スピーカー・キャビネットIR ビギナーズ・ガイド

スピーカー、そしてスピーカー・キャビネットがギター・トーンを大きく左右することは言うまでもありません。例えば初期のVox AC30やFender Twin Reverbはどちらも12"スピーカーを搭載した背面開放型のチューブ・アンプですが、スピーカーがCelestion BluesかJensen C12Nsかで音の違いは非常に顕著で、キャビネットの特性が異なることからも、これらのスピーカーを2つのアンプ間で入れ替えると、さらに劇的な違いが生まれます。どちらかのアンプのスピーカーのうち1基あるいはそれ以上を15"、10"、8"に、そしてキャビネットも何か全く違うタイプに変更してみると、そのいくつかはもはやAC30、Twin Reverbとは全く認識できないほど多彩なサウンドに変わるはずです。

本物のアンプやスピーカー、キャビネットであれば、納得のいくトーンを得られる最適な組み合わせを見つけることは非常に重要であり、その選択肢にギタリストはいつまでも頭を悩ませます。しかしバーチャルなデジタル・モデリングの世界では、非常に簡単に異なるアンプ/スピーカー/キャビネットを組み合わせて試すことができます。さらには思わぬ偶然の組み合わせが、特定のシチュエーションにぴったりなおもしろいトーンを生み出すこともあります。本物のTweed Deluxeキャビネットで100W Plexiを大音量で鳴らしたりすれば瞬時にキャビネットは飛んでしまいますが、デジタルの世界なら夢のような組み合わせと言えるでしょう。

しかし、こういったバーチャルなスピーカーやスピーカー・キャビネットはどのようにして生まれたのでしょうか?

今日では、IR(インパルス・レスポンス)を生成するプロセスを使用して作成されるのが一般的です。オーディオ業界で最初に広く使用されるようになったIRは、コンボリューション・リバーブ・プロセッサーでした。タイル張りの浴室からタージ・マハルまで、様々なスペースの残響音をサンプリングし、アンビエント・エフェクトでその空間を再現しています。言い換えれば、タージ・マハルでプレイしているかのようなサウンドを得たいときは、従来のデジタル・リバーブと同様に、コンボリューション・リバーブを使ってその「エフェクト」を追加するだけでよいのです。

それとほぼ同じやり方で、アンプ・モデルと組み合わせるなどして、IRテクノロジーはスピーカー・キャビネットのシミュレーションにも用いられています。さらに、近年のIRは様々な種類のマイク、複数のマイキング・ポジション、異なるプリアンプを使用して作成されています。例えば、Celestion Bluesを搭載したオープンバックの2×12キャビネットを、Shure SM57で1基のスピーカーのコーンからダイレクトに、Neumann U87でキャビネットの正面2フィート(約60cm)の距離から、Royer R-121でキャビのリア側を録音し、それぞれAPI、Neve、そしてUniversal Audioのマイク・プリアンプを組み合わせる、といった具合です。

多くの場合、マイク、マイク・プリアンプ、マイクの位置、その他の要素の様々な組み合わせが、同じIRのバンドル内で選択肢として提供されます(たとえば、CelestionのCelestion Blueコレクションは、異なるキャビネット・タイプ、マイク、マイクの位置の組み合わせを使用して作成された100を超えるIRが集録されています)。ルーム・サウンドやスピーカー・ケーブルの伝導率などの追加変数もIRデータに含まれています。つまり、IRは、特定のギアを使用して、特定の環境内で録音されたキャビネットから発せられる実際の音をキャプチャーしている、ということになります。さらに、これらの情報がキャプチャーされるのは標準的な解像度の場合と高い解像度のケースもあり、このこともサウンドのみならずキャビネットIRから得られるフィーリングのリアルさにもダイレクトに影響します。

スピーカー・キャビネットIRは、シグナルチェーン内のどこにでも配置できますが、アンプ・モデルと組み合わせることがほとんどです。 Helixギター・プロセッサを例にあげると、約40種類搭載されているキャビネット・モデル(IRをベースにし、追加処理が施されている)それぞれを、16種類のマイク・モデルのうちの1つと組み合わせることができ、そのポジションをスピーカー・グリルから1~12インチ(約3~30cm)の間で半インチ単位で調整して、部屋の初期反射の量を調整することができます。ローカットおよびハイカット・フィルターも、出力レベル・コントロールとともに提供されます。サードパーティー製IRは、HX Editアプリケーション経由でHelix及びHXデバイスにインポートすることができ、Helix Nativeプラグインなら直接インポートすることもできます(WAVファイルであることが条件です)。

最後に、Line 6 Marketplaceでは、Helix及びHXデバイス向けに作成された無数のサードパーティー製IR、キャビネットIR&プリセットを購入することができますので、ご紹介しておきます。

バリー・クリーブランドは、ロサンジェルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリスト、著者であり、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーでもあります。

*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。