多くのファンを獲得するためのマーケティング戦略

 

COVID-19は、私たちミュージシャンの生活にも大打撃を与えています。ライブができず、収入源が途絶えてしまったと同時に、音楽、グッズ、ブランドを売り込む手法さえも使えないものにしてしまいました。

あまり気にかけていませんでしたか?

あまりご自分を責める必要はありませんが、同じような他の大勢の人たちと群れをなしながらスロープを登り、全員でこれまで培ったキャリアを不意にする道を進んでいるのかも知れません。実際のところ、常にアンテナを張り巡らせている意欲的な野心家タイプの人でさえ、より事情通なはずの業界関係者が焼き直しただけのカビの生えたようなデータに惑わされてしまっている可能性があるのです。

マーケティングやプロモーションの専門家達、音楽ビジネス関連のセミナー、ソングライティングについての座談会、音楽を売り込むテクニックなどのハウツーものの数々は、相変わらず、いわゆる知識を分析し続けていますが、パンデミックにより世界情勢が一変したことや、ストリーミングがほとんど儲けにならないこと、SNS各社がオーディエンスにリーチするためのアルゴリズムに日々調整を加えていること、テクノロジーが消費者の期待を常につなぎ変えていることなどは、まるで無視されたままです。

今述べたような(それ以外も含め)不可抗力により、音楽業界の在り方も大きく変化を強いられ、COVID-19により、私たちは従来の知識ややり方では太刀打ちできないという最後通告を突き付けられたのかも知れません。革命的思想が今日の秩序となるようにも思えます。

でも悲観することはありません。

いまだに、“逆境の中でこそ全力を奮い勝利を掴もう!”というような古臭いド根性系の精神論を押し付けてくる業界の有識人も存在します。ファン層を正しく見極めろ!ソーシャルを上手く活用しろ!プロモーションを見直せ!魅力的な音楽を作れ!等々・・・。そう言われるかもしれませんが、このようなスタイルはもう通用しません。

一見そつがなさそうで安心感があるだけの、過去の美しいファンタジックな栄光にとらわれたままの助言に従うことも、最新の世界事情に目を向け、現実を見据えた自分なりのやり方を模索することもできます。それでは、少しアドバイスをさせてください。

まずは自分の置かれている状況を冷静に分析してみてください。同じ志を持つ他の大勢のクリエイターたちの中に埋もれていては、世の中に溢れる雑踏の中であなたの音楽がかき消されてしまうのは当然です。

ド定番のやり方も悪くはありませんが、それが常に有効とは限りません
知識が完全に使い古されてしまうことはありません。“絶対に音楽業界でビッグになってやる!”といったオールドスクールな感覚で突き進むのも悪くないでしょう。でも、70年代の音楽ビジネス界で通用していたやり方を踏襲しただけのマーケティング戦略には注意する必要があります。

音楽をレコーディングしたりMVを制作したりと、形にすることは最低限必要です。それをどう流通させるのかが鍵となります。そのためにクリエイティブ、そしてビジネス両方のチームを育成することが大事です。そして成功の秘訣は、コミュニティを作ることです。こういったことは、60~70年代に成功を夢見たアーティスト達の頭の中にも同じように叩き込まれています。しかし当時は、音楽レーベル、そしてアーティストのマネージメント・サイドが圧倒的に有利な立場にあり、権限のほとんどを握っていた点が現在のビジネス・モデルとは大きく異なります。にもかかわらず、今日でも当時とほとんど代り映えしないマーケティング手法が語り継がれているのです。

残念ながら、1973年は遠の昔です。

この2021年に成功するために、数十年も昔の手法を使うのは賢明なやり方ではありません。過去の野心に満ちたミュージシャン達が学んできたことを、全否定する必要はありません。ただ、現代で成功することに繋がるものだけを正しく取捨選択して欲しいのです。

疑うことによる成果

その道の「エキスパート」と呼ばれる人が、自身の音楽のセールスを思ったほど上げていなかったとしたら、彼らからの助言にはどれほどの価値があるでしょうか。自分が成し遂げたいと考える道で、もっと高く成功している人を見つけましょう。例えば業界内のお偉方とコネを持つのも手ですが、その人物が厚いファン層を持つミュージシャンでもない限りは、あなたが多くのファンを獲得し、そしてセールスアップにも繋がるような有益なアドバイスは得ることはできないでしょう。自分が進みたいのと同じ道ですでに成功を収めている人を見つけて、その人からの助言を求めるようにしましょう。

リアルな最新情報を得ましょう

パンデミックによってクリエイターたちが強いられている苦難を本当に理解していますか?ソーシャルメディアの広告やマーケティング戦略、オーディエンス及びエンゲージメント獲得方法などの最新の動向に注意を払っていますか?分かったつもりで、楽なほうを選んでいませんか?高額の宝くじに当選するぐらいツイていない限り、音楽業界で成功することは至難の業であり、また多くの困難も伴います。今日の音楽ビジネスがどのように機能し、明日にはどう変化していくのかをよく勉強して明確な知識を身につけましょう。

チアリーダーのような応援にはご注意を

ポジティブな応援は誰にとっても喜ばしいものです。でも、周囲からの甘くて能天気な言葉を、ビジネス戦略の中で勘違いしてはいけません。「君ならきっとできるよ!」と言われたら悪い気はしないですよね?人がお互い励まし合って生きていくのはごく自然なことです。しかし、現実的なアクションプランを疎かにして喜んでばかりいると、夢を見ているだけで、マーケティングプランやキャリアゴールを見失ってしまう可能性があります。

Clubhouse(クラブハウス)アプリでは、自分のディスカッション・ルームを作成できます。これはKingdom of Rock Podcastのホストのひとり、マット・ギブソンが作成したルームです。このような場所は、ネットワーク拡大の基盤となる可能性を大いに秘めています。

時代の先駆者と頭脳派の集まる場所を探しましょう

現在最も話題になっているネットワーキングが、“音声SNS”アプリ、Clubhouse(joinclubhouse.com)です。私がこの記事を書いている時点では、まだベータ版でありiOSにしか対応していませんが、もしすでにこのコミュニティを活用している知人がいれば、是非招待してもらいましょう。Clubhouseはそのポテンシャルが注目されており、多少閉鎖的に感じるかもしれませんが、本物の有名人、各種業界の顔である人々、天才技術者、ベンチャー投資家らに、自分を売り込むチャンスを得られるかもしれない画期的なサービスです。ありとあらゆる人が実際にそこに集まっています。巷でも頻繁に話題に上がっていますよね。大袈裟に言えば、みんなが会いたいと思う人のほとんどがClubhouseにいると言えるかも知れません。このチャンスを逃す手はありませんね。

優れたマーケティング戦略の一つは、全ての人が自由に登録できるようになる前のこの試用期間中に、Clubhouseを使いこなすことに全エネルギーを注ぐことかも知れません。招待制でなくなってしまえば、ディスカッション・ルームやオンライン・ミートアップに参加するユーザーも急増し、今よりも自分を売り込むことが難しくなり、マーケティング・ツールとしての価値も下がってしまう可能性があるからです。

「クラブ」に参加したら、音楽関係のルーム以外も覗いてみましょう。先ほど述べたように、現状とこの先動向がどう変化していくかを知ることが重要です。音楽と投資に新たな市場を生み出すディスカッションに注目してください。ベンチャー投資家たちが集うルームで、彼らがどんなことに今最も関心があるかチェックするといいでしょう。ミュージシャンというものは、なぜか自分の属するマニアックな世界に閉じこもりがちです。ほかのミュージシャンや音楽業界の有名人以外の人の話にも耳を傾けてみましょう。きっと世界が…

その他大勢のひとりにならないでください
幅広いオーディエンスの注目を集めるのは簡単なことではありません。大勢の人がすでにやっていることをマネしても、ますますプロセスを難しくするだけです。少しだけ他者と違うことをするだけでもよいのです。全く新しいアイデアを思いつかなければならないと、自分を追い込む必要もありません。必要なのは、自分が進みたい道にいる群衆をいかに少なくできるかなのです。

それでもなお多くのミュージシャンは、リスナーの注目を得るために、伝統的な方法を掘り下げて、同じありふれた考えを持ったもの同士で戦うことを選択するのです。彼らは自分のリリースした楽曲をストリーミングサービスで提供したり、ウェブサイトにCDを載せたところで止まってしまい、こう考えるでしょう。「さあ、作品はリリースされた。これでどうなるか様子をみてみよう」と。しかしこのような戦略は、真夏にパームスプリングス(カリフォルニア州のリゾート地)のミニモールの裏にある小さなスペースで冬モノのコートのお店を開き、お客があなたのお店を見つけてくれるだけでなく、40度を超える猛暑の中で厚手のコートを販売していることに感謝してくれることを期待するようなものです。

そうではなく、リリースした楽曲やブランドの価値を高めるような、少し視点を変えたプロモーション戦略を展開してみませんか。ライバルであるその他大勢のミュージシャンから頭ひとつ抜きん出ない限り、“ウォーリーをさがせ!”のような悲しい状況になってしまうことは確実です。ここで重要なのは、音楽ビジネスのウェブサイトや業界のコンサルタントから“戦略A”を試すよう提案された場合、他の大勢のライバルたちも全く同じアドバイスをされているということを、つい忘れがちだということです。もっと注意深く進めましょう。

音楽が従来とは異なるワクワクするような方向に展開することを可能にする真新しいテクノロジーに注目してみましょう。あなたの作品やブランドで成功するための、新たなマーケットを確立できるかもしれません。

将来を見据えましょう
もし仮に完全にストリーミング業界が破綻してしまったとしましょう。もともと我々のほとんどにとっては大した収入源になってはいませんが、恐竜のように絶滅してしまったとしら何が問題になるでしょう。そして次はどうなるでしょうか?

未来を予測することは、デキるマーケターにとっての生命線です。もちろん、限りなく正解に近い手段やアプローチを見つけることは至難の業です。予言者でもない限りは、トレンドや注目されているビジネス投資を丹念に調査して、音楽コンテンツにとって市場で急成長をもたらすような脚光を浴びる製品が今後登場するかどうか、常にアンテナを張っておくことしかできないのです。例え大勢のライバルが同じ考えで行動したとしても、あなたが先手を打っていち早くそのチャンスに気が付き行動すればハッピーになれるでしょう(数千人と競うのは、数百万人と競うよりも遥かに有利です)。

これから注目すべき新たな可能性を秘めた市場は、空間オーディオ(AppleのAirPods Maxヘッドフォンは、ゲームチェンジャーとなって、消費者にオーディオを提供する新しい方法を示すことになるかもしれません)、拡張現実 (先進的なアーティストの中には、すでに革新的な方法でサウンドを体験できる仮想コンサートを開発している人もいます)、自動運転車 (自動車メーカーは自動運転車用コックピット周りの開発をしています。音楽はここでどのような役割を果たすことになるのでしょうか?)などが挙げられます。

ピンチをチャンスに変える
よく聞いてください。私は、オールドスクールなマーケティング戦略に厳しい姿勢を示してきましたが、現実問題、昔ながらのプロモーションの仕方でもそれなりに上手くいくこともあります。でも、もし今のキャリアに満足していなかったり、その道の専門家の言う通りにしていても状況が1ミリも変わっていなかったりするなら、自分にとって役に立たない情報に耳を傾けるのをやめてみましょう。

一度立ち止まることが大事です。それによって何かが変わることもありません。上手くいかないやり方にこれ以上時間を無駄にするのはやめましょう。勇気を出して、慣れ親しんだ手法や無意味なデータとは手を切りましょう。自由な発想があれば、成功をもたらす革新的かつクリエイティブなアイデアが生まれるはずです。今のやり方が上手くいっていないのとは違って、失うものは失敗以外にありません。果敢に新たな可能性を探ってください。失敗を恐れず、一見馬鹿げたことを考えてみましょう。驚くべき意外な発見があるかもしれませんよ。


マイケル・モレンダは、『Guitar Player』(1997-2018)で最も長く編集長を務めた後、ウェブサイト、GuardiansofGuitar.com及びNowGenDrums.comを設立しました。また彼は、Line 6及びYamaha Guitar Developmentのコンテンツも数多く寄稿しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。