ナッシュビルの知られざる秘密 — カントリー・ミュージックの先人達のファズ


ギタリスト達がファズと呼んで愛してやまない過激で耳に付く矩形波の歪みは、ガレージ・ロック、サイケデリア、ブリティッシュ・インベイジョン、パンク、インディー・ロック、グランジなどを含む、破天荒なロックンロールのジャンルと深い結びつきがあります。60年代半ばのカウント・ファイブ の“Psychotic Reaction” や、ストロベリー・アラーム・クロックの “Incense and Peppermints”、そしてデイヴィ・アラン&ジ・アロウズによるバイカー映画のサウンドトラックから、90年代のニルヴァーナやメルヴィンズ、マッドハニー、そして今日のジャック・ホワイト、ダン・オーバックやゲイリー・クラーク・ジュニアなどのガレージ/ブルース・ロッカーたちのファズをたっぷり効かせたリフに至るまで、ファズは過去50年以上にわたって、さまざまな反抗的なタイプのロッカー愛用のエフェクトとして評価を得ています。


一般的なポピュラー音楽ファンにも知られる最初期のファズの使用例としては、1965年にリリースされたローリング・ストーンズの「Satisfaction」とヤードバーズの「Heart Full of Soul」がありますが、一部のより見識のある音楽史のマニアは、ファズの原点としてベンチャーズの1962年のシングル「The 2,000-Pound Bee(Parts 1 and 2)」を挙げることでしょう。しかし、ファズの真の誕生はそれよりも数年前にさかのぼり、ナッシュビルのレコーディング・スタジオ、そしてこの革命的な新しいサウンドを採用したさまざまなカントリー・ギタリストやアーティスト達という、今では思いもしなかったところに端を発していたのです。ローリング・ストーンズが「Satisfaction」を録音する以前の約5年間、ファズ・ギターは数多くのカントリー曲のシングル盤にフィーチャーされ、そのサウンドは、しばしば見過ごされがちですが、1970年代後半までカントリー・ギターにおける重要な要素でした。

グレン・スノディ オウエン・ブラッドリーのクォンセット・ハット・スタジオにて

50年代にブルース、ロック、ロカビリーのギタリストたちが歪んだトーンを好むようになり、歪みを発生させるためにスピーカーを損傷させたり真空管を緩めたりしてわざとアンプに負荷をかけている中で、ファズの発見はまったく偶然の産物だったのです。1960年後半にナッシュビルのクォンセット・ハット・スタジオで行われたマーティ・ロビンスのシングル "Don't Worry "のセッション中、エンジニアのグレン・スノディはセッション・ギタリストのグラディ・マーティンが演奏する6弦ベースのパートを録音するために使用されていたレコーディング・コンソールのチャンネルのトランスフォーマーが壊れていることに気づきませんでした。


マーティンが曲の1分半ほど経過したところでソロを弾き始めたとき、ベースが荒々しい激しく歪んだ音を生み出しました。ロビンスとプロデューサーのドン・ロウは、この斬新で目新しいサウンドを気に入り、激しく歪んだ6弦ベースのトラックはそのままにしておくことにしました。


1961年2月6日に "Don't Worry "がリリースされて間もなく、この曲はビルボードのカントリー・シングル・チャートで10週間1位を獲得し、ポップ・シングル・チャートでは3位を記録する大ヒット曲となりました。
賢明にも、スノディは故障したチャンネル・ストリップを、誰かにその音を再現して欲しいと頼まれたときのために取り置いていました。
1961年1月、シングル発売に先立って、グラディ・マーティンはこの斬新なシグネチャー・サウンドを再現し、彼のインストゥルメンタル・シングル "The Fuzz "の目玉にしました。これがこのエフェクトの名前の由来という説が有力です。


スノディは "ファズ "サウンドを求めるリクエストが増えて対応しきれないほどになるとすぐ、友人であるWSM Radio社のエンジニアのリーヴァイス・V・ホッブスと協力して、独特の "ファズ "ディストーションを再現できるスタンドアローンのデバイスを作りました。
彼らは共同して小型のトランジスタベースの回路を小さな金属製のボックスに収め、フットスイッチでユーザーが必要な時にエフェクトを作動できるようにすることを考え出しました。スノディは彼らの発明をギブソンに提案し、1962年にこのデバイスはMaestro FZ-1 Fuzz-Toneとして発表されました。

Maestro FZ-1 Fuzz-Tone

ファズ・サウンドをフィーチャーしたカントリー・シングルとして次に注目されたのは、アン=マーグレットの「I Just Don't Understand」です。
1961年5月9日、ナッシュビルのRCAビクター・スタジオBで録音されたこのシングルはチェット・アトキンスがプロデュースし、ビリー・ストレンジがギターで参加しています。
聞くところによると、セッション・エンジニアがレコーディング・コンソールの入力チャンネルのプリアンプを過負荷の状態にしてストレンジのファズ・ギター・トーンを作り出したと言われています。


その後1962年、ストレンジはボブ・B・ソックス&ザ・ブルー・ジーンズの "Zip-A-Dee-Doo Dah “とベンチャーズの "The 2,000-Pound Bee "にファズ・ギターのトラックを追加し、後者にはカントリー・ペダル・スティール・ギタリスト レッド・ローズが作った自作のファズ・ボックスが使用されました。


その後数年の間に何十人ものカントリー・アーティストがファズ・ギターをフィーチャーした曲を録音しました。
ロサンゼルスのスタジオ・ギタリスト トミー・テデスコが『Green Acres』のテーマの中で自身のパートを録音した1965年には、ファズ・ギターは現代のナッシュビル・サウンドの構成要素として受け入れられるようになっていたので、彼はテレキャスターやグレッチのような伝統的な鼻に掛かった音ではなく、ファズの効果を選択しました。
ファズのサウンドはその後数年の間にカントリー・シングルでさらに広まり、ファーリン・ハスキー、ワンダ・ジャクソン、ウェイロン・ジェニングス、バック・オーウェンズ &ザ・バッカルーズ、ジミー・ロジャース、ウィリス・ブラザーズなどの記憶に残る楽曲がリリースされています。



ファズは70年代を通してカントリー・ギターのトーンの定番であり続けましたが、このサウンドを前面にフィーチャーしたレコーディングの数は70年代後半には減りはじめました。この時期の曲で比較的よく知られている使用例としては、マール・ハガードの "The Runnin' Kind”、ウェッブ・ピアースの "The Good Lord Giveth and Uncle Sam Taketh Away”、チャーリー・ウォーカーの "T For Texas "などがあります。


今日のカントリー・ミュージックのサウンドは、時を経て進化し、劇的な変化を遂げていますが、オープンマインドなカントリー・ギタリストにとって、ファズのトーンやテクスチュアをいまいちど探求しなおす絶好の機会かもしれません。
キャデラック・スリーは、激しく歪んだギター・トーンを取り入れている現在のカントリー・バンドの良い例であり、実際、彼らは最新アルバムに「カントリー・ファズ」と名付けたほど、荒く歪んだ矩形波の歪みを好んでいます。
彼らと志を同じくする新進気鋭のバンド達の登場により、ファズはカントリーの世界において劇的なカムバックを遂げることでしょう。


クリス・ギルはGuitar Aficionado誌の元編集長で、Guitar Player誌やGuitar World誌に定期的に寄稿しています。 彼は、ビンテージ・エフェクト・ペダルや、アメリカ、イギリス、日本などで作られた無名ブランドのアンプの熱心なコレクターであり、音楽や楽器の歴史に関するムダなトリビアを磨いています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。