”デジタル・ディバイド” を越える — 二者択一からの解放

*デジタル・ディバイド:デジタル技術を使いこなせる者とそうでない者との間にもたらされる格差

 

今、アンプの世界では本当に驚くべきことが起きています。ここ数年の間にモデリング・アンプが急速に普及し、Line 6、Kemper、Fractalの製品は今や世の中で行われている全ツアーの約半分で使用されていると言っても過言ではありません。一方で、この傾向には多くのギタリストから否定的な感情を露にした反応も見受けられます。彼らは、「冗談じゃないよ、モデラーを通した音が自分の真空管アンプの音と同じ訳がないだろ?」「一年前に使ってみたけどうまく使えなかったから、絶対好きになれないな」とか、あるいは「オレは死ぬまでヴィンテージの真空管アンプを使い続けるよ」とさえ言ったりします。こうしたコメントは、あたかも選択肢がアナログの真空管アンプとデジタル・モデリング・アンプの間の二者択一でしかないようにも聞こえます。が、果たしてそうでしょうか?

さて、ここで私が誰よりも真空管アンプに造詣の深いエキスパートであることを知っておいていただく必要があるでしょう。私はほとんど病気と言ってもいいほどの敬意と喜びを注いで真空管アンプを心底愛しており、その強すぎる思いが高じて遂には長年の夢だった真空管アンプの会社を自分で始めるに至りました。そもそもの始まりは1978年に最初にMarshall を手に入れたときでした ー なぜそれに魔法のように取り憑かれたのかを知るために全部バラバラにしてしまったのです。以来、より多くの、より良い真空管アンプのサウンドを執拗に求め続け、高価なヴィンテージの真空管やコンポーネントを評価したり、あちこちにあと1%や2%の改善加えることを異常なまでに追求してたりしてきました。とにかく真空管アンプ命なんです!

とは言え、今私はそうしたアナログ信奉者の皆さんにデジタル・モデリング・アンプが真空管アンプが減速していくのと同じくらいのスピードで進歩していることをお伝えする立場にいます。あらゆるコンピュータ技術と同様、デジタル・モデリング技術は近年非常に進歩しており、その発展は加速しています。5年くらい前までのモデリング・アンプは、音のクオリティ、演奏感、全般的な使いやすさなどの面でまだたくさんの課題が数多く残されていましたが、今ではもはや否定することはできません。Line 6のコンサルタントとして、内部事情にも精通している立場で言うと、現行のデジタル製品も開発中の製品もどちらもとにかく素晴らしいもので、プレイするのを楽しくしてくれます。この私が言うのですから、今後も非常に期待が持てるということを信じていただけたらと思います。

もう少し深く掘り下げてみましょう。初期のデジタル・アンプ・モデリングは音が三流だっただけでなく、実際の真空管アンプに比べると演奏したときの感覚は硬く、精彩を欠いていました。時が経つにつれ、音は良しとできるくらいにまでなり、中には本物と区別がつかないようなものも登場しましたが、演奏感はそこまで改善されませんでした。比較的最近まで、精彩、タッチの感度、そしてコンプレッション感といったものは、私たちの脳の中心部を「ハッピー」だと感じさせられるほどリアルではありませんでした。では、何が変わったのでしょう?

まず、真空管アンプの細部を正確に再現するデジタル・モデリング・アンプの能力は、コンピュータの処理能力に大きく依存しています。これは、より高い処理能力とより多くのメモリを備えたパーソナル・コンピュータの方がパフォーマンスが高いのと全く同じことです。モデリング・アンプの開発者たちは、ここ数年の間にプロセッサーの処理能力の急速な向上と業界に蓄積された知見の両方の恩恵を享受してきたと言えます。別の言い方をすれば、デジタル・モデリング・アンプはプレイするのが本当に楽しくなってきたということなんです!

しかもそう言ってるのは、自身でハンドワイヤードのプレミアム真空管アンプを作っている男…なのです。

デジタル・モデリング・アンプの開発者にとってのもうひとつの長年の課題は、例えばAC30をモデリングしようとしたとき、それはAC30というのアンプの1モデルに過ぎないということで、もっと言うと、“AC30”という言葉の意味自体、人によって解釈が異なるのです。あなたにとってAC30はビートルズ? ブライアン・メイ? マイク・キャンベル? どれも正解ですよね? “Deluxe” “Plexi”…もみな同じことです。どんなに上手くアンプをモデリングできたとしても、すべての動作状態をモデリングすることは非常に困難です。そのため一部の人は、彼ら自身の持つ「このアンプの音はこうであるべし」という期待に沿っていないとガッカリすることになるのです。しかしながら、もう一度言わせてもらうと、プロセッサーの処理能力の向上と現代の技術革新はアンプをより精巧にモデリングすることを可能にし、そのアンプ特有の主要な挙動に加え、実はそれと同じくらい重要な想定外の挙動までをも再現することで、個々の嗜好にもフィットするようになってきています。

もちろん、もしあなたがテクノロジー嫌いでサクっとプレイしたいだけだったとしても、探してる音をすぐに提供してくれるオンボード・プリセットは当たり前のように見つけることができるでしょうし、あなたの好みに近い他のユーザーが作ったプリセットをダウンロードすることもできます。加えて、新しいサウンドや機能を継続的に提供してくれるファームウェア・アップデートのことも考えてみてください。マイナス面は何ひとつありませんよ!

皆さんは、こうしたことが自身の存在を脅かすことになると私が感じていると思ったりしてませんか?全く逆で、60年に及ぶ真空管アンプ漬けの歴史を踏まえても、私はこれをアンプが発展していくにあたっての自然かつ不可避な次の進化段階と考えています。

要するに、デジタル・モデリング・アンプとアナログ真空管アンプのどちらかだけを選ぶ必要はないのです。ヴィンテージ真空管機器は、これまで通りつながりの深い素晴らしいものであり続けますし、モデラーがそれらに取って代わることはあり得ません。モデラーは、私たちが大好きなモノのバリエーションの1つであり、新しい選択肢を与えてくれているのです。クリエイティブなタイプの人たちにとっては、音作りのパレットが拡張され、新しい技術的パラダイムを探索する絶好の機会を提供してくれるので、それだけでも努力してみる価値があります。今すぐに利用できるこの新しいクリエイティブなツールを導入してみませんか?

個人的には、モデリング・アンプを深く掘り下げることでギターのサウンドと挙動を再び探求しているように感じられ、子供の頃のような驚きとギターをプレイすることの楽しさを取り戻しました。私のような機材にウルサイ自信家ですらこうした「遊び道具」で楽しくなれるのですから、皆さんも間違いないですよ!

ダン・ボウルはロスアンゼルス在住のギタリスト、エンジニア、プロデューサー、アンプ・デザイナー、コンサルタントであり、プレミアム・ブティック・アンプ会社 65ampsの共同創業者です。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。