ジェフ・シュローダー:アンビエント・サウンドPt. 2 — シンセ・サウンドの来襲

今回、本記事を執筆したのは、エイドリアン・ブリューが1986年にリリースした実験的なアルバム『Desire Caught by the Tail』を聴いたことがきっかけでした。このアルバムはかなり以前から所有をしていたのですが、これまでによく聴いてみたことがありませんでした。私は興奮気味にレコードをかけ、一気に全曲を聴いてみました。全編インストゥルメンタルによるこのアルバムは、当時最先端だったギター・シンセサイザーを駆使した8トラックで構成されています。アルバムの裏表紙には、Roland GR-300 ギター・シンセサイザーと思わしきものが接続されたRoland JC-120アンプの上に座っている、ブリューの素晴らしい写真があります。色々調べてみた結果、彼はこのアルバムでRoland GR-700を始めとする、何種類かの異なるシンセを使用した可能性が高いようです。どの曲もブリューの典型的な作曲スタイルを感じられ、彼がシンセを使って作り出すサウンドは、私の持つポストモダンなリスニング感性に非常に心地よく響きました。ロバート・フリップとアンディ・サマーズが共作したアルバム『Bewitched』もまた、同様の方向性を持つ素晴らしいアルバムのひとつです。

1980年代初頭にギター・シンセが市場に登場したとき、ギタリストはキーボード・プレーヤーのように、決まりきった限定的なサウンドという縛りからようやく解放されると大きな期待を胸に抱きました。ギタリストでもフルートやサックス、さらにはフルオーケストラといったサウンドも奏でることができるという夢が叶えられたのです。当時の私はまだ若く、ギター雑誌を隅から隅まで読み漁り、広告もすべてチェックをするほど情報収集には相当の時間を費やしていましたので、ギター・シンセの登場を知った瞬間のことを今でもはっきりと覚えています。しかしこれらデバイスは、到底私には手の届かない高額なもので、実際に入手できるとは全く思っていませんでした。さらに当時は、MIDIピックアップがギタリストの微妙なプレイのニュアンスを捉えられるほど充分に追従できないため、シンセのサウンドもいまいちだという説が巷では一般的でした。今日に至るまで、私たちにとっては気軽に入手できる価格ではないという点は変わりませんが、サウンドのクオリティについては、音楽の好みにもよりますが、多かれ少なかれ議論の余地が生まれていると考えます。現代の視点から見ても、『Desire Caught by the Tail』と『Bewitched』いずれのギター・シンセのトーンも非常に魅力的で、いい意味で奇抜だと思います。これらアルバムで使用されていたビンテージのギター・シンセは、一般的なシンセサイザーとはまったく異なる独特なサウンドを持ちます。そしてギタリストがキーボーディストとは異なる方法でコードシェイプやトーンの連なりをプレイすることも相まって、ギター・シンセは音楽の世界で独自の領域を築いていると言えるでしょう。

Line 6のギアを20年近く使用してきましたので、こういったビンテージのギター・シンセ・サウンドのいくつかが、HelixのPitch/Synthモデルのレガシー・セクションに用意されていることは把握していました。かなり種類が多く、いずれも非常に優れていますが、今回私が作成したプリセットではAttack SynthモデルとSynth Stringモデルを使用しています。Attack Synthは、1979 年に発売されたKorg X-911 をベースにしていますが、これはMIDI ピックアップを必要としていませんでした。Synth Stringは、1984 年後半にローランドが発売した GR-700 をベースにしています。GR-700 は、シンセエンジンと組み合わせられた非常に未来的な外観のギターという点でも注目に値します。時間をかけてこれら 2台のシンセについてググってみることをお勧めします。きっととても楽しめますよ。 Helix のモデルにあるものはこれらのユニットが持つ機能とはかけ離れていますが、その面影の一部は残っています。さらに、Helix にある他のすべてのエフェクトを使用すると、シンセ・モデルのコア・サウンドを操作したりリシェイプしたりして、独自の本当に素晴らしいアンビエント・テクスチャを作成することが実に簡単になるのです。

Preset 1 A

Preset 1はAttack Synthモデルを使用しています。シンセ・モデルを音楽アプリケーション内に馴染ませるために必要なことをわかりやすく示すために、シグナル・チェーンのスクリーンショットも用意しました。上段を見ると、シンセ・モデルの前後にコンプレッサーがあることがわかります。これはギターが非常にダイナミックな楽器であり、弦を弾いて発音の瞬間に強いトランジェントが生じるためです。シンセ・モデルは、前段のコンプレッサーから発せられるラウドでありながら均一なシグナルが送られたときにその効果が最も発揮されます。Attack Synthの後段のコンプレッサーは、シンセ・モデルの出力を均一にし、レベルが手に負えない状態になるのを防ぎます。ふたつ目のコンプレッサーの後段には、サウンドを補正する役割を担う10 Band GraphicイコライザーとモノラルのSimple Pitchピッチ・シフターを配置しました。

Preset 1 B

Attack Synthのパラメーターを見ると、そこでもシンセのピッチを変更できることがわかります。Simple Pitchのブロックを追加した理由は、Attack Synthそのもののピッチを変更するとサウンドもある程度変化し、それが必ずしも望ましい挙動であるとは限らなかったためです。いずれにしろ、ピッチを調整する際には両方の方法を試してみてください。そして下段に配置されているChorus、Elephant Manディレイ、そしてGanymedeとShimmerリバーブはすべてステレオになっています。

ギターのフロント・ピックアップを使用すると、シンセのトラックがより良くなるという人もいれば、リア・ピックアップの方がより適しているという人もいます。今回用意したプリセットを作成する際に使用した1974年製のYamaha SG-90の場合は、どちらのピックアップでもほぼ同じ精度で動作することがわかりました。皆さんもご自身が使用されているギターでは、どちらがより高い精度で動作するか試してみることをお勧めします。そしてギター・シンセは、一般的なプレイ・スタイルとは少し異なるアプローチが要求される、独自の領域のなかでプレイしているという思考を持つことが重要です。慣れるまでに少し時間はかかるかもしれませんが、シンセがピックのアタックやハンマーオン、プルオフなどにどのように反応するかを理解してしまえば、それら反応が実際にはかなり一貫性があることがわかり、シンセのサウンドとテクスチャーでプレイする際に有効なテクニックを確立していくことができるはずです。最後に注意すべき点は、これらのシンセ・ブロックはすべてモノフォニックであるということです。つまり単音のみを鳴らすことができ、コードを鳴らすことはできません。

Example 1

Example 1では、Preset 1で使用したサウンドを採用しています。これは非常に風変わりで、ブリューのスタイルに倣ったサウンドになっています。これらサウンドにはモジュレーションがたっぷり加えられているため、モジュレーションが多すぎると感じた場合は、プリセットで簡単に元に戻すことができます。このExample 1のベースラインはスナップショット 1を使用しており、その上に重ねられているメロディーはスナップショット 4を使用しています。いつものようにこれらプリセットは、皆さんがオリジナルのサウンドを模索される際の、あくまで参考用にすぎません。

Preset 2 A
Preset 2 B

Preset 2は、Preset 1と同じようなシグナル・フローを活用しており、機能の仕方も似ています。下段のすべてのステレオ・エフェクトを異なるブロックに入れ替えましたが、必要に応じて他のエフェクトを追加するのに充分なスペースがまだあります。

Example 2

ではExample 2を聴いてみてください。シンセがモノフォニックであることへの対策として、ここでは主メロディーをトリプルトラックにしました。この例の中央には、アタックが遅めのギター・シンセのパートが追加されています。このパートを用いてメロディーを作る際には、プレイするテンポに応じてアタックタイムを調整する必要があります。ゆっくりとしたテンポで、メロディアスなプレイに最適ですが、より速めなラインにも有効です。

Preset 3 A
Preset 3 B

Preset 3は、最初のふたつのプリセットとはまったく異なる方向性に基づいています。このプリセットでは、アンビエントとよりロック寄りの曲の両方で使用できるセットやサウンドを作成したかったのです。上段はRevv Redアンプ・モデルを使用した、定番のギター・パスです。下段は、Preset 2と同じSynth Stringブロックを使用するための完全に独立したシグナルパスです。シンセはボリューム・ペダルで調整を行い、下段は好きなだけミックスすることができます。上段の要素はすべてモノラルで、下段はすべてステレオです。シンセを追加すると、より大きく広がりのあるサウンドが得られます。

Example 3

Example 3は、プリセットに含まれる3種類の異なるスナップショットを切り替えながらプレイした、ちょっとしたEリディアンの即興演奏です。頭は完全にドライな状態で始まり、次に短いディレイが追加され、最後には長めのディレイと多めのリバーブが核となるサウンドに追加されます。即興で演奏している間に、これら 3種類のサウンドすべてを切り替え使用しました。

今回ご紹介したプリセットは、Helixに搭載されているシンセ・サウンドの可能性を探るための足掛かりにすぎません。私自身ももっと時間をかけて、より多くのサウンドやプリセットを考え出すことを楽しみにしています。この記事をきっかけに皆さんにも色々お試しいただき、自分なりのプレイ・スタイルやクリエティビティを刺激する、新たなサウンドを作り出せることを願っています。

Main Photo: Travis Shinn

ジェフ・シュローダーは、ロサンジェルスを中心にギタリストおよびプロデューサーとして活躍するミュージシャンです。主にスマッシング・パンプキンズ、ナイト・ドリーマー、ザ・ラッシー・ファウンデーションのメンバーとしてプレイしています。



ジェフ・シュローダー:アンビエント・サウンド Pt. 1 — “フリッパートロニクス”

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ジェフ・シュローダーが語る ディストーションの前段にディレイやリバーブを配置するメリット(無償プリセット付き)

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ジェフ・シュローダーが語る 音から得るインスピレーションとHelixマルチモジュレーション・プリセット(無償ダウンロード)

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