ステレオの世界


突然ですが質問です。ステレオのギター・サウンドを実現するために必要な2つのものとは何でしょうか?


多くのギタリストは、ひと言「アンプ」と答えるでしょう。あるいは、「2台のアンプがない場合は、少なくとも2つのオーディオ・チャンネルを1台のステレオ・アンプから出力する必要がある」と答えるのではないでしょうか?


どちらの答えも正解ではありません。

ステレオ・ギター・サウンドに必要なのは、実は2つの耳。そう、音響的な反射環境としての2つの耳さえあればいいんです。


中学1年生の時、当時使っていた不安定でサウンドもひどい練習用のソリッドステート・アンプが、オーバードライブするポイントまで上げて長いギター・ケーブルを繋げて2、3部屋離れたところから聴くと素晴らしいサウンドに聴こえる、というのを発見して以来、ステレオ・ギター・サウンドにすっかり魅了されてしまいました。急に自宅がステレオ・エコー・チェンバーに早変わりしたかのように、それまでみすぼらしかったトーンが、まるで奇跡のように立体的で刺激的な音に変わったのです。


あなたがミュージシャンなら、さまざまな状況でこれと似たような現象に遭遇しているのではないでしょうか。たとえば、音響的にデッドな環境の練習室での単純なフルートのメロディーはいたって普通のサウンドに聴こえるかもしれませんが、エコーの効いたコンサートホール、深い残響のある大聖堂、さらにはセントラルパークの歩行者用トンネル内のような場所でさえ、同じフルートの音が有機的で、まるで天国のように心地よいステレオ・サウンドに聴こえることでしょう。


また、こんな場合はどうでしょう?街角の屋外ステージでロックバンドが演奏していて、その方向に向かって歩いていると、ステージの周りの高い建物に反射してリード・ギターが力強く響き渡っているのを聴くことができます。なんだか不思議ですよね?


しかし、いざPAシステムのそばまで行ってみると、その同じギター・トーンがまるで顔面を直撃するかのような大音量で耳障りに聴こえ、「1ブロック手前ではもっと心地良く聴こえたのに、、、」と思った経験はないですか?


実は、これは入浴中に歌うときに起こる現象と同じなんです。私たちの声はタイルからはね返って耳に戻ってくるので、素人でありながら、突然自分がアレサ・フランクリン、はたまたロバート・プラントになった気になれるのと同じです。


私のステレオの反射音に対する強い興味は高校生になっても続きました。クラシックギターのクラス仲間と私は、劇場の建物の行き止まりにある落書きだらけの階段の吹き抜けが、ナイロン弦に今まで聴いた中で最高のエコーを響かせることをすぐに発見しました。私たちは何時間も夢中になってそこでギターを弾いたものです。


私は今でもステレオ・サウンドに夢中です。

最近、アルカトラズ島の悪名高い刑務所のツアーに参加し、狭い屋外運動場に案内されたときも、参加者たちはみな、荒涼とした岩山の上に投獄された囚人たちの暮らしぶりとはどんなものだろうかと思いをはせていました。しかし、私はと言えば「このスペースを取り囲む壁は、自然なローパス・フィルターが備わった素晴らしいスラップバック・エコーを生み出している。誰かがこのスペースのIRを作成するべきだ!」という思いで頭がいっぱいでした。


もしギタリストが最高のステレオ・エコーとリバーブを楽しみたければ、アビーロードの完璧に設計されたライブ・ルームに備わるステレオ・プレート・リバーブ、ジミー・ペイジが史上最高のドラム・イントロ・サウンドと称賛される“When the Levee Breaks”をレコーディングした吹き抜けの階段、あるいは自由に使える古い刑務所の庭、そういった環境を再現しつつ、ステレオ・アンプのセットアップでもよいサウンドが得られる機材を見つければよいのです。


課題があるとすれば、ステレオのモジュレーション・エフェクト(コーラスやパン、ロータリー・スピーカーなど)を2台のギター・アンプに直で送る場合は見事に機能するのに対し、空間系のタイムベース・エフェクトは、コンサート会場でのセッティングにおいてはミキシングが難しい場合がある点です。例えばリバーブとディレイは、アンプの前で聴くと完璧なのに、多くの場合、ステージからわずか20フィート(約6m)離れただけで、これらのエフェクトのせいでサウンドが埋もれてしまい、間延びして明瞭さが損なわれてしまう場合があります。特に、ほとんどの場合そうだと思いますが、その空間そのものの残響が加わることで、このような現象は多々起きてしまいます。


もしご自身のリグのサウンドチェックをするためのスペースと予算、時間に十分な余裕があるのであれば、先に述べたようなサウンドへの干渉を受けることなくステレオ環境を作る方法は、ロックスターたちお墨付きの3チャンネルのアプローチである通称 “ウェット/ドライ/ウェット”を採用するのがベストかもしれません。


このセットアップでは、メインのアンプのトーンをセンター・スピーカー・キャビネットから出力し、ステレオ・パワーアンプを利用して、エフェクトを左右のキャビネットから出力します。ピーター・フランプトン、スティーヴ・モーズ、ジョン・ペトルーシら多くの名プレーヤーが、長年にわたりこのセットアップを採用してきました。なぜなら、プレーヤーは素のアンプ・トーンと、真空管のパワー段の後に追加された豊かなステレオ・エフェクトのサウンド(プロがミックスしたスタジオ・アルバムと同様の)のどちらも得ることができ、気のすむようにエフェクトをかけることができるメリットがあるからです。一方、FOHエンジニアもエフェクトのかかり方を適切なレベルに調整することができるため、たとえステージから遠く離れた30列目の人にでも明瞭な音を届けることが可能になります。


もちろん近年は、PA卓にダイレクトに繋いだとしても、ステージ(またはインイヤー)・モニターで自分の音を聴くことができますし、ギター、4本のケーブル、優秀なデジタル・モデラーだけスマートに乗せてライブ会場に現れ、“ウェット/ドライ/ウェット”のライブ・セットアップをほんのわずかな時間で準備できます。


私は、Line 6 Helixでは常にウェット/ドライ/ウェットのシグナル・ルーティングにしていますが、特にスタジオでは必ずこの方法を用いています。(エフェクトをかけ録りしたギター・トラックを用意することは決して悪いことではないのですが、プロデューサーの多くは、曲のミックスを行う際にウェットのレベルを後から調整できるとありがたいと思うでしょう。そのプロデューサーがたとえあなたご自身であっても!)


最近では、ステージで本物のアンプの代わりにモデラーをモノラル、ステレオ、またはウェット/ドライ/ウェットのセットアップで使用し、最高のサウンドを実現するプロのギタリストも日に日に増えています。私が飛行機での移動が伴うライブでステレオ環境を作るときは、レンタル会社に2台のコンボ・アンプを用意してもらう場合がほとんどです。(90年代後半は、2台の1×12コンボ・アンプを収納したフライトケースと、私のスーツケース両方を超過料金なしで預けることができていました。時代は変わるものです)


このダブルコンボ・セットアップのときは、ディレイとリバーブ(Line 6 HX Stompまたは他に所有している数々のペダルを使用)を完全にウェットな状態で1台のアンプに送り、100%ドライなシグナルをもう1台のアンプに送るようにする場合が時々あって、ウェット側のアンプのレベル・コントロールは、ボリューム/エクスプレッション・ペダルで行っています。前述の“ロックスターお墨付き”の3チャンネルのセットアップと同様に、このウェット/ドライ・セットアップでは、ミキシング・エンジニアと自分が各々の感覚に応じて個別にエフェクト・レベルを調整することができます。私のプレイした音はPA卓でモノラルがミックスされますが、2台のアンプが多少離れた場所に設置されていたとしても、自分が立っているステージ上では満足のいくステレオ・サウンドを得られます。


私は、ピンポン・ステレオをコントロールできるステレオ・リバーブとタップテンポ、そしてデュアル・サブディビジョン・エコー(一般的に片側は4分音符のリピート、もう片側は付点8分のリピート)が大のお気に入りなので、先ほどのセットアップよりも頻繁に使っているのがウェット/ウェットです。


当然ながらこのセットアップにしてしまうと、私のギターの音にエコーが干渉してしまい、観客達にはステージ上よりも不明瞭に聞こえる危険性もありますし、これについてはミキシング・エンジニアもどうすることもできません。この問題が起きないよう、サウンドチェックの時に観客エリアに移動して、自分のギター・サウンドがリバーブやディレイに埋もれてしまっていないか徹底的にチェックするようにしています。(このチェックを行うためには、言うまでもなくギターはワイヤレス接続する必要がありますね)


会場の壁が生む自然な反響音、バンドのメンバーがどのくらい大音量でプレイするか、ドラマーがどんな種類のシンバルを使っているかなど、ライブ用のセットアップでプレイした時のあなたのギター・サウンドの明瞭さを左右する要素は様々です。ですから、立体的なステレオ・ギター・トーンを実現するためには、色々実験してみること、そしてバンドメンバー達の協力が重要です。(まず最初にやるべきこと?それはFOHエンジニアの友人を作ることです)


最後に私が思いついたギター・ジョークをご紹介します。バリスタがエスプレッソ・ドリンクを作るためのさまざまな方法を知っている場合は、きっとオチも想像できるでしょう。

Q. ピーター・フランプトンはどんなカプチーノをオーダーするでしょうか?
A. もちろん、ウェット/ドライ/ウェットで!


ジュード・ゴールドは、ジェファーソン・スターシップのギタリストで、ポッドキャストでは「No Guitar Is Safe— “The guitar show where guitar heroes plug in.”」のホストも務めています。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。