TIPS/テクニック

鈴木健治の「ギターレコーディング・マスタークラス」 第1回

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現代の”宅録”で出来ること

ご挨拶
こんにちは。ギタリストの鈴木健治です。
今回から始まるこの連載ではギターレコーディングのノウハウを中心に、ハードとソフトを連携させた内容で様々なレコーディングテクニックを紹介して行きます。

普段ご自身でDAWを使いレコーディングされている方や、これから宅録でもやってみようか?なんて思っている方まで、ギターレコーディングおよび音源制作に役に立てるような内容を書いて行ければと思っております。

そしてギターレコーディングの楽しさがお伝え出来たらとても嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。

記念すべき第一回は、最新の宅録ギター事情や、テクノロジーで可能になった事、又、近代レコーディングのちょっとした歴史にも触れて、現在のギターレコーディングの在り方のような内容で進めて行きます。

製品レベルの音源制作も可能な現代の宅録
レコーディングと聞くと、広くて立派なスタジオに鎮座した大きなミキシングコンソールや、高価なハードウェアが必要不可欠だと思われる方が多いと思います。

実際そういったレコーディングスタジオから数々の「名盤」や「伝説の音源」と言われる作品が発表されたのは事実であり、それは今でも存在するひとつのケースです。

しかしテクノロジーの目覚ましい発展によって、今では「宅録」でも製品クオリティの音源が作れるようになった事も事実と言えるでしょう。

テクノロジーで可能になった事
例えばThe Beatles以降近代のレコーディングと言えば、回転する磁気テープに音を記録する方法が2000年代初頭頃まで主流で使われてきました。

記録方式がアナログからデジタルへと変わりましたが、記録媒体は磁気テープがメインだったのです。

そしてそれを扱う業務用マルチトラックレコーダーの大きさ、維持に不可欠なメンテナンス、そもそも本体価格がべらぼうに高い、などの理由から、一般家庭で業務スタジオと同等の機材を扱う事は殆ど現実的では無かったのです。

方やテクノロジーによって出来るようになったことは数多くあるのですが、全ての「音」をデジタルデータとしてパソコンに記録出来るようになった事は、とても大きな出来事と言えるでしょう。

そのことによって、巨大で高価で扱いも大変なレコーダーは必要なくなり、レコーディングの全ての工程を1台のパソコンとDAWと呼ばれるソフト、それといくつかのハードで実現出来るようになったのです。

御存知の通りパソコンの性能は日進月歩で向上していますし、DAWソフトも益々進化して、便利に使える機能は益々増えています。

多彩で進化し続ける技術によって、演奏技術が楽曲のクオリティの大半を占めていた楽曲制作とは違った、テクノロジーを駆使した新しい楽曲制作スタイルも今では一般的になりました。

ギターアンプは絶対に必要?
スタジオでのギターレコーディングでは、アンプから出た大きな音をマイクで拾い、いくつかのハードを通過させてレコーダーへ記録するのが一般的です。

もちろん今でも行われる手法なのですが、Line 6 PODをはじめとする「アンプシミュレーター」という革新的なものが出現して以来、ギターレコーディングの全てでその手法が使われるとは言えなくなりました。

そしてギターアンプシミュレーターの性能もかなり進化していまして、例えば完成した音源を聞いて、それがリアルなアンプを使った音なのか、シミュレーターで作った音なのか、簡単には判別出来ないレベルまで来ています。

そういった意味では特にレコーディングにおいては、ギターアンプが絶対に必要かと言えばそうとも言えないんですね。もちろんケースバイケースではありますが。

モデリング技術
エレキギターを周波数特性が素直なハイファイオーディオ機器に繋ぐと、何とも味気ない音になってしまいます。(リハスタに行く機会があれば、一度ミキサーにギターを直接繋いでみて下さい、かなり味気ない音を聞くことが出来ます)
当たり前な話なのですが、ギターアンプを通す事でギターの音はよりエレキらしいものに変化するんです。
そして多くのギターアンプシミュレーターは、ギターアンプの様々な特性をモデリング技術によってデジタル化する方式を採用しています。

優れたモデリングによって、より本物のギターアンプらしい振る舞いをしてくれるんですね。

演奏技術は必要なくなる?
特にレコーディングにおいては決して大袈裟な話ではありません。
古くはドラムマシーンに始まりましたが、人間が実際に演奏しなくても、マシンを自動で演奏させる技術はかなり進歩しています。ボーカロイドを使えば歌を歌わせる事も出来ますね。

一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、「ギターを打ち込む」事も今や珍しい事ではありません。DAWの高機能化もあり、確かにそこには「ギターサウンド」が存在します。

例えば速く弾く事が得意でなければ、その部分は機械の力を借りる、なんて事も出来るんですね。この程度の事ならとても簡単です。

VRやAI といった技術が一般的になってきた現在、今まで人が行ってきた事が、マシンにも出来るようになって来ました。
正確さやミスの無さから言えば、既にAIが人に優る事もあります。

しかし、音楽とはなかなか奥が深いものでして、リズムや音程がピッタリ正しければ良いものでもありませんし、人の演奏でリアルタイムに変化するギターを、全てデジタル化する事はかなり困難とも言えるでしょう。

アンプのシミュレートについてはかなりの精度で確立されていますが、人の演奏そのものをデジタル化するにはまだ技術が追いついていないと言えます。

元が機械なのか人なのかによる違いが大きいとも言えるでしょう。

何より、人間が奏でる音楽からは、「その人なりの何か」が必ず発せられるものです。ザックリと言えば「雰囲気」とも言えるかもしれません。

例えが正しいか分かりませんが、走る事に特化した人間そっくりなマシンが、あのウサイン・ボルトより速く走ってもそこに感動はありませんよね?

同じような事が音楽にも言えると思います。

テクノロジーを便利に使う
色々と書いてきましたが、テクノロジーによって優れたギターアンプそっくりな音を「自宅」でもレコーディングする事が出来るようになりましたし、DAWの機能を使えばちょっとした演奏のミスを「演奏した勢いを殺すこと無く」修正する事も出来ます。

修正と言うと嫌悪感を持たれる方がいるかもしれません。

しかし例えば完璧な演奏の為に100時間練習する事は確かに大切な事とも言えますが、その100時間のうち何十時間かを作曲する事や曲の完成をイメージする時間に充てるのもアリなのでは?とも言えると思います。

要は、物は使いようと言いますか、テクノロジーに躍らされるのでなく、便利なものは使ってやるという考え方もありかと。

結果的に音楽を聞いたりギターを弾く事で、内面が豊かになれる事も、特にこの時代には大切な事なのではと僕は思っています。

ここでそのお手伝いが出来ればとても嬉しく思います。

オリジナル音源を作りました
この音源ではギターからLine 6のHelix Rackに繋ぎ、SteinbergのCubase Pro 9にレコーディングしています。Helixはオーディオインターフェースとしても優秀なので、MacとはUSBケーブル1本で繋いでいるだけです。

レコーディング後にバランスなどの調整はしていますが、HelixとCubaseだけでこのくらいのクオリティの音源が作れるんですよ。
もちろんこれも「宅録」です。

今では自作の音楽を世界中に発表する方法は沢山あります。自作の音楽や演奏を多くの人に聞いてもらいリアクションを得る事はとても楽しい事ですよ。
是非そんな事にもチャレンジして頂ければと思います。

この連載ではHelix とCubaseを使って、ギターレコーディングをワンランクアップ出来るようなノウハウやコツなどを書いて行きますので、是非参考になさって下さいね。


著者プロフィール:鈴木健治(すずきけんじ)
Kenji Suzuki

ギタリスト、ギターサウンドデザイナー、トラックメーカー。
神奈川県出身。
10歳でギターを始める。
20歳でプロとしてのキャリアスタート。
以来、スタジオミュージシャンとして、宇多田ヒカル、MISIA、BoA、EXILE、倖田來未、SMAP、安室奈美恵、坂本真綾、ケツメイシ… 他沢山のアーティストの作品に参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代後半~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。
2018年でプロミュージシャン生活30年を迎える。

ギタリスト鈴木健治オフィシャルサイト

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