私がライブで真空管アンプを使うのをやめた理由

 

正直なところ、そのライブが上手くいったことに自分でも驚きました。その時海外に住んでいたので、ライブでプレイするのは1年ぶりでした。シンガーとは面識のない代役のドラマー、リハもなし、クオリティもサイズ感もよく分からないPAでの野外ライブ。観客の中には多くの友人の顔も見えました。


ライブで一度も使ったことがない完全に新しい機材を試すのは確かにリスクがありましたが、このギグこそモデラー中心のセットアップで臨む良い機会だと心を決めました。信頼のおける100Wのチューブヘッドと2x12キャビネットはトランクルームに残し、Helix Rackを帰りのフライトで持ち帰って、週末のライブに備え、事前にサウンドのプログラミングと曲のリハーサルに時間を費やしました。十分な準備はできていましたが緊張もありました。


個人的には、モデラーは自分のようなミュージシャンのためにデザインされたものではないとずっと思っていました。どんなものかは理解していますが、興味を持てなかったし、エフェクトも必要ありませんでした。私はブルース・バンドにいるときに、しばらくCry Babyワウを使用していましたが、それもずっと昔の話です。1990年代後半以降は、メインのギグ用アンプにリバーブすら使用していませんでした。私のバンドのセットアップは、長年にわたり頑なにオールドスクールを貫いていました。ギター、ベース、ドラムがそれぞれひとり、ボーカルは4人、ラウドなバックラインという編成で、大きめの会場の場合はときどき PAから少しだけギターとドラムをモニターしますが、それはあくまでもボーカルのためだけに限定しています。そしてほぼ100%、サウンド・エンジニアはつけません。


しかしわれわれは観客がダイブするようなパンク・バンドではなく、モデラー・ベースのセットアップが最適な、豪華な結婚式や品の良いパーティーで主にトップ40のカバーを演奏するバンドでありながら、ごく最近までデジタルへの移行などまったく考えたこともありませんでした。そして毎回ご丁寧にフライトケースに真空管アンプを詰め込み、ライブに出かけていました。

Helixのようなものにお金をかけることに全く興味がなかった他に(私は何台ものストンプボックスを欲しくもないし、必要ともしていません)、私がモデラー・ベースのセットアップを検討しなかった最大の理由は、バンドの他のメンバーも皆、これまで慣れ親しんだバックラインがわれわれが行うライブに最適かつ快適で、そのスタイルを変えるつもりが一切なかったからです。


だからといって、自分のサウンドに完全に満足していたわけではありません。なんとなくギター・サウンドがイマイチで、できることならそれをなんとかしたいと思うことが頻繁にあり、問題があるとすれば自分のアンプだという確信もありました。真空管を6L6からEL34に替えるか、スピーカーを違うものにする、もしくは違うキャビネットを試す。それとも、まったく新しいアンプを試してみるべきか…


ライブ中にときどきツマミを微調整することが増えて、自分でもこの何となくしっくりこない気持ちが何を言わんとしているかがわかりはじめました。自分が納得できないままライブを終えたある日、ステージから降りてふと気が付きました。自分のサウンドについてきちんと対策を考えることもなく、アンプにさえ一度も触れてみたことがなかった事を。そして何か凄く貴重な経験をしたような気がしました。その鍵となったのは、何かと話題のHelixではなく、買う必要はないと思っている人も多く、つまらなそうにも思えたPowercabでした。


優秀なモデラーは以前から存在します。しかし、使い込んでそのメリットを十分に享受しようとすると、特定の使い方、つまり俗に言う「PA直」に適応しなければなりません。その点が、私を含め多くの人がモデラーを採用することを躊躇する理由と考えます。しかしPowercabを使うと話は別で、突如としてHelixのようなものに付加価値が与えられます。本物のアンプのようなサウンドとフィーリング、そして挙動が得られるバックラインのセットアップが可能になり、同時にアナログの世界では不可能だった柔軟性も兼ね備えます。


では、エフェクトを使わない人にもメリットがあるのでしょうか。モデラー中心のセットアップで活用できる数百種類ものエフェクトやプリセットは宝の持ち腐れにはならないでしょうか?そんなことはありませんのでご心配なく。


まずマルチ・アンプについてです。私は3チャンネルのアンプを使ってきましたので、私のギター・サウンドの世界は、クリーン、クランチ、そしてリードの3本柱になっています。手持ちの真空管アンプには各チャンネル用にさまざまなモードが用意されていますが、本当に使えるのはそのうちのひとつだけです。他の2種類のサウンドは可もなく不可もなく…です。私はHelixをアンプのようにセットアップしていますので、Helix Controlフットコントローラーの上段のバンクは、チャンネル・フットスイッチとして使用しています。ここでは4つのチャンネルにまったく異なるアンプ・モデルをアサインしていて、そのそれぞれが理想的なバージョンのクリーン、ライト・クランチ、ヘビー・クランチ、そしてリードになっています。

エフェクトも必要であれば活用できます。ストンプボックスを使う必要性を感じたことも、チューブアンプでエフェクトを使用したこともありませんでしたが、ギアを追加することなくエフェクトが使用できるようになり、エフェクトループを使う際にサウンドが変わってしまう心配や、余計な費用をかける必要もないので色々試してみました。今はゲインが低めのチャンネルに少しコンプレッションをかけていて、4種類のアンプすべてにルーム・リバーブを少し加えています。ふたつのチャンネルにはフェイザー、コンプレッション、ディレイを加えていますが、それらは実際にはあまり使用していません。


次はその柔軟性についてです。バックラインのみのライブには十分ラウドですが、PAで少しギターが必要になったときは、PowercabのXLRからダイレクトに出力し、マイキングされた素晴らしいサウンドを得ることができます。ちょっとしたことではありますが、キャビのマイキングに時間をかける必要さえないのは助かります。自分の2×12のキャビを、部屋で聴いている通りのサウンドが得られるようにマイキングするのはなかなか難しいと思っていたからです。


そして利便性です。ギターなどライブのセットアップに必要なものすべてを車1台でどこにでも持ち運びできます。これ以上コメントする必要もないでしょう。


最後に操作性についてです。デジタル環境へ移行するにあたり最も心配だったのは、複雑過ぎて自分が探しているものをすぐに見つけられないのではないかという点でした。しかし、Helix Controlフロアボードの操作は非常に簡単で、そんな不安を完全に払拭してくれました。大型のディスプレイ、スクリブル・ストリップ、RGBカラー・スイッチにより、目の前にあるのはディスプレイやメニューの奥深くに隠されたものではなく、アナログのセットアップの感覚でプレイできます。ステージ上で必要なのはケーブル1本のみで、電源が不要なのも最高です。


肝心のサウンドについてまだお話していませんでした。最新のモデリングは、「本物の真空管と同じぐらいいい音なの?」といったことを気にする必要はありません。ただし、私の所有する2×12真空管アンプのようには聴こえませんし、モデルのベースになっているアンプのようにも聴こえません。つまり、Powercabは、Powercabのサウンドであるということです。Powercabは1×12なので、1×12(私の大好きなキャビのサイズ)の音であり、巧妙なモデリングをもってしても、1×12を別のサイズのキャビネットのようなサウンドにすることは不可能です。私はこれら4種類のアンプは所有していませんが、非常に優れたバーチャルの4チャネル1×12コンボを手に入れたと言えます。そしてアナログ・ギアでは再現できないことを、手頃な価格、そして扱いやすいセットアップで実現できるようになりました。実際のところサウンドはどうなの?と疑問ですよね。今まで使ったことのあるアンプとはまったく異なる素晴らしいサウンドですよ。

ここでいくつか注意点があります。


自分が必要としていないものに対してもお金を払うことをよしとしなければいけません。Helixには私が使用しない、またはあってもなくてもよい機能がたくさんありますが、自分が使用する限られた一部機能だけでも価格に見合う価値がありますし、 Helix Controlをフットスイッチとして使用するだけでも十分なくらいです。


そして、いくつかサウンドをゼロから作成する必要があります。最初はヘッドフォンを通して作成したサウンドを使い、Helixのスピーカー・シミュレーションをオフにしていました。これが物凄く酷い音で、ファクトリー・プリセットも同じようなものでした。ですが、空のプリセットから作成を始めて、Powercab経由で適正なアンプのボリュームで少しずつサウンドを構築したところ、本当に満足できるサウンドを作ることができました。


それから、自慢のアンプは願望のオブジェと化したのだと割り切る勇気も必要です。アンプが物理的に存在することが好きなので、これは自分にとって非常に難しい決断でした。所有していたヘッドはすべてカスタムカラーで、この紫色のレザー仕様は特注したため、オーダーしてから6ヶ月も待ちました。HelixとPowercabのリグには、そういった特別感を感じる楽しみはありません。


ですが、これらの問題を乗り越え、少しの間懐疑心も抑えられたなら、決定的な価値を持つ買い物をするための資金をすぐに準備しましょう。驚くほど素晴らしい経験があなたを待ち受けていますよ。

ウェブスター辞典は、『パラダイムシフト』とは、これまで当然と思われていた認識や思想、価値観などが劇的に変化することと定義しています。この言葉はビジネスの世界ではすでに当たり前のように使われていますが、ごく稀にしかやってきません。私はもうAmpex 456テープに録音したり、車の中でCDを聴いたり、アナログ一眼レフで写真を撮ったり、ライブ会場への道順をプリントアウトしたりしません。


ただし、この記事用の写真は、デジタル一眼レフで撮りました。私の携帯電話は旅先で写真を撮るのには事足りますが、コントロール性ではやはり一眼レフには劣ります。私の真空管アンプにも同じことが言えます。これらのアンプを売り払うつもりは全くありませんが、もうPowercabとHelixという心強い味方がいますので、バケーションに行くたびに重い一眼レフカメラを持ち歩くことはあっても、ライブにわざわざ真空管アンプを持っていくことはこの先ないでしょう。


Powercabはパズルの最後のピースです。これによって、多くのギタリストが、ライブでプレイするときはアナログよりもデジタルの方が理にかなっているという事実に気づかされることでしょう。まだ使い始めたばかりですが、私は初めてiPodを手に入れたときと酷似した気持ちを抱いています。私のパラダイムはちょうどシフトしはじめたところなのでしょう。


Powercab 112 Plus詳細


Helix Rack詳細


Helix Control詳細


ジュリアン・ウォードはYamaha Corporationのグローバル・ギター・ストラテジー・マネージャーです。14歳からライブでの演奏を始め、これまでに数多くのライブパフォーマンスのミックスを手掛け、商業スタジオでのレコーディング・エンジニアとしての経験も豊富です。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。