Helixを手にした“ネアンデルタール人” — ブッチ・ウォーカーの怪物的トリックの数々

 

我々ミュージシャンが誉め言葉で使う意味において、ブッチ・ウォーカーはまったくの“怪物”という究極の称号を与えられるに相応しいでしょう。その理由はいろいろありますが、まずそうですね・・・なんと彼の足のサイズは31cmもあるんですよ。そして彼はグリーン・デイ、ピンク、ザ・ストラッツ、ウィーザー、ギャヴィン・デグロウ、トレイン、アヴリル・ラヴィーンらのアルバムのプロデューサー、エンジニア、共同作曲家を務めています。以前活動していたバンド、マーヴェラス3のフロントマン/ギタリストであり、ヘビー寄りのパワーポップ・マスターとして熱狂的なファンも多く、ブルース・スプリングスティーンを彷彿させる伝説の長丁場ライブをパワフルにこなした超人としても知られ、多くのファンから崇められています。昨年リリースされた、近年のアメリカの姿を風刺したメッセージ性の強い話題作、『American Love Story』というソロアルバムも注目を集めました。


大胆に施されたタトゥー、タフな精神力、そして広範囲にわたるスキルセットを備えたウォーカーは、今のデジタル時代におけるジミー・ペイジと言えるでしょう。彼は根っからのロックンローラーでありながら、最先端のスタジオ機材に関するノウハウ、それを最大限使いこなす高いパフォーマンス能力、並外れたギター・センスを持ち合わせています。私たちは、テネシー州フランクリンのレコーディング・スタジオで、Helix RackとHX Stompをバージョン3.0にアップデートしたばかりの彼から話を聞くことができました。この日彼は、ヴィンテージのテレキャスターをコンソールに繋いで、Helixのお気に入りのアンプ、キャビ/マイク、エフェクト・ブロック、好んで使用しているプリセット構成、そしてとてもよく練り上げられたライブ&スタジオ用のHelixのシグナルルーティング・パスを私たちに見せてくれました。また彼は、Helixのワークフロー内でギター・サウンドにごく自然な色付けを思いのままに行なえる、いくつかの便利なトリックを教えてくれました。


“Helixがあれば、やりたい事はいかようにも実現することができます。ほら、こんな具合にね。思い立ったらすぐにロックをプレイできるんです”、とウォーカーは言います。


Helixは、エフェクトを駆使したパフォーマンスのために異次元のサウンドを追求し、熱心にサウンドメイクしているプレイヤーには、間違いなく最適なギアだと言えます。ですから、あなたがHelixを愛用しているのは意外だと感じました。


僕のショーを観た人なら誰でも、ステージでの僕は完全に“ネアンデルタール人”のように保守的で旧態依然としていると言うでしょうね。そして、四六時中ペダルボードばかり気にして繊細に調整するタイプのギタリストでないことは確かです。ライブで使うペダルは、上に乗って動き回っても“あれ、少し上がりすぎちゃったかも?”なんてプレイ中に余計な心配をしなくてもいいくらい、完全防備なものであって欲しいと思っています。観客を楽しませることが最優先ですから、ライブ中はパフォーマンスに集中したい。ライブ中の大半は、片手でマイクを握っていて、もう片方ではギターを手にしています。ですから、自分のペダルボードを調整する余裕は正直ないので、スイッチを踏むだけで自分の思い通りになると100%信用できるものが不可欠になってきます。


例えば、Mission EngineeringのSP1-L6Hエクスプレッション・ペダルを使って、よくHelixのディレイのミックスを完全にドライな状態から最大でも40%前後に調整できるようにセッティングをしておきます。そうすれば、もうちょっとワイルドな感じにエコーをかけたいなと思ったときには対応できますし、やり過ぎ防止にもなります。


ウォーカーのツアー用リグ: 2台のHelix Rackプロセッサー、 Line 6 Relay G90ワイヤレス・システム、Line 6 XD-AD-8アンテナ・ディストリビューション・ユニット、 Furmanパワー・コンディショナー、そして希少なEL84搭載のMarshall 9200 Gold Dual Monoblocステレオ・パワーアンプがHelixのパッチをライブ会場全体にフルパワーで響き渡らせます。Marshallは、Celestion G12P-80スピーカーを搭載した2台のFender Deluxe 112 80W 拡張キャビネットに繋がれています。



では、このパンデミックで時が止まってしまう前に行ったツアーで使用していた、ライブ用のHelixリグについてお話を聞かせてください。


数年前にアメリカで行った最後のツアーで、僕が使用していたライブ用のHelixリグは非常に完成されていました。ある意味、90年代に使用していた大きなBradshawのスイッチング・システムと、冷蔵庫並みに巨大なラックをアップデートさせる形で、極めて論理的に考え抜かれ、可能な限りサイズダウンし、シンプルにまとめたリグだったとも言えます。今ライブでは、本当に優秀だと評価しているLine 6 Relay G90のラックマウント・ワイヤレス・システムをHelix Rackに繋ぎ、そこからはかなり長く極太なプログレードのイーサーネット・ケーブルを使って、ステージ中央のマイクスタンドがある場所に置くHelix Controlフットコントローラーに接続しています。送っているのはMIDIプロトコルだけなので、長いシグナル・ケーブルを使ったときのようなオーディオのロスも一切ないのが最高です。


HelixのXLRステレオ出力からPA卓にダイレクトに送りモニターするので、キャビネットにマイキングする必要もありません。これについては、あとでもう少し詳しくお話したいと思います。とにかく、毎晩変わらない素晴らしい、安定感のあるサウンドを得ることができました。当初は、ステージ上にはアンプも追加のフットペダルなしで、あるのはフットコントローラーとエクスプレッション・ペダル、そしてHelixのみという構成に、Greenback 25s、Vintage 30スタイルのスピーカーといったお気に入りのキャビ/スピーカーIRを適用してステレオで直接FOHに送るやり方でどこまでできるのか試験的なところもあったのですが、結果的にはそれが大成功で、最初から最後まで変わらない、素晴らしいサウンドをキープすることができました。


では、ステージ上の本物のキャビネットの話に移りたいと思います。お話した通り、前面に出るHelixのサウンドは素晴らしいのですが、ステージ上では本物のアンプで得られる空気が押し出される感覚がないのが少し物足りないと思いました。それを実現するために、僕はHelixをマルチアウトに対応したコンフィギュレーションにして、Marshall 9200ステレオ・チューブ・パワー・アンプから別のステレオ1/4” ペアケーブルを使用してステージの両サイドに1台ずつ設置された2台のFender Deluxe 112拡張キャビネットにキャビネットIRを除いたシグナルを送ることにしました。PA卓にダイレクトにIRを送ること自体には何も問題はないのですが、やはりステージではアンプの振動を背後から感じたいタイプなので、IRをFOHに送るだけでは、ウェッジ・モニターとサイドフィルを通してそのリアルな感覚を得ることはできませんでした。


僕がイヤモニを使わないのも、それが理由です。何度かツアー中に使ってみたこともあるのですが、僕の性には合いませんでした。その代わり最高級のウェッジを使うようにしています。なので、1×12キャビネットは導入したばかりなんです。もちろん1×12では、我々バンドメンバーもステージ前の観客も圧倒されるようなパワーは備わっていませんが、欲しかった空気を押し出す感覚は得られるので充分満足できました。ステレオもの、特にピンポン・ディレイやコーラスを使うときは、気分はさながらスティーヴ・ルカサーでした。そして実際に時々あったのですが、パワーアンプの電源が落ちてしまった時でも、この素晴らしいHelixのサウンドがメインから流れているので、大惨事になることもありませんでした。言うまでもなく、Helixが機能しなくなるなんてことはこれまでに一度もありません。


Helix Rackをカリフォルニアとテネシーの両スタジオで使われているとお聞きしました。


はい、その通りです。コンソールの下に12基スイッチがあるHelix Controlフットコントローラーを置いて作業をしています。Helix Rackはその他のギアと一緒に自分の背後に設置してあり、コンピューター、コンソール、そしてキーボードは目の前にあるので、即座にHelixのプリセットを選んでトラックの作成ができるようになっています。こうしておけば、お気に入りのHelixのアンプ・プリセットを4~5種類すぐに呼び出して、ギターをダイレクトに録音することができます。時には、必要に応じてモノラルのパートを録音する場合もありますが、基本的にはステレオ出力を使うようにしています。そうすれば、Helixの利点であるステレオ・エフェクトを活用できます。


カリフォルニアのスタジオでは、作業環境をよりシンプルにするために、Line 6のRelay G10トランスミッターを使っています。あのギターのジャックに挿すだけでOKな小型のやつです。それ以外は何も繋ぐ必要はありません!G10のシグナルが、1イン/5アウトのスプリッター・ボックスのインプットに送られ、それぞれのアウトプットはHelix Rack、HX Stomp経由でライブ用のアンプや、その他所有している複数のアンプへ送られるようになっています。ワイヤレスでトラックをレコーディングするのが最善とまでは言いませんが、録音ボタンを押すだけで、思い立ったら即ギター・トラックをレコーディングできるなんて、それを活用しない手はないですよね。実際のところ、現在プロデュースし制作を進めているビリー・アイドルのアルバムでは、今お話ししたようなワイヤレス環境でレコーディングしたスティーヴ・スティーヴンスによるギター・トラックを、数多く採用することになりました。多くはRelay G10を使用したテイクで、それをリアルなケーブルを使ったバージョンに差し換えたりは一切していません。正直なところ、そのサウンドが驚くほど素晴らしかったからです!「うーん、ブッチ。これはいかにもワイヤレスを使ってるってサウンドだね」なんて恐らく誰も言わないでしょう(笑)


ウォーカーのコンパクトな「オン・ザ・フライ」のライブ用ギア: Line 6 Relay G10S ワイヤレス・システム、t.c. electronic PolyTune Noir、自らが開発に携わったJHS Ruby Red Overdrive/Boostシグネチャー・ペダル、Disaster Area Designs DMC.micro MIDI コントローラーとDunlop DVP Mini ボリューム/エクスプレッション・ペダルに接続されたHX Stomp。そして全てのスイッチには、Barefoot Buttons V2 Tallboyフットスイッチ・キャップが装備されています。



あのスタジオで採用しているスプリッターを拝見してナルホド、と思いました。最新アルバムの『American Love Story』では、信じられないほど幅広いトーンが使われていました。そのいくつかは、これまで絶賛されてきた古き良き時代にレコーディングされたスタジオでのギター・プレイを彷彿させます。


ありがとうございます。あれは去年パンデミックが広がり始めた最初の月にレコーディングしました。僕が青春時代を送っていた70年代後半から80年代初期にラジオでよく聴いていた、ロック系ヒットナンバーを称えるオード(頌歌)なんです。ですから、パワフルでハイファイなドラム、大音量のギター・サウンドとソロをあえて選び、当時を思い起こさせるよう考え抜いて制作しました。あのアルバムの大半、つまり僕のリード・サウンドやクリーン、コーラスの効いたリズム・サウンド、その他の多くの要素は、Helix Rackを使用して作成されています。Helixの強みは、繋ぐだけで素早く自分のサウンドが引き出せることです。どのマイクを使うか迷ったり、マイキングに時間を費やしたりする必要がありません。今まで使ってきたサウンドがそこにあるから、電源入れれば、もうOKなんですよね。


American Love Story』で使われているリード・ギターやリズム・ギターの特定のパートが、本物のアンプなのかそれともHelixなのか聞かれると、逆に僕はからかい半分で「君はどっちだと思う?」と訊ねてみるようにしています。でも彼らはどちらなのか自信がないので、はっきり答えてはくれません。実際のところ、ギターのトーンは主観的なものです。結局どうやって最終形にたどり着いたのかは重要ではありません。作り出すサウンドが素晴らしければ、それを生み出す方法には決まったルールは存在しないということです。


では、そうした説得力のあるクラシックなアンプとエフェクトの組み合わせを作成するために、よく使用されるHelixのアンプ/キャビのモデル、それからお気に入りのエフェクトを教えてください。


はい、もちろんです。よく使用するアンプは、ブライトなセカンド・チャンネルにセッティングしているUS Deluxeです。それからDivided Duoもお気に入りで、このアンプもかなり頻繁に使用しています。これにはRed Squeezeコンプレッションを少しかけてあげると本物の真空管のようなサウンドが得られます。この前段にTeemah!を配置し、ゲインを少しだけ下げておいて、ちょっとゲインとブーストを追加したいときに使用しています。このサウンドは本当にウッディーでオーガニックなので、とても気に入っています。ちゃんとギター本来のサウンドが引き出されている感じで。ギターのボリューム・ポットを少しだけロールオフすると、クリーンさが増して、わずかに異なったキャラクターが得られます。それから、少しPlastiChorusを加えると70年代後半のプリテンダーズっぽいサウンドになります。またPlastiChorusは、Arion SCH-Zコーラス・ペダルがベースになっているので、マイケル・ランドウっぽい雰囲気が得られますよ。このDivided Duoは大好きなんですが、その元になった本物のDivided By 13 JRT 9/15もお気に入りです。音もそっくりですよね。Ping Pongディレイを使ったセットアップでは、「アリーナでサウンドチェックしている」風にするために、ミックスを20%ぐらいに設定しています。


あなたのゲインの効いたサウンドは、いつもオールドスクールで魅力的なパワーを備えていますよね。全く物足りなさを感じません。


それはどうもありがとう。あのサウンドの多くは、深く入ってパラメーターをいじくりまわしたものなんですよ。例えばDivided Duoの場合は、通常はHelixでは決められたアンプ/キャビのハイブリッド・ブロックを使っているのですが、まずはスピーカー・キャビネットを1×12からGreenback 25が搭載された2x 12のMatch G25に、そしてマイクをBeyer-Dynamic M160風の160 Ribbonに変えるところから始めました。マイクは160 Ribbonか、Royer R-121がベースの121 Ribbon、どちらかを選ぶことが多いです。Helixに搭載されているリボンマイクのモデルはどれも、少しダークで温かみもあり、トップの喰いつき感が少なめですね。


そしてサウンドにこんな感じの、かすかにディストーションにスラップがかかったようなキャラクターを出したい場合は、ヴィンテージのEchoplexがベースのTransistor Tapeをわずかに加えることが多いです。これを150ms、30~40%ウェットに調整して、ロカビリーっぽいスラップのかなりヘビーなサウンドにしたい場合は、エフェクト・ループではなくアンプの前段に置き、Echoplexで追加したゲインでアンプのサウンドが押し出されたときに何かクールなことが起きるようにしています。これはジミー・ペイジが実際にやっていたことで、彼はMarshallの前段でEchoplexにスラップがかかるようにセッティングし、Echoplexのインプット・ゲインを限界まで上げ、スラップ・ディレイがかかったオーバードライブ・ペダルのように使っていました。こういったこと全てがサウンドに違いをもたらします。Helixに搭載されているエフェクトは非常に優秀だと言うよりほかはありません。EventideやLexicon等のありとあらゆるラックを昔みたいに揃えることもできなくはありませんが、Helixが1台あればその必要もありません。何よりクールなのは、Helixを使い始めてからは、アンプを全く使わない場合も、アンプに4ケーブル・メソッドもしくはエフェクト・ループで繋ぐ場合も、パワーアンプとキャビネットだけを使う場合も、どんなときにも僕のギター・リグ内に何らかの形でHelixが入っているということです。どんなセットアップを考えたとしても、常にHelixは不可欠な存在です。Helixがあれば、やりたい事はいかようにも実現することができます。


Helix詳細: https://line6.jp/helix/


ナッシュビル在住のギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。