ミックスをダメにする5つの方法

 

GarageBandやPro Toolsなどでホーム・レコーディングしているDAWユーザー達が、オーディオ・ファイルをお互いに送り合い、コラボレーションして作品を制作する「COVIDは僕達を止められない(COVID can't stop us)」と題したムーブメントを、私は心から応援しています。日々進化を続けるテクノロジーのおかげで、今日私たちは大規模な商業スタジオで録音・ミキシングされたトラックと全く遜色ないクオリティの楽曲を自宅で制作できる訳ですから、立ち止まらずに進み続けましょう!


とは言え、恐らくラップトップと優秀なソフトウェアが可能にしたホームスタジオの素晴らしい作品に完全には満足していなんじゃないでしょうか。無理もないです。広大なスタジオ、完璧に整備されたコントロール・ルーム、巨大なアナログ・ミキサー、種類豊富なマイク・キャビネット、そして食堂のビデオ・ゲームにテーブル・フットボールを備えた環境で制作された昔ながらのレコーディング・メディアと互角に戦えるはずがありません。


でも恐れることはありません。パンデミック時代のホーム・スタジオ間のコラボレーションをさらに盛り上げ、1972年頃と遜色のない芸術的なレコーディングを蘇らせる5つの方法をご紹介したいと思います。


共同制作者とサンプルレートの「混合曲」を展開する
これは44.1kHz にサンプルレートが固定されているGarageBandユーザーの方にはかなりの「難問」ですが、共同制作者には44.1kHz/48kHz/96kHzの異なるフォーマットのオーディオ・ファイルを提供してもらうようにしましょう。そしてどのサンプルレートなのかは気にせず、面倒でもその全てのファイルをご自身のマスター・トラックにロードしてください。異なるサンプルレートが混在した状態は、オーディオのクオリティに大きな影響は与えませんが、同期に揺れが生じることでインストゥルメント/ボーカルのフレーズやアクセントの強弱のタイミングを乱し、グルーブ感が変化することがあります。もちろん、ギター・トラックがドラム・トラックと並立するよう調整することもできますが、わざわざ手を加えなくてもいいんじゃないでしょうか?少々の同期のズレはお構いなしで、どんな結果になるかトラックをあるがままにしておくというチョイスもあると考えてください。


マイキングのテクニックは深く考えずに
コンデンサー、リボン、ダイナミック等その種類に関わらず、ポップガードなしで直接、そして力強くダイヤフラムに向けて歌ってみましょう。破裂音(ポップ音、パの音)と歯擦音をできるだけ多くキャプチャーします。ヴァースの歌詞のど真ん中に入ってしまったポップ音などは、いずれにしろ完全に修復してしまうことなどできませんので、気にしないようにしましょう。重要なのはパフォーマンスであり、十分に熱の伝わるボーカルに仕上がっていれば、本物のファン達は少々のオーディオの粗は気にとめないはずです。


リバーブはベタベタに塗りまくる
良いものはいくらあっても困らないので、あらゆるところにリバーブを多用しましょう。ボーカル、バックボーカル、ギター、スネア、キックドラム、そして特に臨場感あるキーボードやパーカッション・トラックにはたっぷりリバーブをかけましょう。例えアタックや精密さ、明瞭さ、エッジや透明度が損なわれても、壮大な滝のように流れるリバーブがリスナーを感動させるのに必要なのです。


とことんトラックを歪ませる
派手なアクション映画と同じく、ほとんどの楽曲はインパクトがすべてと言えます。音楽が再生されたときの爆発力、迫り来るサウンドで聴く者をあっと言わせたいですよね。どのトラックも潰れるほど強めにコンプレッションをかけて、トラック全体が締まりのない状態にならないようにミックス時にはあらゆる要素がプロセッシングされているようにしましょう。あなたは音の魔術師です。ここでは是非積極的になって、大胆にいきましょう!


周波数帯域上でデスマッチを始める
大胆にと言えば、周波数帯全体を横断するバトルを繰り広げることでドラマチックな展開を加えてみましょう。あえてローエンドを、キックドラム、ベース、キーボード、そしてギターが競合するように調整を加えるのです。(きっと求めているのはそんな「熱い」サウンドですよね?)次にギター、ボーカル、そしてあらゆるミッドレンジの周波数帯にも手を加えます。そしてこれら全てのパートに、できれば1kHzから5kHzのレンジでEQするのを忘れないでください。またシンバルやその他高域に属するパートのレベルを上げ、10kHz以上のレンジでEQをブーストすると、そのキラキラ感の猛攻撃が開始されます。

“依頼されるどんなミックスの仕事においても、ここで詳述しているダメな5つの方法のうち、1つか2つ、ときには5つすべてを取り入れています。間違ったことは、常に賢い人たちや才能に恵まれたアーティストから生まれるものです。”

そしてもうひとつ、ちょっとしたワザがあります。それぞれのトラックを別々に再生して、ソロの状態で最高のサウンドになるようしっかり調整してみてください。ミックス内のすべてのサウンドが、他のトラックとステレオ再生した際に収まりがよくなるようにする必要は全くありません。トラックごとに、そのひとつひとつのサウンドがベストな状態になるようにすることで、ステレオ・ミックスしたときにそれぞれのトラック特有の周波数帯域が生き生きとしてくるはずです。


矛盾を楽しむということ
そんなところにしておきましょう。ここでは「あべこべの世界」の中で、よくある基本的な「やってはいけないこと」を「実際にすべきこと」に置き換えて楽しんでみました。でも、ショッキングな事実です:こうした破天荒にさえ映る音響手法のどれもが、アーティストやバンドのミックスの仕事が私に依頼されたときには行われているのです。依頼されるどんなミックスの仕事においても、ここで詳述しているダメな5つの方法のうち、1つか2つ、ときには5つすべてを取り入れています。間違ったことは、常に賢い人たちや才能に恵まれたアーティストから生まれるものです。


なぜこのような状況が成り立つのか考えてみましょう。恐らくその理由のひとつは、今日の平等性の高いボーダレスな制作アプローチにあります。誰でもソーシャル・ネットワークを通じて楽曲を公表できますし、それを気に入ってくれるファンが出てくれば結果オーライと言えます。型破りなアプローチの優れた作品に火がつけば、作曲のテクニックやパフォーマンス・スキル、ハイクオリティなサウンドは一気に開花することもあり得ます。


もちろんアーティストであるならば、クリエイターの人物像やレコーディング機材の充実度、あるいはマーケティングの洞察力やプロモーション費用の高低にかかわらず、商業界での運命を左右するのは大衆による評価である点を認識しておく必要がありますが、それでもご自身のテクニックを磨き、魅力的な音楽を作ることには何ら問題もありません。商業的に成功することと成熟したアーティストになること、そのどちらも手に入れることは可能なんです!


ベッドルームやガレージ、バスルーム、リビングルーム、庭、どこでトラックのレコーディングを行うにしても、知識や経験が不足していることを理由に制作のプロセスやサウンド・クオリティに制限をかけてしまわないようにしましょう。もちろん、自分ひとりで制作を行っているのであれば、うまく切り抜けられる場合も多くあるでしょう。しかし、ドラマー、ギタリスト、ボーカリスト、キーボーディスト、パーカッショニスト、または私のような外部のミックス・エンジニア/プロデューサーなど他人と共同作業しなければならない場合は、その関わる人にとって楽しく簡単で、技術的に一貫性ある制作プロセスを持つことが重要と言えます。では、この記事を「ミックスを最高にする5つの方法」に変えてしまうTipsを具体的にご紹介します。ぜひお試しください。

優秀なレコーディング機材を自由に使えるからといって、プロセッシングすることばかりに気を取られて、コンプレッションやEQ、その他を可能なツール全て駆使して無数のテクスチャーをミックスに組み込む必要はありません。抑制心を持って、トラックに自由を与え、クールなツールを使うこと自体を目的にしないようにしましょう。そうすればきっと素晴らしいミックスに仕上がるでしょう。


サンプルレート — GarageBandを使用していて、異なるサンプルレートが混在しているためうまく同期していないトラックが発生する際の大きな問題は、トラックを前後に微調整してよりリズミカルな状態に戻す作業をしているうちに、自分が感じ取るグルーブ感を押し付けてしまい、ビートのジャスト、前、あるいは後ろで演奏しているパフォーマー側の解釈とは異なってしまうことがあることです。ミキシング・エンジニアは常になにかを動かして調整していますが、自分の中でよいと思うことをあれこれする前に、アーティストの意図を推し量っているのです。簡単な解決策があります:使用するDAWに最適なサンプルレートを選択し、共同作業者には指定した形式のオーディオ・ファイルを送ってもらうようにしましょう。そうすれば、面倒なことはなにもありません。


マイク・テクニック — マイクに向かってどう歌うかを気にかけるアーティストがほとんどいないことには発狂させられそうになります。マイクのセッティングが適切になされていなかった場合、ピッチやフレーズの調整を行うより前に、まずは破裂音、歯擦音、不要な環境音、シグナルチェーンの歪みなど、様々な問題を解決することにかなり時間を要してしまいます。ホーム・スタジオでボーカル録りする方には、マイクのダイヤフラムに対する空気の流れを減らすためにポップガードを使用するようお願いしています。もうひとつのポイントは、直接マイクのダイヤフラムに向かって歌わないことです。口をマイクの横または上に向け、唇は振動板から25cmぐらい離すのがベストです。いろいろ試して、こもらずクリアなサウンドを得られる最適な位置を見つけましょう。それから、録音の際は入力レベルによく注意しましょう。マイク・プリアンプの入力を固定したままにしてしまうミュージシャンをときどき見かけますが、レベルメーターがオーバーしたら録音は一旦中止して、音がぼやけたり歪んだりしていないか確認し調整するようにしましょう。ボーカルの素の音を記録する妨げになっているものがないか、シグナルチェーン内のあらゆる要素をしっかりチェックしてください。環境音(犬の鳴き声やリーフブロワーの音がしている間はレコーディングしない)、ルーム・サウンド(レコーディング・スペースにフラッターエコーやその他邪魔になる音があればマイクを移動したり、極端に乾燥している場合は湿らせ毛布やタオルを置くなどして対処する)、そして心身の状態(疲れていたり、ストレスが溜まっている、または集中できないときは無理をして歌わない)などにも気を配りましょう。


リバーブ — ミュージシャンの多くは、リバーブさえかけていれば何でもより良く聴こえると信じていますが、干渉するリバーブが多すぎるとそれぞれの楽器のインパクトが損なわれ、まるで全体的なミックスが海の底で作成されたかのようなサウンドになってしまいます。私の場合、ミックス作業はリバーブやエフェクトは一切かけずに完全にドライな状態で行い、それから1日時間を開けるようにしています。耳がフレッシュな状態になったところでまた作業に戻ったときに、ドライ・ミックスのままが良いのか、それともトラックのいずれかにリバーブをかけたほうが良さそうかを判断します。さらに、リバーブ・プログラム内でウェット/ドライをブレンドしてみたり、ディケイ・タイムを短くしてみたり、特定のリバーブ・サウンドでミックス全体をより良くすることができるかなどの微妙な違いを確認します。長めのリバーブが素晴らしいサウンドの鍵となる場合はそれを採用しますが、その場合はたっぷりリバーブをかけるのはそのトラックだけに限定するようにします。ここには厳密なルールは存在しませんが、アンビエンスが多すぎるためにミックスのインパクトやパンチが失われないよう注意する必要があります。また、特定のパートを強調させたいときは、リバーブやモジュレーション・エフェクトではなく、EQやパンなどの他にも方法があることを覚えておいてください。


コンプレッション — アーティスト自身がトラックにどうしようもないコンプレッションをかけてしまうと、何か変更したいと思ったとしても私にできることは何もありませんので、ヘタなことはしてくれないよう祈るばかりです。ですが、コンプレッションをよく理解していないホームスタジオ・ミュージシャンも結構いて、悲しい思いをすることがよくあります。曲をミックス・エンジニアに送る際は、コンプをかける必要はまったくありません。コンプのことは一切忘れてください。そうすれば、必ず最終的にすべてうまくいきます。


周波数スペクトラム — プラチナ・レコードを生み出した名プロデューサーから学んだ衝撃的な教訓のひとつは、レコーディング中一切EQに触れず、ミキシング中もほとんどEQをいじらなかったことです。信じられない気持でいっぱいでしたが、彼の手掛けたトラックは本当に素晴らしい仕上がりでした。ホーム・スタジオでミックスを行うアーティストの中には、実際にトーンに手を加える必要性があるのかどうかを見極めることなく、目の前にある全てのトラックになんでもかんでもEQする人も少なくありません。また、EQをいじるのが好きな人たちは、たいがいそれぞれのトラックをソロにしてEQ調整をしていますが、私は、それは時間の無駄だと感じています。ソロにしたスネアの音色が単独で良い音であったとしても、最終的なステレオ・ミックス内で他の周波数帯のパートとうまく馴染む素晴らしいサウンドになるとは限りません。楽曲のミックスをプロに依頼するのであれば、EQについても完全にお任せするのが一番ですから、EQは何も触らずフラットなままのトラックを送りましょう。もしあなた自身がミキシングを行う場合は、すぐにEQに手を伸ばすクセをやめましょう。クラーク・ケントがスーパーマンに変身するのと同じように、EQの力に頼るのは本当に必要なときだけにしましょう。



マイケル・モレンダは、『Guitar Player』(1997-2018)で最も長く編集長を務めた後、ウェブサイト、GuardiansofGuitar.com及びNowGenDrums.comを設立しました。また彼は、Line 6及びYamaha Guitar Developmentのコンテンツも数多く寄稿しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。