マイク“プシーン”アダム — ギター啓蒙活動家、オフセット・ギター狂、そして型破りなピッキング奏者


別名プシーンとして活動するマイク・アダムスは、ギアのレビューとギター・メンテナンス動画で人気の高いユーチューバーとして知られています。彼の動画を見るだけでは伝わらないかもしれませんが、彼はギターに対し並々ならぬ情熱を持ち、FenderのJazzmasterに至っては執着とも言えるほどの愛着を抱いている、熟練したプレイヤーでもあります。また彼は、非常に珍しい音楽的経歴も持ち合わせています。

「私が10歳のとき、両親は渋々ながらも初めてのギターを買ってくれました。ちょうどその年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に夢中になり、マイケル・J・フォックスの手の動きを真似て“ジョニー・B.グッド”を弾くことを学びました。私の両親はとても信心深く、CDを買うことなど許されていなかったため、そこから私はこっそり聴けるものは何でも練習し続けました。一方でなぜか両親はコメディを観ることについてはとがめることがなかったため、奏法など多くをウィアード・アル・ヤンコビック(米国のパロディ音楽の第一人者であり、ヒット曲の替え歌やコミックソングを多数リリースしている)から学んだのです。エアロスミスの“Livin’ on the Edge”の代わりに“Livin’ in the Fridge”を練習しましたし、私が初めてニルヴァーナの存在を知ったのも、彼の“Smells Like Nirvan”という曲からでした。」(アダムス)

両親の言いつけを守る必要がなくなってからは、アダムスは、グリーン・デイ、スマッシング・パンプキンズ、レディオヘッド、ウィーザー、さらにはトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズまで、様々なバンドの本物の曲を心ゆくまで自由にプレイできるようになりました。次第に彼は、シガー・ロスやその他多くのあまり主流ではないバンドにも興味を持つようになります。Helix Floorを使用して作成したいくつかの曲をパフォーマンスしている動画を観れば(以下動画を参照)、こういったマニアックな音楽に対し興味を持ったことによる影響が大きいことは明らかであり、そのうちの1曲では彼の母親の所有するやや不気味な雰囲気を持った膨大な数の人形のコレクションが登場しています。

Photo: Vanessa Wheeler

あなたのプレイ・スタイルは、主にパンクやヘビーロックをルーツに持つようですが、それだけには限らないようですね。プレイヤーとしてあなたが成長していく過程で、影響を受けたギタリストは誰でしょうか?

私はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズをよく聴いていましたので、ペティとマイク・キャンベルの影響はかなり大きかったと言えます。何年も前にキャンベルのインタビュー記事を読んだのですが、その中で彼がとても記憶に残ることを語っていました。そのうちのひとつは、トムが何をプレイするかによってギターとアンプの組み合わせを選んでいるということでした。つまりトムがダークなアンプにブライトなギターを選んだ場合、キャンベルはその真逆のものをチョイスするということです。そのことを知ってからペアリングについて考えるようになり、最終的にこのブライトなギターとダークなアンプという組み合わせに落ち着きました。それがJazzmasterを始めとするオフセット・ギターを愛用するきっかけになったのです。ウィーザーやMxPxなど、パンクロック全般もよく聴いていましたよ。

その後1999年頃にシガー・ロスを聴いて衝撃を受け、音楽に対する自分の考え方が大きく変わりました。ジミー・イート・ワールドもしかり。彼らのアルバム『Clarity』を聴き、エモ・オルタナティブロックのジャンルの中にあっても、音楽とは実のところ何になりうるものなのかを学びました。ティンパニがあり、巨大な弦楽器セクションもあり、とにかく壮大で美しい音楽です。そして言うまでもなく、ネルス・クライン加入後のウィルコにも大きな影響を受けました。当時私は、Lyre Vibrolaのテールピースを搭載したGibson ES-355を使用していて、ネルスのトリルが効いたヴィブラート・パートを上手くプレイできるようになるまで練習したものです。しかしようやく彼の写真を見たとき、「あれは一体何だ?あの変なFenderのギターは?」と思い、それ以来Jazzmasterに強い関心を持つようになったのです。

ネルス・クラインについては、ウィルコ以外での活動についてもよくご存じなのでしょうか?

はい、もちろん。実は彼から自身のアルバム、『Lovers』を頂きました。ネルス・クライン・シンガーズのファンでもありますし、『Destroy All Nels Cline』といったアルバムも大のお気に入りです。あれは素晴らしい作品です!

Photo: Kurt Clark

ソニック・ユースなど、オフセット・ギターを使用しているイメージが強いバンドについてはいかがですか?

もちろん彼らにも注目していますが、その存在を知ったのはもっとあとになってからでした。音楽に関しては、常に新たな発見を見過ごさないよう躍起になっていました。

オフセット・ギターの魅力について教えてください。

先ほどお話した通り、私はGibsonのギターを好んで弾くようになりました。私はLes Paulと1969年製SG、そして1977年製ES-355を所有しましたが、SGと355には、両方ともLyre Vibrolasが搭載されていて、私はこれら2本のギターでヴィブラート奏法を磨いてきました。そしてついに2010年にJazzmasterに出逢ったのです。それ以前に何度かJazzmasterを弾いてみたことはあり、そのときは何がそこまで特別なのかはっきりとは分かっていませんでしたが、Jazzmasterは2基のピックアップ、トグルスイッチ、そして355のような追加のトーン回路を備えた、最もGibsonに近いFenderギターのひとつであるという結論に至りました。そういった意味では、ある程度馴染みがありましたし、オフセット・ヴィブラートは、正しく装着されていれば最も頑丈に固定できて安定感があり、精度の高いヴィブラート奏法を実現できるのです。

ブリッジ後方の弦の長さも大事な要素です。そこを押し出す奏法ができるようにギターを調整することは私にとっては革命的な発見でしたが、その点においてはどのJazzmasterも少し違いがあります。スケールの長さは25.5インチとなっていますが、それが少し短かったり長かったり、ヴィブラートの位置が微妙に異なることで、それぞれのギターから違うトーンを引き出すことができるため、延々と個体の違いを楽しむことができるのです。またピックアップも非常に幅広いサウンドを出すことが可能なため、Toneコントロールを使用されることを強くお勧めします。極端にブライトなトーンだけでなく、幅広い種類のディープな低音も用意されています。オフセット・ギターには私を魅了する特徴が沢山詰め込まれているのです。

ここからはご自身のプレイ・スタイルについてお伺いします。フィンガーピッキング派でありながらも、一般的な意味においてのフィンガー・スタイルではなく、フラットピックと組み合わせたハイブリッド・スタイルですよね。あなたが影響を受けたとして名前を挙げたプレイヤーで、そのようなスタイルのプレイをしている人はほとんどいませんが、どのようにして現在のスタイルにたどり着いたのですか?

それはおそらく、これまで私が尋ねられたなかでも最も鋭い質問です。私の右手に注目していただきありがとうございます。あのスタイルに行きつくまでにいくつかの発見がありました。まずはニッケル・クリークとの出逢いです。彼らの音楽を聴き、いくつかの曲を通して、パンクをプレイするときのように左手が常に右手と完璧にシンクロしている必要はないということを学びました。パンクでは、ダウンストロークでコードを切り替えていると、王道感が得られます。ニッケル・クリークは、いわゆる“左右の手の分離”も有効であることを教えてくれました。

その後私が大学に通っている間に、アイアン・アンド・ワインがとても人気が出るようになり、ベッドに座り2週間かけて“Naked as We Came”を練習しました。彼のように手を動かせるようになるまでにそれだけの時間がかかりましたね。かなり良いところまでいっていたのに、途中でタイミングを見失ってしまったこともあったのですが、なんとか最後まで通しで弾けるようになりました。また、マット・ホッパーというギタリストをライブで観た際に、彼はこの四分音符ベースの曲を非常に複雑な方法で指弾きしていました。私はすっかり唖然とさせられましたが、彼のような奏法も絶対にものにしなければならないと心に誓いました。少しチェット・アトキンス風、少しアイアン・アンド・ワイン風、そして少しシンガーソングライター風な彼の曲も、弾けるようになるまでに2週間はかかりましたよ。

この2曲の奏法をマスターしたおかげで、私はダウンストローク一辺倒から卒業し、ハイブリッドなピッキング・スタイルを確立することができました。私はピックを使って演奏しますが、特にオクターブを弾くときなどは他の弦を指弾きします。その場合はかぎ爪スタイルで弾くことが多いです。ベース音を押さえたまま、その下側でコードを押さえ、鳴り響くような高音を出したりしますが、何をやっているかについてはあまり考えていませんし、それがギター用語でなんと呼ばれているのかは分からないのですが。

鳴り響くような高音で意味が通じると思います。高速なトレモロピッキングも得意とされていますよね。それもルーツにパンクの存在があるからでしょうか。

それも確かにありますが、実は初めてちゃんとやったのは大学に入学する前に出演したライブでした。私は自分のサウンドが全然気に入らなくて、使用していたLes Paulの弦を激しくピッキングし始めると、これは私がサーフ・ミュージックでいつも聴きなれていたサウンドだということに気づいたのです。それがまた新たな発見に繋がりました。特にJazzmasterの場合、ブリッジ後方の弦をトレモロピッキングするスタイルは、私のレパートリーの中ではごく当たり前に登場しますし、ここ最近のプレイ・スタイルでもトレモロピッキングを多用しています。

Photo: Ryan Molyneaux

いくつかのパフォーマンス動画では、ルーピングが大きな役割を果たしていますが、使用されているルーパーとその使い方を教えてください。

今はあまりルーピングを使用していませんが、以前はHelixとDL4両方のルーパーを使用していました。最近はリズミカルな要素をループさせるのではなく、ノイズの重なりを生成するためにルーピングさせることがほとんどです。弦をピッキングした一部分をキャプチャーして、ループをリバースさせたりスピードを変更したりする場合もありますが、シンガーソングライターとして活動していたころのような、いわゆる一般的なルーピングは最近あまり採用していません。

HelixとDL4を所有されているとのことで、Line 6のギア歴について聞かせてください。

私が初めて入手したLine 6製ペダルは、1999年に購入したDL4 で、今でも所有しています。当時友人から借りたIbanez AD9アナログ・ディレイを使用していたんですが、DL4はまったく新たな世界を私にもたらしてくれました。それまでにレコードで耳にしていたテープ・エコーや、デジタル・ディレイなど様々な種類のディレイ・サウンドがどのようなものなのか一気に理解することができたのです。AD9に少し似たアナログ・ディレイ設定も存在しました。そしてもちろんですが、私のお気に入りの練習ツールのひとつとなったルーパーも搭載されていました。私は一時期Flextoneアンプも所有していて、そのサウンドも最高だと思っていましたが、一方で何をどう選択すれば良いのか迷ってばかりの状態に陥ってしまい、自分にはノブは6基で十分だということに気づいたので、Flextoneは売却してしまいました。さらに近年は、Helix FloorとHX Stompを使用していますが、アンプのサウンドとフィールが信じられないほど自然で本当に感動しました。Helixのユーザーインターフェースは、私が試した他のどのモデラーのインターフェースよりもはるかに使いやすいです。

HelixとHX Stompはどのように活用されていますか?

どちらも練習、作曲、レコーディング、YouTubeの動画作成など、幅広い用途に使用しています。たとえばレコーディング用のパートを作成する場合、実際には所有していない様々な種類のアンプやペダルが搭載されていますので、色々と実験的なことを試すことができます。また、ギターに関する動画を撮影する際も、今住んでいる家では本物のアンプを使うことはできないため、HX Stompなしでは今自分がしている作業は実現できません。

あなたは多くからインフルエンサーのひとりとして知られています。それについてはどう感じていますか?またご自身がインフルエンサーであると自覚があるかは別として、この一年を振り返って、どのようなことが視聴者から求められていたとお考えでしょうか?

それはとても興味深い質問ですね。第一に、私は自分がインフルエンサーだとは考えていません。私はいちミュージシャン、そしてギター・テックであり、ライターでもあります。これらが実際に手掛けていることであり、主に時間を費やしていることです。と言っても、ソーシャルメディアの世界において、一部の人のようにインフルエンサーという言葉を毛嫌いしているわけではありませんが。

とは言え、インフルエンサーと呼ばれる人たちは、メイクアップ製品を紹介したり、何かしらの製品の購買を促す人たちだと今でも思っています。それに対して、私が世に送り出すものに関しては、自分が取り組んでいる作品に対し、それを見聞きした人たちが何かしら感想や意見も持ってもらうことで関わりを持ちたいと思っています。そして単なるインフルエンサーとしてではなく、その分野において教育的な側面を持つ情報を共有したいと考えています。なぜなら、人々が楽器に対し持つ恐怖心を払拭することが一番の目的だからです。たとえば、ギタリストの多くはトラスロッドやブリッジの調整など必要以上に苦手意識を持っていますが、ギター・プレーをより良くできるかどうか、それを左右する多くの要素は段階的に行う細かな調整と関係するところが大きいため、私は彼らに楽器のメンテナンスの仕方を知ってほしいと思っています。

ギアのレビューに関しては、メーカーとの関係性を開示するよう心掛けています。そうすることで、そのギアが企業から提供されたものかどうか明確になります。「こういった製品もあるので、すぐに買いに行くべきです」、なんてことは言いません(笑)。たとえば、DL4 MkIIが発表された際には、新ギア紹介の動画を作成しましたが、それは自分自身がその製品に興味があり、「本当にMkIIは購入する価値がありますか?」といった質問に答えたかったからです。そして私は、購入する価値があると自らの意見を発信したまでです。

つまり、遠回しになりましたが、人々が私のことをインフルエンサーと呼びたいのであれば一向に構いませんよ!

Mike Adams | “Mother’s Doll Collection” Performance

「母は私が子供の頃から人形をコレクションし、それを飾っていました。そしてそのガラス質で瞬きしない目に囲まれると、落ち着かない気持ちになったものです。さらには、そのうちの何体かが動いているのも見たことがあると断言します。音楽的には、遊び心があり、かつ不気味さも兼ね備えたものを作りたかったのですが、そのカーニバルを彷彿させるようなメロディーが、私の後ろに飾られた数々の不気味な人形にぴったりマッチすると思いました。ギター・サウンドはすべてHelixとYamaha Revstarギターで作成しました。Placaterアンプ、Deluxe Compコンプレッサー、ふたつのレベルのゲインにはHorizonドライブとLegendaryドライブを使用し、序盤のメロディーにはPoly Whamを使用しました。Glitch Delayもこの風変わりな曲にとてもマッチしていると思いました。」(アダムス)

Mike Adams | “Cold As” Performance

実際にレコーディングを行ったのは暖かく快適な室内ですが、映像は雪が積もった12月に、ペンシルベニア州の両親が住む家のデッキで撮影を行いました。この動画では、Jazzmaster型のボディシェイプを持つ“Vader” Crestorバリトン・ギターを演奏しています。このギターのブリッジにはCurtis Novak Thunderbirdピックアップ、ネックにはNovak Historic 1958ピックアップが搭載されており、2基の光るピックアップ・セレクター・スイッチ、そしてMasteryのロゴの代わりにデス・スターのベクター画像が描かれたMasteryブリッジが備わっています。そしてサウンドは言うまでもなくすべて Helixを使用して作成しました。

Mike Adams Performs with the NTX3 Nylon-String Guitar

Helixを使用したのはこのときが初めてで、そのエフェクトとループを、DL4も組み込んでいるより大規模なパフォーマンスおよびレコーディング用のペダルボードと組み合わせました。ナイロン弦はもちろんのこと、慣れないアコースティックギターをプレイするのは、最初は少し不安でしたが、しばらくそのセットアップでプレイしていくうちに、自分が慣れ親しんだ環境と同じように、安心感を持てるようになりました。ボウイング奏法はギタリストのヨン=ソル・ビルギッソンから、そしてベース・パートはシガー・ロスのゲオルグ・ホルムからインスピレーションを得ました。そしてPoly Whamが、うめくような低音のオクターブ・サウンドを見事に生み出してくれました。

Main photo: Ryan Molyneaux

バリー・クリーブランドは、 ロサンゼルス在住のギタリスト、レコーディング・エンジニア、作曲家、ミュージック・ジャーナリストであり、『Model Citizens』の編集長でもあります。『Joe Meek's Bold Techniques』の著者でもあり、『Stompbox: 100 Pedals of the World's Greatest』へも寄稿しています。過去には『Guitar Player』マガジンの編集者として12年間勤務し、『Tape Op』、『Recording、Premier Guitar』、『Reverb』、その他の出版物に寄稿し貢献してきました。彼は現在、Yamaha Guitar Groupのマーケティング・コミュニケーション・マネージャーを務めています。 barrycleveland.com


Bill Frisell playing guitar in studio

ビル・フリゼール — ルーパーとその使い方

Ian Curtis and Peter Hook performing on stage

ピーター・フック — ジョイ・ディヴィジョンとファクトリー・レコードについての再考察

Bill Kelliher playing guitar on stage

ビル・ケリハー — マストドンのギタリストがHelixで作り出すヘビーなリフ(無償プリセット付き)