有益な実験 — オーバードライブをスタックしてみる

YouTubeでペダルボードの動画を観たことがあるなら(ない人はそうそういないでしょうが)、複数のオーバードライブを組み込んでいるボードを多く見かけますよね。最低でも2台、多い場合4台も、一見どこが違うのか分からない同じようなドライブが組み込まれていて、なぜそんなに多く必要なのか不思議に思う方もいるかもしれません。


クランチの色合い
ペダルボードやモデラーのプリセットのシグナル・パスに複数のドライブがある理由のひとつは、それぞれのドライブが異なるカラーを持ち合わせていることです。ミッドレンジをブーストするもの、比較的透明感があるもの、エッジの効いたもの、スムーズなものなどがあります。曲やソロのパートごとに、さまざまな色合いを持つクランチが求められるのです。


なぜスタックするのか
Helixやその他のモデラーを使用すると、それぞれ異なる歪みレベルに調整した別々のストンプを組み合わせたプリセットを簡単に設定できます。また、アナログの世界でも同じようにボード上に異なるドライブ・ペダルを配置して、それぞれ使用することができます。では、なぜそれらをスタックして使うのでしょうか?


音楽に感情表現を持たせるもののひとつがダイナミクスです。ピックのアタックの強さで出力レベルとディストーションのかかり具合をノートごとに調整できれば、全てのノートは常に同じトーン、同じボリュームでありながら、深く歪ませたり、コンプをキツくしたりすることができます。


ギタリスト達は、1台のペダルのゲインを高く設定するよりも、ゲインを低くした2台のペダルをスタックするほうが、よりダイナミクスが広くコンプレッションも少ないことを発見したのです。同じうねりとサスティーンを感じながら、強く歪ませたペダルよりもミックスの中でサウンドがより際立つ傾向もあります。


#何でもよいわけではない
実はブーストとドライブ、ファズとドライブといった具合に、オーバードライブ以外もスタックすることができます。このようにペダルを積みかさね始めると、ある特定のより相性が良い組み合わせパターンがあることにお気づきになると思います。私はアナログの世界では、JetterのJetdriveデュアル・オーバードライブの各サイドから発せられるサウンドが大好きなのですが、両サイドをオンにして相互作用させたり、Trombetta Feederboneファズと組み合わせたりする方法もお気に入りです。どの組み合わせも音楽的で、コンプがかかり過ぎたり澱んだりすることのない素晴らしい結果が得られます。


ソフトでやってみた
私が1965 Fender StratocasterとHelix Nativeプラグインで作成したプリセットを解説したいと思います。


Tweed Blues Brtというアンプ・ブロックをブレークアップ寸前に設定することで、ギターのボリュームを抑えるとクリーンなトーンになります。


そこに比較的透明感のあるPaul Cochrane TimmyドライブをベースにしたTeemah!ディストーション・ブロックを追加しました。

そしてMinotaurを追加し、伝説的存在のKlon風にいくらか中域を強調させます。

それから、スムーズなZen Driveっぽいサスティーンを得られるように、シグナル・チェーンの頭に Dhyanaドライブを配置しました。

各ディストーション・ペダルのゲインは、低めの値に設定してあります。そして、ペダルの順列を個別、それから同時にオンにして実験を行いました。その結果は、以下のオーディオ・サンプルでお聴きいただけます。

1. Ampのみ (0:00~)、2. Teemah! (0:11~)、3. Minotaur (0:22~)、4. Dhyana (0:34~)、5. Teemah!とMinotaur (0:46~)、6. Teemah!とDhyana (0:58~)、7. MinotaurとDhyana (1:10~)、8. Teemah!、Minotaur、Dhyana全て (1:23~)

組み合わせを試そう
もし計算が得意であればギタリストにはなっていないかもしれませんが、今例に挙げたたった3種類のドライブの組み合わせで、異なるサウンドを何種類作り出せるのか、ということは数字に弱い私でさえもすぐに判りました。アンプを通して、これらドライブのいずれかを単独でオンにする、2種類をオンにする、3種類全てをオンにする、そして微調整をすればいくらでもパターンを作れます。もし組み合わせてみてしっくりこなければ、簡単に違うペダルに変更できます。マジックテープやパッチ・ケーブルでごちゃごちゃしたアナログのペダルボードと違って、モデラーなら、時にはペダルの並び順を変えてみるのも手です。


モデリングであればこのような実験的なことが簡単にできますが、そういった類のものを所有されていない場合でも、アナログのドライブ/ディストーション/ファズ・ペダルの組み合わせを変えて試してみることはもちろん可能です。これが正解、というものはありません。自分が聴いてみて満足できれば、それが答えなのですから。


Helixをはじめとするモデリング・システムには、ブースト、オーバードライブ、ディストーション、ファズのモデルが豊富に用意されています。それらを単体、またはどんな組み合わせでも、並び順も含め自由に試してみることができます。最初はゲインを低くした状態から始めて、好みのところまで上げていくのがお勧めです。実験的な試みによって、驚くほど幅広い歪みにアクセスでき、ご自身が望むなら、アナログの世界にも応用できる貴重な知識や経験を得ることができます。


マイケル・ロスはナッシュビル在住のライター、ミュージシャン、プロデューサーです。 guitarmoderne.comを運営し、既成概念を超えたギター関連の情報発信を行いながら、Premier GuitarGuitar PlayerElectronic Musicianにも寄稿しています。『Getting Great Guitar Sounds』、『All About Effects』の著者でもあります。 


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。