柴田直人

ANTHEM

1981年に結成されたANTHEMのベーシスト、柴田直人さん。バンドは1985年にメジャー・デビュー、1992年に解散するも2001年に新生ANTHEMとして再スタートを切り、現在もヘヴィメタル・シーンの最前線を走り続けています。解散期間中はLOUDNESSのメンバーとしてもステージに立つなど、日本を代表するプレイヤーのひとりである柴田さんは、2016年からワイヤレス・システムRelay G90を導入しています。しかし長い間ケーブル派だったそうで、その理由を次のように語ります。

「ワイヤレス・システムは80年代に一度使ったことがあるんです。ところが当時の最高水準のものを使っても度々トラブルがあったし、何よりもケーブルを使う場合よりはるかに音が悪かった。そういうイメージがずっとありましたから、以降ずっとケーブル使用に拘ってきました。でも年々、ステージ上でやりたいことが増えてきたんですね。黙って演奏するだけがライブではない。例えば、ステージの全てを使ったパフォーマンスをしたいとか、ドラム台に登ってドラマーに水をかけてやろうとか、突然客席から現れてみようかだとか(笑)。そういったことはワイヤードではほぼ不可能なので、ワイヤレスを試してみようと思いました」。

先入観の払拭とケーブルトーン・シミュレーターへの驚き
そこから様々な機種について調べたそうですが、性能や値段などを総合的に判断しRelay G90にたどり着いたとのことです。「6月中旬に初めて使ってみたのですが、まず思っていたよりも十分の一ほどの時間で簡単にセッティングできたことに驚きました。そしてイメージと違いかなり音が良かった。7月のツアーから実際にステージで使用していますが、アンプのトーンセッティングが劇的に変わりましたね。僕は動き回りたいので合計だと15mほどにもなる長さのケーブルを使っていたわけですが、そうすると特にハイがかなり落ちてしまうんです。だからアンプのセッティングはベース、ミドル、ミッドハイ、ハイのうち右のふたつはほぼフルテンでした。ところがワイヤレスにしてみると、ハイがものすごく伸びてキラキラしたツヤのある音が出るんです。最初はちょっと違和感を感じるくらい(笑)。そこで本機を選んだ理由のひとつに、ケーブルトーン・シミュレーターの存在があります。これはそれぞれの長さ(約3m〜40mを設定可能)のケーブル使用時のハイが落ちた感じ、低音を絞ったような感じをシミュレートしてあるもので、本当に良くできているんです。一言にハイと言っても、ものすごく高いところからたぶん800Hzくらいまで。そのおいしいところを細かく調整できているので、デジタルワイヤレスに興味あるけど、ケーブル使用時の音に慣れている人や、こんなにハイはいらないよという人もこれでほとんど解決できると思います」。

導入後、今のベース・テックのスタッフ(レオミュージック)やPAのオペレイター、モニターのスタッフからの評価も高いそうです。「Relay G90の性能について、テックはまったく問題ないと話していますし、PAの人間はダイナミックレンジが広くなったと言っていましたね。上も下も今まで出ていなかったところが出ているので、音を作りやすいそうです。テクノロジーの進歩には本当に驚きです。Facebookにワイヤレスを導入すると書いたら、ファンの皆さんがびっくりしていたようですよ。僕はそういうものとは最も遠いミュージシャンだと思われていたと思うので、一体何があったんだろうか?と。答えは簡単で、僕はプレイヤーとして、こういう音で弾いているはずなのに違う音が出てくるなぁ…というような場面が一番のストレスになるんです。Relay G90にはそれがないというのが何よりも素晴らしい。音質に加えて、レイテンシーもないに等しいです。音が劣化しようがとにかくケーブルが好きなんだ!という人にとっても、その感じまで見事にシミュレートされた機能が整っている事もありがたい。15mのケーブルを使い、一番デジタルなものから縁遠いと思われていた僕がまるで子供のように喜んで使っているわけですから、周囲が驚くのももっともですけどね」。

新技術によってもたらされたプレイヤーとしての喜び
ANTHEMは今秋にツアーを控えており、来年には新作のレコーディングを予定しているが、今後もRelay G90が活躍する見込みだ。「秋のツアーは小さいライブハウスがメインですけど、おそらくケーブルに戻すことはないでしょうね。小さいステージほどメンバー間でケーブルが絡みやすかったりしますから。レコーディングでは15mのケーブルなど当然使っていませんでしたが、長さが例えば5mだとしても、G90のほうが求める音に近いのかもしれない。ケーブルとワイヤレスを両方試してみて、どちらにするか決めようと思います。レコーディングだからケーブル、という価値観に縛られる必要はもうないでしょう。Relay G90は、〝ワイヤレスは、便利でも音質的に失われるものが多い〟という僕のイメージを本当に粉々に打ち砕いてくれたので、ライブだろうとレコーディングだろうと音が好きだから使うという考え方でまったく問題ないと思います。ご存知のようにワイヤレスの強みは動きの自由度が飛躍的に上がるということですけど、それ以上のメリットがありますね。単純に音が良いと、楽しいし、いつも以上にブリブリ弾いてしまうんですよ。新しい技術で音楽が楽しくなるということを、まさに実感しているところです」。

文=秋摩竜太郎