ビル・ケリハー — マストドンのギタリストがHelixで作り出すヘビーなリフ(無償プリセット付き)

 

マストドンがデビューアルバム『レミッション』をリリースすると、音楽業界でも一般のリスナーの間でも瞬く間に話題となり、その後2004年にリリースした『リヴァイアサン』は、前作をさらに超える称賛を受けることとなりました。彼ら4人組が織りなす折衷的なサウンドは、主にギタリストのブレント・ハインズとビル・ケリハーによって支えられ、それまでのトラディショナルなメタルの確固たるフレームにスラッシュ、ハードコア、サイケデリア、プログレの要素を詰め込み、ジャンルを超えた魅力を持つ、強烈なインパクトのある彼ら独自のサウンドを生み出しました。その後バンドのサウンドは様々な方向に変容し続けましたが、リフメインのギターを中心とするスタイルだけは変わっていません。そして、ミューズやトゥール、キング・クリムゾンらを手掛けたデヴィッド・ボットリルがプロデュースしたニュー・アルバムが、今年リリースされる予定です。


ケリハーは、10年以上も前から様々なアンプ/エフェクトのモデラーを使ってきましたが、最近Helix Floorに落ち着きました。「これまでに使ったことのあるモデラーのサウンドはどれもとても良かったんですが、その中でもHelixは他と比べて操作性がダントツにいいですね。使い始めてすぐにそう感じました」と彼は言います。


ありがたいことに、今回彼は、Model Citizensの読者のためにプリセットを無償提供してくれました。


アンプ・モデラーで最も重視する条件は何でしょうか?


ギター弦を弾いた時の反応の早さや感触が感じ取れること、それを一番重視します。本物のアンプであっても、弦を弾いたときにソフトでぼやけた立ち上がりの、少し遅延があるものは好みません。自分がプレイしているありのままをリアルタイムで感じたいんです。そして、かつてレコーディングを始めた頃にアンプとペダルを、それぞれ1台だけでアルバムに収録するサウンド全てをまかなっていた当時とは違って、今はいくつものアンプやアンプ・モデラーを1曲の中でも使えて、わずかに違うフィールやレスポンスを持つ、トーンの異なるバリエーションを作成できるようになりました。


トーン作りをするときは、頭の中でイメージしているものに近づくように調整しながら具体化しますか?それとも、とりあえず弾いてみていろいろ試すなかで良いと思ったものを採用するのでしょうか?


どちらのパターンもあります。曲によって、例えば使いたい音が最初から5種類ほどあったりします。一番よく使うのは、いつもリズム・パートに使うオールドスクールでヘビーなリズム・サウンドです。全体の75%ぐらいは、そのサウンドを使っています。その他にはエフェクトがまったくかかっていないクリーンなサウンドも使います。そしてそのクリーン・サウンドに、ヘビーなトレモロやレズリー・スピーカー・エフェクトなどを追加したサウンドも使います。そして、ディストーションが控えめで、特定のタイプのディレイがかかったピンク・フロイドっぽいヘビー・トーンを使うこともあります。


自宅のスタジオでデモを作るときは、アンプの設定をいろいろと調整しながら作業することが多いです。Helixなら、同じリフを弾きながらプリセットを変えるだけで、そのまま使えそうなものが簡単に見つかるので、とても刺激的です。プリセットを試している中でクールなエフェクトを発見して、それを実際に自分の作成したプリセットに使うこともあります。まずはオクターブ上か下のサウンドを重ねるところから始めたり、オクターブにピッチシフトした音を加えたりすると、シンプルなリフもクールに変化することがあります。音数の多い複雑なリフも、音数を減らしてピッチシフターを追加する方が良くなることを発見することもあります。こういった工程からインスピレーションを得ることも多く、時にはリフを書いているときに自信を高めてくれることもあります。


今回無償で提供いただいたプリセットについてお聞かせください。


このプリセットはRevv Gen Purpleアンプ・モデルをベースにしていますので「REVV PURPLE」と名付けました。アンプ・モデルだと、Friedman BE-100がベースになっているPlacater CleanとPlacater Dirtyが好きなんですが、Revv Gen Red とRevv Gen Purpleもお気に入りのひとつです。


このプリセットを作る際には、まずDriveを5.4に設定したアンプをロードし、自分の他のほとんどのプリセットと同様に、Gainを0に設定したScream 808オーバードライブをその前段に追加しています。こうすることで、全体的にタイトさが出せます。808がないとサウンドに少し丸みが出てしまうのですが、僕はスクエアなサウンドのほうが好みなので。先ほども述べたように、弦を弾くと同時にその音を聴きたいので、レスポンスが良くなかったり、甘かったりするのは好きではありません。それからキャビは、57 Dynamicを1.0の距離設定で組み合わせた4×12 Greenback 25を採用しています。プリセットに421 Dynamicを使用することも時にはあるのですが、ほとんどの場合は57を選んでいます。そして距離も可能な限りキャビに近づける設定にします。シグナル・チェーンの最後にはノイズゲートを配置しています。


いくつかエフェクトも使われていますよね。


Optical TremはHelixの中でもお気に入りのひとつなので、今回使ってみました。スピードはかなり遅めに設定しています。’63 Springというスプリング・リバーブも、808とアンプの前段に配置してあります。Reverse Delayもお気に入りで、ウェット/ドライ50%の割合の設定で、トレモロの後ろに配置しています。


テープの逆再生効果を得るために、Reverse Delayを100% ウェットな状態で使われたことはありますか?


いいえ。逆再生のテープ・サウンドは大好きなので、やってみます。


このプリセットはどんな場面で使用されているのですか?


今マストドンのニュー・アルバムを制作中なのですが、ホーム・スタジオでレコーディングする際にギター・パートのレイヤーに少し変化を出したいときなどに使っています。このプリセットは、入力直後にシグナルがスプリットされ、ドライ・シグナルが右側のXLR出力に送られるようになっています。ダイレクトなDI出力ですね。左側のXLRから出力されるHelixで処理されたサウンドをレコーディングし、処理されていないドライなDI経由のシグナルは右側から出力されます。このようにしておけば、実際に広いスタジオでレコーディングするときに、特定のパートのトーンを変えたくなったとしても、本物のアンプや別のHelixのプリセットでリアンプすることができます。結局オリジナルのサウンドが一番良いことが多く、それをすることはほとんどないんですけどね。


ということは、処理が施されたシグナル・パスはモノなんですね?


Helix内では、その通りすべてモノです。僕のバンドにはギタリストが2人いるので、最終的にはそれぞれのギターがステレオ・ミックスされるときに左右にパンされるからです。


“リフをどこまでヘビーにできるかは、ピックアップやペダル、アンプのゲインによるのではなく、実はリフ自体にかかっているんです。リフそのものがヘビーである必要があります。”


エフェクトのセンド/リターンを使用して、外部ペダルや他のプロセッサーをHelixのシグナル・チェーンに追加することはありますか?


はい、それはよくあります。ギア持ちなので、かなりいろいろなバリエーションのセットアップを使っています。例えば、Synergyモジュールをエフェクト・ループのひとつにインサートして、MIDIでプリアンプ間の切替えを行います。また複雑なルーティングのセットアップの場合は、センドを出力の代用として使ったりもします。実は、5ケーブル・メソッドや7ケーブル・メソッドを複数のアンプで試したことがあるんですが、リバーブなどタイム・ベースのエフェクトをアンプの後ろにすると、これらエフェクトのサウンドが損なわれているような気がしたんです。同じように考える人は少ないと思いますが、こういったエフェクトはアンプの前段にするほうが、よりリアルなサウンドを得られるというのが僕の持論です。


内部のシグナル・ルーティングはいかがでしょう?4つあるシグナル・パスを2つ以上使用することはありますか?


内部はなるべくシンプルにとどめるようにしています。実際にプロセッシングするという意味では、僕のほとんどのプリセットは、シグナル・パスは2本だけですが、先ほどお話したように、本物のアンプ、パワーアンプ、PAミキサーなど、シグナルが複数の異なる出力にルーティングされるよう、いくつかにスプリットさせることもあります。例えば具体的には、ステージでパフォーマンスしているときは、パワーアンプからのHelixのサウンドと、実物のFriedmanからのサウンド、それに加えPAモニターから送られるウェッジのサウンド、これらすべてが聞こえる状態にすることがあります。マイキングされたキャビのシグナルと、PAからのダイレクトなシグナル間で位相の問題が起きたことがあったのですが、それはうまく解決できました。


大型商業スタジオでレコーディングされる際は、Helix、そしてそれ以外のアンプも複数使われることはあるのでしょうか?


いいえ、現在は本物のアンプだけのことがほとんどで、ペダルを使ってHelixと同じエフェクトを再現するようにしています。どのモデラーにも言えることですが、やはりレイテンシーがネックになります。複数のアンプでマイキングをしたシグナルとブレンドしたときに生じるレイテンシーに、あまり良い顔をしないプロデューサーも中にはいますからね。


アンプやペダルのセッティングは別として、ヘビー・サウンドを得るためには、ダウンストロークやパームミュート、ピックのアタックといったテクニックは、どれぐらい関係性があるのでしょうか?


最初にギターを弾き始めたとき、僕はラモーンズのようなパンクロック・スタイルのお気に入りのバンドの曲を見様見真似で練習していたので、ダウンストロークばかりのプレーヤーでした。きちんとレッスンを受けた経験はありませんでしたし。最初に低い弦を弾いて同じコードが何度も繰り返されるパターンは、パーカッシブな感じがしますよね。パンクやヘビーロックという音楽はそういうものです。それは明らかに、例えば、ギターをラフにかき鳴らすようなアプローチやサウンドとは別物です。そして、アンプからどんなサウンドが出力されるかが非常に重要になります。


ギターを弾き始めてかなり経ってから、オルタネイト・ピッキングとダブル・ピッキングを知りました。周りのギタリストたちがやっているのを見るようになってからですが、彼らは本当に高速で弾いていたのです。彼らに弾き方を尋ねたところ、ダウン/アップ/ダウンストロークの使い方を見せてくれて、そこから学んだんです。クラシック系のロックの場合は、ダウンピッキング中心になるのですが。


もっとヘビーなサウンドを得たいと思ったときは、やはりディストーションを上げますか?


リフをどこまでヘビーにできるかは、ピックアップやペダル、アンプのゲインによるのではなく、実はリフ自体にかかっているんです。リフそのものがヘビーである必要があります。これまでにレコーディングされた数々の本当にヘビーで素晴らしいリフは、どれもさほど歪んでいません。ブラック・サバスにしてもサウンドガーデンにしても、アンプは決してオーバードライブし過ぎている訳ではありませんよね。「ディストーション・ペダルを5台にして、ヤバいぐらいにゲインを上げればいい」なんて言うギタリストも中にはいますが、そんなことよりも本当にヘビーなリフを書くことに専念することをお勧めします。


ディストーションは特定のポイントを超えてかけてしまうと、実際にサウンドが小さくなってしまうというテクニカルな理由もありますよね。


その通りですね。特定のポイントを超えてゲインを上げてしまうと、サウンドがぼやけてしまいます。レコーディングでギター・トラックを追加する際は特に注意が必要です。まずかなり太めでヘビーなトラックを録音し、それからディストーションを控えめにしたトラックを追加して、それらをミックスしても定位がブレてしまわないようにしています。僕ははっきり表現したいタイプなので、弾いた音一つひとつが明瞭で、その全てが聴く人の耳に入って欲しいと思っています。アンプのゲインとディストーションが一定のレベルに設定された状態で、マイク・プリアンプとシグナル・プロセッサーを通すと大抵ゲインがさらにかかったサウンドに変わることを経験から学びました。ですから、スタジオでは“いつも気持ち控えめに”を忘れないようにしています。


ヘビーさをどれだけ出せるかは、ギアと同じぐらい自身の制作意欲や精神状態にかかっていると言っても良いでしょうか?


はい、もちろんです。初期のスコーピオンズの曲、“Sails of Charon”はご存じですよね?あの曲は本当にヘビーです!ウリ・ジョン・ロートはとても凄いギタリストだし、彼はRatペダルをPeavey Banditに繋いだだけのセットアップでも、僕がFriedman Butterslaxのヘッドとフルスタックでプレイするのと同じぐらいヘビーなサウンドを出せると思います。それは彼の魂の成せる業です。彼ぐらいに魂のこもったプレイができるなら、ギタリストとしてきっと成功できるでしょう。


Main Photograph: Megan Kor

Additional Photographs: Brandon Nagy


Helix詳細: https://line6.jp/helix/

バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。