アラン・ホールズワースが生みの親 – Yamaha UD-Stompディレイ・ペダル ストーリー

 

アラン・ホールズワース(1946-2017)は真の因習打破主義者でした。彼の音楽に対する唯一無二の美学、そして超驚異的なテクニックは、他のギタリスト仲間達からは十分に理解されることはありませんでしたが、彼が共演したトニー・ウィリアムスやビル・ブルーフォード、ジャン=リュック・ポンティといった大物や、彼がメンバーであったソフト・マシーン、ゴング、U.K.、レベル42といったバンドを魅了しました。またホールズワースはシンセサイザーにも造詣が深く、SynthAxeコントローラーを駆使したソロ・アルバムを何枚もリリースしています。


本記事は、クリエイターのエイロン・パズによる写真と、ダン・エプスタイン、ジェームズ・ロトンディといった著名なエディター達のエッセイやインタビュー記事が掲載されている新刊、『Stompbox: 100 Pedals of the World’s Greatest Guitarists』に私が寄稿した14の記事のうちのひとつからの抜粋したものです。— バリー・クリーブランド


偉大な功績を残したアラン・ホールズワースも後期はあまり多くのエフェクトを使用していませんでしたが、彼のユニークなサウンドを特徴づけていたのは、デジタル・ディレイとモジュレーション・ディレイでした。そして彼の最も特徴的なサウンドと言えば、複雑なコンフィギュレーション内で最大8台のデジタル・ディレイ・プロセッサーのサウンドをブレンドし、幾重にもレイヤーすることで生み出す独特のクリーン・トーンでした。


「私はひとつのサウンドを作るのに、常に複数のディレイ・ユニットを使用していました。例えば、Yamaha D1500、Roland SDE-3000、Lexicon PCM-42、そしてDeltaLab Effectronを、それぞれ2台ずつ使っていたこともあります。どのメーカーのディレイ・プロセッサーにも異なる個性があり、私はそれらのさまざまなサウンドをブレンドして、最高のトーンだと納得できるものを作り出すようにしていました。ステレオ・シグナルの左右に別のユニットをルーティングし、ソロとリズム用に2種類のステレオのシグナル・チェーンを作るのです」と彼は語っていました。


「のちにYamaha D1500を4台使うようになり、その後、さらにディレイ・ラインを複数持つことができるRocktron Intellifexプロセッサーも2台使用するようになりました。これらを全て使うことでディレイ・タイムとステレオ・イメージをとても柔軟にコントロールできるようになったのですが、ほとんどの人が聴いても分からないような違いを出すために、こんなにも多くのギアを使っていることにあまり意味がないと感じるようになりました。そこでヤマハに、ディレイを満載したラックを小型のペダルに詰め込めないものか相談してみたんです」。


ヤマハの黒木 “Rick” 隆一郎氏は、ホールズワースがその後ライブやレコーディングで使用することになるYamaha DG-1000ギター・プリアンプを彼に勧めたことがあり、またその数年後には、ピエゾ・ピックアップを装着したアコースティック・ギター用の床置きタイプのデジタル・プロセッサー AG-Stompペダルのコーラス・エフェクトを作る際にもホールズワースに協力を仰いだりもしていました。ですから、彼がプログラム可能なディレイ・ペダルとしてのちに登場することになるUD-Stompの開発を黒木氏に持ちかけたのもごく自然なことでした。


「UD-Stompはアランのアイデアから生まれました。彼のリクエストは、8系統のディレイ・ライン、すなわち4系統のモジュレーション付きショート・ディレイ、そして4系統のモジュレーション&フィードバッグ付きロング・ディレイを備え、そのそれぞれのフィードバックとパンのパラメーターを個別に調整できるスーパー・ディレイ・マシンでした。すべての彼のアイデアを取り入れ、さらに特別なものにするために私のアイデアをいくらか追加したプロトタイプを製作したのですが、彼は非常に満足してくれました。それが後にUD-Stompとして製品化されたのです」と黒木氏は語ります。


UD-Stompの最初の27種類のプリセットも、ホールズワースがプログラミングを行いました。12種類のChorus、9種類のStereo Enhanced Lead Solo、3種類のVintage Echo、2種類のVolume Pedal Swell FXに加え、Single Source Point Stereo Microphone + Echos [sic]という一風変わった名前のパッチも彼によりプログラムされたのですが、このエコーは左右にパンされたふたつの(ただしわずかに異なる)ショート・ディレイが特徴で、そのうちのひとつは位相を反転させてあります。彼はこのペダルが発売になった時、UD-Stompを彼の“ドリームボックス”と表現し、何年にもわたりメインのライブ用リグとして使用していました。しかし残念ながら、UD-Stompは限られた期間しか生産されませんでした。


2008年までに、ライブ・パフォーマンスには6台のYamaha Magicstompを使うようにシフトしていたホールズワースはのちに、「UD-Stompが生産完了になってしまったことは残念でした。それまでスーツケースに詰め込んで持ち運んでいた全てのディレイ・ユニットと数台の小型ペダルを、あれ1台に置き換えることができたのですから」とコメントしていました。

 

Yamaha UD-Stomp モジュレーション・ディレイ
2002年に登場したYamaha UD-Stompは、公式な製品概要にも“この素晴らしいギター・エフェクト・プロセッサーは、まるで世界で最も優れた8台のラックマウント・ディレイ・ユニットを1台にギュッとまとめたようなデザイン”と紹介されていますが、それは文字通り本当です。それぞれのディレイは複数のパラメーター(Pan、モジュレーションのSpeed/Depth、High Cut/Low Cut Filter、Tapテンポetc.)を独立してコントロールすることができますし、シグナル・ルーティングも自由自在に行えました。さらにはS/PDIFデジタル出力を備え、ヘッドフォン・モニター機能も内蔵されていたのです。ホールズワースのファンから愛され続けているこのペダルは、惜しくも2004年に生産完了となりました。


Photos: Eilon Paz.

 

バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。