“ファズの神” スコット・ホリデーが足を踏み入れたHelixの世界

 

アメリカの4人組正統派ロックバンド、ライヴァル・サンズのファンは、ギタリストのスコット・ホリデーがSola Sound Tone Bender、Roger Mayer Octaviaといったエフェクターの、オールドスクールで強烈なアナログ・ファズ回路を好んで使用していたことから、彼を“ファズの神”と称していました。過去10年間でライヴァル・サンズがリリースしたアルバム、『Pressure&Time』(2011)、『Great Western Valkyrie』(2014)、『Feral Roots』(2019)には、彼のシグネチャー・サウンドであるブティック系オクターブ・ファズやその他のポリフォニック・フレーバーがふんだんに盛り込まれていますが、一方でラックギア、MIDIコントローラー、そしてアンプ/エフェクト・モデラーにも精通しています。


今回、ナッシュビルの伝説的なRCA Studio Aでの『Feral Roots』に続く新譜のレコーディングの合間に、ホリデー氏に話を聞くことができました。彼は長年にわたりLine 6のギアを愛用してきたので、最近足を踏み入れたばかりのHelixの世界へのシフトも非常にスムーズかつシームレスで、重量のあるOrangeとSuproアンプヘッド、そして数々のクールなブティック・ストンプボックスで構成された既存のセットアップに代わり得る、コンパクトでありながら非常にパワフルで飛行機でも簡単に運搬できるライブ用ギアとしてHelix Floorをメインにした “リグB”を構築することで、彼のアナログ魂(そして数々の素晴らしいブティック・ペダルの魅力)を巧みにデジタルの領域に織り交ぜた従来とは全く異なる新たなパラダイムに入ったといいます。「バンドメンバー、ライブクルー、全員がHelixを気に入りました(笑)」と、ホリデーは言います。彼らにも「あの巨大な“リグA”を使わなかったらいったいいくら節約になると思う?Helixを採用するべきだよ!」と言われたそうです。


あなたはビンテージ・ファズ・ペダルのトーンでよく知られてますよね。ですから、Line 6のギアも長年使っているというのは意外と思われるかもしれませんね。


ええ、周囲からはトーンにはかなりこだわりがあると思われているでしょうね。でもライヴァル・サンズを始める前から、あの豆型の赤いPODを所有していました。僕はコーンと同じカリフォルニア州ハンティントン・ビーチの出身で、彼らと付き合いがあったのですが、当時マンキーが「Line 6というメーカーの豆型をしたPODっていうの、試してみたほうがいいよ」と僕に勧めてくれたのを今でもはっきり覚えています。彼経由でLine 6とつながることができたので、かなり早い時期に手に入れることができたのですが、本当に気に入って使っていました。実のところ、ある時、それまで使っていたトラディショナルなギター・リグを全部手放して、フットスイッチでコントロールできるLine 6初のヘッド・アンプだった300WのFlextoneを手に入れました。かなり早期からモデリング・テクノロジーを支持していたと言えます。


それにLine 6のDL4ディレイ・モデラーは常にシステムに入れていて、20年以上経った今でもメインのエフェクト・ボードに組み込んでいますし、これまでに壊れたりしたことも一度もありません。加えて、僕がはじめて使ったブラッドショーが手掛けた大型ラック・システムでもLine 6のEcho Proラック・ディレイ・モジュールを使っていました。あのディレイは本当に素晴らしかったです。できればまた生産して欲しいぐらいです。


とは言え、長年あなたのサウンドのベースになっていたのは、オールドスクールなファズ・トーンと大型ヘッドでしたよね。なぜHelixを導入することにしたのですか?


ここ数年で、十分に信頼が置けて、飛行機移動でも簡単に持ち運べるシステムをライヴァル・サンズのために用意する必要が出てきました。複数の大型ヘッド、いくつものペダルボードとラックetc. で構成されたリグA全体を運搬するのは、物理的にもコスト的にも、特に海外でライブを行うときは限界がありました。そこで候補に挙がったのがHelixでした。友人であるLine 6のスコット・マルソーに相談したところ、とても良くできているし、スマッシング・パンプキンズのビリーとジェフも夢中になっていると教えてくれたんです。僕は一見、デジタル・エフェクト・テクノロジーに対し否定的と思われるかもしれませんが、本当はそんなことはまったくなくて、逆に、自分のアナログ・トーンをこのデジタルな世界で再現するチャレンジを楽しんでいます。「よし、やってやろう!」って思いましたよ。

Helixを使ってみた第一印象はいかがでしたか?


すぐに気に入りました。リグAを使っていたときに、特定の用途でHX Effectsを使った経験がいくらかあること、またMIDIとラックギアは長年使っているので、ワークフローを理解するまでにさほど時間はかからなかったですね。Helixのインターフェースはとても優秀で、分かりやすく簡単に操作でき、リアルに触れるノブがたくさん付いています。とても直感的でありながら、奥が深いと感じました。それでもHelixを一通り触り終えた後にまずチェックしたことは、僕が使っていた特定のブティック・ペダルに近いサウンド、特にライヴァル・サンズのサウンドだとちゃんと認識できるオクターバー、シンセ・ペダル、オクターブ・ファズといったポリフォニック・サウンドが搭載されているのかを確認してみることでした。Helixにはこの類のエフェクトは搭載されていましたが、僕のシグネチャー・サウンドを確実に実現するために要となるファズとオクターバーは、本物のペダルをシグナルチェーンに追加することにしました。


もちろんHelixには、こういったニーズにも対応できるよう4系統のセンドが備わっています。しっかり見越していますよね!これら4系統のセンドすべてに、僕がメインで使用しているペダルを繋ぎました。Roger Mayer Octaviaがそのひとつです。あとは、Deep TripのHell Bender(Tone Benderの彼ら版のようなもの)、Electro-Harmonix POG、Electro-Harmonix Bass Micro-Synthです。これら2台のファズ、そして2台のオクターバー・エフェクトに加え、Helixに搭載されている素晴らしいエフェクト、アンプ/キャビネットも使うと、あの巨大なリグAでは実現したくても不可能だったサウンドをすべて得られることがわかりました。


私はどちらのセットアップのサウンドも聞きましたが、正直違いを聞き分けることができませんでした。Helixを使ったライブでのバックラインはどうなっているのか教えてください。


もちろんです。僕はHelixを完全にステレオで使っているのですが、それらL/Rのシグナルをそれぞれ“シグナル・パス1”、“シグナル・パス2”のように見立てています。ライブでは2台のOrange CS-50を使用していますが、それを通常ステレオパスの“R”、つまり“シグナル・パス 1”側に、そしてSupro Statesmanのヘッドを“L”、つまり“シグナル・パス 2”側にルーティングしています。ですから、まずはこのような使い方をしてもこれまでのリグと同じサウンドを得られるアンプをHelix搭載のモデルから見つける作業をしました。そして理想通りのアンプは見つかったのですが、かなりの微調整が必要でした。ある時デンバーでプレイする機会があり、ライブ前日がオフだったのですが、その日僕たちにライブ会場を使わせてくれたので、事前に積み込みとセットアップを終わらせることができました。


今では、リグA、Bどちらも簡単かつ完全な状態でセットアップできるように十分な数のバックアップ用のキャビネットを持ち回っているので、リグAのアウトボード・ペダルを経由したOrangeとSuproヘッド用のキャビ、それから前述の4台のペダルをループさせ、専用のパワーアンプを備えたHelixをベースにしたリグB用のキャビを並べて比較することができます。A/Bを切替えるスイッチも用意しています。ですからトーンをマッチさせる作業に丸一日費やすことができたのです。FOHエンジニアに「これがOrangeのクリーン!で、こっちがHelixのOrangeっぽいクリーン!」って叫ぶと、彼が「もう少しトップエンドが欲しい。それにこれ以上のボトムエンドはいらないな」なんてモニター越しに答えてくれます。完璧にマッチできるまで、とことんこだわって調整したのです。


ホリデー氏の“リグB”は、Helix Floorをメインとし、各センドはそれぞれElectro-Harmonix POG、Deep Trip Hell Bender、Roger Mayer Octavia、そしてElectro-Harmonix Bass Micro-Synthに接続され、それらはMXR Mini Iso-Brickパワーサプライから電源供給されています。2台目の“インプットボード”には、Dunlop MC404 CAE Wah、Zvex Fuzz Probe、Dunlop DVP3ボリューム・ペダル、それから(つい最近、オフステージのMesa Boogie 2:Fiftyチューブパワーアンプに置き換えられましたが)Seymour Duncan PowerStage 700パワーアンプが組み込まれています。

エフェクトをかける前に、まずはアンプのみの生のサウンドを徹底的に追求したのでしょうね?


はい、その通りです。まずはエフェクトをかけずに本物のアンプの生の音にマッチさせる作業を行いました。Orangeのメインのクリーン・チャンネル、それからOrangeのメインの歪ませたチャンネルのサウンド。次にSuproのクリーン・トーン、それからSuproの歪ませたトーンを調整しました。そしてこれらメインになるトーンのマスター・セッティングをHelixに保存しました。この作業が完了したあとは、Helixを従来のライブ用リグと同じように扱えるようになりました。これらは僕がいつも使用するアンプなので、両方ともすべてのプリセットに含めました。次にエフェクト・チェーンの調整に取り掛かりました。これらファズ、またはオクターバー・ペダルはリグAではどのポジションにセッティングされているのかを確認し、HelixのリグBでも同じように設定にしました。そして今度は、これまでに制作したアルバムに収録された、Strymon TimeLine、Mobius、DL4をはじめとする複数のペダルが混在した自分のペダルボードを、Helix内蔵のモジュレーション、ディレイ、リバーブといったタイムベースのエフェクトで再現する作業を行いました。


またHelixの前段にチューナー、ワウ・ペダル、ボリューム・ペダル、Z-Vex Fuzz Probeを組み込んだ小型のインプットボードも用意しました。そこにはSeymour Duncan Powerstage 700パワーアンプも組み込まれていて、Helixのステレオ出力をステージ上の僕のキャビに送れるようにしました。Duncanのパワーアンプはしばらく使ってみてサウンドが素晴らしかったので、トーン・マニアの自分としては、Helixを小さめの2Uラック真空管パワーアンプに送りたいと最近思い始めたため、50W×2系統備えたMesa Boogie Stereo 2:Fiftyを入手しました。正直なところ、真空管パワーアンプとHelixを組み合わせることで、ソリッドステート・パワーアンプと同じくらい素晴らしい音でありながら、大きな違いが生じました。Helixのサウンドの最終段に独特のフィールを加えることができたのです。


あなたのOrangeそしてSuproヘッドのトーンを再現するために、Helixで使用しているアンプ/エフェクト・ブロックを具体的に教えてください。


はい。実はOrangeがベースとされるモデルは使用していません。OrangeにはSolo Lead ODプリアンプ、そしてSupro StatesmanにはCali 4 Rhythm 2を使用しています。そしてライブでプレイするときは、これらと一緒にキャビネット・ブロックは使いません。なぜなら、パワーアンプ経由でその時にステージ上で使える本物のキャビに繋ぐからです。SuproとOrangeのキャビを使えればベストです。ですがホテルに滞在しているときは、2×12 Silver Bellキャビネット・ブロックにはSuproベースのモデル、4×12 XXLV30キャビネットにはOrangeベースのモデルを組み合わせて使用しますね。僕は他の多くのプレーヤーのように、Helixを直接FOHに送ることはしません。基本的にHelixは、あくまでギター・ペダルボード、そしてプリアンプとして使用しています。真空管パワーアンプと本物のキャビネットを本来の使い道通りに使用し、全てのキャビネットは一般的なやり方でマイキングします。そのため、僕のサウンドは限りなくアナログに近いのだと思います。


ループに入れているブティック・ペダルは除いて、Helixのエフェクト・ブロックで出番の多いHelixのディレイ、モジュレーション、リバーブはありますか?


ディレイはTransistor Tapeをとても気に入っていて、ほとんどの場合これを使用しています。Legacy Plate Reverbも優秀です。モジュレーションはShin-Ei Uni-Vibe がベースになっているUbiquitous Vibeが好きです。このDepth、SpeedはHelix Floorに備わっているエクスプレッション・ペダルで調整しています。実際すべての曲で、ディレイ・タイムやフィードバックといったパラメータは、このエクスプレッション・ペダルで調整を行っているんですよ。“Too Bad”ではLine 6オリジナル・モデルのDual-Pitchを使用しています。艶っぽさを出したいときには、Kinky Boostがオススメです。定番のModulation Tremoloも頻繁に使用しています。


HX Effectsを補完的なプロセッサーとし採用しているリグAでは、Legacy Room Reverbを多用しています。それにHard Gateも多用していますね。僕のリグB、そして特にHX Effectsが組み込まれていてノイジーなペダルが複数繋がれているリグAどちらにも、これらエフェクトはなくてはならない存在です。ヘビーで、ゲインを上げた歪みの強いファズを使う際にかなり強烈に聴かせたい場合、特に大きな会場では、プレイの合間にメリハリをつけたいですよね。曲中であればそんなことは気にしなくていいですけど。ですから僕は、たいていパス内のディレイ、そしてリバーブの直前にGateを配置しています。こうすれば、メインのトーンのゲートが閉じられても、ディレイとリバーブのちょっとした息づかいを残せるからです。


従来のリグでは叶わなかった、Helixを使うことによるその他のメリットは何かありますか?またこのインタビューを通して、他のユーザーの皆さんに参考にして欲しいHelixの活用法があれば教えてください。


そうですね、スナップショットの機能が棚ボタだったのと、すべてのパッチやプリセット名を自由に変更できる点でしょうか。僕はいつも8つすべてのスナップショットを使用していて、それぞれの曲の各セクションに合わせて、イントロ、ヴァース、プリコーラス、コーラス、ソロ1、ソロ2、といった具合にスナップショット名を付けています。このような簡単なことでプレイやパフォーマンスに集中できるようになるメリットは計り知れないくらい大きいと思います。その点においてもHelixは大満足ですね。深く考え抜かれた設計だからこそ、単純に今まで使っていたすべてのペダルと置き換えるためにHelixを導入する人もいるでしょう。それは事実で、そうしてしまうことも可能です。ですがLine 6は用意周到に、あえて4系統のセンドを用意しています。その自由度の高さを活用して欲しいです。HelixにはTS808をベースにした魅力的なモデルも搭載されています。でも、もしあなたのライブでのサウンドの要が30年モノのTube Screamerだったとしたら、是非それを使ってください!それをHelixのセンドに繋げばOKです。Helixに搭載されているフェーザーをとても気に入るかもしれません。でも、もしMu-Tron Bi-Phaseを手に入れて、これに勝るサウンドは他にはないと思うのであれば、それを使うのが一番良いと僕は思っています。


Helix詳細: https://line6.jp/helix/


Main Photo: David Poulain

 

ナッシュビル在住のギタリスト、そしてライターでもあるジェームズ・ロトンディは、『Guitar Player』及び『Guitar World』の副編集長を務めており、『Rolling Stone』、『JazzTimes』、『Acoustic Guitar』、『Mojo』、『Spin』各誌にも多く寄稿しています。またミスター・バングル、ハンブル・パイ、フランスのエレクトロロックバンド、エアーのツアーにも参加しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。