アナログの超越
by ジョー・ゴア
Helixはアナログ・ギアのサウンドの再現性が非常に優れています。各アンプ/エフェクト・モデルは、実際のハードウェア・デバイスと同じような挙動をします。実際のストンプボックスやアンプのようにそれらをケーブルと同じように繋ぐことができるので、デジタル初心者でも、どこで何をすればよいか簡単に理解することができます。
こういった理由からHelixは多くのプレーヤーから支持を得ていますし、それは喜ばしいことです。しかしHelixで単にサウンドを作成するだけでは、Helix本来の実力の半分ほどしか活用できていない、ということを私は強調したいのです。特に、ユニークかつ斬新なトーンを好む方にはこの事実を知っていただきたいと思います。
物理の法則とは?
本物のアンプやスピーカー、ストンプボックスは、物理的な制約に左右される物理的な存在です。アンプヘッドの前段にスピーカーを接続することはできません。しかし、モデリングされたアンプ/スピーカー/ストンプボックスは、サウンドを処理する物理的な物体をデジタル的に「表現」しているに過ぎません。このバーチャルなアンプは、実際のところはディストーション/コンプレッション/EQに特化したプラグイン・エフェクトと言うことができます。そしてバーチャルなギター・スピーカーは、特定の共振周波数を強調すると同時に、低域と高域をカットするフィルターと考えられます。バーチャルなストンプボックスも同じ原理で、もうこれ以上の説明は不要ですよね。
ですから、ブロックは好きな並び順に配置して構わないのです。並び順によっては酷いサウンドになることも少なくはありません。しかしバーチャルなシグナル・フローでいろいろ試すことは、クールで新しいサウンドを発見する素晴らしいテクニックのひとつと言えます。
仮にストンプボックスの前段にアンプ、その前にスピーカーを配置したパッチはどのようなサウンドになると思いますか?Intro Medleyは、スピーカー・ブロック → アンプ・ブロック → エフェクト・ブロックという並び順で私が作成した、いくつかのイントロのメドレーのサンプルです。こちらを使って、皆さんにとって有益であろう並び順の“間違った”例をいくつかご紹介します。
DIY倒錯
このブログ記事用にHelixのパッチをご用意しました。個々の7種類のプリセット、またはこれら7種類のプリセットが格納されている1種類のセットリストのどちらかお好きなほうをダウンロードしてください。
これらプリセットをHX EditからHelixへ、またはHelix Nativeのいずれかにロードしてください(この記事中で使用しているスクリーンショットは全てHX Editのものです。)
“ブロックの並び順は完全に自由です!“
型破りになろう
まず手始めに、非常にシンプルなシグナル・チェーンを軽く壊すところからやってみましょう。プリセット 01. Amp Verb Cab.hlxは、ご自身でも簡単に作成いただけるベーシックなものです。クリーン・トーンのアンプとスピーカー、その間にスプリング・リバーブがあります(Image 1とAudio 1)。リバーブ内蔵の本物のコンボ・アンプと同じようなサウンドです。
では、プリセット 02. VerbCab Ampで“間違った”配置を試してみましょう。設定は全て同じですが、ブロックの並び順を、リバーブ → スピーカー → アンプに変更しました。結果を確認してみてください(Image 2とAudio 2)。
それほど劇的な変化はなかったですよね?大騒ぎするようなことは何もありませんでした。変更前とほとんど違いはありませんが、2番目のトーンは少しダークさが増したな、というぐらいです。ここでは、クリスピーなクリーン・トーンを使っていることを覚えておいてください。今度は、歪ませたアンプで同じ実験をしてみましょう。
プリセット 03. Amp Verb Cab 2では、先ほどのほとんど歪んでいないUS Double Nrmアンプ・モデルを、ディストーションが強めにかかったTweed Blues Nrmモデルに置き換え、マッチするスピーカー・モデル(Image 3とAudio 3)も選択しました。
ハードで気の抜けたディストーションはオールマイティーに使えるわけではありませんが、ヴィンテージのFenderツイードの挙動をリアルに再現しています。これもいたってシンプルなセットアップです。では、プリセット 04. Verb Cab Amp 2のように、ブロックを“間違った”順番に配置するとどうなるか聴いてみてください(Image 4とAudio 4)。
どうですか?変わりましたよね?!高域が大胆にカットされたスピーカーから聴こえるディストーションのかかったアンプ・モデルのトーンは、トップ・エンドがより荒々しく、アンプなしでダイレクトにレコーディングされたことで有名なジミー・ペイジの『Black Dog』(ディストーションは歪ませたプリアンプ・チャンネルによるもの)のトーンに少し似ています。
異端への道のり
Helixには2つのパラレル・シグナル・パスが用意されています。プリセット 05. VCA_AVCはプリセット03と04をブレンドしたパッチです。1つのパスは“正統”なシグナル・フローで、もう1つのパスはブロックの並び順が入れ替わったパターンです。いずれのパスも±50でパンされ、ステレオ・サウンドが(Image 5とAudio 5)が生成されています。
どちらもアリと思うか、どちらかは最悪と思うかはあなた次第です。今試したのは、“正統”と“邪道”なものを組み合わせて複雑なサウンドを作る方法のほんの一例です。
では、これら全く正反対のパターンを組み合わせてみましょう。プリセット 06. VCAD_DAVC は、各パスにディストーション・ブロックを追加しました。下のパスでは、アナログの世界と同様にアンプの前に配置しています。一方上のパスは、アンプの後ろに配置しました。パンされたステレオ・エフェクトはそのまま残っています (Image 6とAudio 6)。
興味深いことが起こりましたよ。常識外れな方のパスのエッジの効いたトレブルはそのまま残っていますが、温かみのある通常のパスのトーンがそれを支えています。ギターの音数が多い間はリバーブが抑えられ、そうでないときには顕著になるように聴こえますが、これは偶然の産物であり、トリッキーなシグナル・プロセッシングを行っているわけではありません。ソロには不向きかもしれませんが、アグレッシブなベースやドラムとは相性が良いトーンと言えます。
どんどん風変わりに
ここまでは、元のサウンドのみのパッチでしたが、プリセット 07. Ain’t Analogには5種類のスナップショットが含まれています。
Image 7のシグナル・パスを見てください。もう何もかも間違っているように見えます。アンプの前にスピーカー、アンプの後にストンプボックス。アンビエントとモジュレーション・エフェクトの後ろにディストーション。シグナル・チェーンのあたまではなく最後にワウが配置されています。こんなの有り得ませんよね!Audio 7 はスナップショット1のデモです(Impulse)。
思ったほど酷いサウンドではないですよね?ちょっとユニークなステレオ・モジュレーションのかかった、クリーンでドリーミーなクリーン・トーンが生まれました。
では、もう少しエッジの効いたトーンを聴いてみましょう。スナップショット 2 (Bug House)のパス1のモジュレーションはスピードをかなりアップさせました。これ以上スピードを上げてしまうと、リング・モジュレーションのようになってしまうでしょう(Image 8とAudio 8)。このトーンが好みかどうかは別として、おなじことをアナログで行うのはかなり難しいことは確かです。
省略する罪
次は、本来必要なブロックを使わない、という逆転の発想的な手法を試してみましょう。スナップショット 3 (What Amp?)では、アンプ・ブロックをミュートして、複数のエフェクト・ブロックの値を調整しました。その結果、また新たにきらびやかなクリーン・トーンが生まれました。もし私自身でこの作業をしていなければ、ミックス内にアンプ・モデルが入っていないなんて気づかなかったと思います(Image 9とAudio 9)。
スナップショット4 (Cab Me Not)は歪ませています。アンプ・モデルを元に戻し、両方のパスにディストーションを追加し、キャブ・ブロックをミュートしました。モジュレーション・ブロックは全てオフにしました(Image 10とAudio 10)。
全てのステレオ・モジュレーション・エフェクトがバイパスされていますが、どちらのパスも異なるディストーション・モデルを使っています。パンしても、面白いステレオ・サウンドが得られます。
最後のサウンド、スナップショット 5 (Cocteau)はさらに極端な例です。両方のパスのアンプとキャビ・ブロックをバイパスしました(Image 11とAudio 11)。
ここまでご紹介したようなブロックを移動させたりオフにしたりするだけで、面白いトーンをこれまでに数え切れないほど発掘してきました。
アナログを超えて
この中で使えそうなサウンドはありましたか?私にとっては、どのサウンドも意義があります。(信じられないでしょうけど、私は風変わりなギター・サウンドを作成してプレイすることで実際に生計を立ててきました)ちょっとしたロックのカバー・バンドで演奏するだけなら、オーディエンスが既に慣れ親しんだ王道のトーンがあれば良いので、こういった個性的なサウンドはあまり役には立たないかもしれませんね。
もし私が好きなトーンが全くお好みでなかったとしても、これまでにやったことのない邪道で実験的なことを試してみるのも面白いですよ。自分の好みやスタイルに合った発見があるかもしれませんし、Helixに対する認識も変わるかもしれません。“アナログ・ギアのサウンドを再現するボックス”ではなく、“アナログ・ギアではかつて不可能だった新境地にたどり着けるデバイス”という発想の転換ですね。
今回私がご用意した“間違った”手法を使ったパッチを気に入っていただけたなら、Line 6 マーケットプレイス内の『Back-Assward Board』、そして他のオフビート・トーン・コレクションも是非チェックしてみてください。この記事の最初でお聴きいただいたサウンド・サンプルでは、このBack-Asswardスナップショットのトーンを使用しました。ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。Happy Helixing!
ジョー・ゴア は、サンフランシスコ在住のミュージシャン、ライターであり、ハイテクオタクです。多くの著名なアーティストとのレコーディングやライブ経験を持ち、主要なギター雑誌の編集もこなしていました。彼はアナログ・ストンプボックスやsound collections for Helix をデザインしています。