ジェフ・シュローダーがHelixで作るシューゲイザー・トーン

 

アナログ vs デジタル論争はきっと今後も続いていくであろうと思いますが、Helixのようなデジタル・モデリング・プラットフォームが21世紀のミュージシャンらに柔軟性をもたらしたことは議論の余地はありません。


レコーディングにもライブにもメインで使うほどHelixを愛用する理由をよく尋ねられるのですが、素晴らしいサウンドを生み出すソフトウェアのコード内に刻まれているのが、単にトーンを形成する豊富な機材群であるというだけでなく、1950年代以降から現代に至るまでに登場して人気を博してきたアンプやスピーカー、エフェクトの歴史そのものと感じるからです。


私はミュージシャンとしてライブやレコーディングで国内外を飛び回っていますが、Helix Nativeプラグインがインストールしてあるノートパソコン1台、またはスーツケースに容易に収まるコンパクトなHX Stomp1台さえあれば、そんな歴史に名を残す名器をどこにでも持ち運ぶことができます。ステージでもスタジオでも、もはや物理的に置かれているアンプやその他の機材に制限されることなく、自分の耳や感情に任せてクリエイティブな制作活動を行うことが可能になったのです。


80 年代半ばにギターを弾き始めた私は、当時のハードロックやヘビーメタルのギターヒーロー文化に大きな影響を受けました。特にスティーヴ・ヴァイやジョー・サトリアーニ、イングヴェイ・マルムスティーンらは、ギターを始めて間もない私に衝撃を与えました。彼らのプレイは驚くほど洗練されていて、そのテクニックも自分には難し過ぎましたが、沢山聴き込んで多くのことを学びました。高校時代になると、友人を通じて、それまで主に聴いていたギター雑誌で紹介される音楽とは少しタイプの異なるものを好んで聴くようになりました。



80年代が終わって90年代初期になると、イギリス発祥のシューゲイザー系のバンドにのめり込みました。彼らは、ひたすら足元のエフェクト・ペダルを見ながらパフォーマンスしていたのでこのような呼び名が付いたのですが、ある意味納得が行きますよね。私はすぐに、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ライド、スワーヴドライヴァー、スロウダイヴ、ラッシュといったバンドのアルバムを購入しまくりました。こういったバンドが、サウンドのスケール感や深さ、そして超越感といったものを、エフェクトを使いどのように表現しているのかを聴き、すぐにそのギター・プレイのスタイルの虜となって、近所の楽器店で日本製のJazzmasterのリイシュー版をオーダーするために人生で初めてクレジットカードを作ったほどの熱狂ぶりでした。


今日のようにネットで調べればたいていの事がわかる時代ではなかったので、こういったバンドがどうやって独特のサウンドやテクスチャーを創り出しているか解明するのは必ずしも簡単ではありませんでした。どんな種類のペダルを使っているのか、スタジオ用のラックタイプのプロセッサーは使っているのか、といった疑問が多くありました。その頃は、彼らのようなサウンドを作りたいがために、有り金を全て機材に注ぎ込んでいたのです。そして時間をかけ、最終的に行き着いたのは、クリーンなアンプの前段にペダルとラックマウント・エフェクトの両方を組み合わせて接続したシステムでした。完成したシステムのサウンドは素晴らしいものでしたが、ハイゲインのトーンを得るにはある程度の制約があったりしたものです。しかし、今ではHelixのボタンをタッチするだけで時間移動して、80年代中期~90年代初期、そして現代の間を簡単に行き来できます。


おもしろいことに、私の今日のスタイルはヘビーメタルとシューゲイザーの間のどこかでうまくバランスを取って成立しています。今回は、Helixで作成したお気に入りのシューゲイザー・スタイルのサウンドをいくつかご紹介します。過度に複雑なプロセスは必要ないということを示すために、あえてシンプルなシグナルパスとルーティングを用意しました。


EXAMPLE 1


Example 1は、Jazz Rivet 120アンプ/キャビネット・モデルをベースに作成したクリーン・サウンドです。Roland JC-120の現物をエミュレートするため、70s Chorusを“Classic”ステレオ・モードでアンプのすぐ後ろに追加しました。そしてLA Studio CompコンプレッサーとNoise Gateをコーラス・ブロックの後ろに配置しています。これは、ダイレクトなギター音がディレイとリバーブのウォッシュ・サウンドに埋もれずクリアに聴こえるようにするためです。ディレイにVintage Digitalを選んだのは、当時のサウンドに近いと思ったから。リバーブはSearchlightsで、これは減衰する際に美しいモジュレーションが追加され、サウンド内部に魅力的な躍動感が生まれます。


ここで狙っているサウンドのウォッシュ感を作り出すためには、ディレイとリバーブのバランスを上手にミックスさせるのがコツで、ここでは設定はどちらも50%以下にしています。場合によっては、ダイレクトなシグナルよりもエフェクトをしっかりかけたシグナルが欲しいこともあるでしょう。このオーディオ・サンプルは、シンプルなコードのアルペジオや単音のメロディを演奏する場合でも、多くのレイヤーと深さを持つスケール感のあるサウンドを実現することが可能なことを示しています。プレイヤー目線では、コーラス、ディレイ、そしてリバーブがもたらす効果に備えて、音と音との間隔を充分に空けておくことが望ましいですよね。


EXAMPLE 2


Example 2は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが編み出した“グライド・ギター”を思い起こさせるサウンドですが、それを厳密に再現したものではありません。イギリス魂を残すため、このプリセットはEssex A30アンプ/キャビネット・モデルをベースにしています。このミッドレンジを強調したサウンドは、思ったほど広い音域を占有しないため、とても効果的に使えてミックスに埋もれてしまうこともありません。とは言え、軽めにオーバードライブがかかったサウンドならたいてい使える音になりますけどね。


このサウンドを得るコツは、適切なリバーブのタイプを選び、ディケイ・タイムを長めに設定することです。そしてリバーブのミックスのレベルをサウンドがわずかにフェードインするなと感じる値に設定します。Glitzリバーブはこのサウンドと非常に相性が良いです。プリセットをダウンロードいただくと、ミックス・レベルが58%になっているのをご確認いただけます。つまり、ドライなシグナルよりエフェクトのかかったシグナルの割合が大きいということですね。そのため、サウンドがフェードインし、減衰するにつれて大きくなるように感じるのです。シグナルチェーンの最後にはステレオのPing Pongディレイがあり、さらにサウンドに広がりが加わります。また、一番頭にMinotaurドライブ・ブロックを置いています。単音のラインを弾くときは、このブロックをオンにしましょう。そうそう、トレモロ・アームをお持ちの方は是非活用してくださいね。


EXAMPLE 3


Example 3は、LAを拠点とするバンド メディスンの、エクスペリメンタル・シューゲイザー界のギターヒーローと言えるブラッド・レイナーからインスピレーションを得ています。90年代はそれほど脚光を浴びることはなかったものの、シューゲイザーのジャンルに分類されるバンドの中では、メディシンは特別お気に入りです。あまり注目されなかったのは、彼らがいわゆるシューゲイザー・バンドとは一線を画していたからでしょう。どちらかといえば、かなりノイジーなエクスペリメンタル・ポップバンドだったと言えるでしょう。


ジャンル云々はさておき、レイナーは4トラック・カセットレコーダーをディストーション・ペダルとして使用し、独特の強烈なサウンドを実現しました。さらにカオスさを増すために、彼は4トラックの前段にあらゆるディレイとリバーブをセットアップし、リピートやトレイルの全てを強烈に歪ませました。このプリセットは、スマッシング・パンプキンズとは別で参加しているナイト・ドリーマーというバンドの『The Taste』というEPに収録されている“Treasure”で使用しています。


レイナーっぽいトーンを作るために、シグナルチェーン内にあえてアンプを加えませんでした。その代わり、Industrial FuzzとTeemah!の2種類のディストーション・ペダルを隣り合わせに配置し、直接レコーディング・コンソールにつないでいるような状態を作りました。こうすることで、非常に矩形波感のあるシンセっぽいサウンドを得られます。オーディオ・サンプルで使用しているのはスナップショット3で、この曲の中で自分のメインのリード・サウンドとして使用しています。かなりノイジーで制御不能な状態です。2種類のディストーション・ペダルの後ろにも、Reverse、Ping Pongの 2種類のディレイを配置しています。そしてチェーンの最後でGanymedeリバーブを少しかけています。Example 1のように、非常にレスポンスが強いプリセットになっていますので、どんなサウンドが返ってくるかで臨機応変にプレイしてみてください。


シューゲイザー・バンドの特徴でもあるスペーシーでウォッシュ感あるサウンドを実現するためには、適切なタイプのエフェクトとアンビエンスを活用することが鍵であるということを、これらサンプルで実感していただければ幸いです。

ジェフ・シュローダーは、ロサンジェルスを中心に、スマッシング・パンプキンズとナイト・ドリーマーのギタリストとして活躍するミュージシャンです。ギターの他には、コーヒーと20世紀の実験文学が大好物です。


Helix詳細


Primary Photo: Travis Shinn


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。