モデラーの担い手 — エリック・クラインが語るHelix 3.0

Line 6のチーフ・プロダクト・デザイン・アーキテクトという肩書を持ち、Helixのオーソリティであるエリック・クラインは、最近勤続10周年を迎えました。


サウス・ダコタの生まれのエリックは、楽器を販売することからこの業界に入りましたが、夢は自身で楽器をデザインすることでした。Tucson’s Rainbow Guitars、そして南カリフォルニアにあるRolandの米国本社でキャリアを積んだあと、Line 6の創業者であるマーカス・ライルに新しいプロダクト・ラインのアイデアを売り込み、そのアイデアは実現こそしませんでしたが、マーカスは彼の才能を見抜いて言いました。「ここで一緒に働こう」。


エリックは気さくで明るく、話好きなエネルギッシュな男で、Helix 3.0アップデートのリリースの少し前に話しをする機会があり、お気に入りの新機能や彼のチームの開発プロセスについて語ってくれました。


あなたはHelixプラットホームの方向性に責任のある立場なんですよね?


何人かのうちのひとりですけどね。チームHelixは、製品が非常に成功しているので、その方向性にかなり自由度があります。これは素晴らしいことです。それが推進力につながっていて、製品が成功すれば、会社は次により大きなリスクを取る自由を与えてくれるんですね。


多くの製品における意思決定はユーザーからのフィードバックに基づいているとのことでしたよね?


もちろんです。このような環境で仕事をしていると、個人的にはフィードバックを受けなくなったりしますが、その代わりに、物事をよりクールに、よりよく、そしてより楽しくするための機会としてとらえています。それがIdeaScaleと呼ばれるオンライン・ポータルを活用している最大の理由で、ユーザーが機能への提案や不満を書き込んだり、ユーザー間でやり取りができたりするようにしているのです。皆さんがアイデアについての賛否を投票することもできます。2012年から始めて、POD HD500についてのたくさんのアイデアや要望を受け付けましたが、そのおかげで膨大な改善案リストができました。ですので、実際のところHelixは、IdeaScale経由の提案によって作られたと言えます。そして多くのアップデートのアイデアもそこから来ています。


ただし、これらの要望の解釈は、単にチェックボックスにチェックするだけのように簡単には行かない場合があります。一見異なるいくつかのユーザーの要望は、最終的に一つの究極的なソリューションを指し示すことがあるのです。複数の問題を有機的かつシンプルに解決できることもあります。ライバル製品の機能について、同じことができるかといった内容の要望もよくありますが、単に機能をコピーするのではなく、より良く、より早く、そしてよりスマートに、別のアプローチで実現できるかどうかを自分自身に問いかけることにしています。


“ペダルに取って代わるものを創るだけではなく、ペダルすらないものも創るべきなのです”


具体例をお聞かせください。


スナップショットがそうです。この機能は4つか5つのユーザーからの要望を解決しました。同じエフェクトやアンプを複数のフットスイッチにアサインできるようにしてほしい、あるいはパッチ間のシームレスなスピルオーバーがほしい、というような複数の要望を、スナップショットがまとめて解決したんですね。この機能を常に使えるようにするためにスナップショットを前面の中心部に配置する方法を、時間をかけてあれこれ考えたのですが、使いたくない人たちの邪魔にならないようにもする必要がありました。これについてはマーカス・ライルといろいろ話しましたね。スナップショットで各ブロックのバイパス状態を保存することにはしていましたが、パラメータのアサイン方法は難題でした。ある時、マーカスと話し合っていたら、彼が「押しながら回してみては…?」と言ったことでもやもやが晴れました。つまりパラメータのノブを押しながら回すと、スナップショットのコントロールが有効になるんですね。すべてはホーム画面にある状態なので、メニューから探したりする必要はない訳です。

3.0でも同様の例はありますか?


フェイバリット(Favorites)がそれに当てはまると思います。あるユーザーたちは、ブロック単位のプリセットを求めていましたが、不要なレイヤーが増えすぎて使いにくくなるように感じました。別のユーザーは、好きなように調整したブロックを、いちいちプリセットからコピー/ペーストしなければいけないことに不満をもらしていました。また、絶対に使わないアイテムはリストから取り除きたいという声もありました。ですので、3.0では誰もがお気に入りのアンプやエフェクトを調整したものをFavoritesとして保存することができ、それらがメニューの一番上に表示されるようになっています。名前や順番を変えたり、フットスイッチのアサインも記憶させることもできます。空のプリセットから作り始める場合、最初のブロックでダイヤルを回せば、フットスイッチのアサインも含めたお気に入りたちが揃っているという訳です。常に同じブロックを使うのであれば、もはやモデル・リストさえ開く必要がないかも知れません。


Helix 3.0では、プラットホームを立ち上げたときには予期していなかったようなことができるようになったそうですね。


当初は強力で、とてつもなくメモリーを消費するようなブロックは考えてなかったんですよ。みんなできるだけ多くのブロックを詰め込みたいと考えるんじゃないかと。結局マルチ・エフェクトなんですから!でも、ブリティッシュ・コロンビアのヴィクトリアにいる新しいR&Dチームは、私たちが通常マルチ・エフェクト・デバイスで考えるスコープを超えるクールなアイデアをたくさん持っていたのです。新しいGlitch Delay、Shuffling Looper、そしてPolyペダルはたくさんのDSPパワーを占有します。 3.0では、現実の世界に存在するエフェクトだけにフォーカスするのではなく、どこにもないクールでユニークなものへの一歩を踏み出したかったのです。これだけの強力なDSPエンジンを持っているからには、ペダルに取って代わるものを創るだけではなく、ペダルすらないものも創るべきなのです。新しい3.0のモデルはとてもたくさんのクリエイティブな使い道があるんですよ。


例えば?


個人的にはPoly Pitchが最もエキサイティングですね。DigiTechのWhammy、 Ricochet、そしてDropを1つのモデルにしたようなものです。でも、それから「モジュレーションも追加しようよ」ってなったりして。Whammyが好きでも、ハイエンドがちょっと耳障りなことがあったりすると思いますが、ピッチが上がるにつれてEQのロールオフの量が変化するティルト補正を適用することができるのです。DSPの消費量が多いことに対処して使うことができれば、 Poly Pitchは地球上で一番音の良いポリフォニック・ピッチ・エフェクトでしょう。目的のピッチに到達する時間を秒でも拍でも選択でき、カーブを定義したり、エフェクトをモメンタリ・スイッチにアサインしたりすることで、ダイブボム(ピッチを急変させる効果)やテープを止めたときのような効果、レコードのスクラッチ効果を得ることもできます。


新しいGlitch Delayはどうですか?


Glitch DelayとShuffling Looperは、エフェクトというよりも楽器ですね。オーディオをキャプチャーしたら、Helixのノブでモジュラーシンセのようにプレイできるんです。ディレイのスライスを反転させたり、オクターブをシフトしたりする展開を選択でき、気に入ったものを見つけたら、その場所に固定してトラックにすることができます。単におもしろいエフェクトというだけでなく、クールな新しい曲のアイデアを生み出すことができる訳です。


他にもエキサイティングなブロックはありますか?


Poly Sustainブロックも非常にクールですよ。実際にプレイしたものを任意のピッチでフリーズさせることができ、エクスプレッション・ペダルでブレンドすることもできます。何かプレイして、スイッチをホールドし、それからエクスプレッション・ペダルを使って、例えば実際にプレイしたもののオクターブ下のドローンを挿入させるとか。プロセスされたオーディオは変化しないので、いわゆる「ジッパー・サウンド」のようになることもありません。さらに専用ペダルではあり得ないくらいのたくさんのパラメータを解放しました。きらびやかにも、トリッキーな感じにも、不気味な感じにもできます。みなさんがこのエフェクトを悪用したり、乱用して遊ぶのに必要十分なコントロールを追加したかったのです。


多くのユーザーは自分のお気に入りのアンプやエフェクト・モデルを求めていますよね。でも、3.0には彼らが思いもよらなかったエフェクトが含まれています。ユーザーの期待とサプライズの間の調整はさぞ難しいことなんでしょうね。


最適なバランスを見極める必要がありますからね。3.0では、いくつかのエフェクトには、「これがすべてのパラメータで、こうやって動作して、これが使いこなすためのTipsです」と言った説明を加えました。私たちのお客様は忠実かつよく声を上げてくれるのでありがたく感じていますし、お互いに助け合ってもくれています。3.0の新しいエフェクトの多くが世の中に広まった頃には、「おお、こんな使い方があったのか!」と言わせてくれるようなYouTubeの動画を見ることができると信じています。


どのブロックを新しく追加するかはどうやって決めているのですか?フォーラムでの人気コンテストとか?


IdeaScaleが一番大きな要素ですね。最もリクエストの多かったアンプはDiezel VH4で、3.0で追加されました。Fender Princetonは2番目で、同様に追加されています。でも、単に求められることに対応するだけにはしたくないんです。Line 6の社員の多くはミーシャ・マンソー(ペリフェリー)のファンで、だからHorizon Precision Driveを追加したかったんです。そしてそのゲートの機能がユニークだったので、スピンオフさせて新しいゲートのモデルにしました。Revv Generatorは、他のどのモデラーにも搭載されていなくてほとんどリクエストはありませんでしたが、真空管アンプやメタル・ギター系のフォーラムでめちゃくちゃ盛り上がっていたので、「これ入れよう!」と思いましたね。すでにモデリング済のアンプとよく似たアンプをリクエストされた場合は、あまり意欲は沸きません。


自身の音楽を創る時間はありますか?


12曲入りのアルバムを作るのにずっと時間をかけています。自分とシンガーだけの編成で、ノイジーで、ポップで、ダークで、たまにラウドだったりする音楽です。たまにオーケストラ・セクションがなだれ込んで来たりもします。今日のHelixの仕事を終えたら、何曲かのミックスを終わらせようと思ってます。


Helixの詳細

 

ジョー・ゴア は、サンフランシスコ在住のミュージシャン、ライターであり、ハイテクオタクです。多くの著名なアーティストとのレコーディングやライブ経験を持ち、主要なギター雑誌の編集もこなしていました。彼はアナログ・ストンプボックスsound collections for Helix をデザインしています。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。