トーン作成の基礎となる出力管の知識

Mullard 6L6GC

特定のタイプの出力管は、昔から定番のアンプのサウンドと密接な関係があり、それゆえその象徴的なイメージの一部として考えられるにようになり、一般的にはギター・トーンを定義するものと認識されています。アンプ・メーカーによっては、優秀な回路設計者ならどのようなタイプの出力管であっても、それを最大限に活かしたトーンを生み出すことができると言うでしょう。しかしながら、実際に定番のアンプやブティック・アンプで同じように鳴らしてみると、特定の真空管のタイプが独特の音のキャラクターをより引き出していることがわかります。いくつか例を挙げると、レオ・フェンダーがツイードのDeluxeとTwin Reverbに6V6と6L6をそれぞれ採用したのは、単にこれらが入手しやすく価格もリーズナブルだったからかも知れません。しかし今ではこのサウンドが神聖視され、我々はそのサウンドを得るためにどの真空管を使用すればよいかが正確にわかるようになったわけです。


優秀なメーカーであれば、どんな真空管を用いてでも幅広いタイプのサウンドを作り出すことができ、クリーンにでも、オーバードライブ気味にでも、またはその中間にでも操作することができることに疑いの余地はありません。しかしこの記事では、最も一般的な出力管を用いた定番サウンドを得るには何が必要かを、ヴィンテージなものからコンテンポラリーなものまで、これら出力管が使用されているいくつかの秀逸な設計例と共に解説します。

Electro-Harmonix EL34

ここで“出力管”という用語を使用していることに注意してください。これら真空管はアンプの“出力段”と呼ばれるところの一部であり、出力トランスを介してスピーカーに流れるアンプの出力信号を生成します。これらは“パワー管”と呼ばれることもありますが、AC電源を真空管自体が動作するための直流電圧に変換する“整流管”と混同してしまわないように、私は普段から“出力管”という表現をあえて使うようにしています。


真空管の構造は良く分からないという方でも、真空管を搭載しているアンプの背面を見ればどの部分を指しているのか判別するのはさほど難しくありません。出力管はアンプ内で最も大きい、もしくは最も背の高い管である場合がほとんどです(整流管が搭載されているアンプの場合は、それを出力管と見間違える可能性もありますが)。


熱電子を利用したデバイスが主流だった時代には、ギターアンプに限らず、ラジオやステレオ、テレビや放送機器、レーダーなど幅広い製品に、様々な種類の出力管が搭載されていました。今日では現代のアンプ・メーカーで6種類ほどの出力管が使用されており、そのうちの4種類が数多く採用されています。それらの最も一般的な4種類の出力管は、6L6GC (5881の場合も有り)、6V6GT、EL34、そしてEL84です。現在KT66、KT88、6550を搭載したアンプを製造しているメーカーは数えられるほどしかなく、さらには非常にレアな出力管タイプである6BM8 (別名ECL82)、7591、そして6973を使用した珍しい設計を採用しているメーカーもいくつかありますが、今日製造されているアンプの95%には、先に述べた最も一般的な4種類の出力管が使用されています。


これら最も一般的な出力管のうち、EL84(及びあまり見かけることのない6BM8と6973)はほとんどのプリ管と同じ直径ですが、背が高く、同じ9ピン・ソケットを使用します。他はすべて大型の8ピン(オクタル)ソケットを使用します。ソケットのサイズについては互換性があるように見えるかもしれませんが、ほとんどの場合は回路、電圧、バイアスの要件が異なり、他のアンプのものを代わりに使うことはできません。

Genalex Gold Lion 6V6GT

現在いくつかのメーカーでは、出力管を交換して試せることを売りにしたアンプを製造しています。THDのUniValveとBiValve、VictoriaのRegal IIとTwo Strokeといったモデルは、一般的な8ピンのタイプのものであればバイアスなどの調整を必要とせずにどれでも使用でき、CarrのTelstarのオクタル・ソケットも、EL84側は違うタイプに変更することはできないものの、同様です。ただしほとんどの場合、メーカー側は特定の真空管のタイプを念頭に置き、その真空管の性能とサウンドのキャラクターを最大限活かすようにアンプを設計しています。それではこれらの最も一般的な出力管のタイプの、それぞれのトーンの特性や可能性について探っていきましょう。


6L6GC:6L6GCのサウンドの特徴を最も端的に表現するなら、“大型のFenderアンプのトーン“がぴったりです。これは昔から定番のアメリカで製造された25W以上の大型アンプに使用されている出力管で、安定感ある低音と際立った高音を兼ね備えた大胆で厚みのあるボイスを実現します。ヘッドルームを最大化するように設計されたクリーンなアンプ、もしくは多くのツイード・スタイルのアンプのようにシルキーで丸みを帯びたデザインのアンプには、大音量では耳障りなサウンドになってしまう可能性があります。


この出力管2本なら、効率のよいクラスABアンプの場合であれば約40~50Wを出力でき、4本なら最大100W出力できます。TopHatのSuper DeluxeやCarrのRambler、50年代半ばのツイードFender 5E5 Proなど効率が低めのカソードバイアス設計(いわゆるクラスAアンプ)では2本の6L6で約25~35Wの出力となります。


この出力管はFenderツイードBassman、Pro、Super、ブラックパネルのTwin ReverbやSuper Reverb、初期のMarshall JTM45ヘッド、Bluesbreakerコンボ(5881の代替品として、またKT66が使用されることも多くありました)などで使用されています。また6L6は、Mesa/Boogie Mark One及び同シリーズのいくつかの後継モデルのアンプ、数多くのパワフルなSoldano、そしてBognerアンプなどにも使用されています。Overdrive Specialのような大型のダンブル・アンプでも、6L6(そして似たタイプの5881)が好んで使用されています。より大型のユニークでファンキーな、もはや伝説と化したような60年代のアメリカ製アンプでも6L6は多く使われ、Silvertone 1484ヘッドやSuproのThunderboltコンボなどにパワーを注ぎ込みました。

Tung-Sol EL84

EL34:大西洋を越えて音の想像力を膨らませると、クランチのきいたブリティッシュ・サウンドが聴こえてくることでしょう。それはEL34のトーンです。これはクラシックなMarshallの真空管であり、そして1960年代後期に登場した大型のブリティッシュ・アンプの多くに使用されています。より高めの電圧でドライブされ、6L6GCよりも少し高めの出力を生成します。サウンド面でも異なるキャラクターを持ち、骨太でジューシーでありながらローエンドはソフト、高音域はシズル感があり、厚みのあるミッドレンジは歪み始めると代表的なクリスピーなクランチ・トーンを得ることができます。少し違ったコンフィギュレーションだと、例えばHiwatt DR103では、過去何十年にもわたってアリーナを沸かせてきた、骨までしびれるような比較的タイトでパンチの効いたサウンドを生み出すこともできます。


これは1967年以降に登場したJMP50 の“プレキシ”や“メタル”パネル・アンプ、Master Model 2203/2204、JCM800のほか、Marshallの近年のモデルのほとんどに搭載されている出力管であり、またHiwattのクラシックなモデルや、Orange、Vox、Sound Cityなどの大型アンプ、Selmer、Traynorのいくつかのモデルで見ることができます。


当然のことながら、現代のアンプ・メーカーが『kerrang!』誌に掲載されるような壁状にスタックされたアンプのフルボリュームを再現したければ、EL34一択です。モダンなメーカーの多くもこの著名な出力管を、それぞれ独自の設計に取り入れています。RiveraとVHTは、ハイゲインなアンプの設計にEL34を使用しており、多くのMesaの機種でもこれを採用していますが、Matchless Clubman、TopHat Emplexador、 そしていくつかのFriedmanのモデルはすべて、このブリティッシュ風味溢れる真空管のおかげでそのサウンドを実現しています。


6V6GT:湖畔にあるスタジオやライブハウスでボリュームを爆音にしたアンプを思い浮かべてみると、6V6GTのサウンドが聴こえてきます。1950から1970年代までにアメリカで製造された小型アンプのほとんどは、ジューシーで丸みのあるトーン、スムーズでリッチなディストーションで知られ、時には必ずしも魅力的とは言えないザラついたサウンドになることもある6V6出力管が使用されています。この出力管は、兄貴分的な6L6のおよそ半分の出力を生成し、その分より簡単にドライブがかかってクリッピングが起きます。この出力管2本なら、固定バイアス回路では約22Wを出力でき、カソードバイアス回路では約15~18W出力できます(それぞれDeluxe Reverbと5E3 ツイードDeluxeを思い浮かべてみてください)。

Genalex Gold Lion KT66

6V6は、40年以上に渡りChamp、Princeton、Deluxeを始めとする多くのFender製品で採用されているほか、1950年代から60年代初頭に製造されていたGA-40 Les Paulアンプなど、魅力的なヴィンテージのGibsonのアンプの多くでも使用されていました。1980年代から1990年代後期にかけて、信頼性の高い6V6を入手するのが困難になったため、ほとんどのメーカーがこの出力管を使用した新しいアンプを設計することはできませんでした。Blues Juniorのように、FenderがEL84を使用した、あまり似つかわしいと思えないアンプを製造していたのはこのためです。Electro-Harmonixが丈夫で安定感のある6V6を発売し、まずはこの問題が解消され、その後JJといった今日のメーカーもこの出力管の人気再熱に貢献しました。今日では、最も人気の高いサブ20Wを筆頭に、20W以下のレンジの多くで採用されています。


アメリカ製のクラシックなアンプ及びいくつかのリイシュー・モデルに加え、6V6GTはCarrのMercury VとSkylark、Tone King Imperial、Divided by 13 CJ11、Bogner Goldfinger、Dr Z Z-28を始めとする数多くの近代メーカーの手掛けるハイエンド・モデルのアンプで使用されています。一部メーカーでは、恐らく最初にしっかりしたトーンを確立したのはJim KellyのFACSモデルですが、4本の6V6GTで約30~45Wの出力を生成しています。


EL84:この出力管は、伝統的なブリティッシュの血統から“ベビー EL34”と表現されることがありますが、EL84にしか出せない独特のトーンを持っています。この背が高く細い9ピン出力管は、AC15やAC30といったクラシックなVoxアンプで採用されていることは広く知られており、今日ではこれらのテンプレートに倣って、クラスA回路を名乗るアンプでは最も多く使用されている出力管です。EL84のクラシックなサウンドの特徴は、スウィート、ブライト、クリーンでキラキラ感がありジューシー、リッチ、ハーモニー豊かなサチュレーションのかかったオーバードライブなどと表現されます。ボリュームを抑えた状態で、金属音やチャイム音のようなきらめく音を想像してみてください。少し強めにプッシュするときらびやかさや華やかさ、シャープさが増します。6V6GTと同じように、2本のEL84は約15~18W、4本であれば最大約30~36Wの出力を生成します。

Tung-Sol 6550

EL84は相性の良いアンプであればかなり骨太なローエンドを生み出しますが、ディテールのはっきりした高域とクランチのあるミッドレンジ、そしてプッシュした際にはかなりアグレッシブなサウンドが得られることで定評があります。一般的には典型的なブリティッシュなボイスを持つ出力管と思われていますが、EL84が搭載されている多くのアンプはテレキャスターと相性が良く、ブレークアップぎりぎりのところまでプッシュすると、調和の取れたきらびやかなサウンドをもたらします。


多くのクラシックなVoxアンプや小型の18/20WのMarshallsアンプに加え、EL84はWatkins/WEM Dominatorやその他の中堅のブリティッシュ・ブティックアンプで使用されています。50年代後半から60年代初頭にかけ、Gibsonなどアメリカの多くのメーカーで驚くほど多く使用されており、Tolexで覆われたFenderのピギーバック・スタイルのTremoluxの初期モデルでも短期間使用され、90年代にFenderが再発売したクラブ・アンプでも6V6 の代わりに採用されていました。今日のブティック・アンプ業界でも最もポピュラーな出力管であり、Dr Z、Matchless、65amps、Komet、 Divided by 13、TopHatなど数えきれないほどのメーカーで採用されています。


KT66:この大型のコーラのボトル型出力管は、60年代初頭から中期頃にイギリスで製造されていたアンプでは、アメリカ製6L6/5881タイプのより堅牢な代用品として使用されていました。その後入手困難になったために、数十年間新しいアンプに使用されることはほとんどありませんでしたが、21世紀になりリバイバルされ、再びブティック・アンプに好んで採用されるようになりました。一部の回路では、より一般的なアメリカ製の6L6/5881より大胆でしっかりした太めのサウンドになり、強めにプッシュするとローエンドのアグレッシブさが増します。また、最大ボリュームの機能も強化されています。(一部のアンプでは6L6GCの直接的な代替品になりますが、必ずしもそうとは限りませんので、変更する前に製造元に確認するようにしてください。)


もともとはMarshallオリジナルのJTM45の一部で使用されていたことで知られていましたが、今日ではKT66は当然ながらJTM45から派生した多くの設計で採用されていますが、Dr Z Route 66、オリジナルのシングルエンド方式のCarr Mercury、そしてその他いくつかの独自設計のモデルでも使用されています。

Electro-Harmonix KT88

6550:6550は主に70年代半ばから80年代半ばに、アメリカに輸出されたMarshallアンプに使用されていたことで知られています。EL34の代わりに6550出力管を搭載していた理由は、安定した供給量及び/または信頼性を優先するためでした。6550はEL34のサウンドとは異なり、より大きくラウドな6L6GCという感じなので(おおよその意味において)、この変更によりサウンドの特性がある程度変わることになりました。それが悪いことと言うことではなく、単に少し違うというだけです。そしてAlessandroやEnglなどは、このあまり見かけることのない出力管を使った設計を行いました。6550は恐らく一般的には大型のベース・アンプによく搭載されている出力管で、AmpegのSVTでも一定期間使用されており、最近ではTraynorなどのモデルで採用されています。


KT88:この巨大な出力管は、200WのMarshall Majorのようなメガパワーを誇るクラシック・アンプで使用されました。4本の大型ボトルは、100WのSuper Leadに搭載された同じ数のEL34の約2倍のワット数を生成することができました。太いコーラのボトル型のガラス外囲器に収まった大きなKT66のように見えるKT88は、非常に高い電圧を扱い巨大なワット数を生成し、大きくズ太いサウンドを生み出すことができます。


その事実の一方で、近年の一部のアンプの設計者たちは、この出力管を控えめに優しくプッシュし、特定のプリアンプをその前段に配置すると、スイートなサウンドも得られることに気が付きました。Divided by 13のRSA23には2本のKT88が使用されている他、Fryette Sig-X、Bogner Shiva 20th Anniversary、そして既に廃番となっているRedPlateAstroverbやCarol-AnnTucanaにも使われています。


適切な真空管アンプを選んだり、アンプ・モデルを調整したりする際に、これら出力管の基本的な特性を理解しておくことは、探し求めている通りのトーンを特定し、よりクリエイティブで表現力豊かなプレイをする基礎を築くために役立つことでしょう。必要があれば、特性のタイプとは真逆のものを選んだとしても、あらゆる種類のアンプを使用してあらゆる種類の音楽を作り出すことはできますが、これら出力管の特性を上手く活用すれば、制作過程で迷うことも減り、結果的によりリアルな作品を生み出すことができるでしょう。


デイヴ・ハンターは、『The Guitar Amp Handbook, British Amp Invasion, The Gibson Les Paul, Fender 75 Years』を始めとする著書を複数執筆し、『Guitar Player』、『Vintage Guitar』、『The Guitar Magazine(イギリス版)』にも数多く寄稿しています。


Individual tube photos courtesy of New Sensor Corp/Electro-Harmonix.


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。