ポール・リチャーズ — ギタークラフト、シェパードトーン、そして“Echoes”

 

ギタリスト、ポール・リチャーズは、カリフォルニア・ギター・トリオを結成したメンバーのひとりとして知られていますが、キング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップ率いるリーグ・オブ・クラフティ・ギタリスツ、そしてロバート・フリップ・ストリング・クインテットのメンバーでもあり、双方で幅広くツアーを行っています。実際、カリフォルニア・ギター・トリオが生まれたきっかけは、フリップによるギタークラフトのコミュニティでした。最初のメンバーとなった3人は、1987年にフリップのクラフトコースで出会い、その後CGT(カリフォルニア・ギター・トリオ)を結成しました。彼らの楽器に対するアプローチの根底には、そこで習得したテクニックと音楽性の多くが今でも深く根付いています。最も注目すべき点は、リチャーズ、バート・ラムズ、そして森谷英世(現在のラインアップでは、チャップマン・スティック奏者のトム・グリースグレイバーに交代)が、フリップが考案したニュー・スタンダード・チューニング(低から高にC、G、E、A、D、G)を採用し、ギターのポテンシャルを拡張し続けていることです。


とは言え、CGTの音楽は決して難解ではありません。オリジナルの楽曲でも、 “Walk Don’t Run”、“Bohemian Rhapsody”、“The William Tell Overture”、そして最近ではピンク・フロイドの“Echoes”といった人気の定番曲のカバーでも、彼らは常にウィットとバラエティに富んだテクニックで聴く者を魅了し続けています。


CGTは2018年にモントリオール・ギター・トリオとセクステットを組み、そのヴィジョンをさらに拡張させるべくライブツアーを行い、その翌年には「In a Landscape」をリリースしました。そして25周年を迎えたCGTは、同行した13日間にわたる伝説的なバンドの最後と言われているツアーをレコーディングし、2021年に最新EP「Live In Scottsdale On Tour With King Crimson」をリリースしました。CGTが1995年から96年にかけて、キング・クリムゾンと130ものライブを共にし、初めて世界的にも注目を集めたことを考えると、2021年のツアーは彼らにとってもひとつの節目と言えます。


カスタムのErvin Somogyi ギターを携えるリチャーズ。


これまでメインでプレイしていたのはアコースティック・ギターでしょうか。それともエレキ・ギターでもプレイすることもありましたか?


私のキャリアにおいては、いつもアコースティックをプレイしてきましたが、元々はエレキ・ギタリストで、その頃はベースもプレイしていました。私が13歳のときに、父が中古の1970年代のレスポールを買うために少しお金を出してくれたのですが、これが私が手に入れた初めての本格的なエレキ・ギターで、この他に安価なOvationのアコースティック・ギターも所有していました。いつもその両方をプレイしていたのですが、ギタークラフトに深く関るようになってからは、アコースティックをメインに弾くようになりました。


アコースティック・ギターでエフェクトを使うようになったきっかけは何だったのでしょうか?


エレキ・ギターに対する情熱をずっと持ち続けてきて、いつもそこから良い刺激を受けていますが、エレキ・ギターでエフェクトを使うようになってから、アコースティック・ギターでもエフェクトを使いたいと考えるようになったのです。1991年にCGTを結成したときには、すでにベーシックなペダルボードを組んで使用していました。当時は、Electro-HarmonixのBig Muff Pi、DigiTechのEcho Plus 8 Second Delay、そして他にも数台のペダルを所有していました。それらに加えて、ロバート・フリップがくれたEBowも所有していたのですが、それは彼がブロンディのクリス・ステインから譲り受けたものでした。ロバートは「さて、これでどんなことができそうかな?」と言いながら手渡してくれました。アコースティック・ギターと使ったときのサウンドは素晴らしく、エレキ・ギターで使うよりも、よりメローなサウンドを得られました。とても気に入ったので、自分で新たに1台入手し、ロバートがくれたものは彼に返しました。


いつ頃からLine 6のエフェクトを使うようになったのですか?


初めて使ったディレイ・ペダルは、15年ほど前に購入したDL4 ディレイ・モデラーで、さまざまな使い方をしてきました。現在は主にルーピングに使用していますが、ここ何年かずっと使用している、特定の曲用にプログラミングしたプリセットもいくつかあります。最近で言うと、私たちのバージョンの“Echoes”で、テクスチャーとハーフスピード・テクスチャーを作り出すためにルーパー機能を使用しました。このペダルには素晴らしいエフェクトが数多く搭載されていますが、その中でも特に気に入っているのはおそらくTape Echoです。このエフェクトは、一時期使っていたRolandのSpace Echoによく似たサウンドを得られます。それ以外にも、Rhythm Delay、Reverse Delayも使いますし、Digital Delay w/Modも時々使いますね。もちろん、それ以降他にもいろいろなLine 6のギアを使ってきました。


左からポール・リチャーズ、トム・グリースグレイバー、バート・ラムズ


具体的にどのギアでしょうか?


自宅では Helix Floorを使用していて、ツアーではしばらくHX Effects、そしてHX StompHX Stomp XLも使っていました。それからSpider V 120コンボアンプも所有していていて、Stratocasterと組み合わせて使っています。また、StageSourceパワードスピーカーも自分がソロでパフォーマンスするときと、LAでCGTのリハを行う際によく使用しています。


今現在は、どのアコースティック・ギターを使用されていますか?


1台は、ネックの位置を前後に動かしたり角度を調整したりすることで、イントネーション(オクターブチューニング)の調節が出来るSure Align ネック・システムを採用した、Martin SC-13Eという新モデルです。ほぼすべてのアコースティック・ギターで、大なり小なりイントネーションの問題が付いて回るので、この技術は本当に画期的です。このモデルには、Fishman MXプリアンプとSonicoreのアンダーサドル・ピエゾ・ピックアップが搭載されています。他にBreedloveのA 15コンサート・モデルと、少しカスタムが施されたJason Kostalも所有しています。ピックアップに関しては、ここ最近Mojotone Quiet Coil NC-1でいろいろ実験的なことを試してみています。これはサウンド・ホールに取り付けるマグネティック・タイプのピックアップなのですが、マイクのような性質をいくつか持っていて大いに可能性を感じています。


あなたは、あまり一般的ではないシグナル・チェーンを採用されていますよね。少し解説をしていただけますか。


まず頭にはAudio SprocketsのToneDexterプリアンプがあります。これは基本的なアコースティック・インストゥルメント用のプリアンプの機能に加え、スタジオ用のマイクを繋いで、特定のマイクを通したギターのアコースティック・サウンドをキャプチャーしてサンプリングした“WaveMaps”を作成することができます。WaveMapsはプリセットとして保存でき、そのサウンドをプリアンプに繋いだアンダーサドル・ピックアップのサウンドとブレンドすることができるんです。またToneDexterにはエフェクト・ループが用意されていますので、DL4とHX Stomp、またはHX Stomp XLのいずれかを繋ぐこともできます。


つまり、エフェクトのサウンドをプリアンプの入力に送るのではなく、プリアンプのトーンをエフェクトに送っているということでしょうか?


はい、その通りです。ToneDexterでは、このやり方が最も思い通りの結果を得られると思います。


“ECHOES”
CGTによるパフォーマンスの中でも注目すべきは、彼らがピンク・フロイドの23:34にも渡る大作、“Echoes”を半分の長さのアレンジに作り変えたことです。リチャーズは、デヴィッド・ギルモアの象徴とも言えるスライド奏法を使ったクジラの鳴き声のようなサウンドを模倣するなど、アコースティック・ギターでギルモアのエレキ・ギター・パートと、リチャード・ライトのキーボード・パートをプレイしています。彼のサウンドはすべて、DL4とHX Stompに搭載されているアンプ/エフェクト・モデルで作られています。彼はこの曲で、“Whale”、“EchoesDrive”、“Rotary Fuzz”、“EchoesOctSwell”という4種類のHXカスタム・プリセットを使用しています。




CGTバージョンの“Echoes”は、オリジナルとは少し違う始まり方ですが、その部分について解説いただけますか?


頭の部分は“Whale”というプリセットを使用していて、17フレット辺りからゆっくりとフレットボードをスライドダウンしていきながら、手で弦をこすり合わせています。そして1/4ほどスライドダウンしたところでDL4でサウンドをループさせ、そこからスライドダウンを続けると同時にオーバーダブ・モードに切り替えます。こうすることで、そのパートをオーバーラップさせることができます。それから最後に、ループをハーフスピード再生に切り替えることによって、全体的に1オクターブ下げます。すると面白いことに、音高が上昇または下降しつづけているように聞こえる錯聴を引き起こす“シェパードトーン”を得られるんです。ピンク・フロイドも“Echoes”でこの効果を使用していていますし、この効果を活用している映画音楽作曲家も何人かいます。基本的には、移動させた音を1オクターブ上と1オクターブ下の同じ音とオーバーラップさせる必要があります。それを私はフレットボードを端から端までスライドすることで、同じ効果を作っているのです。曲の最後でループをリバースさせ再度シェパードトーンを入れると、アルバムのトラックの最後のように、音が下降ではなく上昇します。



その後に、こちらもスライド奏法ですが、イントロのメロディが続いていますよね。


はい、そうです。ギルモアは、そのセクションでは弦をチョーキングしていると思いますが、私はそれをアコースティック・ギターでスライドすることで再現しています。ここで私はプリセットを“EchoesDrive”に切り替えているんですが、このプリセットには実際に彼が使っていたエフェクト、Colorsoundプリアンプ(Colordrive)、Binson Echorec(Echo Platter)、そして彼が曲全体で使用していたHiwatt DR103(WhoWatt 100)アンプなどを採用しています。シグナル・パス内のColorsound プリアンプの後ろには、Rat(Classic Dist)を配置していて、これはこの後に来るソロのパートでも使用しているのですが、これに関してはギルモアがこの曲で使用していたペダルとは全く異なります。Binsonのディレイ・タイムは300msに設定されていたと聞いていますので、Echo Platterディレイでも310msに設定しています。



この曲のさまざまなセクションに含まれるリチャード・ライトのキーボード・サウンドは、どのようにして表現しているのでしょうか?


“Rotary Fuzz”プリセットでは、Leslie 145(145 Rotary)ロータリー・スピーカー・キャビネットにFuzz Face(Facial Fuzz)を組み合わせて歪んだHammondオルガンのサウンドを、そしてPitch VibratoモデルでFender Rhodesピアノのサウンドをエミュレートしています。“EchoesOctSwell”プリセットでは、すでに挙げたいくつかのエフェクトにPlateauxを追加し、ライトのシンセサイザーのようなサウンドの一部、特に中盤で盛り上がりを見せるセクションのサウンドをエミュレートしています。Plateauxには1オクターブ上と下が含まれているので、バイオリン奏法でオリジナルのシンセ・サウンドにかなり近い音が得られんです。ライブ後に、何かギター・シンセの類を使っているのか頻繁に尋ねられたので、このプリセットの出来にはかなり満足していますよ。実際にはギター・シンセは使っておらず、サウンド作りはすべてHX Stompでやっていますからね。



中盤のスペーシーなセクションに出てくるクジラやカモメの鳴き声サウンドは、どのようにエミュレートしているのでしょうか。


デヴィッド・ギルモアは、ワウ・ペダルを逆向きに繋いであのかん高いサウンドを出し、Stratocasterのコントロールを駆使してさまざまな効果を生み出していました。私はスライドと“Whale”プリセットに含まれるエフェクトでそのサウンドに似せるようにしていますが、自分のオリジナリティも大事にしたかったので、レコーディングされた本物のクジラの鳴き声を聞き込んで、それを再現することに努めました。



最後に、アコースティック・ギターにエフェクト・ペダルを使っているギタリストへアドバイスがあればお願いします。


ほとんどのエフェクト・ペダルは、当然のことながらエレキギター向けに設計されていますので、典型的な設定や特にプリセットは、アコースティック・ギターの場合上手く機能しないことも少なくありません。自分の用途に見合うものを見つけることが大事です。何が上手くマッチするか、何が不向きかは試してみないと分からないですからね。例えば、Fuzz FaceやBig Muffといったクラシックなファズ・サウンドにはアコースティック向きだとあまり期待はしませんが、実はフィードバックノイズが起こらないようEQを調整すると素晴らしいサウンドを得られます。一方、お気に入りのヴィンテージ、または最近のアンプのいくつかは、アコースティックには不向きです。私からのアドバイスは、それぞれのエフェクトの特性を良く理解し、どのような組み合わせでどんなサウンドを得られるかをまず知ることです。そうすれば、ご自分の音楽、そしてプレイする楽器に最適なサウンドを作成できるでしょう。


Photos: Rick Pauline


バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。