Not Guitar: ポール・ハンソンとテオ・トラビス - Line 6 エフェクトをアートに取り入れる木管楽器奏者たち

 

今回の“Not Guitar”シリーズに登場するのは、二名の木管楽器の名プレーヤーです。


テオ・トラビスは、独創的なフルート及びテナー/ソプラノ・サックス奏者です。彼はロバート・フリップやスティーヴン・ウィルソン、ポーキュパイン・ツリー、デヴィッド・シルヴィアン、ゴング、デヴィッド・ギルモアといったジャズ/フュージョン、プログレッシブ・ロック、アンビエントなど様々なアーティスト達と共演してきました。現在はソフト・マシーン、トラビス&フリップのメンバーとしての活動に加え、自身のバンドのフロントマンも務めており、これまでに10枚以上のソロアルバムをリリースしています。そしてこれまでに手掛けた楽曲のほとんどに共通し用いられているのが、彼が所有するDL4ディレイ・モデラーで、主にループを作成する際に使用しています。M9 Stompboxモデラーも所有しており、最近ではHelix及びHXサウンドの世界にも足を踏み入れました。


ポール・ハンソンは、自らを“ジャズ/フュージョン・バスーンプレーヤー”と呼んでいますが、熟練したテナーサックス奏者でもあります。彼はベラ・フレックやザ・フレックトーンズ、ビリー・ヒギンス、ビリー・コブハム、ランディ・ブレッカー、ウェイン・ショーター、ジョナス・ヘルボルグ、ピーター・アースキンといった名だたるジャズ・アーティスト達とのパフォーマンスやレコーディング経験があるほか、様々なプログレッシブ・ロック・バンドとも共演し、自らの名義でも6枚のアルバムをリリースしています。幼少期はジミ・ヘンドリックスに憧れ、クラシックの世界でバスーンを基礎からしっかりと学んだ彼は、楽器の中にマイクを設置し、それを真空管のオープンリール式テープレコーダーに繋いで録音を試みたところ、驚くほど大きくて圧倒されるサウンドを得られたそうです。ここ最近では、これまでにない新たなバスーン・サウンドとエフェクトを、Helix LTプロセッサーを使用し創り出しています。


お二人とも、エフェクトを巧みにご自分の音楽制作に取り入れていらっしゃいますが、なぜそのような試みをされているのでしょうか?


ポール:まず一つには、単にソリスト、またはホーン・セクションのパートを担うのとは異なり、エフェクトを使用することでこれまでとは違った音楽的な役割を演じることができるからです。ベースラインや、そこに複数のハーモニーを加えたり、リバーブやディレイといったエフェクトを使用してアンビエントなテクスチャーを得たり、ループを使用してパートをレイヤーさせたりといったことが可能になるので、プレイする音楽のスタイルの幅を広げることができます。例えばロック・バンドとコラボするときは、多くの場合ドラマーはクリック・トラックに合わせてプレイしていますので、私もそれにディレイなどタイムベースのエフェクトをソング・テンポに同期させます。こうすることで、単一の役割で参加するというより、本当の意味でバンドの一つのパートを担当する感覚を得ることができるのです。私の演奏する楽器は4オクターブ近いレンジをカバーでき、それぞれのパートが異なるキャラクターを持つことからも、本来は非常にテクスチャーが強い楽器であり、エフェクト処理を施すには打ってつけと言えます。


テオ:楽器の担う役割については、ポールに同感です。例えば、ループはテナーとソプラノ・サックスでも使いますが、フルートとアルトフルートで頻繁に使っています。フルートのサウンドはたいてい他のどの音よりも高く、その分音の抜けも他の楽器より良いので、その時々で思いつくままに音のキャンバスを広げ、その上にサウンドを乗せていくことができます。シンセのプレーヤーになったような感じですが、フルートのサウンドは素晴らしく、アルトフルートをレイヤーさせると、ちょっとメロトロンのような音が得られるんです。1オクターブ下、さらには2オクターブ下をレイヤーさせるエフェクトを時々使用するのですが、そうするとアルトフルートの音がオルガンのベースペダルのドローンに似たサウンドになり、長いサスティーンのテクスチャーを伴った、ハーモニーの中の低音の役割を果たします。管楽器は吹くのを止めれば当然音は鳴らなくなりますが、ループさせてしまえばそんな常識も覆すことができます。そのように音を塗り重ねて素晴らしいサウンドを創りながら、吹くのを止めている間も響かせ続けることができるのです。



お二人ともDL4 ディレイ・モデラーを長年使われているそうですが、どうして使われるようになったのですか?


テオ:その時のことは鮮明に覚えています。2枚目のアルバムをレコーディングしているとき、フルートには古いBossのエコー・ペダルを使用していました。気に入ってはいましたが、ディレイの長さが固定されていて、ある程度のところでストップしてしまう基本的なディレイしか作り出すことができませんでした。その頃私の友人、ジョン・エサリッジ(ソフト・マシーンのギタリスト)がDL4を所有していて、試しに使わせてくれたんです。フルートでも上手く機能することが分かり、一瞬で気に入ってしまいました。それから1週間も経たないうちに、自分でDL4を購入しました。それから間もなく、ギグに出演するギャラをもらう代わりにバーターでいい感じのスタジオを1日借りたのですが、そのとき私がセッションのために持参したのはアルトフルートとDL4だけでした。5時間かけてかなりの数のトラックをダイレクトにステレオでレコーディングしたのですが、とても満足のいく結果を得られました。『Slow Life』(2003)というアルバムも、完全にフルート1本とDL4だけを使用し制作しましたが、色々なアイデアやフレーバーが盛り込まれています。


ポール:私は最初の1台を入手したのは20年ほど前ですが、そのときの状況ははっきり覚えていません。まず気に入ったのはその素晴らしいサウンドでした。特にTube Echoモデルでワウフラッターのコントロールができるのがお気に入りで、調整次第で非常にリアルなテープ・エコーのサウンドを得られます。でも、他のどのモデルのとてもオーガニックなサウンドですよね、デジタル・ディレイ・モデルでさえも。それから、もちろんルーパーはとてもシンプルで使いやすかったです。


テオ:サウンドについても、ポールと同意見です。良質なミキサーや大型スピーカーが揃っているような大規模スタジオで、ルーパーを通してフルートをレコーディングした経験は何度もあって、たいていのエンジニアは、DL4をAuxバスに繋いでピュアなフルートのサウンドと処理されたサウンドを別々にレコーディングしようと言います。ですが、結局は、オーディオのクオリティが素晴らしいため、ダイレクトなシグナルの方は使わずに、DL4でプロセスしたサウンドを採用することのほうが多かったですね。「これがオリジナルのフルート、これがループさせたサウンド」、というのではなく、「ここに2本のフルート、ここに4本のフルートのサウンド」が実際に存在する、という感じです。サウンドのソースであるフルートの音と、ループさせた音を聞き分けることは恐らくできないと思いますよ。ちなみに、現在DL4は3台所有していて、一度に複数台使用することも頻繁にあります。


Slow Life』が評価され、ソロのフルート/ルーピング・パフォーマンスの依頼でイタリアに招待されたのですが、それをきっかけにポーキュパイン・ツリーのオープニングアクトを務めることになり、さらにはロバート・プラントがヘッドライナーで出演する大型アウトドアフェスにも参加することになりました。そのときから、30~40分にわたるルーピング・セットが、たちまち自分のスタイルのひとつになったんです。それから徐々に、ありとあらゆるものにルーピングのテクニックを取り入れるようになりました。何をやってもうまく行くし、ルーピングが楽しくてしかたないですね。特にロバート・フリップと仕事をするときは、ライブ・パフォーマンスでもレコーディングでもループは多用しました。



ポール、Helixでバスーン用のプリセットを作成する際に、ギタリストならやらないであろう手法はありますか?


ポール:一番は、滅多にスピーカー・キャビのブロックやIRを使わないことでしょうね。理由は、できるだけ生のサウンドをPAまたはレコーディング・コンソールに送りたいからです。とても良いサウンドになるので、まれに4×12 GreenbackキャビをMarshallのアンプと組み合させて使うこともありますが、かなりのレアケースです。その他に異なる点と言えば、グローバルEQの設定でしょうか。時々Horn FX IntraMicという楽器の内部にフィットさせる非常にクールなデバイスを使うのですが、それにはいくつかの異なるEQのボイシングが入っています。ですから、作りたいサウンドを補完するためにHelix LTのグローバルEQを調節するようにしています。


その他普段使用するエフェクトは、ディレイ、リバーブ、オーバードライブ、ディストーション、ピッチ・シフターですが、これらはギタリストの方たちと使い方はほぼ同じだと思います。ただし、自分の楽器に合わせて調整をするわけですから、そこはギタリストの場合とかなり異なるでしょうね。当然、プリセット内でのどのようにエフェクトを組み合わせるかもかなり違ってきます。


テオにもポールと同じ質問をしたいのですが、あなたが使用しているM9の場合はいかがでしょうか?


テオ:私の場合は、オーバードライブとディストーションは全く使用しません。フルートとサックスでは使用することがあると聞いたことはあります。特にサックスには有効なようですが、個人的には使うことはありません。また、リバーブもなるべく使わないようにしています。FOH側に高価なリバーブが用意されていることがほとんどなので、よほど特定の洞窟のような響きがほしい場合を除き、エンジニアたちに任せるようにしています。それ以外のエフェクトはギタリストと同様に使っていますが、自分の楽器に見合ったやり方にプログラムしています。例えば、フィルターが本当に気に入っていて、エクスプレッション・ペダルで調整して昔ながらのワウ・ペダルのようなサウンドが得られますが、フルートに合ったボイシングになります。モジュレーション・エフェクト、特にトレモロはよく使いますし、リング・モジュレーターも面白いサウンドが得られますよ。


ジョン・ハッセルのファンとしては、4度下とかのハーモニーをパラレルで加えられるピッチ・シフターもお気に入りです。そこにディレイを追加したりします。M9では、搭載されている多種多様なエフェクトの中から選択して、“Hold For Looper“ボタンを踏んだままループを録音し、ルーパーを抜けて、それから次のループをレイヤーする前に別のエフェクトを変更する、ということができるのが素晴らしいですね。また、同時にDL4を使って音やM9からのループをプロセスしたり、ループさせたりすることもあります。同時に2台のルーパーを使用すれば、エクスプレッション・ペダルでルーパー・レベルをコントロールし、二つのループを個別にフェードイン/アウトさせたり、それぞれのループをクロスフェードさせたりすることができますからね。



今後ルーピングを取り入れてみたいという方に、最も伝えたいことはなんでしょうか?


テオ:これまでに素晴らしいミュージシャンらが、静的なループをソロにレイヤーさせパフォーマンスをしているのを何度か拝見しましたが、その度に、この5分後10分後の展開は予想できるし、ずっと同じループを繰り返し聴くことになるだけで、それでは面白みに欠けると感じました。ループを用いる場合は、次に何が起こるか分からない流動性を持たせることが大事です。ビル・フリゼールのルーピングの天才です。Model Citizensの記事、「ビル・フリゼール — ルーパーとその使い方」でも、そのテクニックについて詳しく語っていましたよね。20年も昔に見た彼のソロは衝撃的でした。いったいどこから始まっているのか、ループの頭と終わりがどこなのか全く分かりませんでした。そしてそのサウンドは非常にオーガニックで立体感がありました。プレーヤーがそうした刺激的で、即興性、自発性のあるパフォーマンスを提供すれば、オーディエンスを魅了することができるのです。


ポール:チェロ奏者のゾーイ・キーティングは非常に面白いループ使いで、作曲のあり方を変えるアーティストとして注目を集めています。そしてこれは当たり前のことのように思えるかもしれませんが、ドラマーや他のミュージシャンとパフォーマンスするときは特にそうですが、タイミングを正しく取り、ループを綺麗にスタートさせ、終わらせる方法を見つけることが不可欠です。ループをレコーディングしている途中でしくじって、合わせて演奏するのに必死になったり、ループをストップしてレコーディングし直すはめになったりするのは避けたいですからね。


先ほど使われているとお話いただいたエフェクトの使い方で、今までで最も奇抜だと思われるのはどんなことでしょうか?


ポール:私がループを使用して、ステージでバスーンを演奏するのを見たことがある人にとっては、その試みやサウンドがすでに十分風変わりだと思いますので、今以上にやりすぎにならないよう気を配っています(笑)。とは言ったものの、実際にバスーンを吹くことなくバルブを指で叩いてパーカッション・ループを作成するのをやってみようと考えています。低音のバルブを叩くか高音のバルブを叩くかで、違った音が得られます。そして少しオーバードライブかディストーションをかけてボリュームをアップさせ、クランチーなパーカッションのアタック音を作ってみようと思っています。聴いた人は、いったい何の音?と不思議に思うことは間違いないでしょうね。


テオ:実は私は『ツイン・ピークス』の大ファンで、デイヴィッド・リンチの影響なのですが、ショーの最後に時々やっていることがあるんですよ。“Thank you, good night”というセリフをループしリバースさせて、その一文を逆さまに言う方法をマスターしたんですが、その声をルーパーに録音して逆再生すると、その一文を普通に言っている状態になるはずが、かなり奇妙な感じに聞こえるんです。まるで(ツイン・ピークスに登場する)レッドルームで踊っている男が逆さ読みしているのを、オーディエンスに語りかけているような。これを人前で披露するのはとても楽しいのですが、気でも触れてしまったと思われたくありませんので、あまり頻繁にはやらないようにしています。


Photo of Theo Travis courtesy of Geoff Dennison Photography
Photo of Paul Hanson courtesy of Stephen Jacobson Photography


バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。