ビル・フリゼール — ルーパーとその使い方

ビル・フリゼールは、40年以上にわたって世界をリードするギタリストの1人です。彼の膨大なディスコグラフィーには、歴史に残るジャズの楽曲が数多く含まれています。これまでにコラボレーションしたジャンルも数知れません。


一般的にはジャズ・ギタリストとして知られているフリゼールですが、実はその他のジャンルにおいても類まれなる音楽センスを持ち合わせています。ジャズはもちろんのこと、ブルースからフォーク、ロック、R&B、カントリーまで高い表現力を持ち、それら多ジャンルが彼のスタイルにうまく融合されています。


ルーピングは常にフリゼールのパフォーマンスにとって不可欠でした。音楽キャリア初期に多用していた、あの名高いElectro-Harmonix 16-Second Delayを見事に使いこなし、ここ20年はループとディレイ・エフェクトにはLine 6 DL4ディレイ・モデラーを使用しています。


年を追うごとに進化していった彼のルーピングのテクニック、そしてルーピングがどれほど彼の音楽にとって大事であるか、ご本人にお話をうかがいました。

Photo Monica Jane Frisell

あなたはご自身のキャリア初期において、Electro-Harmonix 16-Second Digital Delayを多くの楽曲に使用していて、このルーパーの代名詞的な存在としても広く知られています。その前は何か違うデバイスを使っていたのでしょうか?
私が初めて使ったディレイは確かカセットに録音するタイプのUnivoxテープ・エコーで、貧乏なミュージシャン向けのRoland Space Echoみたいなものでした。それがダメになってしまったので、次に手に入れたのはUFOみたいな形をしたBossのDM-1ディレイ・マシン・ペダルで、そのあとは巨大なラックマウント型のヤマハのアナログ・ディレイも使いました。でも、どれもルーピングができるものではありませんでした。


16-Second Delayにめぐり合ったきっかけは何だったのでしょうか?
生前親しかったロバート・クワインと私は、よくクレイジーなジャム・セッションをしていました。16-Second Delayが最初に発売された時に彼がそれを購入して私に見せてくれたんですが、試しに使わせてもらって即虜になってしまいました。とにかく夢中になりましたよ。自分のそれまでの人生、ずっとその登場を待ち焦がれていたような感覚に陥りました。


何がそんなに特別だったのでしょう?
ひとつには、何か録音した後、ループ再生の速度を変更する方法が2つあったことです。一方のコントロールは、再生スピードを徐々に変更し、ピッチを少しずつ上げたり下げたりすることができました。もう一方のコントロールは、まるで異なる間隔を空けた複数のテープヘッドがあるかのようにスピードを変更でき、1から2、2から4、4から8といったぐあいに、ある種数値ベースで細分化してスピードをコントロールすることができました。このコントロール機能により、本当に面白いエフェクトを生み出すことができました。


録音したループのスピードとピッチを変更してから、その録音にディレイを追加したり、元のピッチで何かオーバーダブしてそれをループさせ、スピードを変更したり、逆再生したりすることで変化をつけていくと、無限にループすることができました。すべて同時に起こっているまったく異なるサウンドの数々を、すべてレイヤーさせることができるわけです。予想していたこととかけ離れたことが起きたりする、この種のランダムなサプライズ要素には中毒性があると思います。


そのようなランダム性に魅了される理由はなんでしょうか?
私にとって音楽とは常に、自分が理解できるものとできないものや、自分がすでに知っているものと未知のものとの狭間にある部分を大事にすることです。どんなことが起こるか見当もつかないゾーンに入るという、リスクを受け入れたときに、最もインスピレーションを得られます。例えば8歳の少年が何かを初めて発見したときに、「凄い!これって最高!」って興奮をおぼえるのと同じで、私もそんな新たな発見が大好きで、ランダム性はそういった発見を可能にしてくれます。昔は、サウンドを構成しメロディーを作るといった、作曲ツールとして使っていました。ギター用のツールという位置づけではなく、ペダルが徐々にひとつの楽器としての存在に変わっていきました。


同時に、ちゃんと注意を払っていないと、大失敗してしまうようなケースが存在することも確かです。例えば、リジェネレーションが危険値を自動的に超えないよう調節していないと、アンプを破損させてしまう危険性があります。

私にとって音楽とは常に、自分が理解できるものとできないものとの狭間にある部分を大事にすることです

では、なぜ使うのやめてしまったのですか?
答えは単純で、動かなくなってしまったからです。その後新しいものを購入しましたが、それもまた故障してしまいました。かなり高額になり始めたときは、まだ販売しているものを見つけることはできたんですが。以前ボストンにある楽器店に行った時は、1台100ドルのセールで大量に山積みされていたんですが、なぜそのとき全在庫を買占めしなかったのか、それが人生最大の後悔のひとつです(笑)。


その後、私はDigiTech 8-Second Delayペダルを購入して長い間使っていましたが、16-Second Delayでできていた多くのことができず、かなり妥協しなければなりませんでした。逆再生の機能もないですし、ピッチ・コントロールも安定感がなく、動かすとどのノートが出るかまるで分かりませんでした。それに、あのペダルはもの凄くノイズも多かったんです。DL4を手に入れたあとも使い続けてはいましたが、動かなくなってしまってからは、DL4が私のメインのディレイ&ルーピング・ペダルになりました。


20年もの間DL4を使い続けているのはなぜですか?
他のペダルも試したことはあるんですが、結局DL4に戻ってしまいます。使い慣れているのも理由ですが、とにかく直感的に操作できるので、何も考えずに使うことができるからです。16-Second Delayと比較すると、DL4にまったく不満がないとは言いきれませんが、逆に16-Second Delayではできなかったこともいくつかあります。


DL4を具体的にどのように使っているか教えてください。
3種類のプリセットを保存できるんですが、他にも違うディレイが数多く搭載されているのは分かっていても、その3種類だけで事足りることがほとんどです。


プリセットのうちの一つ目は、Lo Resディレイを使ったベーシックなディレイで、トーンに太さを出したいときに使っています。二つ目のプリセットはReverseディレイを使っていて、何か逆再生させるときはいつもこれを使います。三つ目のプリセットは、Reverseディレイから始めてディレイのタイムをできるだけ速くすると得られる、リング・モジュレーション・タイプのエフェクトです。一般的にリング・モジュレーションはピッチを変更できますが、これはピッチが一定というのが普通と違う点です。それ以外は一般的なものとさほど変わりません。

Photo: Monica Jane Frisell

また時々、プリセットを選択してから、プレイ中にディレイ・タイムやリジェネレーションなどを手で調節することもあります。ルーピングさせている最中でも、他のノブを使ってベーシックなディレイをかけられますし、演奏しながらループにちょっと風変わりなサウンドを追加することができます。こんなことができるなんてクールでしょう?フットスイッチは足元だけど、でもノブは手元にあって、演奏中かがまず調節ができたらどんなに楽だろうって思います。
ルーパーを使って、特に自分がソロでプレイするときによくするのは、どのコードにも含まれる複数のノート、またはノート単体を使ったりしながら、曲全体を通して使えるシンプルなリズム、またはメロディーのパターンを見つけて、それに合わせて弾くことです。


DL4を使ってランダム性やサプライズの要素は得られますか?
はい。特定のリズムなどではなく、ランダムなノートやサウンドをループにキャプチャーして、これらノートやサウンドのピッチを1オクターブ下げたり、録音するときにディレイが1/2スピードになっていれば、1オクターブ上げます。ループを逆再生したり、ピッチを変えてから逆再生したりもします。インスピレーションを得られるような、テクスチャーを持つサウンドを作るために、こういった使い方をします。ループを最初はオフにしておき、曲の後半でオンにすると、そのループをとてもミステリアスに曲の中に融合させることができます。


これだけ長年使っていても、いまだにDL4の新たな使い方を発見することがあります。一緒にプレイしたことがあるメアリー・ハルヴァーソンもDL4を愛用しています。彼女は大抵エクスプレッション・ペダルと一緒に使っているんですが、私が今まで試したこともないような面白い使い方を知っています。初めて彼女がパフォーマンスするのを見たとき、DL4を使っているとはまったく気づかないくらい独創的な使い方をしていましたよ。

DL4製品情報: https://line6.jp/products/stompbox-modelers/dl4.html

Main photo: Monica Jane Frisell

バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。