アートロックのジェダイマスター、リーヴス・ガブレルスの真の姿・・・ 実はブルース・ロッカー?

 

ギタリストのリーヴス・ガブレルスは、その巧みで複雑に入り組んだテクニックや、個性溢れるテクスチャーを用いることから、業界では“ジェダイマスター”と呼ばれることが度々あります。ゴスの祖とされるザ・キュアーの長年のメンバーであり、デヴィッド・ボウイの伝説的なバンドでも活躍、ポール・ロジャースらともセッション仲間である彼が、名ギタリストであることは間違いありません。タトゥー・アーティストである彼の義理の息子が、ルーカス・フィルム公認のスター・ウォーズのタトゥーを作成する許可を得たときに、65歳の彼が自分に施すデザインとして選んだのは、かの有名な“グレイ・ジェダイ”の紋章だったこともうなずけます。


彼はソロでのプレイをとっても、心も剣(彼の場合は、自身のシグネチャー・モデルのRG Railhammerを搭載したReverend Reeves Gabrelsシグネチャー・ギターかも知れませんが)も熟練した、ある種異なる惑星間を股に掛けるマスターのような存在と言えます。ガブレルスのジャズをベースにしたジェダイ級のテクニックは、70年代に名門バークリー音楽大学で培われましたが、基礎的な事はフィルモア・イーストのような現場で、理論より魂に宿るフォースの赴くままプレイすることを好むレスリー・ウェストやスティーヴ・マリオット、マイケル・シェンカーといったロック界の名プレーヤーから学びました。


とは言え、ガブレルスは彼のオルタード・スケールのひとつであるリディアンb7を、特にフレッシュでビビッドな音色が求められる場面では躊躇なく使います。そしてこのエイリアン・ギター・サウンドは、過去30年にわたり彼のセッション・サウンドの代名詞にもなっているのです。


私たちはニューヨーク州北部にあるガブレルスのホームスタジオ“lair”で、彼から話を聞くことができました。彼はこれまで以上にサウンドの幅を広げるべく、驚くほど様々なビンテージ・アンプ、ギター、ペダル、Line 6ギアを所有していました。オリジナルのDL4ディレイ・モデラー、M5、M9、M13マルチエフェクターから、最近のモデルであるHelix FloorとHX Stompまで、まさにサウンドのフォースです。「“グレイ・ジェダイ”についてですが、彼らはフォースは必ずしも善だとは考えてはいません。だからと言って、必ずしも悪とも考えていません。フォースはフォース。使い方次第でその善悪が決まるということです」 と彼は言います。



あなたは前衛的なロック・プレーヤーだというイメージを持たれることが多いと思いますが、実際にはあなたの同年代のミュージシャンの多くと同じように、70年代のブルース・ロックのスターたちの音楽を聴いて育ちましたよね。そこからどのような影響を受けましたか?


70年代初頭私が7~8年生のとき、スタテンアイランドで自分の周りにいた皆がレスリー・ウェストのファンでした。あれは1971年1月のことですが、嵐が近づいていたのでその日は学校から早めに帰宅したのを覚えています。その頃の夢は漫画家になることでした。私は机に向かって絵を描いていて、ラジオをつけ、当時発見したばかりの誰もが聴くことのできるFM局に合わせました。するとあの伝説的DJ、スコット・ムニが番組をやっていて、誰かが彼にグノーシス文書級の破壊力のあるものを手渡したのかと思うほどの衝撃を受けることになったのが、マウンテンの新譜『Nantucket Sleighride』のテスト・プレス盤でした。彼はカタログ番号こそ読み上げませんでしたが、全曲を流したのです。そのアルバムが、私の人生を完全に変えてしまったのです。生涯愛し続けることになったものすべてがまるでその瞬間に生まれたような感覚を覚えました。暗い嵐の日、Les Paul Junior、そしてこの“プログレッシブ・ブルースロック”と共に生きる人生、他に良い表現が見つかりません。


それは多くのプレーヤーにとって、意外な新事実と言えますね。彼らの多くはあなたのことを、ニューヨークのダウンタウンの前衛的な音楽シーンや、フュージョン寄りの影響を受けているプレーヤーとして見ているでしょうからね。


以前は、リチャード・ロイドや、ロバート・クワイン、マーク・リボーらダウンタウン連中と一括りにされる度に苛立ちを覚えていました。もちろん彼らは皆素晴らしいプレーヤーで、彼らの感性や音に共感する部分も多くありますが、一皮むけば、私のギターは指でたっぷりとビブラートをかける、ラウドでファットなロック・トーンでした。ボウイとバンドをやっていた初期の頃、私とダウンタウンの他の連中は同じ部類だと思われていたことは本当に不服でしたよ。


私の音楽のルーツは、レスリー・ウェスト、ピーター・フランプトン、オリー・ハルソール、ニール・ヤング、スティーヴン・スティルスといった、1970年代のイギリスとアメリカのロックです。マイケル・シェンカーも、自分好みのトーンを使い分けて、レスリー・ウェストを早くもっとラウドにしたようで、大好きです。最終的に行き着いた自分のトーンは、シェンカー、ミック・ロンソン、そしてレスリー・ウェストをすべて足した感じではないかと思います。1975年から2年間ニューヨーク市にあるアート・スクールに通っているときに、スタテンアイランドでカバー・バンドとして活動を始めたマリス(Malice)というロックバンドで、マウンテンやモット・ザ・フープル、ボウイ、スプーキー・トゥース、ハンブル・パイの楽曲をプレイしていました。その後ビリー・コブハムとジョージ・デュークのバンドでプレイしていたジョン・スコフィールドを見て、彼からレッスンを受けるようになりました。バークリーに行くことを勧めてくれたのもスコフィールドでした。



「君はもうロック・ギターのテクニックは全て習得しているから、次はトランペットを聴いてホーン・プレーヤーがどんなプレイをしているか、キーボード・プレーヤーがどんな風に左手を使っているかに注目してみるべきだ。君が僕に尋ね学びたいと思っていることを習得するには、バークリーに行くのが手っ取り早い。君が学びたいと思っていることを僕から教わっていたらあと20年はかかると思うけど、バークリーなら2、3年もあればそのすべてを学べるはずだよ」とスコフィールドに言われました。彼の言った通り、私はギタリスト以外のプレーヤーとどうやって意思疎通をするのかを知りたかったんですね。すべてのミュージシャンと共通言語を持ちたかったということに気が付いたのです。


あなたのプレイで特に特徴的な点を2点挙げると、ラインを弾いているとき、最後の方だけでなく、その全般におけるトレモロ・バーの使い方と、フレーズの最後に不協和音のブルーなノートをほんの少しだけ残す傾向があることが挙げられると思いますが、それは有りがちなフレーズを避けるためでしょうか。


私の感覚では、作られる音楽はその日その人がどんな日を過ごしたかで変化すべきであり、その人が生きてきた人生によって形成されるべきだと考えています。メロディーが常に最後の砦になります。なぜなら、メロディーラインには自分自身の心情を乗せているからです。“これはとても美しい”という気持ちを込めてメロディーを奏でます。かなり厚かましくない限り、身をもって知らない美しさを聴く人たちに伝えることはなかなかできないものです。私はトレモロ・バーを多用しますが、音楽がそれを必要としていない場合に使うことはありません。そういうときはバーから手を離して、メロディーが最後の砦であるということを改めて自分に言い聞かせます。


私のラインやコードの多くで見られる不協和音についてご質問いただきましたが、実はそれを解決するお気に入りのコードはメジャー7 #11で、普段そのコードは多少の歪みを加えて演奏するのが好きなんです。それは人生が、完全に解決されることが決してないのと同じようなものでしょうね。人生その時々にある程度の解決策が得られることもあれば、何とか許容して日々を送ることができる解決策が得られることもある一方、常にわずかながらの不確実性が伴うことも事実です。これは、メジャー7のコードを弾いて、その鳴りに任せ、そして最後にやさしく#11をタップするのとまったく同じことです…。それが人生というものです。


90年代にリリースされたボウイのアルバム『Earthling』などで、早くからLine 6 Amp Farmプラグインを使用されていて、Line 6やその他アンプモデラーには精通されていると思います。それにDL4はもう長年使い続けていらっしゃいますよね!スタジオやザ・キュアー、リーヴス・ガブレルス&ヒズ・イマジナリー・フレンズのライブ用のサウンドを作成するために、現在どのようなギアを使用されているのでしょうか。


驚くかもしれませんが、普段愛用しているペダルボードには未だにその当時のDL4ディレイ・モデラーとMM4モジュレーション・モデラーが組み込まれています。ザ・キュアーで使用しているボードにも、DL4 2台とM5 1台が搭載されています。M5は初期のザ・キュアーの曲を演るのに便利なんです。当時リバーブは、オーバードライブまたはオーバードライブがかかったアンプの前段に配置していましたからね。そう、それがサウンドのポイントです! (「ジェフ・シュローダーが語る ディストーションの前段にディレイやリバーブを配置するメリット」をご参照ください。)強烈なリバーブの効果が得られるんです。ですから、M5はディストーションより前段、そしてシグナルチェーンの頭の方に配置するようにしています。G2 GigRigスイッチング・システムも使用していますので、バッファーの問題も気にする必要がありません。 ザ・キュアーの最初の3、4枚のアルバム用だけで、M5には少なくとも10種類以上の設定を用意しています。



そうそう、今でもスタジオに呼ばれて行く際には、みんなに期待されている通りのクールなサウンドが得られるよう、Line 6 M13を毎回持ち込んでいます。キース・リチャーズのようなサウンドが欲しい場合には、私ではなく、それにきちんと応えられる他のギタリストを彼らはちゃんと知っていますからね。ある時点から、私は自身がスタイリストとしてよく知られていることを認めざるを得なくなりましたが、幸いなことに私はすでによく知られていたんですね!Helix Floorはまだライブ環境では使用していませんが、自宅でのレコーディングやセッションでよく使用しています。ライブで使う前に、もう少しギアのことを詳しく知る必要性を感じています。HX Stompも所有していて、こちらについてはかなり使い慣れてきましたが、それでもまだツアーで使うにはもう少し使い込む必要がありそうです。


次にサウンドとブロックについて詳しくお聞かせください。頻繁に使用しているモジュールやプリセットはありますか?


私はまず気に入ったアンプを決めて、それを中心にペダルボードを構築することが多いです。Helixもアナログの世界でセットアップするのと同じように扱っている感じです。65歳になった今でも、アナログレンズを通して世界を見ているからでしょうね。頻繁に使用するうちのひとつはBrit P-75 Nrmです。これはPark 75をベースにしたモデルで、リズム・サウンドで使うのが好きな、クランチの効いたMarshall Plexiっぽさが出せます。ライブではいつもVintage 30を使っていて、CreamBack 65とペアリングすることもあるのですが、ライブ用リグでやっていることをそのままBrit P-75 Nrmにも適用して、4×12 Blackback 30キャビネット・ブロックとペアリングしています。


もうひとつ頻繁に使用しているのは、Hiwatt Custom DR103がベースのWhoWatt 100です。私は長年ザ・キュアーで、3台のHiwatt D103と3台の4×12キャビネットを組み合わせて使用していました(笑)。これを聞いて驚かれるかもしれませんが、そもそもザ・キュアーはとてつもなくラウドなバンドなんです。ステージ上でキャビネットから出力される自分のボリュームは104db前後にも達します。リズムを弾くときのボリュームの話ですよ!ソロではさらに5db上げるので、冗談抜きで自分の服が振動しているのを肌で感じられるほどのボリュームです。


HelixにSpace Cadetというプリセットがあって、それにかなり手を加えて使用しています。このプリセットはDeluxe Compコンプレッサーから始まり、ローカット/ハイカットEQ、ルーパー、Particle Verb、Octoリバーブ、Caveリバーブという並びになっていて、テクスチャーを追加したいときにこのセッティングを多用しています。またTycoctavia Fuzzブロックもかなりのお気に入りです。思えば、Bit CrusherディストーションとOcti Synthも頻繁に使用していますね。このようにお気に入りは色々ありますが、かなり一貫して言えるのは、Line 6 オリジナルのものが一番気に入っているということに気付かされたんですよね。不思議と惹きつけられてしまうのは結局Line 6バージョンで、それには自分でも驚きました。





シェンカーやウェスト、そしてロンソンのように、あなたも中音域がブーストされたワウの半止めサウンドを作り出すのに長けていますよね。


気づけばいつも、モディファイして少し控えめになっているBoss Graphic EQペダルに戻ってしまいます。これをSIB Varidriveの前段に配置して、かなりオーバードライブをかけて歪ませて使用することが多いですね。このゲイン値は、Thru-Toneの人たちにモディファイしてもらったErnie Ball Volumeペダルで調整するようにしています。そして私のシグネチャー・モデルのReverend Guitarsに搭載されているRailhammerピックアップは、中音域の真ん中をくっきりとブーストしてくれて、しかもその帯域はかなり狭いので、グラフィックEQで簡単に引き出すことができるんです。


それから、最近使っているJHS Prestigeブースター/バッファー・ペダルや、ナッシュビルにあるThru-ToneFX製のものなど、プレイするときはほぼ毎回何かしらEQ/ブースターを使っています。半止めのワウ・サウンドには、Chicago Iron Parachuteペダルを使用しています。実はこのペダルは、Tychobrahe Parapedalを再設計した、パラメトリックベースのワウなんです。つまり、踵を下したポジションで、可聴範囲よりも低い周波数帯域を生成することができるんです。まるで嘔吐しているかのようなサウンドになるため、プレイしているときのボリュームを考えると、アリーナの後ろのほうにいる観客の中には気分が悪くなる人もいるかもしれないと心配になりますね。


子供の頃は画家になるためにロードアイランド・スクール・オブ・デザインに通っていた訳ですが、アートを学んだことが、トーン作りに影響を与えていることはありますか?


トーン作りは、漫画や絵を描くこととほとんど同じだと考えているので、それが当時の影響と言えるかも知れませんね。これはフォトリアリズムな作品になっていくのか、またはスーパーリアリズムを追求するのか、といったことが頭にあるのかもしれません。アクリルペイントで描きあげた絵を3mほど下がって見るとまるで写真のように見えますが、近づいて見ると細かいブラシのストロークがはっきりと分かりますよね。音作りに関しても同様に、異なる立ち位置での感じ方の違いは意識していると思います。


つまりは、どのように自分のテイストに磨きをかけていくのか、そして用いるテクニックをどこまで追求するのか、ということに尽きます。絵の表面にブラシのストロークが見て取れると、見る側の人たちの多くは完成していないように思うかもしれません。しかし実際にブラシを使って絵を描いたことのある人たちは、そのブラシのストロークを見たいと思うでしょう。ミュージシャンにとっても同じことが言えるのではないでしょうか。音楽であれアートであれクリエイターというのは、同時に平均的なリスナー、耳の肥えたアーティスト、そして自分以外のクリエイターの見地に立つことが要求される職業と言えるでしょう。問うべき大事なことは、“この作品でどんな人の心を掴みたいか”ということです。


Photos: Mauro Melis


Helix詳細: https://line6.jp/helix/
Mシリーズペダルボード詳細: https://line6.jp/products/m-series-pedalboards/


ギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ボルペ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。