リアンプとは?そしてその利点とは?

 

レコーディング・エンジニアの優先順位を考えたとき、ベースとギターは後回しにして細かく気を配らないことも少なくありません。ドラムやピアノ、その他のアコースティック楽器とは違い、ベースやギターは比較的簡単にレコーディングできます。ベース・プレイヤーは、ほとんどの場合ダイレクトボックス(DI)を持っていますので、エンジニアが極度に疲れていたりすると、音作りを追い込んだりもしないでしょう。エレクトリック・ギターは、トーンを作成する上でアンプが不可欠ですからマイキングしたアンプを介してレコーディングするのが一般的ですが、エンジニアの多くは実験的なことをあれこれ試すことはほとんどなく、比較的型どおりのアプローチ(例えば、スピーカーコーンの近くにShure SM57をセッティングする等)を取ってしまいがちです。


私自身もエンジニアの一人であり、スタジオも所有していますが、マイクの選択や位置決めを慎重に行い、逆位相や周波数特性、空調、ハム、環境ノイズといった、プロセスに内在するわずらわしいさまざまな問題を確認するのにどれだけ時間とエネルギーを費やさなければならないかを身をもって知っています。そしてさらにこの後、適切なマイク・プリアンプの選択、EQやコンプレッションの調整、的確なゲイン・ステージングなどの複雑な(かつ非常に重要な)プロセスが追加されるのです。ここまでに述べたことを考慮すると、一般的にはギタリストやベーシストがスタジオで他の楽器のプレイヤーほど、プレイや新しいことを試す時間が得られないことがおわかりいただけるでしょう。


ときには、オリジナルのセッションでよく馴染んでいたベースやギターのサウンドも、ミックスを重ねるにつれフィットしなくなってくることもあります。音の可能性を大幅に拡張してくれるHelix Nativeのような優秀なプラグインを使って、トーンをあとからデジタル処理することで望んでいるトーンに進化させることももちろんできますが、もしご自分のベース、またはギター・パートを一切制限なくレコーディングし直すことができるとしたらどうでしょうか?そして、元のセッションの自分のプレイをもっと目立たせたかったと思ったり、レコーディング・エンジニアやせっかちなバンドメンバー達に気を使った提案をしたりする代わりに、実験的なことを存分に試してトラックに最適なサウンドを見つけるために必要なだけ時間を費やすことができたとしたら…リアンプは、このような柔軟性を実現するための手段なのです。先に述べたやっかい事の多くを解消し、ベース/ギター・プレイヤーに新しく、刺激的な可能性をもたらしてくれるのです。


リアンプのデバイスはDIボックスの逆バージョン


リアンプは、まずご自身の演奏をレコーディングするところから始まります。DIはベースのインストゥルメント・レベルのシグナルを、マイク・レベルのバランス・シグナルに変換するためのものです。そうすることで、マイクをプリアンプに接続してライン・レベルに増幅された出力をコンピューターやテープに録音する標準的なレコーディングのシグナルフローに、ベースを簡単に統合することができます。要するにDIは、マイク・プリアンプがベースのシグナルをマイクのように扱う働きをしているということです。このようにしてベースがレコーディングされると、レコーディング・メディアに記録された振幅は見た目上ライン・レベルになっていて、ベースの元の出力よりもはるかに大きくなります。マイク・プリアンプが、マイキングされたギターのシグナルをブーストする際に果たす役割についても同じことが言えます(もちろん、アンプをマイク録りしたトラックに加えて、DIを通したギター・トラックをレコーディングするとさらに自由度が増します)。


ベースであろうとギターであろうと、そのシグナルは一旦録音されるとライン・レベルになります。リアンプ・ボックスは、レコーディング・システムのライン出力からこのライン・レベルのシグナルを受け取り、それをインストゥルメント・レベルに変換します。リアンプ・デバイスはDIボックスのように機能しますが、実際の処理は逆順ということですね。市場には、RadialやLittle Labs製をはじめとするさまざまなリアンプ・ボックスが出回っています。


リアンプ・ボックスの目的は、事後のある時点で、オリジナルのセッションで使用されたものとは異なるシグナル・チェーンを介してパフォーマンスを再度レコーディングすることです。インストゥルメント・レベルのシグナルを使用できるようになるので、接続されたものは別々にレコーディングされたものであるということは、どうにも判別がつきません。リアンプの手法を使うと、あとからこうすればよかったと思うような問題をすべて解消することができます。エンジニアも、他のマイクへのかぶりを気にしたり、バンド全体でのもっと複雑で難しい作業に集中できないことにプレッシャーを感じたりする必要がなくなります。



リアンプの一番の利点は実験的なことを試せることですが、そのためのツールとしてはLine 6のアンプ/エフェクト・プロセッサーほど最適なものは他にないでしょう。Line 6のモデリング・テクノロジーを使えば、多数のリアルなエフェクトやアンプ・モデルに簡単にアクセスできます。私自身はリアンプする際はHelix LTを活用しています。123dBという驚異的なダイナミックレンジで、クリーンでクリアなシグナルを保ちつつ、深奥で多彩なサウンドの中からトラックに最適な音を簡単に見つけることができます。また充実したI/Oも重宝しています。私はDIを通したトラックにマイキングしたキャビのサウンドを統合するためによくリアンプを用いるのですが、オリジナルのシグナルのサウンドにアウトボードのエフェクト処理を追加するためにもリアンプを使います。Helix LTにはXLR出力が備わっていますので、スタジオでのルーティング・ワークフローにも瞬時に組み込むことができますし、便利な2系統のエフェクトループによって他のアウトボード・ギアも簡単に統合できます。


リアンプを行う時間やお金に余裕がなく、ご自身で自宅に制作環境を整えることが難しい場合は、Helix Nativeのようなエフェクト/アンプ・モデリングを使用できるプラグインがお勧めです。エミュレートされた定番のエフェクトやアンプ、キャビネットの数々、そしてバーチャルでマイクの設置位置を自由に試したり、リアンプと同じ利点の多くをデジタル・ドメインで得ることができます。


もし次回エンジニアから、DI、またはありきたりなマイク録りのサウンドをセッションに使うように言われたら、あとでリアンプしたセッションを録る時間があるかどうかを考えてみましょう。お気に入りのアンプ(私は最近ほどよく歪ませた真空管アンプが特にお気に入りです)、たくさんのエフェクト、あるいはHelixのような最近のモデリング・マルチエフェクト・プロセッサーを持ち込んで、マイクの種類や設置位置をあれこれ変えてみたり、いつもとは違うダイレクトなシグナルフローを試したりするようエンジニアに提案してみてください。ミックスをあとから聴き返してみて、自分のトーンに納得がいかずにがっかりすることはほとんどなくなるでしょう。リアンプは後悔を生まないための最善の手法であり、同時にスタジオで最も楽しめることのひとつにもなり得るのです。


Helix詳細



ジョナサン・ヘレーラはUSC及びLos Angeles Music Academyを卒業後、『Bass Player Magazine』で編集長を務めました。現在はオークランドでDime Studiosを経営する傍ら、Scottsbasslessons.comのプロデューサーとしても活躍しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。