アナログ派ギタリストのためのHelix実験室

第1回 Helixとの再会

2019.10.07

Idonuma main

無類のアナログ/ビンテージ機材好きライターによるHelix導入事例と、日常的なトライ&エラー(実験)を追う連載、第1回目です。

初めまして、井戸沼尚也と申します。もともと私はアンプ直が大好き、どアナログのギター弾きだったのですが、某楽器検索サイトで機材に関する実験コーナーの室長を担当していたことからなぜか「ギター周りの機材に詳しいライター」ということになり、今に至っております……。

そんな私が初めてHelix(Floor)と出会ったのは、製品レビュー記事の類で、やはりライターとして仕事で関わったのが最初です。音の良さ、操作の快適さなど本当に素晴らしいものだと思ったのですが、その段階では私はまだまだアナログの呪縛に囚われており、将来まさか自分自身がHelixを使う、しかもベタ惚れするとは思いもしませんでした。

プリセットを消しちゃったけど?

時は流れて2019年春、私はドラマーの黒瀬蛙一氏と「Ragos」というおかしなバンドを始めます。演奏者はドラムと私(ギター)のふたりで、加えてもうひとり、記録者がメンバーとして在籍しているという変則的なトリオです。
ドラムの音以外の残りの空間すべてを自分のギターで満たして良いという状況ができた時に、「あんな音を出したい、こんな音を出したい」という思いが溢れ、それと同時にHelixのことを思い出しました。Helixなら、やりたいことがなんでもできるのではなかろうか?

とはいえ、冒頭にお伝えしたとおり、こちらはどアナログの中年弾きギターです。私のような者が、Helixを使いこなせるのだろうか……。Helixとの再会は、ドキドキでした。そして結論から言うと、心配は杞憂に過ぎませんでした。

再会当日、まず電源を入れて、チューニング。このチューナーは、視認性、精度ともに最高ですね! それからプリセットの音を改めてチェック。うん、やはりいいじゃないですか。ここまでは、かつての仕事で知っています。
続いて、自分の音を作るためにプリセットの音を消してみました(ファクトリー・プリセットは消さずに、ユーザー・プリセットのところに音を作っていけば良かったのですが、そんなこともわからずにとにかく触っていました)。液晶には、なんのブロックも表示されていません。……あれ? でも、なんか音がいいような。なんでだ? こいつはなんでもできるところが売りじゃないのか? まだ何もしていないのに、すでにいいじゃないか!

ラインに何のブロックも置いていないのに、なぜか音がいい!?


そこから、夢中で30分ほど触って音を作りました。好みのアンプ・モデルを置き、好きなようにノブを回し……疲れを覚えてふと時計を見ると、実際には30分ではなく、7時間ほど経っていました。
液晶には自分が作った初めてのプリセット音を示す「Rago 1」の文字が輝いており、私はこれまでに感じたことのない満足感に包まれていました。

記念すべきプリセット「Rago1」(らごいち)の2019年9月現在の状態。もちろん導入初日でここまで出来たわけではなく、少しずつ改善したうえでこうなっています。

優劣は“ジャンルの中”にある!

改めてHelixに触れて、わかったことがたくさんあります。それをこれからのコラムで書いていくのですが、今日はその中のひとつを皆さんにお伝えできればと思います。

尊敬するジャズ・ピアニストの山下洋輔さんの著書で知った「ジャンルに優劣があるのではなく、優劣はジャンルの中にある」という言葉があるのですが、私はその意味をHelixを通して噛みしめることができました。

つまり、アナログが良くてデジタルがダメ、ビンテージが良くてモダンはダメといった「ジャンルに優劣がある」わけではなく、アナログの中にも良いもの/使えないものがあり、デジタルの中にも使えないものもあれば本当に良いものもある。つまりジャンルの「中」に優劣があるのです。
なんでも同じですよね。例えば、ジャズが良くてメタルはダメ? そんなことはないですよね? ジャズの中にもメタルの中にもカッコ悪いもの、カッコ良いものが存在します。和食は良くて、洋食はダメ? そんなことはないでしょう?

アナログや実機が必ずしも良いとは限りません。アナログや実機の「中」に良いものはあります。

自分は、アナログ機材が好きなんだと思っていましたが、そうではなく、「アナログの中の良いもの」が好きだったということを、悟りました。考えてみれば、アナログ機材でも気に入らないものは数え切れないほど手放してきましたから。
一方で、デジタルは苦手だと思っていましたが、そんなことはないということも納得できました。Helixはデジタルですが、今の自分はHelixを心から愛しています。これがないと、新しい構想で始めたバンド、Ragosの音楽が成り立ちません。

やはり「ジャンルに優劣があるのではなく、優劣はジャンルの中にある」のです。デジタルに苦手意識がある方、まずは楽器店に出かけて、思い切って「Helixの試奏をしてみたいのですが……」と店員さんに声をかけてみてください。きっと、私が言っていることに、深く頷いていただけると確信しています。

でも、Helixに関して本当に驚くのは、手に入れてからなんです。Helixは触れば触るほど深みにはまる、底無し沼のような機材です。次回以降、実際に私がどのようにして底無し沼にはまっていったか、詳しくご紹介していきます。

※記事中の写真、動画は、記事の理解を促すために筆者が個人的にスマートフォンで撮影したものです。


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Ragos、写真中央のおじさんが筆者

井戸沼 尚也(いどぬま なおや) プロフィール
Ragos、Zubola Funk Laboratoryのギタリスト。元デジマート地下実験室室長。フリーランスのライターとして、活躍したり、しなかったりしている。

◎Twitter: https://twitter.com/arigatoguitar

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