Not Guitar:マーカス・ロイターとトレイ・ガン — Helixが生み出すタッチ・ギターならではのトーンと音景

 

タッチ・ギタリストのマーカス・ロイターとトレイ・ガンは、チャップマン・スティック(コンセプト面で発想を得たとされる)のように弦を両手でタップして演奏する、ギターとベースの両方を含んだ広大な音域の楽器を操ることができる非凡なアーティストです。彼らは、独特のトーンとその広大な音景を作成する際、Helixアンプ/エフェクト・プロセッサーを巧みに活用しています。


ロイターは10年以上にわたる(トニー・レヴィン、パット・マステロットと共に)スティック・メンのメンバーとしての活動に加え、ソロ活動やセントロズーン、チューナーといった別名義での活動も精力的に行っています。これまでに彼が中心となり、イアン・ボディ、ロバード・リッチ、ステファン・テーレンと共に8枚のアルバムをレコーディング/リリースしており、数多くの他のアーティストのレコーディングにも参加した経験を持ちます。教育者としての一面も持ち、ビデオ・プログラム『Living the Dream』のホストも務めています。彼が主にプレイするのは、自身がデザインした8弦、または10弦のタッチ・ギターで、現在はHelix FloorとHX Stompプロセッサーを使用し、あの素晴らしいサウンドのほぼすべてを作成しています。



ロイターもガンも、ロバート・フリップが創設したギター・クラフトで学び、関連するコミュニティーでも様々な形で積極的に関わりました。


Line 6のプロセッサーを初めて使ったのはいつですか?


トレイ:初代の赤いPODを1999年か2000年に使ったのが初めてでした。きっかけははっきり覚えていないのですが、それが人生初のアンプ・シミュレーターだったのは確かで、あの頃他にそのようなデバイスはなかったと思います。ちょうどその頃、トニー・レヴィンと私はベースにディストーションをかけてあれこれ試していましたが、ボトムエンドが失われてしまうのが悩みでした。今では同じことをHelix内で完結できるという今日の基準で考えると馬鹿げていますが、当時は16オーディオ・ループの巨大なリグを使用し、ディストーションのかかったPODのシグナルとドライ・シグナルをパラレルで送るようセットアップしていました。楽器にはギター側とベース側それぞれに出力があるので、実際にはそれぞれの出力に1台ずつ、合計2台のPODを使用していました。PODは結束バンドでシェルフに括り付けていました。


2001年に行われたキング・クリムゾンの『ConstruKtion of Light』ツアーでリハーサル中のトレイ・ガン。ベースとメロディ用の出力それぞれに1台のPODを使用。

マーカス:スティック・メンではかれこれ10年ほど世界中でツアーを行ってきましたが、2度目か3度目のツアー辺りからPOD HD500を使用するようになって以降ずっとLine 6のギアを使用しています。ディスプレイは小さいですが、簡単なシグナル・パスの調整はできましたし、とにかくサウンドが素晴らしかったです。よく議論になる“本物”のトーンにどれほど近いかどうかは、個人的にはあまり重要視していません。自分の楽器をモデラーに繋いだ時点で、いずれにしろそれなりのサウンドに変わってしまいますから。POD HD500には音作りに重宝しそうなモノフォニック・ストリング・シンセが内蔵されていて、シンセ・サウンドを含む自分好みのサウンドを見つけることができました。内蔵されているディストーションも、他のプロセッサーと比較するとザラっとしてより生の音に近いので、自分にとっては使い勝手が良く気に入っていました。ですが、実のところその頃からHelixのようなプロセッサーを夢見ていたので、登場したときは正に夢が叶った気持ちでしたね。インサート、4基のエフェクト・ループ、マルチ出力、スナップショットなど充実の機能を備えています。そして、そのシンプルな操作性は他に類をみません。利点を挙げ始めるときりがないくらい、とても気に入っています!


本物のサウンドの再現性についてのご意見は興味深いですね。個人的には、モデリングの哲学に関係していると思います。例えば、プレキシMarshallのような古いアンプをモデリングする場合、欠点も含めた生のリアルさを追求するのか、はたまたより理想に近づけるか、CDのように作りこまれたサウンドにするかに分かれるかと思います。


トレイ:私にとっては本物のアンプは身近なものではありませんし、プレキシのMarshallのアンプを使ったことも一度もありません。マーカスと同じで、アンプ・シミュレーションはエフェクトのひとつのようなものなんです。ここ最近新しいギアをチェックするときは、まず最もクリーンなシグナルをフルレンジで試すようにしています。アンプを使う場合は、レンジをある程度狭めるためのエフェクトとして使っています。私のギター側の一番低い弦の音は本当に低いんです。アンプ・シミュレーションを通すとその低音は失われてしまうため、フルレンジのサウンドから始めるようにしています。アンプは好きですが、小さめの音やグランジ感強いサウンドを作るような特定のケースに限られますね。



“Sacred Thread”( 『Anchor and Burden』) by マーカス・ロイター

マーカス:私もトレイに同感ですが、最近変わってきているのは、Helixにはベース・アンプもあって、それらはよりフィットするサウンドが得られます。


トレイ:ベース・アンプ・シミュレーションが今まで以上にフルレンジになっているのが良いですね。よりクリーンで、かつインパクトのあるサウンドが欲しい場合は、トップ側でもよく使います。でも私の場合は、自分が使っている楽器であれば違うギター・アンプのシミュレーションを使用したとしても、さほど差は感じられません。自分にとってはファズやオーバードライブ、ディレイといったエフェクトの方が重要です。ファズではなくもっとクランチなものが欲しいときに、アンプを使うくらいでしょうか。


マーカス:私も彼と同じで、アンプがシグナルチェーンの最後に配置されている必要性はないと思っています。アンプが最初で、その次にファズかな。


トレイ:そうそう。


マーカス:Helixを気に入っている理由のひとつは、そうしたサウンド・デザインの自由度です。そのもうひとつの例としては、スピーカーがアンプとは別で取り扱えることですね。必要に応じて、アンプとスピーカーの間に何か配置したり、すべての並び順を変更することもできます。私たちがプレイする楽器は、正直なところギターやベースのようには聞こえないですよね、トレイ。


トレイ:そうですね、それにレスポンスもギターやベースとは異なりますしね。


マーカス:本当にギターやベースとは全く異なると言っても良いでしょう。ですから、たいていクリーン・サウンドの場合は、1176系の[LA Studio Comp]を使い、音量を少しだけ上げてちょっとだけ歪みとコントロールを付けます。それが私のクリーン・サウンドで、アンプは、私たちの楽器ではあまり意味がないので、そのシグナルは通しません。


トレイ:その通り。


ライブでの“ザ・デセプション・オブ・ザ・スラッシュ(The Deception Of The Thrush)” by キング・クリムゾン


マーカス:トニー・レヴィンも同じです。彼のホームスタジオにはアンプを設置したアイソレーション・ルームが用意されていて、まずはチャップマン・スティックとベースの両方をリアンプできるようにして録るんですが、結局最終的にはいつもDIシグナルを使っています(笑)。


トレイ:そうですね。でもパラレル・プロセッシングというやり方もあって、ひとつはドライ、またはクリーンなシグナル、もうひとつはエフェクトのかかったサウンド、という形で、私はその手法をよく使います。そしてそれらをブレンドするだけでなく、ふたつのシグナルをクロスフェードさせることも多いですね。こうすることで本当にクールなサウンドを得られますし、Helixならそれを行うのも簡単です。


ギターとは対照的な特定の楽器のサウンドをより強調するために、どのようにシグナルチェーンを作成されているのか具体的に教えていただけますか。例えば、パス1とパス2両方を使用したり、それぞれにA/Bオプションの設定をされているのでしょうか?


トレイ:私はちょっと変わった方法なのですが、Helix NativeプラグインをGig PerformerというVSTホスト内で使っています。このソフトは複数のプラグインを同時に実行し、ひとつのポイントから制御できるんです。パラレル・ルーティングも含め、Helix内部で行えるルーティングをHelixの外部で行っているのと同じような感じです。Helixを入手する前からGig Performerは使っていて、今となっては時代遅れなやり方をしていたと思いますが、このソフトを気に入っていて今でもこれで何かを走らせるのが好きなんですよ。Gig Performerなら、Helix外部で他の処理をしつつ、エクスプレッション・ペダルを使用して外部からディレイ・タイムを変更しながら、Helixの内部でクロスフェードやピッチ・シフトを行うといったことが可能になります。CPUに十分な処理能力があれば、Helix Nativeでふたつのインスタンスをパラレルで同時に実行することもできます。


2019年のSeaProgでライブを行うトレイ・ガンとマーカス・ロイター


Helixでプリセットを作成するときは、まず確実に使えそうなファクトリー・プリセットを選んでから、コーラスやコンプレッサーなど不要なものを取り除く、というやり方をしています。ステレオでふたつアンプがあったりして作り込む価値がありそうな場合以外は、アンプさえも取り除いてしまう場合もあります。そうやって必要のないものを取り除いてしまえばCPUを有効活用できます。


両サイドでパラレル・プロセッシングを行えば、ファズなどを使って高音域にあたるサウンドを処理しても低音域が失われる心配がありません。それ以外では、ふたつのサウンドをフィットさせるのにバンドパス・イコライザーを使用して、それからブレンドさせています。これは昔、2つが別々のサウンドに聞こえないようにするために、2台のPODをパラレルで使用していたのと同じ原理で、小型のプリアンプを使用しEQし、結合したモノのシグナルをEmpirical Labs EL8 Distressorまたはdbx 160Aコンプレッサーにルーティングし、さらに一体感を持たせていました。もちろん、今ならHelix内だけで全く同じ処理を行うことができますけどね。


マーカスはHelixハードウェアを使用しているので、何かトレイとは異なるアプローチをしていますか?


マーカス:そうですね。通常プリセット内にはクリーン・サウンド、リード・サウンド、ベース・サウンド、それからアンビエント・パッド系のサウンドを入れておきたいのですが、スナップショットならそれも簡単です。実際のシグナル・チェーンとパスの割当に関しては、自分がやろうとしていることに大きく左右されます。例えばデヴィン・タウンゼンドとツアーしていたときには、すぐにアクセスできるサウンドが10種類も必要な曲がいくつかあって、それを実現するためにはどのようにまとめるかを工夫する必要がありました。


POD HD500を使用しているときに苦労したのは、満足のいくベース・サウンドとリード・サウンドを同一機器内に持つことが困難だったので、それらのサウンドを切り替えて使用するという選択肢は私にはありませんでした。例えば、スティック・メンでは、トニー・レヴィンと私は曲中で、時には32音符の中で、役割を入れ替えることもよくあり、ダウンビートではベースの演奏からリードの演奏に移り、4小節後に再び切り替えるといった感じです。ですので、Helixの2つの独立したシグナル・パスとスナップショットを連携させることで、簡単に、しかもディレイのリピートやリバーブのトレイルが途切れることなくこれを行えるようになりました。


マーカスは、あの絶妙なルーピングはどうやっているのですか?


マーカス:Helix、そしてHX Stompに入っているルーパーは特定のライブには不可欠ですが、よくやっているのはHelixのサウンドを小型の2チャンネルFocusriteインターフェースを使用してラップトップに取り込み、ソフトウェア内でルーピングする方法です。Helixに搭載されているオーディオ・インターフェースの機能は使用していません。そのほうがよりシンプルだし、安心感もあるからです。モノのリードとベース・サウンドは、XLR出力からダイレクトにPAに送り、ステレオのアンビエント・サウンドは1/4″出力からラップトップに送るようにしています。アンビエント・サウンドはHelixのXLR出力からを送ることももちろんできますが、それは個々のプリセットのルーティングのコンフィギュレーションによってどちらを使うかを決めています。


Podcastで対談するマーカスとトレイ


デヴィン・タウンゼンドのツアーで採用したセットアップのバリエーションのひとつは、ルーピングにラップトップは使用せず、代わりにHX StompをHelixのエフェクト・ループにインサートし、MIDI経由で制御を行いました。“War”という曲では、曲の合間に彼が観客と話しをしている間に密かにループをレコーディングし、次の曲が始まったときのダウンビートでそのループが再生されるようにしたいという要望がデヴィンからあったからです。


トレイ:私たちがSea Prog(動画参照)で、デュオでライブをしたときは、HX Stompしか使っていなかったけど、ラップトップ上でHX Editも使ってなかったですか?


マーカス:そう、普段レコーディングのときや、あのライブみたいにあまり手の込んだことをする必要がないときには、そうしてます。あのセットアップはロックダウン期間中オンラインで、インプロでパフォーマンスをしたときにも使用しました。ZoomとHX Edit、Ableton Liveを同時に立ち上げて、バックグランドでジャンジャン鳴らしながら。あのエディターならパフォーマンスしながらリアルタイムで簡単にパラメーターの調整が可能ですから。


Helixで作っているとても奇異なサウンドの例はありますか?


トレイ:私が気に入っているのは、短2度と長2度に設定したピッチシフターをファズに繋いで、エクスプレッション・ペダルでそれらのインターバルをシフトさせるというちょっと風変わりな手法です。すごく耳障りでイヤなサウンドを作れます(笑)。リングモジュレーターでも同じようなことをしますね。エクスプレッション・ペダルで周波数をコントロールして、プレイしている曲によってそれがマッチする場合とそうでない場合がありますがお構いなしで。


マーカス:私はHelix 3.0で追加されたアーティスト・プリセットで[Reuter Lead]というのを作成しましたが、イアン・ボディと制作したアルバムに収録されている“Outland”でもこのプリセットを使用しました。これはトレイの7d Mediaレーベルからリリースされているアルバムです。実はGlitch Delayをフィーチャーした[Markus Reuter Glitch]というプリセットも作成しました。グリッチと名に付いているからには、どうやったらこのディレイを徹底的に欠陥だらけっぽくさせられるだろう?と考えました。そこで、パラメーターに複数のエクスプレッション・ペダルをアサインして、ペダルを動かせばこれらのパラメーターの様々な異なるコンフィギュレーションができるようにしました。これで相当グリッチ感を出せます。このプリセットもLine 6に提出したんですが採用されませんでした。きっとあまりに突飛過ぎていると思われたんでしょう。



Photo of Marcus Reuter: Maciej Wasilewski


Helix詳細: https://line6.jp/helix/


バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。