ドクター・モリー・ミラー:4人の輝く現代の女性ギタリスト

 

昨年私は“Women’s History Month(女性史月間)”に寄稿し、メンフィス・ミニー、メイベル・カーター、シスター・ロゼッタ・サープを始めとする女性ギタリストのパイオニア達にスポットライトを当てました。彼女らはイノベーターであり、ギターの発展とそれぞれのジャンルの進化において、歴史上大きな役割を果たしました。そして彼女達みなが活躍していたのは、20世紀前半のことでした。


女性であると同時に、今日のギター・コミュニティの不可欠なメンバーでもある彼女達は、独自のテクニックとサウンドで新たな限界に挑み続けています。そして最も重要なことは、ミニー、メイベル、ロゼッタと同様に、彼女達は私達の心を動かしているのです。今回はそんな私が敬愛する4人の女性ギタリストをご紹介します。


アリアナ・パウエル


生まれも育ちもペンシルベニア州のアリアナ・パウエルのギターのタッチは、まるで魔法のようです。私が最初に彼女を知ったのは、有名なアーティストをサポートする輝かしいポップ・ギタリストとしてでしたが、そのときの彼女のギター・プレイに釘付けになりました。簡潔に言うと、彼女は速弾きが優れています。オリヴィア・ロドリゴやブラック・アイド・ピーズとステージを共にし、強烈なソロをプレイする姿をテレビで観たことがあるかもしれません。また彼女は、ジョナス・ブラザーズやホールジーとスタジアムでプレイしたことでも知られています。アリアナはレコード通りに演奏するだけでなく、優れたアレンジャーが行うように、自らカラーやテクスチャー、メロディーを追加しギター・パートを構成します。それだけにとどまらず、力強いトーン、ロック魂のこもった迫力のリード・サウンド、天国のように心地よいリバーブ、個性溢れるモジュレーションすべてに、彼女独自のひねりが加えられています。そしてアーティストのサポート・メンバーとして、彼女が生き生きとプレイするギター・ソロのアレンジでは、こういった彼女の才能のすべてを聴くことができるのを嬉しく思います。


アリアナは信じられないほど独創的でスキルも高く、音楽的なアレンジも得意としており、私のお気に入りのソロ・ギタリストのひとりです。そのギターからは、ジョニー・スミスやジョー・パスといった偉大なギタリストからの影響を聴くことができますが、彼女はそれらをクラシックな対位法の動きとハーモニー、ポップな感性、R&B独特の要素をブレンドし、独自のサウンドを生み出します。これら巧みなプレイは、ギターのピックアップに小指を添え、親指と人差し指、中指、そして薬指で、弦をほぼブラッシングするかのように奏法する、卓越した右手のテクニックが可能にしています。私はこのような奏法を見たことがありません。この型破りなテクニックにより、彼女は大胆なアルペジオ・ラインと甘いコードで構成されたメロディーの間をシームレスに行き来しながら、大きく丸みを帯びたサウンドを維持することができます。この特徴的な奏法は、彼女がアレンジを手掛けた伝統的な民謡、“Virginia Is for Lovers”や、ブライアン・ウィルソンの名曲、“God Only Knows”で聴くことができます。非常に多くのスタイルとテクニックを用いる彼女の能力により、非常に魅力的で唯一無二のアレンジが生まれます。彼女は7月にソロ・ギターのアルバムをリリース予定です。


エミリー・エルバート


エミリー・エルバートは、孤独な世界の女王のような存在です。彼女のグルーブはタイトで、歌声は魅惑的、メロディーはなめらかで、その楽曲はパワフルです。彼女は多才で、とても多くのことを難なくこなすことができます。彼女の才能は、サラ・バレリス、ジェイコブ・コリアー、ロード、リオン・ブリッジズを始めとするアーティストらとのプレイや、幅広いライブ・パフォーマンスに繋がりました。また彼女自身もアーティストのひとりとして活躍をしています。2006年には、出身地のテキサス州ダラスで、高校生のときすでにファーストアルバム『Bright Side』を完成させました。それ以後、これまでにグルービーなギターと珠玉のリリック満載のアルバムを4枚リリースしています。


エミリーの歌には、愛、実存的な思い、そしてより良い世界への希望が込められています。彼女は腐敗した政治のない、母なる地球と人類の両方が尊重される世界を求める気持ちを歌詞に載せています。彼女の歌からは、ニーナ・シモン、マーヴィン・ゲイ、そしてジョーン・バエズからインスピレーションを得た、平等権を掲げ広く推し進めたいという願いを聴きとることができます。彼女は強い信念を持っており、ドナルド・トランプへの抗議の気持ちを込めた“True Power”という曲の全収益は、アメリカ自由人権協会(主に米国権利章典で保証されている言論の自由を守ることを目的とした、アメリカ合衆国で最も影響力のあるNGO団体のひとつ)に寄付されました。また2022年にリリースされた彼女の最新アルバム『Woven Together』には、恐怖の中で感じる孤独を和らげるが如く、思慮深く内省的な歌詞で溢れています。“Inside Your Heart”では、愛には保証など存在しないことを謳い、“Not Alone”では重くのしかかる孤独について謳っています。私は彼女の歌詞に聴き惚れ、そして彼女の奥深いギター・プレイに感銘を受けました。


エミリーは、ボーカル・ラインとギター・パートを繊細に織り交ぜる天才です。彼女のプレイは常に孤独にパーフェクトな形で寄り添い、甘いアルペジオのライン、美しいメロディー、ソウルフルなリックが、彼女の音楽を引き立てます。彼女はエレクトリックとアコースティック、どちらのギターも巧みに操りますが、そのプレイに乗せる彼女の歌声は、一貫して力強さがあります。彼女の音楽には、ジャジーなハーモニー、民俗的な要素、ソウルのグルーブなど、さまざまなジャンルが見事にブレンドされています。現在と過去をシームレスに繋ぎ、未来を見据えた、時代を超越する心地良さがあります。彼女の最新ソロ・アルバムを是非チェックしてみてください。ジェイコブ・コリアーとのツアーでも、彼女の素晴らしいパフォーマンスを観ることができます。


カーメン・ヴァンデンバーグ


カーメン・ヴァンデンバーグは、“クール”という言葉がぴったりです。彼女は、むせび泣くようなブルース&ロックの歌詞で聴く者を惹きつけます。彼女のプレイはB.B.キング、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ジミ・ヘンドリックスといった偉人たちの影響を受けていますが、その影響をモダン・ロックやファンク・ ギターのスタイルと融合させ、彼女独自のサウンドを生み出しています。


カーメンは彼女のバンド、ボーンズUKと共に、音楽活動の幅を広げるべくヨーロッパからLAに移り住みました。その甲斐もあり、2019年にはグラミー賞で最優秀ロック・パフォーマンス賞を受賞しました。彼女のパフォーマンスは別格です。彼女のステージ上での存在感とスキルの高さには目を奪われます。私は数年前に、ボーンズUKが“Girls Can’t Play Guitar”をパフォーマンスしたときに、ソウルフルでヘビーなラインをプレイする彼女の姿を観ることができました。バンドメンバーのロージー・ボーンズが、“girls can’t play guitar(女の子はギターが弾けない)”というフックの部分を歌うたびに、その歌詞が真逆であることを証明するかのように、カーメンはロック感滴るリードで応えていました。私はいつも喜びと感動で笑ったりドキドキしながら、多くの場所で彼女と一緒にステージに立つことを楽しみました。彼女の歌声とギター・プレイ、そして彼女の持つエネルギッシュさには、他の皆のパフォーマンスの良さを引き出し、全員をより高いレベルに引き上げる力があります。


ボーンズUKのメンバーとして以外にも、彼女は多くのアーティストと共演をしています。ジェフ・ベックの目に留まった彼女は、2016年に彼とアルバム『Loud Hailer』を共作することになりました。その後も彼女はベックのツアー、そしてレコーディングにも参加し、何年にもわたり彼とステージを共にしました。ケイト・ナッシュ、シェリル・ロイド、スマッシング・パンプキンズのツアーとレコーディングにも参加をしています。彼女とCV30を共同開発したBlackstar Amplificationも含め、彼女のサウンドは多方面から注目を集めています。


カーメンは、ステージでもレコーディングでも輝きを放つエネルギッシュな女性です。ボーンズUKのニューアルバム、そして長らく待ちわびられているソロでのリリースにご期待ください。


マディソン・カニンガム


シンガーソングライターでギター・ヒーローのマディソン・カニンガムを抜きにして、今の時代のギタリストについて語ることはできません。彼女の音楽には魅了されます。彼女のまっすぐで天使のような歌声はあなたを引き込み、彼女のギター・プレイに驚かされ、彼女の曲はあなたを虜にするでしょう。この音楽の巨人は、ギターを中心して独自のサウンドを確立し、とても自然な状態でパフォーマンスを魅せてくれます。


南カリフォルニア出身の彼女は、幼いころからギターで曲を書き、教会で歌いながら育ちました。昨年リリースされた彼女のアルバム『Revealer』は、今年のグラミー賞で最優秀フォーク・アルバム賞を受賞しました。フォークに根付く彼女の音楽は、ロックンロールやルーツ・ミュージックへの強い傾倒もありながら、しばしばジャズやクラシックに見られる、意外性あるハーモニーの動きも取り入れられています。


彼女のギター・プレイはディープで情熱的であり、非常にキャッチーでユニークなラインは、彼女の多くの曲の根源となっています。複雑なギター・パートをプレイするときには、強い信念とそれを明確に伝えるタフさも兼ね備えています。また、ジョニ・ミッチェルを彷彿とさせるコードを演奏したと思えば、突如クイーンのようなメロディーラインに移ったり、異なるスタイルをシームレスに織り交ぜることにも長けています。


彼女は普段、オルタネート・チューニングでエレキギターを弾くことが多く、それが彼女のサウンドの特徴のひとつにもなっています。美しい広がりと独特な間を持つ彼女のコード・ボイシングは、ときに大きなローエンドを持つこともあります。お決まりのペンタトニックはあまり使わず、半音転調と開放弦の音を多く使う斬新なリード・ラインは、ロックでありながらメロディアスで、それらのラインをなぞって歌うこともよくあります。オーバードライブ、モジュレーション、ビブラートなどロックの要素に加え、新しいJHS Artificial Blondeビブラート・ペダルのシグネチャー・モデルが、彼女のギター・トーンをさらに個性的にしています。


彼女は2人か3人のミュージシャン構成のバンドでプレイすることが一番多いですが、ステージを占拠するハードロックのソロ・パフォーマーでもあります。彼女はギター・プレイと同じく、魂のこもった説得力のある並外れた歌唱力も持ち合わせています。


是非これら4人のギタリストの音楽をチェックしてみてください。メンフィス・ミニー、メイベル・カーター、シスター・ロゼッタ・サープが、20世紀に新たなジャンルを確立し、ギターを再定義した偉業は、今日アリアナ、エミリー、カーメン、マディソンに継承されています。


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Arianna Powell photo: Chris McKay, Getty Images
Emily Elbert photo: Harmony Gerber, Getty Images
Carmen Vandenberg photo: Mat Hayward, Getty Images
Madison Cunningham photo: Frank Hoensch, Getty Images


ドクター・モリー・ミラーは、ジェーソン・ムラーズやブラック・アイド・ピーズを始めとする数々のアーティストとレコーディング、ツアーを行う傍ら、自身のバンド、モリー・ミラー・トリオを率い活動しています。またUSC Thornton School of Musicで、講師も務めています。