Helixのアンプに備わっているサグ、バイアス、バイアス・エクスカージョン設定の活用

 

デジタル・ギアを使用しハイクオリティなトーンを作り出しているとしても、そのサウンドの大元となっているのは、新旧様々な素晴らしい真空管アンプです。そしてあまり知られていない事実ですが、それらアンプに備わっているパラメーターのいくつかは、全体的なサウンドやパフォーマンスを驚くほど左右する場合があります。Helixプロセッサーのコントロールの中で、あまり重要視されていない、または誤った理解をされていることも少なくないのは、サグとバイアスです。これらのパラメーターを調整しても違いがはっきり判らないかもしれませんが、トーンを完璧に仕上げる上で重要な役割を果たすことができます。これらパラメーターが古き良きアナログの真空管アンプでどのように機能するか理解すれば、Helixのアンプ設定の参考になることでしょう。


名称も本質もサグはサグ


サグは“コンプレッション(compression)”、または“スクワッシュ(squash)”、あるいは真空管アンプにおいては“スウェル(swell)”や“ブルーム(bloom)”と表現されることもあります。簡単に言うと、これは真空管(特に整流管と出力段にあるもの)が高い出力レベルで動作中に大きな負荷がかかった際に、回復しフルパワーに戻るのにかかる時間を指します。


パワー段のサグによって整流管からの供給電圧が低下すると、ピーク時のパフォーマンスが低下するのに伴って、出力管は増幅の需要に追いつこうと動作レベルの許容範囲内でフル稼働になり、これがサウンド内にジューシーでコンプレッション感のあるサグを生むことがあり、プリ管が強くドライブされると、電圧供給が安定している場合でも発生します。どちらの場合においても、真空管の歪みとブレンドされることで、音の立ち上がりにスポンジ感を生み出しますが、これは、大きくて効率的な電源を備えた、大音量のレスポンスにも耐えうるアンプのタイトで切れの良いアタックとは対照的です。実際強いサグが特徴のひとつである小型アンプでは、少なくとも強い負荷がかかった際には、整流管によるサグと真空管のサグの両方の組み合わせた感覚が得られます。


一般的にサグは、整流管と関連付けられて話されることがほとんどです。これらのコンポーネントが、性能上の上限ぎりぎりで機能するように求められた場合(例えばアンプの音量を上げた場合、あるいは厚みのあるパワーコードや小刻みな高速リフをヘビーなピックアタックで弾くような場合)、その需要に追い付こうとするため、真空管回路の他の部分へ供給されるDC電圧は下がることがあります。その結果、ノートやコードのアタックにコンプレッションに似た柔らかさが加わることが多く、システムが最大電圧に戻ると、ある種の膨らみと華やかさが生まれます。ほとんどの場合、特にサグの効きやすいアンプであっても、この一連の挙動はかなり素早く起こるため、ある時にはほんのわずかな、そしてある時には劇的な変化だったりもしますが、プレイ中の感覚と全体的なサウンドに十分な影響を与えると言えます。


サグを語るときに、まず頭に思い浮かぶのは小型のツイードアンプです。50年代(そしてそれ以前の初期モデル)のFender 5E3 Deluxe、そしてより小型なChampとPrincetonモデルは、間違いなくプレイヤーが馴染みやすいサグを持つ魅力的な名器です。50年代、そして60年代のハイパワーなヴィンテージ・アンプも強めにプッシュしたときのサグは特徴的で、それらより後期に登場したどのアンプでも似たような回路が採用されています。


アンプはサグの状態を得るために必ずしも整流管が必要というわけではありません。ソリッドステートの整流回路でも、より大きなパワーが必要とされるホットでヘビーな状態になるとわずかにサグが得られます。しかし、それに加えて、負荷がかかっている他の段にある真空管やそれらの真空管自体、特に出力管でもサグを得ることができます。


HX Edit上の、US Double Nrmアンプ・モデルのサグ/バイアス/バイアスXのコントロール画面


サグを上げるか下げるか


今回のテーマを興味深いと思うか思わないかは別として、本当に重要なのはサグを調整することがご自身のプレイスタイルに適しているかどうか、そしてそれに応じた値の調整ができるかどうかがポイントです。中~小型のヴィンテージ・アンプ・ファン、そして特にブルースやクラシックロックのプレイヤーには、真空管や整流管のサグについて熱く語る人も多く、それは普遍的に良いことだと思われているかもしれません。実際このパラメーターは、様々なタイプのプレイスタイルに心地よいタッチを与えてくれます。ただし特定のスタイルによっては、アンプのサグをほとんど、またはまったく必要としないジャンルも存在します。テンポの速いカントリーのピッキング、タイトでモダンなメタルや速弾きなどでは、サグはノートやパワーコードがぼやけてしまい、増幅されたサウンドが指の動きに追いつかず、スラッジの良さが失われてしまう可能性があるため、サグを最小限に抑えたアンプで演奏する方が、より満足のいくサウンドが得られるはずです。


本物の真空管アンプの場合は、サグの度合いを調整することはほとんどの場合、不可能です。最近のアンプの中には、調整可能な範囲やハードとソフトの切り替えを可能にする機能を搭載しているものも存在しますが、一般的には回路設計やパワー段、アンプの使用年数と状態に依存します。そこで登場するのがHelixのサグ・コントロールです。例えば、大きくてタイトで図太いツインリバーブをベースにした魅力的なモデルに、もっとジューシーで、奥行きのあるフィーリングも付け加えたいと思ったときには、スクロールダウンしてサグ・コントロールを表示させ、値を少し上げてあげれば良いだけです。


一方、ツイードやその他の低ワットのアンプ・モデルの音色が好みでありながら、速いスピードのチキンピッキングや正確なコードワークのために、よりタイトで素早いレスポンスが求められる場合には、そのモデルのサグの値を少し下げます。そうすることで、より大型で動作速度の速いパワー段を備えたアンプの効率とレスポンスを驚くほど簡単に再現できます。


サグを調整すると効果的なタイプとそうでないタイプ両方を、いくつかのモデルで試してみれば、この一見大差なさそうなパラメーターが、理想的なピックの感度を得るのに大きな役割を果たし、完璧なサウンドを実現することができるとすぐにわかるでしょう。


真空管アンプのバイアスを調整するロサンゼルス在住のアンプ技術者、マイク・ランチェスキーニ。

バイアスの役割


真空管のバイアスの役割は、パワー段から供給されるDC電圧レベルに応じて、出力管を最適な状態で機能させることです。製造過程でどうしても生じてしまうほんのわずかな差により、個々の真空管がどれぐらいのレベル効率で動作し、増幅回路によって供給される電圧に応じどのように挙動するかは個体差が避けられません。経験豊かなディーラーであれば、通常これら真空管の中から最も効率性とパフォーマンスが近いものでペア、またはクワッドを組み動作させますが、異なる新しい出力管の組み合わせにおける必然的な差異は、固定バイアスのクラスABアンプでは、その寿命を通して使用されるであろうすべての真空管で最適に機能する、一定の動作レベルを設定することは不可能です。


そのため、このようなアンプのほとんどには調整可能なバイアス回路が搭載されており、ユーザーまたはテック担当者が変更後、真空管の各セットを確認し、高レベルのDC電圧においてベストな状態で機能するよう調整をすることができます。(一部のヴィンテージ・アンプには、異なる真空管のセットでも十分使える結果を得られる調整不要なバイアス・ネットワークが採用されており、これらアンプが普及した1950年代当時に使用されていた真空管の品質は、多くの場合、許容できる範囲内でパラメーターはあまり大きな差異はなかったことになります。)


またバイアスには出力管を最適に機能させる役割だけでなく、やや変則的ではありますが、出力管をサウンド面で好ましい状態に微調整する役割を果たすこともあります。アンプの出力管にかかるバイアスを“ホット”な状態にする、すなわちアンプに大きく負荷をかける(早く消耗してしまう可能性が高いですが)と、よりウォームでソフトなサウンドになり、歪みも発生しやすくなります。一方バイアスを“コールド”な状態にすると、よりパンチの効いたサウンドになり、ヘッドルームも増えますが、歪みが生じたときに“甲高い”または“耳障り”と表現されるようなサウンドになる場合があります。


このような性質はすべて、いわゆる固定バイアスのアンプ、つまり調整可能なバイアス・ネットワークを搭載したクラスABアンプについて言える点に注意してください。これ以上真空管の技術的側面を深く掘り下げる必要はないのですが、ほとんどのバイアス調整が可能なアンプで、この“固定(fixed)”という言葉が用いられているため、混乱を招いてしまうと言えます。一方、真空管の交換時にバイアス調整を必要としない自己バイアス方式のアンプには、調整できない固定のレジスタとコンデンサが採用されています(Vox AC30、Fender 5E3 Tweed Deluxe等がその一例)。


Helixのアンプ・モデルにバイアスのコントロールが備わっていることの利点は、ウォームにしたりソフトにしたり、またタイトにしたりハードにしたりといった、ホットもしくはコールドなバイアスが実際の真空管アンプの出力段に影響を与えるような微調整ができることです。さらには、アナログの世界の物理的な真空管では起こり得るような、早期に消耗させてしまうリスクも避けることができます。このコントロールは、この点において自己バイアス方式のアンプ・モデルも調整することができ、はんだごてを使い回路内に致命的なダメージを与えるような心配もなく、本物の真空管アンプでは不可能な音色の微調整を可能にします。もう少しアンプの音を硬めでタイトに鳴らしたい場合は、このバイアス・コントロールをスライドさせて少しコールド側に調整するだけです。逆に歪みがより早い段階で生じるややウォームでルーズ感のあるサウンドが欲しい場合には、ホット側に調整しましょう。


バイアスX: バイアス・エクスカージョンへの入口


本物の真空管アンプの性能に影響を与えるもうひとつの要因は、パワーアンプ内で高い入力レベルと歪みが生じた際に、出力管のバイアスがどのように反応するかということです。このバイアスは、クリーンなサウンドでの演奏であれば概ね全体にわたって比較的安定していますが、アンプのボリュームを上げアグレッシブなプレイになると、フェーズ・インバーターからよりホットなシグナルが出力管のグリッドに送られ、そこには“バイアス・エクスカージョン”と呼ばれるものが含まれます。このエクスカージョンは、バイアスのレベルを一時的に少しだけ抑えますが、負荷が大きくかかっている状態の場合、時には標準のバイアスのレベルの半分またはその2倍にまでに減少させます。


アンプが大音量で負荷も大きい状態でも、通常普通の状態では、生じるバイアス・エクスカージョンはほんのわずかで、それが極端になるまでは音の変化はほとんど分かりません。はっきりと分かるようになったときには、クロスオーバー歪みが発生したように聞こえるはずです。これは、科学的な見地では、自然にオーバードライブがかかることで真空管が滑らかに歪んでいくよりも、枯れた感じの貧相な歪みとされています。


Helixのアンプ・モデルには、高入力の条件下に出力段で発生するバイアス・エクスカージョンを制御するバイアスXというコントロールが用意されています。この値を高く設定すると、そのモデルは任意のバイアス設定範囲内で最大のエクスカージョンが生じ、上限に向かいドライブされたときに真空管で聞こえるクロスオーバー歪みをより多く引き出します。ほとんどの場合において、バイアスXのコントロールを調整してもその違いははっきりと分かりません。大多数のプレイヤーは恐らくこのコントロールを完全に無視しても問題ないですし、それでもなおHelixのトーンに完全に満足できると思いますが、Line 6がリアルな真空管アンプの性能のフィールをより深く掘り下げているもうひとつのパラメーターでもあります。


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結論としては、サグ、バイアス、そしてバイアスXのパラメーターを上手く活用することで、Helixのアンプ・モデルのサウンドとプレイしたときのフィールに大きく影響を及ぼすであろう基本的な真空管アンプのパラメーターを制御できるということです。Helixでこれらのコントロールを調整することの利点は、何かを壊すことなく素早くアクセスでき、そしてすぐに元の状態に戻せることです。さらには、サウンドを素早く好みに合うよう調整して、どのアンプ・モデルを使ったプレイでも最適化することができます。是非これらパラメーターのスライダーを自在にコントロールして、心から満足のいくトーンを見つけてみてください!


Helix詳細: https://line6.jp/helix/


Main image: Alex Legault
Photo of Mike Franceschini: Dan Boul


デイヴ・ハンターは、『The Guitar Amp Handbook, British Amp Invasion, The Gibson Les Paul, Fender 75 Years』を始めとする著書を複数執筆し、『Guitar Player』、『Vintage Guitar』、『The Guitar Magazine(イギリス版)』にも数多く寄稿しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。