうですね。


そうですね。“Grunge is Dead”と名付けたシルバーレイクのホームスタジオでは足元にいつもHelix Floorがあって、すぐに自分が使いたいプリセットを呼び出せるようになっています。プリセット1Aは“Butch Vig Fender”、1Bは“Duke AC 30”、1Cは“Steve British”。それから“BV Small Amp”、 “SuperFuzz1”、“SuperFuzz2”、“Glitch Guitar”といったプリセットもあります。最初のバンクは全てギターのプリセットで、あとは5、6種類のベースのプリセットです。最近使ったのはこれで全部です。このスタジオは元々ベッドルームだったんですが、壁を少し拡張する改築を行ったんですよ。


そのホームスタジオでアルバム全体をほぼ制作されるのですか?それとも、アイデアをある程度形にするサテライト・スタジオのような位置付けでしょうか?


スタジオはドラム・キットとピアノ、それから何台か本物のギター・アンプもあります。メインルームにMatchless DC-30も置いてあるんですが滅多に使いません。Helixのほうが電源を入れてギターを繋ぐだけですぐに作業を始められますからね。ギターの80%はビリー・ブッシュのスタジオでレコーディングされたものですが、自分で少しギターを弾いているパートもあって、それらはすべてこのホームスタジオでHelixを使ってレコーディングしたものです。先ほど述べたようなたくさんの調整済みのプリセットの中で、思い立ったときにすぐ使いたいものを呼び出せるのは便利ですね。これは私にとってとても重要なポイントなんです。昔のように、納得のいくギター・トーンを作成するために長時間費やすようなことはもうしたくありません。今は5分もあれば、すぐに求めているトーンを得られます(笑)


あなたは名だたるプロデューサーとしても活躍されていますが、他のアーティストの作品を手掛けるときもHelixは活用されているのですか?


ええ、もちろんです。去年シルバーサン・ピックアップスの最新アルバム、『Widow’s Weeds』をレコーディングした際にもHelix Floorが大いに活躍しました。まず私のホームスタジオでプリプロを行い、ブライアン・オベールはHelixだけを使ってほとんどのギター・パートをレコーディングしました。彼はHelixの分かりやすい操作性もサウンドもとても気に入っていましたし、そのおかげでインスピレーションが刺激されて生まれたパートもいくつかあります。そして最終的なトラッキングのほとんどは、ギター・アンプとストンプボックスが選び放題のビリーのスタジオで、Helixも併用して行いました。


オーバーダブの多くもこのスタジオで仕上げたんですが、そこでブライアンが使用したギター・トーンも、全て私の所有するHelixのものです。プログラムの仕方は凄く簡単なので、彼にはライブでもHelix Rackを使うことをずっと勧めているんですが、今はAxe-Fx IIIを使っていると思います。正直彼がAxe-Fx IIIのプログラムの仕方を完全に理解しているようには思えません!Helixならプリセット編集も非常に簡単にできるし、スタジオでもライブ会場でも同じプリセットを簡単に持ち運びできることも再三説明しているので、彼もそのうちHelixに落ち着くのではないでしょうか。


では、ガービッジのライブでは、Helix Rackユニットをどのように使用されているか教えてください。一般的なライブ用のドラムセットや大規模なバックラインといったものはほとんどない、かなりモダンなセットアップを採用されていると聞いていますが。


Helix Rackをライブで使用する利点のひとつはその効率性で、我々はかなり身軽でいることができます。ガービッジのツアーは、ほかのバンドと比較しても最小限の機材だけで済んでいます。巨大なセミトレーラーを用意して機材を詰め込む必要がなくなったわけです。私は、Helixファミリーに搭載されているモデリングのクオリティに、これ以上ないほど満足しています。もしブラインド・テストをしたとしても、多くの人は本物のアンプと忠実に再現されたプリセットの違いを聞き分けることはできないでしょうね。もうひとつHelixが優秀な点はダイレクト接続が可能なことで、これにはFOHエンジニアからも重宝されています。

スティーブ・マーカーとデューク・エリクソンのライブ用システム。2台のHelix Rack(うち1台はバックアップとして常時オンの状態)と、突発的なギグがあることも想定して用意されたHX Stomp。“すべてのHelix Rackに、皆が使う同じサウンドがロードされているので、どのユニットを使っても大丈夫な状態になっています。例えスティーブがデュークのプリセットを使うことは一切ないとしても、とりあえず全ユニットに同じサウンドがロードされています”とブッシュは言います。

ガービッジのニューアルバムがちょうど完成したそうですが、アルバム全体の仕上がりについて、また特にギター・サウンドでこだわった点などあれば教えてください。


このアルバムでは様々なギター・トーンをお聴きいただけますし、エレクトリック感たっぷりの仕上がりになっています。それぞれの曲が違う個性を持っていて、『Beautiful Garbage』に近い、それの変異版と言ってもよいかもしれません。全体に共通するグローバル・サウンドというものは持たせず、アルバムを通して連続性を意識してそれぞれの曲をレコーディングしていきました。このアルバムには、本当にたくさんのギター・サウンドが詰まっています。このホームスタジオでもHelixを使ってかなり多くのレコーディングをしましたし、その中にはまるでギターの音ではないようなもの多くあります。まるでシンセの音ですね。それらはHelix内だけで作ったものと、HelixからPro Toolsに取り込んでプラグインなどを使って作ったものがあります。ここではRadial DIを使っているので、Pro Toolsで編集したサウンドを外部のストンプボックスにルーティングさせたり、アウトボード・ラックに入っているギアと同じような使い方でHelixに送ったりすることもできます。実はドラム・ループにHelixのWahを使うこともあって、動きを出すために2~4小節ごとにフィルターを調節して変化させ、ある種のキャラクターを追加したりしています。


Helixには使い勝手の良いペダルが多く搭載されていますが、その中でお気に入りのものがあれば教えてください。


Helixに搭載されているストンプボックス・ペダルは好きですね。その昔、ガービッジのメンバーたちが“The Wringer”と呼んでいたペダルも入っていて、それは年代物のBOSS FZ-2 Hyper Fuzzがベースになっています。ガービッジのファーストとセカンドアルバムでは、このペダルをふんだんに使用していました。私たちの秘密兵器と言っても過言ではありません。デュークは可能な限り歪んでくれとばかりに、当時そのペダル本体に、文字通り“The Wringer”って書き記していましたからね。Helixではこのファズ・ペダルが忠実に再現されていて、凄くクールなトーンが得られます。かなりクセのあるオーバードライブで、周波数帯の異なる2種類のモードが用意されていて、ブーストがかかる帯域がかなり限られた設定になっているんです。


ミックス内に色んなギターが入り交じっているときは、それぞれのギター・トーンにあれこれトップエンドやボトムエンド、ミッドレンジを追加するよりも、各パートでキモになる周波数帯域ポイントを見つけるほうが理に適っていると思います。すでにミックス内にはたくさんの要素が混在しているので、周波数帯のポケットになる箇所を特定することが重要です。私のHelixのプリセットの多くはこのようなやり方で作成されています。例外があるとすれば、SuperFuzzのサウンドですね。かなりラウドなバッキング用のファズ・コード・サウンドです。一方、リード・タイプのサウンドはすべて、ラインかパートかにかかわらず、EQでぎりぎりのところまで狭めるようにしています。これは、音が密集したミックスにおいて空いたポケットを見つけるのに役立つのです。

ガービッジと言えば巨大なファズ・サウンドが代名詞のようなところもありますが、実際にはクリーンでコンプのかかったサウンドもたくさんありますよね。


そうですね。クリーンなサウンドで、例えば“BV Fender”というプリセットや、HelixのAC-30をベースにしたアンプ・モデルを使用する場合は、パスの一番頭にコンプレッサーを配置することが多いです。普段はRed Squeezeを使うことが多いのですが、コンプレッサーをフロントに持ってくる理由は、弦を弾いたときの鳴りとそれがコンプレッションと交わる感じを出したいからで、ゲインを得るためではなくパンチを効かせてキャラクターを出すためなのです。コンプレッションが設定できたら、次にむしろゲインを少し下げて、目立って音が大きくならないようにします。音が大きいことでサウンドがよく聴こえてしまうこともありますからね。特にクリーン・サウンドの場合は、Red Squeezeがどのノートにもまんべんなくかかっていて、ギターのアタックがしっかりと感じられるよう気を配っています。


では、これぞスーパー・プロデューサー、ブッチ・ヴィグの生み出すHelixのマンモス級リズム・サウンド、というものがあればご紹介ください。


マンモス級ですか?至ってシンプルなサウンドですが・・・ “SuperFuzz1”というプリセットがあります。前段にScream 808、アンプはAngl Meteor、それからEQ、最後はノイズゲートという構成になっています。キャビネットは4×12 XXL V30です。これでパワーのある骨太なリズム・サウンドが生まれるのです。シンプルなリフぐらいなら問題ありませんが、リードには歪み過ぎていると思います。これで速弾きしたら―私は速弾きはしませんが―たぶんフィットしないでしょうね。これは本当に重厚なコードに適しています。

レコーディングではステレオ出力を使用されていますか?それともモノ派でしょうか?


大体80%の時間はモノでレコーディングして、あとで必要なパートをダブリングして片方は左にパンして、もう片方は右にパンするようにしています。個人的には、少なくともスタジオではなるべくモノのデータを扱い、自分の好きなようにパン振りするほうが好ましい結果になります。私の場合、ステレオを扱うのはミックスの段階で追加できるディレイやリバーブといった、Pro Tools内の空間系のエフェクト・プラグインぐらいです。一方ライブの場合、デュークとスティーブはHelix Rackのモノとステレオ両方のパッチを使っています。どちらを使うかはパートや曲次第です。ディレイやリバーブのかかった派手なクリーンのパートならステレオの方がよいですが、多くの曲ではFOHエンジニアがデュークとスティーブのモノのシグナルをそれぞれ右と左にスプリットしていて、特に二人が似通ったパートを弾く場合はそうなります。


アルバム制作においてビリーの存在は大きいのはもちろんのこと、ライブ・チームでも主要メンバーの一人だと伺いました。


そうなんです、彼が責任者を務めています。基本的に彼はプロダクション・マネージャーでもありステージ・マネージャーでもあります。彼がモニターとFOHエンジニアらのディレクションを行っています。そして彼がステージ上のすべてのHelix Rackのセットアップと、ショーのためのプログラミングを一手に担っています。デュークとスティーブ二人とも自分たちでプリセットの調整はしますが、ビリーがプリセットを編集しバンクへロードして、曲中の正しいタイミングでトリガーされるよう、MIDIですべてシンクさせる調整を行っているんです。今は全曲、私がAbleton Liveを使いパッドからトリガーしてスタートするようにしています。ですから、ほとんどの曲でループやパーカッションを鳴らすためのシーケンサーを使っていて、場合によってはサブのパッドも使用しています。曲をスタートさせると、Roland TD-50ドラムセットの特定のサウンドが自動的にセットされ、Helixのユニットへコマンドが送られます。これらプログラミングはすべてビリーが行っていて、ほとんどのことは彼任せになっています。本当に凄いヤツですよ!


ヴィグが最も信頼するビリー・ブッシュ

Photo: Matt Rod

ポール・マッカートニー、カイザー・チーフス、シルバーサン・ピックアップスらのアルバム制作に携わる敏腕エンジニア/ミキサーであり、ガービッジでは長年ブッチ・ヴィグのよきスタジオ・パートナーであるビリー・ブッシュはこう語ります。「私がHelixを素晴らしいと思う理由は、本物のペダルボードでは実際には不可能な方法でサウンドやシグナルパスを作り出せるからです。例えば、リバーブの上にピッチベンドを加えたり、同じ曲の中のセクションごとにギターのチューニングを変更したりといったことが可能です。Helixならイマジネーションの赴くままに、思い通りの結果を素早く効率的に実現することができます」。


ブッシュが所有するロスのRed Razor Studiosは、Helix Floor、Helix Native、Echo Farm、Amp Farm、POD Farm、そして入念に作り込まれたマルチアウトプット・ギター・スイッチングシステムが揃っており、ギタリストにとっては夢のアイデア・ファクトリーです。ギターのシグナルチェーンは、まずAudio Kitchen The Small Trees DI、その次にLittle Labs PCP Instrument Distro 3.0(トランスフォーマーアイソレーテッド・ギター・スプリッター)に送られます(また、Small Treesからダイレクト出力がPro Toolsに送られ、あとからHelix Nativeでリアンプできるようにもなっています)。


PCP Distroからのシグナルは、ベース用にヴィンテージのAmpeg B-15やFender TV Bassman、Helix FloorからステレオDIをかませたPro Tools、Radial Splitter経由でマイキングされたMatchless JJ-30、Diezel VH4などのライブ用のアンプへの出力、Universal Audio OX Amp Top Boxでアッテネートされる2台のアンプ(Audio Kitchen Big Chopper headとMESA Dual Rectifier Maverick)、そしてPro Toolsへのダイレクト出力など、豊富に取り揃えられたアンプやペダル群にスプリットして送られるセットアップとなっています。


クリエティブな要素はまだまだあります。ブッシュはガービッジのライブでフィールド・ディレクターも務めており、ライブパフォーマンス用に8台用意されているすべてのHelix Rackのプログラミングとワイヤリングも行っています。ギター・プレイヤーのスティーブとデューク、シャーリー3人のためにそれぞれメインとバックアップ、そしてベーシストのエリック・エイブリー用にも2台です(デュークのHelixリグの写真をご参照ください)。「バックアップの予備、それから別のツアー用にセットアップしてあるものを含めると、Helix Rackは全部で12台あると思います(笑)。複雑そうに聞こえるかもしれませんが、実際はまったくそんなことはありません。分かりやすくお話しますね」。


「正しいアンプとエフェクトが各プリセット内に配置されているか、それから各曲の異なるセクションにきちんとスナップショットが構築されているか、プログラミングしている内容を事前に少し確認すれば良いだけです。実際本格的にプログラミングを行うのはHelix Nativeです。Helix NativeとHelix Rackは互換性が高く、全く同じトーンを共有できる点がとても気に入っています。メンバーたちが使う全Rackユニットには完全に同じサウンドがロードされているので、使用するユニットが入れ替わってしまっても全く問題ありません。例えスティーブがデュークのプリセットを使うことは一切ないとしても、とりあえず全ユニットに同じサウンドがロードされています。ですからプログラミングはHelix Nativeひとつあれば簡単に行うことができますし、何か変更が生じたとしても、その場でHX Editを使用して全ユニットを最新の状態にアップデートするだけで済みます」。


ブッシュが自身のやり方はごく簡単だと話しているのは、やや控えめな表現かもしれません。彼の作成するスナップショットは多くのプレーヤーが見落としがちな隠れた機能を駆使し入念に作りこまれているのです。「ひとつのプリセット内で異なるアンプやペダルに入れ替えられるスナップショットのような便利な機能に加え、エクスプレッションペダルを使って複数のエフェクトを異なる方向にコントロールしたりすることができるのが気に入っています。他の人たちがどこまで細かくこだわっているかはわかりませんが、私にとっては気持ちの瞬間移動のような感じです。例えば、1台のペダルを踏み込むだけで、ファズのゲインを少し上げると同時に、リバーブのかかりを少し下げ、さらにはフィードバックとディレイのかかり具合も少し上げられる。これら調整がペダルひと踏みでできるなんて夢のような話じゃないですか」とブッシュは語ります。


「こういったことはHelixでなければ実現できません。足が6本ある人間なんていませんからね」とブッシュは締めくくります。

Helix詳細: https://line6.jp/helix/


ナッシュビル在住のギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。