ビッグ・バズ — ファズ・ボックスの歴史とその効果的な使い方

トランジスタの発明と、それによって電子機器のコンパクト化が加速するまでは、荒々しく歪みがかったファジーなギター・トーンの歌いあげるような表現力を実現する唯一の方法といえば、真空管アンプを本来の性能以上のレベルに無理やり上げたり、スピーカーを切り刻んでみたり、あえて壊れた真空管アンプを使うしかありませんでした。その後ソリッドステート技術が登場すると、いくつかの小型ポットを使うのと同じくらい簡単に、自由にゲインを上げて歪んだトーンを作り出せるようになりました。

1961年にこのサウンドが偶発的に発見され、1962年に最初のプロトタイプと市販前の製品が発表されてからは、ファズボックスは一般的に、初の真のソリッドステート・ストンプボックスとして認識されるようになり、それ以来間違いなく最も不朽な存在となりました。しかしながら、これは最も多くのプレイヤーが誤って認識をしている製品のひとつでもあります。この62年も前に登場したペダルの歴史を紐解き、Helixの膨大なコレクションでモデリングされている定番製品ついて理解を深め、今となってはあって当たり前のファズボックスを最大限に活用するためのヒントやコツをつかみましょう。

災い転じて福となす

世界で初めて商業生産されたファズボックス、Maestro Fuzz-Toneは、1960年末にナッシュビルのスタジオでたまたま起きた、幸運とも言えるアクシデントの結果として誕生しました。ナッシュビル在住のエンジニア、グレン・スノディは、マーティ・ロビンスの1961年初頭のヒット曲、“Don’t Worry”のレコーディングを行っていた際に、グラディ・マーティンのベースソロを録音していたチューブ・ミキサーのチャンネルから、奇妙かつ魅力的なファジー・サウンドが聞こえてくるのに気が付きました。ミキサー・チャンネルは機能しなくなっていたにもかかわらず、そのテイクは非常に活気に満ち溢れていたため、彼らはそれをそのまま採用します。これがナッシュビルでレコーディングされた、初のファズのかかったソロでした。

オリジナルのMaestro FZ-1 Fuzz-Toneは、3基のRCA 2N270ゲルマニウム・トランジスタを採用しており、2台の1.5 ボルト・バッテリーで駆動。ドアーズのロビー・クリーガーの所有物。

スノディは、その壊れたプリアンプを単独のソリッドステート・ユニットとしてコンパクトな形状に落とし込み、1962年にGibsonのブランドのひとつであるMaestroに売却しました。Maestroはその後すぐに、それをFZ-1 Fuzz-Toneとして市販を開始します。1965年5月にローリング・ストーンズが全米ツアーを敢行中、キース・リチャーズが彼らのナンバー1ヒット曲、“(I Can’t Get No) Satisfaction”で、の代名詞とも言えるリフを録音する際に、このサウンドを使用したことで、広く人々に知られるようになりました。

英国初のファズであるSola Sound Tone Bender Mk Iは、当時アメリカ国外では入手困難だったMaestro Fuzz-Toneが発売された1年後に登場しました。しかし、一部の熱心なイギリス人たちは、同じようなファズボックスを開発するための独自の方法をすでに見つけていたのです。1964年デイヴ・デイヴィスは、キンクスのヒット曲“You Really Got Me”のサウンドを実現するために、スタジオにある小型アンプのスピーカーに切り込みを入れました。そして同年、ギタリストのビッグ・ジム・サリヴァンは、ロジャー・メイヤーに特注したファズ・ペダルを使用して、P.J.プロビーのヒット・シングル、“Hold Me”の特色あるファズ・パートをレコーディングします。

この少し後、ジェフ・ベックは、Sola Sound Tone Bender(現在はTone Bender “Mk I”と呼ばれています)を使用して、ヤードバーズのシングル“Heart Full of Soul”をレコーディングしました。実はこのシングルは、1965年にストーンズの“Satisfaction”がリリースされる直前にリリースされたのですが、それほど大ヒットにはなりませんでした。ポール・マッカートニー、ミック・ロンソン、ピート・タウンゼント、ジミー・ペイジを筆頭に、Tone Benderを使用するアーティストもどんどん増えていきます。ファズの登場は革新的であり、すぐにどのギア・メーカーもこぞって独自のファズ・ペダルの生産を始めたり、他メーカーのファズ・ペダルをリブランドするようになります。

ファクトリー・ファズ

HelixのDistortionブロックでは、アップデートされたファズ・ペダルと、レガシー・ファズ・ペダルの両方が数多く取り揃えられていますが、その中には紛れもない定番中の定番であるファズ・ペダルもいくつか用意されています。これらに加え、一般的なパラメーターの枠を超えてエフェクトにベンドをかけられる機能がプレイヤーの注目を集めた、かなり風変わりな回路の再現も数多く含まれています。HXモデリング技術の精度を考えたとしても、オリジナル(または再現性の高いリイシュー版)、またはデジタル領域でのエミュレーション版、どちらを使用するにせよ、これらのモデリング・バージョンのうちのいくつかが持つキャラクターについて知る価値は十分にあるでしょう。

定番のファズ

Buzz Saw

Maestro Fuzz-Toneからインスピレーションを得たBuzz Sawは、シャープで少し荒々しさもある程よくナスティーなサウンドで、上質なサステインと驚くほど完璧なアーティキュレーションを備えたオールドスクールなファズです。ミックスの中でもはっきりと分かるほど、この“ヴィンテージ・ファズ・トーン”は叫び声をあげます(これこそが最適な表現)が、回路の中心にあるゲルマニウム・トランジスタの持つ特性のおかげで、滑らかさや甘さのタッチもないわけではありません。

ゲルマニウム・トランジスタ、おそらくNKT275が使用されている1966年頃のオリジナルのArbiter Fuzz Face。

Arbitrator Fuzz

ジミ・ヘンドリックスらが愛用していたことで知られるArbiter Fuzz Faceのオマージュであり、こちらもまた草創期に登場した定番のひとつです。基本的には生の音に近いアグレッシブさがあり、欠陥だらけのように思えるこのファズには、そのとげとげしさを和らげるクラシックな60年代のウォームさも共存しています。Fuzz Faceは非常に音楽的でダイナミックなファズ回路であると考えられており、プレイヤーはピックのアタックや、ギターのボリューム調整をすることで表現力をより高めることができます。

Jumbo Fuzz

Voxによるイタリア製、Sola Sound Tone Benderのリブランドとして黄金時代に登場したこの巨大なファズは、明るく威圧的ですが、トーンには十分な広がりがあります。サイケデリック・ポップロックからプロトメタルまであらゆるジャンルにマッチし、一瞬で60年代後半に引き戻される、ブリット寄りの影響が顕著なサウンド特性を有しています。

Bighorn, Triangle, Dark Dove, Fuzz Pi

Electro-HarmonixのBig Muff Piは、70年代に入ってからその原型に続き進化を遂げたこともあり、定番と言えるような単一の回路は存在しません。最も初期のバージョンは、ノブが3基レイアウトされた形状からTriangleと呼ばれ、4基シリコン・トランジスタが使用されており、太く暖かみがありスムーズでありながら、アーティキュレーションとサステインに優れたファズを生み出します。

Bighornは、Big Muffの2代目として登場した、1973年頃の“Ram’s head”(ラムのようなグラフィックから付いた愛称)がもとになっています。このBig Muffは、ややスクープされたボイスを持ち、驚くほど優秀なノート・アーティキュレーションが備わっていることで知られており、その回路はファズと純粋なディストーション・ペダルの中間のようであると言われることもあります。その後Electro-Harmonixは東側諸国でもリイシュー版の製造を始めましたが、Dark Doveは90年代初期のロシア製Big Muffをモデリングしています。この野太い低音域と切れの良い高音域を兼ね備えた肉厚なファズは、90年代を通して数多くのグランジやオルト・ロックバンドに愛用されていました。

Pocket Fuzz

オリジナルは、クリエイティブなツールというよりも、それを遊び道具としてしか見なしていないメーカーが開発したようにも思われましたが、Jordan Boss Toneは素晴らしいサウンドを提供する飛び道具系のファズで、多くのプレイヤーから定番として認知されています。楽器業界ではほとんど知られていませんが、Jordan社は60年代にソリッド・ステート・ペダルとギター・アンプを手掛けるようになり、それ以前は数十年間に渡りガイガーカウンターなどのX線機器を製造していました。ちょうど良いところに上手くツマミを合わせると、ソフトでウォームなトーンにも、トレブルがかったエッジ―なトーンにもなり、ふくよかでリッチ、そして音楽的に表現力豊かなサウンドが得られます。楽しいですね!

変わり種系のファズ

超レアな1965製のSola Sound Tone Bender Mk I。ゲイリー・ハーストオリジナルの3トランジスタ回路で、カンフー調のレタリング・ロゴが目を引く。

Jet Fuzz

日本のエレクトロニクス業界のレジェンド、Rolandの初期のペダルのひとつである、1975年製Jet Phaserからインスピレーションを得たJet Fuzzは、そのファズ・トーンに魅力的なアナログ感あるフェイザー・スウォールが含まれていますが、ファズの側面だけをより際立たせるよう調整することも可能です。このフェイザー側も間違いなく非常にクールなのですが、RateとFeedbackを最小限に抑えると、フェーズをゆっくりとほんのわずか変えるだけでテクスチャーが増し、ウォームで厚みのあるリッチなファズが作り出せます。どのような使い方をしても、ワクワクするようなファンキーなサウンドを得られます。

Bronze Master

ファズ・トーンの生みの親、マエストロが1972年にリリースしたBass Brassmaster BB-1は、オクターブアップ・エフェクトを組み込んだ、新たなオリジナルのファズ回路が採用されました。元々はベース用に作られたものでした(特にイエスのクリス・スクワイアらが効果的に使用していたことで知られる)が、シンセで歪んだサウンドを得るような使い方ができることから、多くのギタリストが好んで使用するようになりました。ナスティーでグリッチー、そして生々しく、組み合わせの悪い2音程で奏でると面白いほど荒々しくなりますが、上手く使えば驚くほど表情豊かで音楽的なサウンドになります。

Tycoctavia Fuzz

この最高にサイケデリックなファズは、伝説的なTycobrahe Octaviaをベースにしており、エフェクトのふたつ側面が、グリッチ感たっぷりで破壊的なスラッジ・サウンドの中で永遠にリンクするオクターブ・ファズです。オリジナルは、ロジャー・メイヤーによるOctaviaの回路から直接派生したもので、ジミ・ヘンドリックスを始めとするほんの一握りのプレイヤーのためだけにカスタムメイドされたペダルだったため、当時市販はされていませんでした。Tycoctaviaは、ギターのトーン・コントロールを少し下げて、シグナルに追従しやすい状態にしたギターのネック・ポジションで、シングルコイル・ピックアップを用いると、最も確実にその実力を発揮できます。

Industrial Fuzz

Z.Vex Fuzz Factoryは、90 年代半ばにザッカリー・ヴェックスがデザインを手掛けた、コンパクトながらも信じられないほど多用途なペダルで、約30年前に登場したにもかかわらず“モダンかつクラシック”な存在として親しまれてきました。これをベースにしたのがIndustrialです。5つのノブを備えた、まるですべてのファズがオールインワンに詰め込まれたようなペダルで、ウォームでファットなトーンから、シャープでエッジの効いたトーンまで、好みに応じてスイートにもクレイジーにも使えます。瀕死のバッテリーや、擦り切れたベルクロのシェードをお好みで加えれば準備はOKです!

ファズを使う際のコツ

ほとんどのオーバードライブやディストーション・ペダルと同様に、ファズ・ペダルの各コントロールを正午の位置(HXモデルの場合は、各ブロック・パラメーターのスライダーの50%の位置)に設定するだけで、大抵は使用するのに充分なサウンドを得られます。古風な考え方に思えるかもしれませんが、素朴なファズ ・ペダルほど上手く使いこなせれば、最もダイナミックで使いまわしの効くストンプボックスのひとつとなり、単なるプラグ・アンド・プレイ・スタイルを超えた活用方法がいくつも存在します。

ダイナソーJr.のJ・マスシスが所有していた、70年代中頃のElectro-Harmoni “Ram’s head” Big Muff Pi。個人設定用のテープ・マーカーがそのまま残されている。

ボリュームを絞ってみましょう!

ファズを好んで使用するアーティストたちがこぞって使用している中で最もベーシックなテクニックは、ギターのボリューム・コントロールを下げて、歪みのために作られたようなものであるペダルから、リッチでクリーンなサウンドを引き出す手法です。理想的なファズ・トーンに設定してからギター本体のボリュームを絞ることで、単にペダルをオフにした場合とは異なる結果を得ることができ、ストレートなアンプのサウンドとはまた違ったテクスチャーを持つ、独特なクリーン・トーンが生まれ、驚くほど表現力豊かになります。

ソロや激しいリズム・パートで本格的な歪みが欲しい場合でも、スイッチを踏みこむ必要はなく、ギターのボリュームを元に戻すだけで済みます。これは、ジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベックなど、数多くの偉大なファズ・ユーザーが熟知していた手法であり、少し練習さえすれば簡単に自分のレパートリーに取り入れることができます。

強弱を付けてみましょう!

ギターのボリューム・コントロールを下げるのと似ているのですが、ピッキングのアタックを軽くするだけで、多くの魅力的なファズ・ペダルがいくらかクリーンになります。昔ながらの優れた回路は、入力信号の強さ通りの反応をするため、弦に軽く触れるだけで電圧レベルがしっかり下がり、よりクリーンなトーンがペダルの出力に送られます。このようにピッキングの強弱を調整するもうひとつの利点は、弦をより強く弾くとファズ本来の効果を極限まで得られることです。

ロールオフ

多くのドライブ・ペダルは、ギターのトーン・コントロールを下げると、ただ単に鈍くこもったようなサウンドになるだけですが、優れたファズ・ペダルはこのテクニックを上手く応用すると、シンセに近い表現力やオクターバーのようなエフェクトを疑似的に作りだすことができます。エリック・クラプトンが歪ませたMarshallアンプで、いわゆる“ウーマン・トーン”を奏でることは、多くのプレイヤーの知るところですが、ファズ・ペダルでも同じようなアプローチをとることで、フルートのような響きを持つボーカルのようなサウンドを簡単に実現できることがよくあります。

ギターのトーン・コントロールを最小値まで下げてみてください(これは一般的にネック・ピックアップで行うのがベストです)。その後、個々の音が鳴りやすくなるように開放弦を手のひらでミュートしながら、12フレット付近の音を指板の端近く(2オクターブの節目付近、24フレットに当たる位置)でピッキングすると、オクターブ・ファズやビンテージのアナログ・シンセのレガートを彷彿とさせるサウンドを得られることがよくあります。

ファズボックスは、その表現力や音楽性、そして野性味溢れるサウンドを爆発させる能力に至るまで、ペダルの世界では最も古い歴史を持つもののひとつであるにもかかわらず、非常にクリエイティブなツールです。これらファズで生み出すことができるサウンドや表現力の可能性を探求し、ご自分のプレイでどのように活用できるか是非お試しください。

写真提供:Eilon Paz。本記事に使用されている写真は彼の著書、『Stompbox: 100 Pedals of the World’s Greatest Guitarists』、『Vintage & Rarities: 333 Cool, Crazy and Hard to Find Guitar Pedals』より提供いただきました。

デイヴ・ハンターは、『The Guitar Amp Handbook, British Amp Invasion, The Gibson Les Paul, Fender 75 Years』を始めとする著書を複数執筆し、『Guitar Player』、『Vintage Guitar』、『The Guitar Magazine(イギリス版)』にも数多く寄稿しています。


*ここで使用されている全ての製品名は各所有者の商標であり、Line 6との関連や協力関係はありません。他社の商標は、Line 6がサウンド・モデルの開発において研究したトーンとサウンドを識別する目的でのみ使用されています。


Collection of vintage British Amps superimposed in front of United Kingdom flag

ロックの黄金期に脚光を浴びることのなかったイギリスのギター・アンプたち

Adjusting the bias on a tube amplifier

Helixのアンプに備わっているサグ、バイアス、バイアス・エクスカージョン設定の活用

Tubes glowing orange and blue

トーン作成の基礎となる出力管の知識