ジェフ・シュローダーが語る ディストーションの前段にディレイやリバーブを配置するメリット(無償プリセット付き)

 

2021年も終わりに近づいていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今年はこのModel Citizensに寄稿することができ大変嬉しく思っていますし、今後も引き続き貢献できればと考えています。プレーヤー、ソフトウェア開発者、記事の編集に関わる方々などを含め、Helixやその他Line 6製品を取り巻くコミュニティは自分にとっても特別な存在であり、その素晴らしいグループの一員でいられることは名誉であり光栄なことです。


今回は、深くディストーションのかかったサウンド(ペダルもしくはアンプ・モデルによって)に、ディレイとリバーブをかけた場合どうなるか着目したいと思います。ペダルの並び順を決める過程は、探求心とともに新たな発見をするための主観的なプロセスであり、またそうであるべきだと考えます。とは言ったものの、ある程度一般的とされる並び順が存在するものも確かです。モジュレーションやピッチ・シフター、ディレイ、リバーブといったエフェクトは、ディストーションがかかったトーンの後に配置することがほとんどですよね。自分もそのひとりですが、その常識にとらわれず実験的なエフェクト・チェーンを試すと思いもよらない素晴らしい結果が得られることもあります。


最近、以前在籍していたノイズポップ・バンド、ラッシー・ファウンデーションのメンバーと、何枚かのアルバムをヴァイナルでリイシューするクラウドファンディングをプロモーションするために昔の曲を何曲かプレイしたのですが、それが、当時自分がどのような順番でエフェクトを並べていたかを改めて見直すきっかけとなりました。



私たちはギタリストのブラッド・レナーと彼のバンド、メディスンを崇拝していました。もし彼らをご存じない場合は、是非チェックしてみてください。本記事のテーマをより理解しやすくなると思います。レナーは、ある種“異次元のファズ”とも言えるサウンドを生み出すために使用した、非常に型破りなギター・リグを所有しており、それはディストーション・ペダルとして機能する、全ての入力レベルを最大値に設定した4トラック・レコーダーを中心に構成されていました。一方で彼は全てのディレイとリバーブを4トラックの前段に配置することで、美しくかつ複雑で完全に超越したサウンドを作り出していたのです。ラッシー・ファウンデーションは彼に倣い、私たちもすべてのエフェクトをディストーション・ペダルの前段に配置していました。


ラッシー・ファウンデーションのもうひとりのギタリスト、エリック・カンプサーノと私は、昔のギター・サウンドを再現するためにペダルの代わりにHelixを使うことにしました。その結果、ふたりともHelixのほうが昔使用していたリグよりはるかに良いサウンドを得られるという結論に達したのです。この20年で世界は大きく様変わりしましたよね。


本記事のテーマであるシューゲイザー・スタイルのサウンド作りについて具体的に解説する前に、ひと昔前に用いられていたテクニックについて少しだけ触れておきたいと思います。エフェクト・ループやBradshawのスイッチング・システムのようなデバイスが登場する以前は、Echoplexテープ・ディレイのような機器はアンプの前段にダイレクトに繋ぐ方法しか実際のところありませんでした。つまりアンプの音を歪ませたい場合は、同時にディレイ音も歪ませるしか選択肢がなかったのです。


もちろんデヴィッド・ギルモアのようなギタリストは、クリーン・サウンドのアンプと定番のペダルの並び順で美しいトーンを作り出していましたが、テープ・スタイルのディレイを歪ませたアンプの前段に配置すると、本当にクールなサウンドが得られ、近年はそれを好むギタリストが多いことも事実です。ビリー・コーガンもそのひとりで、アンプの音がクリーンか歪ませているかにかかわらず、彼は使用しているエフェクトをすべてその前段にダイレクトに繋いで使用しています。


Example 1

Example 1では、ヴァン・ヘイレンの“Ain’t Talkin’‘Bout Love”のコードで、このタイプのセットアップがどのようなサウンドになるか弾いてみました。ヴァン・ヘイレンのレコーディングをよく聴いてみると、エディがリフをプレイしたときにリピートするエコーをはっきり聴きとれると思います。これがサウンドに絶対的なテクスチャーを付与していて、一度聴いてしまうと、このエフェクトがかかっていないリフなんて想像もできなくなります。この「Old School」というプリセットのペダルの並び順を見ると、基本的に一般的なペダルボードのセットアップと同じで、かなり歪みがかかったモディファイ版のPlexiタイプのアンプを再現したPlacater Dirtyの前段に、すべてのエフェクトを配置しています。但し、サウンドにスイートさを持たせるアンビエンスを追加するため、プレート・リバーブをチェーンの最後に持ってきました。こういったセットアップでは、特にアンプ前段のフェイザーとフランジャーがどのようなサウンドになるかを楽しんでいます。スマッシング・パンプキンズのライブでも、フェイザーとフランジャーとも歪ませたサウンドと一緒に使うときは、ほとんどの場合このようなシグナルチェーンを採用しています。



Example 2

Example 2はキッスっぽいリフで少し遊んだあとに、このようなシグナルチェーンの場合、Echoplexタイプのディレイ・サウンドがどのようになるかリックを弾いてみました。弾いている間はディレイは抑え気味になりますが、音が鳴りやむと少し大きくなるのにお気づきでしょうか。プリセット「Old School」をダウンロードして、アンプの前段に配置したフェイザーやフランジャー、コーラスを違うモデルに変えてみて、どのようにサウンドが変化するか、またどのような効果が得られるか、いろいろ試してみてください。


Example 3

Example 3は、間もなくリリースされるラッシー・ファウンデーションのアルバム、『Cave Sessions』に収録されている“Crown of the Sea”という曲です。先ほど述べたように、アルバムのレコーディングに使用するプリセットを準備する際に、以前自分たちが歪みのかかったサウンドの前段でディレイやリバーブ(およびその他のエフェクト)を実行するテクニックを使用していたことを思い出し、インスピレーションを得ることができました。この曲は、特に今回のテーマである手法が活かされている1曲です。プリセット「Crown of the Sea」は、この曲が実際にレコーディングされたときとは異なる、歪ませたHiwattスタイルのアンプを中心としたシグナルチェーンを新たに構築しました。Helixに搭載されているWhoWatt 100というモデルは、普段自分がMarshallの中から選びがちなものとはかなりディストーションのキャラクターが異なります。このシグナルチェーン内で、最初に配置したディレイからのリピートが非常にクリアであるのが、このモデルを気に入っている理由です。ディストーションの持つ勢いとクリアなエフェクトが両立するトーンが欲しいときに最適です。


またこのプリセットでは、ワウ・ペダルの前にディストーション・ペダルを配置している点にご注目ください。こうすることで、ワウのスウィープとトーンがより強調され、少し予測しづらいサウンドになります。Example 2のプリセットとは異なり、ここではステレオ・コーラスをアンプの後ろに配置して、コクトー・ツインズを思わせるより広がりのある心地よいサウンドになりました。プリセット「Crown of the Sea」もダウンロードいただけます。



Example 4

Example 4は、最近作成したプリセットを使用したデモ曲からの抜粋です。プリセット「Destruction」で気に入っているポイントは、これほどたっぷり歪ませたことによりディレイのリピートがもたらす力強さが生まれている点です。戻ってくるサウンドにコンスタントにリアクションしたくなりますね。Example 3と4では、ディストーションの前段でモノラルのディレイとリバーブを配置し、サウンドに深さと奥行きを与えるために、アンプの後ろにステレオ・エフェクトを加えています。Helixの下段左のフットスイッチにオクターブが上がるピッチ・シフターをモメンタリーで設定しているのですが、このエフェクトをチェーンに追加する場合、その配置する位置によって効果がまったく異なります。しばらくは2番目のディストーションの後ろにしていて、それによって発生する結果を楽しんでいました。ピッチ・シフターの入力がすべてのディストーションとディレイの影響を受けてトラッキングが正確ではなくなるのが、とても面白いと感じていたいのです。しばらくしてピッチ・シフターのトーンが少しクリアすぎると思うようになり、シグナルチェーン内の2番目のディストーションの前に位置を変更しました。このようにディストーションの前にするか後ろにするかで違いが出ますので、2番目のディストーションの後ろに変えたりして違いを確かめてみてください。このプリセットには多くの要素が盛り込まれており、4つのスナップショットにもそれぞれ異なるサウンドのコンビネーションが格納されていて、何種類かの違いを模索できるようになっています。


今回ご提供したプリセットは、私が所有するギターを使って自身の用途のために作成されていますので、あくまでご自分のプリセット作成の足掛かりとしてのみご使用ください。そしてご使用のギターの出力に合うよう、EQとゲインを調整することをお忘れなく。次回の記事もお楽しみに。


ジェフ・シュローダーは、ロサンジェルスを中心に、スマッシング・パンプキンズとナイト・ドリーマーのギタリストとして活躍するミュージシャンです。ギターの他には、コーヒーと20世紀の実験文学が大好物です。


Helix詳細


Main Image: Travis Shinn


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。