トーン・イン・ア・ボックス Part 1 — キャビネット変更による音作り

 

角が組み継ぎされている合板のSunn 4×12クローズドバック・キャビネットのサウンドをキャプチャー

部屋で真空管アンプをライブ演奏している場合でも、Helixや他のモデラーとステージやスタジオで作業している場合でも、スピーカー・キャビネットを変更するのは、どのようなリグにおいても音色を劇的にリフレッシュする方法のひとつです。サウンドのニーズに合わせてキャビネットを調整することは、最も表現力に溢れダイナミックな、そしてご自身の音楽のジャンルに適した音を生み出すことができる非常に有意義な手法です。一方、適するタイプとは真逆のキャビネットをチョイスしてみると、驚くほど面白い結果を得られることもあります。


どのようなギター・リグにおいてもサウンドの少なくとも50%はアンプであるといわれていますが(我々の多くはこの割合がもっと大きいと考えるかも知れません)、アンプに詳しい人であれば、さらにその半分決定づけるのはアンプに繋がっているスピーカー・キャビネットであることはご存じのことと思います。当然のことながら、スピーカーはリグのサウンドやフィール、そして全体のレスポンスを担う大きな役割を果たします。これについてはPart 2で詳しく見ていきますが、それらが搭載されている木製のボックスが品質全体に信じられないほどのキャラクターを生み出すのです。


Line 6は、スピーカー・キャビネットがアンプのトーンに与える多大な影響を以前から認識しており、Helix 3.50“The Cab Update”で刷新されたキャビネット・エンジンでは、無数の音のバリエーションを提供できる、クラシックからモダンまで多彩で使い勝手の良いキャビネットの選択肢が用意されています。様々なキャビネットの特徴をより深く理解するために、代表的な原型の特徴を探り、それらの基本的な性質を理解することから始めてみましょう。


キャビネットのタイプ及び構造による違い
スピーカーはアンプのボイシングを大きく変えてしまう可能性がありますが、それが搭載されているボックスもまた、サウンドステージを形成する上で大きな役割を果たし、最終的に耳にするトーンを決定づけます。キャビネットには様々な構造と寸法が存在しますが、まずはご自身のサウンドにも簡単に反映できるよう、比較的一貫性のある定量化が可能な音響結果を示すいくつかの要因をご紹介します。


オープンバック vs クローズドバック
キャビネットのタイプを変更するぐらい単純なことかもしれませんが、ボックスの背面が密閉されているか、部分的に開いているかという違いは、スピーカー・キャビネットの構造においてサウンドに影響を与える最大の要因のひとつです。オープンバックのキャビネットは、高い周波数が強調され、より広がりのある分散型の「サラウンドサウンド」になります。キャビネットの背面から発せられる音波が、前面から発せられる音波と混ざり合うことで、広がりと丸みのある、かなりリアルな周波数特性になる傾向がありますが、スピーカー・コーンの前面から前に向かって押し出されるのではなく、コーンの背面から後ろに向かって音が押し出されるため、逆相となり、キャビネットから生じる低音域が強すぎたりブーミーになり過ぎるのを低減するのに役立ちます。結果として一般的には、全体のバランスが取れたサウンドを得られます。


角が組み継ぎされている合板の1971年製Marshall 1960A 4×12クローズドバック・キャビネット

この逆相でブレンドされた音波は、オープンバック・キャビネットの場合でも低音域の分離をより良くしてくれます。そのためこれらオープンバックのボックスは、クローズドバックの特徴であるフルで厚みのあるガツンとした音にはなりません。Helix 3.50ファームウェア・アップデートで搭載されたクラシックなオープンバック・キャビネットは、1×10 US Princess、1×12 Grammatico、1×12 US Deluxe、1×12 Cali EXT、2×12 Blue Bell、2×12 Double、2×12 Mail、2×12 Jazz Rivet、4×10 Tweedです。2×12 Mandarinと4×12は全てクローズドバックです。


クローズドバック・キャビネットは、より豊かな低音に加え、高音はわずかに減衰され、指向性の高いサウンド・プロジェクションが特徴です。正面からは音波が発せられますが、側面からはかなり抑えられ、背面からはほとんど消音された状態になります。この特性自体が望ましい場合もありますが (例えば、ドラマーがステージ上で目の前に配置されたキャビネットから直接的な音をあまり聞きたくない場合など)、逆に、ライブ・パフォーマンスでは、キャビネットの真正面以外の位置からステージ上のアンプ・サウンドをモニターできるようにしたい場合、オープンバックのほうが好ましいでしょう。


キャビネットのサイズ
スピーカーが空気の振動を押し出して音波を生成することで機能している点を考慮すると、どのようなタイプのリグにおいても、スピーカーが搭載されているボックスのサイズと、その周囲のスペースがどれぐらいあるかが、スピーカーのサウンドに影響を与えるのは明らかです。おそらく一般的にみて、サイズによって最も差がでる要素は低音で、小さいキャビネットでは控えめになり、大きいキャビネットではより大きく出力されます。とはいえ、どのキャビネットでもそのサイズに応じて、スピーカー内部で音波を生成するのに十分な内部空間が必要で、それによりリアルな音像を作り出すことが可能になります。


キャビネットが大き過ぎると、低音域のレスポンスが増加してブーミーでラウドになり過ぎるため、他の周波数帯域が埋もれてしまう可能性があります。一方キャビネットが小さすぎると、堅さのある軽いサウンドになることが多く、特に低音域が物足りなくなります。ほとんどのアンプとキャビネットの設計者は、スイートスポットを見つけ出すまでにトライアンドエラーを繰り返し、細かな調整を重ね、ジャストなサイズにたどり着くまではかなりの試行錯誤が伴います。


1960製Vox AC30 (Fawn Blue) 2×12コンボ。合板のオープンバック・キャビネットは、角が組み継ぎされ、内部にブレーシングが施されている。

キャビネットの素材
スピーカー・キャビネットの構成に使用される木材のレスポンスは、ギターの構成に使用されている木材のレスポンスとほぼ同じであると考えることができます。大まかに言うと、合板とチップボードは無垢材よりもキャビネットの共鳴が少なく、パインとシダー (ギター・キャビネットの構成に使用される最も一般的な無垢材) は独特の共鳴を得られます。この共鳴は通常、全体的なトーンに温かみやテクスチャーを加える元になると説明されるのが一般的ですが、わずかながら音の不明瞭さにも繋がります。共鳴があると音も吸収されるため、パイン無垢材のキャビネットはフルで丸みを帯びたサウンドになりますが、高品質の合板で作られた頑丈なキャビネットのようなパンチの効いた明瞭なサウンドにはなりません。


ハイエンドな合板のキャビネットに最適な選択肢は、11枚重ねのバルチック・バーチ材です。ソリッドウッドよりも共鳴は少ないものの、かなり音楽的なサウンドを保ちつつ、タイトで骨太なパフォーマンスを提供します。チップボードや MDFなどの安価で手頃な素材で作られたソリッドウッド以外のキャビネットでは、常にある程度の共鳴が起こっており、デッドまたは無調に聞こえることがありますが、スピーカーがマウントされているキャビネットより、スピーカー自体の音がより強調されたハイファイ・サウンドのキャビネットとしてはちょうど良いと言えます。そのため一部のクローズドバック・キャビネットのメーカーは、柔らかい断熱材を追加して内部の音波を減衰させ、周波数帯域上の耳障りな部分を強調する突出した音域を排除させています。


キャビネットの密閉度と強度
先に述べた木材の種類によって変わる特性と同様に、密閉度と強度を左右するのはいくつかの要素の掛け合わせによって決まり、多くの場合これらの要素は同一のものである場合があります。ここで主な要素となるのは以下の通りです:


• キャビネット・ウォールに使用されている木材の種類
• 木材の厚み
• 角のジョイント部分や内部に施されているブレーシングの頑丈さ(またはその欠如)といった一般的なビルドの状態


一般的に密閉度が高く強度の高いキャビネット (より厚く共鳴の少ない木材および/または頑丈に補強された構造で実現される) は、忠実性の高いパフォーマンスを向上させ、よりタイトな低音域のレスポンス、より鮮明な中音域、そして全体的な“木材っぽさ”の軽減を実現します。このタイプの構造は、ハイファイおよびスタジオ・モニター・スピーカー・キャビネットが設計および構築される方法と似通っており、それらに供給されるシグナルをより正確に再現し、ボックス自体の音響的産物 — あらゆるタイプのキャビネットのいわゆる“キャラクター”、または“個性”(ただしキャビネットの共鳴を最小限に抑えキャラクターを強調すること自体が、これらキャビネットの“特徴”と見なされる場合もあります) — の影響を最小限に抑えます。


角が組み継ぎされている100%パイン材の1964製Fender Deluxe Reverb 1×12コンボ・オープンバック・キャビネット

このより堅牢なキャビネット設計では、通常側壁の厚みが増す分重量も増加します。これは一般的に、比較的近年の4×12および2×12キャビネットの特徴と考えられるかもしれませんが、60年代後半から70年代初頭にかけて、Orange、Hiwatt、Sunnなどのメーカーは、このようなキャビネットを製造していました。クラシックなMarshallの4×12も、全体的にみるとそこまで密閉度が高くないにしても、比較的この部類に入ると言えるでしょう。Helix 3.50アップデートでは、1×12 Cali EXT、4×12 Cali、4×12 Mandarin、4×12 Moo))n、4×12 Uber両キャビネット、そして4×12 XXLがこのタイプに該当します。つまりは、今回のアップデートでパンチの効いたロックに打ってつけの選択肢が多数搭載されたことになります。


一方、側壁が薄かったり、木材の剛性が低かったり、コーナーのジョイント部分がしなやかだったり、あるいはこれらすべての条件を備えたキャビネットの場合は、スピーカーと共鳴する傾向があり、スピーカー自体の共鳴と振動が全体的なトーンに加わります。これがうまく働けば、スピーカーのレスポンスに生き生きとした木製らしさが追加されることで特定の周波数帯域の魅力が引き出され、美しいサウンドを生むことがあります。キャビネットの作り込みが甘く、トーンにメリハリがない場合、構造上生じる共鳴と振動によって、素晴らしいサウンドにするためにより明瞭に目立たせる必要がある特定の周波数帯域が損なわれてしまっていることが考えられます。


このような問題を生む例として、軽量でエージングがかかった100%パイン材による比較的ルーズな構造のツイードFender Deluxe、またはBassmanキャビネット(Helix 3.50アップデートでは、それぞれ1×12 Grammatico LaGrange、4×10 Tweedキャビネットで再現されています)に、アンプから強い負荷がかかった状態を想像してみてください。ブルース、ガレージ・ロック、またはその他のローファイなロックンロール・スタイルであれば素晴らしいサウンドを得られますが、大音量でタイトなメタルやクリスピーなカントリーのチキンピッキングとなると、音が潰れてしまいフラストレーションを感じるかもしれません。


キャビネットは自然と完全にルーズでも堅牢でもなく、多くのクラシックなタイプはその中間の構造であることがほとんどです。60年代までは、Fenderのコンボおよびエクステンション・キャビネットはより頑丈な作りでしたが、現代のスタイルのボックスほど頑丈ではありませんでした。これらの例は、1×10 US Princess、1×12 US Deluxe、そして2×12 Doubleでお試しいただけます。またVox AC30は、しっかりとした構造のキャビネットを備えていましたが過度に頑丈ではなく、2x12 Blue Bellではそのタイトさ、明瞭さ、ウッディなキャラクターのブレンドが、バランス良く再現されています。そしてクラシックなMarshallにインスパイアされた4x12 (3.50アップデートで搭載された4×12 Greenbackと4×12 Britが該当)も同様に、ヴィンテージとモダンの特徴をブレンドされています。これら“中間”の構造を持つキャビネット・タイプは、原点とも言えるクラシック・ロックからコンテンポラリー・ブルースまで、幅広いスタイルで使えるヴィンテージ、モダン両方の長所を備えたサウンドを提供します。


サウンド・デザイン・マネージャーのベン・エイドリアン(左)とサウンド・デザイナーのサム・ウォン

バッフルの構造
スピーカーを固定するキャビネット前面のボードをバッフルといいます。これまでに挙げたすべての要因と同様に、バッフルのタイプも構造も様々です。比較的厚みのある合板で作られ、しっかりと取り付けられたバッフル (バッフルが無垢材で作られることは滅多にありません) — 例えば3/4インチの 11枚重ねのバルチック・バーチ — は、よりパンチの効いたプロジェクション豊かなサウンドを実現できます。合板製のキャビネットの特性と同様に、キャビネット自体のサウンドよりスピーカー・サウンドが強調されます。


一部のヴィンテージ・アンプで採用されている3/8インチまで厚みを薄くしたバッフルは、自然とより多く振動するため、アコースティック・ギターのサウンドボードの振動の仕方とは異なり、スピーカー・コーンの音とブレンドされ、独特な音波を生成します。1950年代の多くのツイード・アンプで使用されていた、いわゆる“フローティング方式”のバッフルのように、各コーナーにボルトまたはネジがひとつしかなく、バッフルがキャビネット前面にしっかりと固定されていない場合は、アンプのボリュームを相当上げない限り動かないようになっています。より厚く剛性もあり、しっかりと取り付けられたバッフルから、今述べたツイード・アンプのフローティング・モデルのようなより薄く、緩めに固定されたバッフルに変更すると、ギターとアンプと連動して、キャビネット自体が共鳴する楽器のように機能するようになります。これは一部の限られたプレイ・スタイルでは非常に理想的な場合もありますが、他のプレイ・スタイルにはまったく向かない可能性があります。


共鳴性の高いキャビネットは、セミクリーンやディストーションがかかる一歩手前のトーンに、さらなるキャラクターと立体感を与えてくれる可能性がありますが、同時にキャラクターとしては扱いづらく、それ自体がコントロールの難しいヴィンテージなオーバードライブ・トーンと言えます。しかしながら、特にボリューム・レベルが高い場面で、鮮明なアタックとクリアなハイゲイン・オーバードライブを得ようとすると、鮮明さが失われ濁ったサウンドになってしまう可能性があります。


究極的には、ご自身にとってどのようなキャビネットを選ぶのがベストか、答えはひとつではありません。ただし、構成要素を変更しできるだけ多くのタイプを試すことで、特定の音楽のセッティングに最適なものを見つける感覚が養われるだけでなく、主要なトーン作りのツールも手に入れることができるのです。


トーン・イン・ア・ボックス Part 2 — スピーカー変更による音作り


Marshall, Vox, Fender, and group photos: Barry Cleveland
Main image and Sunn photos: Sam Hwang



デイヴ・ハンターは、『The Guitar Amp Handbook, British Amp Invasion, The Gibson Les Paul, Fender 75 Years』を始めとする著書を複数執筆し、『Guitar Player』、『Vintage Guitar』、『The Guitar Magazine(イギリス版)』にも数多く寄稿しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。