メアリー・ハルヴァーソンのDL4タイムワープ術

 

ニューヨークのジャズ・シーンで認められることは簡単ではありません。伝説的な多楽器奏者であり、作曲家でもあるアンソニー・ブラクストンは、メアリー・ハルヴァーソンがまだ在学中に自分らしい音楽の表現方法を見つけるようアドバイスしました。その後彼女は彼のバンドのメンバーとなり、ジョン・ゾーン、ビル・フリゼール、ジョン・ディートリックら多数の著名ミュージシャン達と共演してきました。またハルヴァーソンは、いくつかのジャズや前衛的な合奏団、そしてアートポップバンド Code Girlを率いています。彼女は、2019年に音楽分野で別名「天才賞」としても知られるマッカーサー・フェローの一人にも選出されました。


ハルヴァーソンの音楽のスタイルを特徴づけている重要な要素のひとつは、20年以上前から使っているDL4 ディレイ・モデラーを巧みに取り入れていることです。このペダルを使い、バラエティに富んだ素晴らしいサウンドを生み出し、そのルーピング機能もふんだんに活用していますが、彼女はまだまだフル活用できていないと感じています。「ライブをするとほぼ毎回、何を使っているのか尋ねられるのでDL4を使っていると答えると、皆さん一様に驚かれます。なぜなら、彼らのほとんどが同じDL4を所有しているからです。恐らくこのペダルの機能をフル活用できていないし、実は私自身もその一人だと思います。まだ私もその本当の実力や可能性の多くに気付けていないと感じています」。


ここからは、彼女がどのようにDL4を使用しているかについて聞いてみました。

メアリー・ハルヴァーソンとビル・フリゼール Photo: Ziga Koritnik

DL4とはどのように出会ったのでしょうか?
初めてDL4を手に入れたのは2000年か2001年のことです。ミュージック・スクールに1年在籍していたのですが、その時は本当にギターが苦手でした。ギターを楽しいと思えないスランプに陥ってしまい、何かギターにまつわる楽しいことはないだろうかと考えた時に、エフェクト・ペダルを使ってみようと思い立ちました。なぜDL4を選んだのかはっきり覚えていないのですが、とにかくディレイ・ペダルが欲しかったということと、周りのギタリストが皆DL4を使っていた影響もあったと思います。


使い始めていろいろ試すうちに、他の人がしていないような使い方も含め、どんどん新しいアイディアが浮かびました。DL4を使っているギタリストは多くいますが、似たようなサウンドを聴くことはほとんどないですし、自分自身もこれまでに満足のいく新しいサウンドをたくさん作ることができました。例えば私が普段よくやっている使い方のひとつですが、フレーズの途中でエクスプレッション・ペダルを使って、ハンズフリーで音を操作しています。


新しい手法は、このペダルを使ってイメージ通りの特定のサウンドを作る過程において発見するのでしょうか?それとも、ペダルが持つ新たな機能に気付き、そこから新しい手法を発見するのでしょうか?
ペダルの持つ機能によって新しい手法を思いつくことのほうが多いです。初めてDL4を手に入れたとき、最初の興味津々な時期につまみを回してあれこれ試しているうちに気に入ったサウンドを見つけたのを覚えています。あの経験を機に、自分がよく普段使っているプリセットを作ることができましたし、エクスプレッション・ペダルを使うきっかけにもなりました。過去に何度かペダルが動かなくなってしまってリセットしなければならなかったため、お気に入りのプリセットが消えてしまい、しかも何年も前にプログラムしたので設定もはっきり覚えておらず、記憶を頼りに改めてプリセットを作り直さなければなりませんでした。その作り直す過程で、前のものよりもっと好みのサウンドを作れたこともありますし、少なくとも以前とは少し異なるサウンドを見つけることができました。今はもう設定を書き留めるようにしているので、そういったことが起こることはありませんけどね。


どうやってあの独特のピッチモジュレーション・エフェクトを作っているんですか?
私はエクスプレッション・ペダルを使ってディレイ・タイムを変更しています。ディレイ・タイムをゼロからショート・ディレイに設定していて、プレイしている最中に値を変更することであのピッチシフトされたサウンドを得ています。また、大元のシグナルが流れていない状態でディレイ・タイムを比較的短くしてプレイすると、最初に聴こえるのは私のギターの生のサウンドで、数秒後にアンプを通した音が聴こえ、アンプを通していない音と通している音の間である種のスラップバック・エフェクトを作り出すことができるのですが、この手法も好んでよく使っています。私は常にアコースティック・サウンドとアンプを通したサウンドの両方をレコーディングするようにしていますので、この手法はレコーディング時にも非常に有効です。

DL4でお気に入りのモデルは何ですか?
最も頻繁に使っているのは、Tape EchoとTube Echoです。Tape Echoはピッチシフトされたサウンドのために使っていて、より速く長めのディレイにはPing Pong を、そして風変わりなカスタムのループものにはStereo Delaysを使っています。 それとReverseもかなりのお気に入りです。


そのカスタムの風変わりなループものについて詳しく聞かせてください。
本来のルーパー機能は最近ほとんど使っていません。追加的なループ、または一種のエンドレスなディレイと同じような扱いで、非常に長めのディレイを効かせたプリセットをプログラムして使用しています。このループを延々繰り返しつつ、エクスプレッション・ペダルを使ってループに何か他の要素をレイヤーさせたりすることで、変化をつける手法です。


そう言えば、実はつい最近もこのプリセットでとてもクールで変わった使い方をしてみたんです。デュオのトランペット・プレーヤーの演奏をレコーディングしたときに、そのトランペットのサウンドを私のギター・サウンドと一緒にDL4にルーティングさせて、それを複合ループにして操作しました。


DL4と一緒に使っているのはどのエクスプレッション・ペダルでしょうか?またそのペダルを採用した理由についても教えてください。
私はMission EngineeringのEP1-L6を使っています。このペダルはメタル製で非常に頑丈なんですが、エクスプレッション・ペダルを使う頻度がかなり高いので、堅牢さは重要なポイントです。それと抵抗がちょうどよいところも気に入っています。そのおかげで、ほんの少し動かすだけで本当に細かな変化を付けられるんです。


あなたのサウンドにとって不可欠なDL4とエクスプレッション・ペダルを使用した、変幻自在のピッチ・ベンドをプレイに取り入れるテクニックは、どのようにして思いついたのですか?
この効果を発見したのは単なる偶然でした。初めてDL4を手に入れてあれこれ試しているときに、たまたま弾きながらDelay Timeのノブを回してみたら、とても面白いサウンドになったんです。それを何度も繰り返し試して、徐々に自分のサウンドに取り入れるようになり、エクスプレッション・ペダルでディレイ・タイムをコントロールするようになりました。私は、他の人たちがトリルや、スライド、ハンマリングするのと同じで、このテクニックは音のアクセント、または装飾のようなものだと思っています。ワーミーバーを使うのに似ていて、音に少しだけ特別な要素を追加することができます。

エクスプレッション・ペダルを使用する以外に、プレイ中にDL4を手でコントロールすることはありますか?
ループさせているものがあって、それをフェードさせたいときに屈んで手で調節することもときどきあります。でもその時以外は常にハンズフリーの状態でプレイしています。


エクスプレッション・ペダルをディレイ・タイム以外にアサインして使うこともありますか?
はい、ディレイ・サウンドを徐々に追加したり消したりする場合に使うこともあります。


DL4と組み合わせて使っている他のペダルはありますか?
他にメインで使用しているのは、Dunlop Volume X Pedalです。これはダイナミクスをコントロールしたり、マニュアルでカスタムのトレモロ・エフェクトを追加するとき、そして自分のギターのアコースティック・サウンドとアンプを通した音のバランスを調整するときに頻繁に使用しています。またMooerのミニ・ペダルもいくつか愛用しています。RATディストーションのコピーであるBlack Secretと、ハイ、ロー両方のオクターバー・エフェクター、Tender Octaver MkII、あとはPrinceton ReverbのようなFenderの古いアンプのトレモロの再現性が高いTrelicopterも所有しています。ライブに出かけるとき、メタル製のボリュームとエクスプレッション・ペダルの他に持ち運びできるものは限られているので、ミニ・ペダルはとても重宝しています。


他のDL4ユーザーに何かアドバイスはありますか?
もしまだエクスプレッション・ペダルを持っていない場合は、購入されることをお勧めします。手足でノブを調整する必要がなく、手足が同時にフリーになると可能性が大きく広がります。そして可能性という点においてですが、DL4は単なるディレイ・ペダルではありません。徹底的にその本当の実力を見出せるまで使い倒してみてください。そしてエクスプレッション・ペダルに投資をしたら、DL4のあらゆる設定を数日かけて試してみてください。これまでにDL4を使って生み出してきたもの以上に面白く魅力的なサウンドを必ず見つけられると思います。

DL4ディレイ・モデラー詳細

Mission Engineering EP1-L6詳細

バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。